魔法神話 レイ&アフーム ~もしもリリなの世界にハジケた奴らと邪神が絡んできたら~ 作:ショーン=フレッチャー
おそうじばあさんよ、アンタ、張り切りすぎだぜ……。
崩れ去った研究施設を前に、3人の女性がそれを眺めている。
「セインからの通信が途絶えたわ」
茶髪と眼鏡の少女、クアットロが呟く。
「やられたか」
紫短髪の武人然とした女性、トーレが答える。
「相手はどうやってセインを倒したんだ。こういっては何だがセインを拘束することは不可能のはずだ」
銀髪で眼帯を付けた少女、チンクがクアットロに質問する。
「映像を確認する限りでは掃除機に吸い込まれたわ」
「「は?」」
困惑するトーレとチンク。
「私だって訳わかんないわよ! でも事実なのよ! 帽子が開いて、掃除機構えた老婆がいて、それに吸い込まれた。どう考えてもアイツは
「
クアットロの言葉にトーレが反応する。
「そこまで厄介な相手なのか?
チンクが疑問を呈する。
「さあ? 魔導士連中と大差ないでしょ。私達戦闘機人の敵ではないわ」
「そう、だな」
クアットロは
彼女自身
とはいえ、相手はただの人間なのだ。
自分達戦闘機人の相手になるとはつゆとも思っていなかった。
「セインはどうする」
「任務を達成できなかった奴の事なんてどうでもいいわ。それより、人造魔導士の素体にするために、死体を回収するわよ」
「姉としては、助けた方がいいと思うのだが」
チンクがクアットロに異を唱える。
「どうやって助ける気よ。あいつは地面の下なのよ。嫌よ、わざわざ地面を掘るなんて。それに、ほっといても問題ないわ。見つかりっこないもの」
チンクは苦々しい顔で死体回収に向かおうとする。
その瞬間、地面が揺れた。
「な、何だ!」
「ただの地震でしょ」
しかし、地震にしては長く細かい振動が続く。
地面がひび割れ、何かが出てくる。
「「「……つくし?」」」
それはつくしだった。
「春一番『恥ずかしがり屋のつくしんぼ』!」
「「「ぐああああああ!」」」
突如として大量の巨大つくしが地面から湧き出る。
その中にはつくしのコスプレをしたレイもいた。
「お礼参りや、顔拝みに来たで」
「嘘でしょ、あの状況から地上に出てくるなんて」
クアットロが冷や汗をかく。
「だが奴一人のようだ、ここで仕留めれば問題ない」
「誰が一人と言うた」
トーレの言葉を受け、レイが指を弾く。
その瞬間、瓦礫が持ち上がる。
瓦礫の中から巨大要塞が現れたのだ。
「「「な、何だと!」」」
レイはほくそ笑む。
「ザーイガース」
要塞が吠えた。
ゼスト達は掃除機に吸い込まれた後、謎のパイプの中を滑り落ちていた。
パイプは右へ左へと蛇行し、方向感覚を狂わせる。
やがてゼスト達は開けた空間へと出る。
そこには地上にいた筈の隊員たちがいた。
「「「「「「隊長!」」」」」」
「お前達、何でここに、それにここは一体?」
ゼストに続いてクイントやメガーヌといった潜入班のメンバーもパイプから出てくる。
「ようこそ、無敵要塞ザイガスへ」
アフームの声がする。
アフームは巨大なモニターの前の椅子に座っていた。
「無敵要塞、ザイガス?」
「左様、我々地上班は謎の集団の襲撃を受けて生き埋めになるところだったのじゃが、間一髪無敵要塞ザイガスを召喚することに成功してな、こうして全員で避難していたのじゃ」
「さっぱり意味が解らんが、助かったという認識でいいんだな」
「この中にいる限りな」
「あの、私達レイくんに吸い込まれたはずなんだけど、どうしてここに繋がってるの? 物理的におかしくない?」
メガーヌが疑問をぶつける。
「そんなこと妾が知るか!」
((((((ええ~))))))
「とはいえ、無敵要塞ザイガスを召喚した後、レイから念話がきてな、こちらの状況を教えたらあのパイプが出てきた。レイがそなた達をここに送ったのは間違いないじゃろう」
「その、レイくんは?」
クイントがレイの所在を訪ねる。
「モニターを見るがよい」
全員でモニターを眺める。
そこにはガジェットと戦うレイがいた。
「さて、妾も出るとするかの」
「危険だ! 相手は戦闘機人かもしれないんだぞ!」
「わかっておるわ、じゃがな体が疼いて仕方ないのじゃ。早うハジケたくて堪らないのでな。それに妾はキング・オブ・ハジケリストの相棒じゃぞ? 生半可な手段で死ぬと思うたか」
アフームは舌なめずりをする。
妙に色気のあるその行為のせいか、彼女を死地へと送る緊張のせいか、生唾を飲む音が聞こえた。
クアットロは愕然としていた。
目の前で繰り広げられている光景が現実とは到底思えなかったからだ。
ガジェットを召喚して、レーザーの一斉掃射で片が付くはずだったのに、目の前の少年は全てのレーザーを避けるどころか、あまつさえ両手に持った手鏡で跳ね返している。
レーザーを全て避けることすら非常識なのに、手鏡ごときでレーザーを跳ね返されることも非常識だった。
跳ね返されたレーザーでガジェットが一つ、また一つと壊されていく。
「どうしたどうした! 退屈すぎて欠伸が出るわ!」
レイは堂々と戦闘機人たちを煽る。
彼女たちはその煽りに乗ってしまった。
「お望み通り、数を増やしてあげるわ!」
クアットロはさらにガジェットを召喚する。
チンクは憮然とした表情でナイフ、スティンガーを投擲する。
「流石にナイフは跳ね返せまい!」
それにチンクの
触れれば爆発するナイフ相手ならさしもの相手も殺せるのではないだろうか。
だが、その期待はあっさり裏切られた。
レイは更に回避速度を増し、ガジェット撃墜数を増やしていく。
その中にはスティンガーも含まれていた。
「ほう、爆発するナイフか。これは危険やな」
「わかったところで何ができる!」
ランブルデトネイターには遠隔操作能力もある。
確実に当てられるとチンクは考えていた。
しかし、それ以上にレイの動きはトリッキーだった。
「回避『マーマーディフェンス』!」
レイが突如として姿勢を変える。
前傾姿勢になり、両手を広げる。
「マーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマーマー」
何やら意味不明なことを叫びながら、シャカシャカと足を動かし、全てのレーザーとスティンガーを避けていく。
スティンガーはレイを追いきれず、全弾レーザーに当たり爆発する。
「「「有り得ないっ!!!」」」
トーレ、クアットロ、チンクの声が重なる。
そこへ無敵要塞ザイガスから何かが飛んでくる。
「突撃隣の晩御飯!!!」
巨大しゃもじを構えたアフームだ。
着弾と共に砂が舞い上がる。
「「土符『砂漠の土用波』!」」
舞い上がった砂が弾幕へと変化して、ガジェットを潰していく。
「ナイスタイミングや。そろそろ回避も飽きてきたんでな」
「ナイスタイミングじゃろ? もっと褒めてよいのじゃぞ?」
「はいはい、これが終わったらな」
レイとアフームが背中合わせになる。
「もう勝った気でいるつもり? 数ではこっちが上なのよ」
「たった一人を仕留められん人達の言うことは違いますなあ」
「「「貴様っ!!!」」」
トーレとチンクが接近戦を仕掛けてくる。
「デカ女は俺がやる」
「なら妾はあの小娘じゃな。髪色といい長さといい、妾とキャラが被っていて不愉快じゃ」
レイとアフームはそれぞれの獲物に向かっていく。
トーレは8枚のエネルギー翼、インパルスブレードを展開し、超高速でレイに接近する。
これならば行けるとトーレは踏んでいた。
甲高い金属音が鳴る。
しかし、トーレの攻撃はあっさりとレイに防がれてしまう。
「貴様、本当に人間か!?」
「速いだけか? 力もあるな。成程単純に強いタイプやな、あんた」
「くっ! 舐めるな!」
トーレは離脱すると、攪乱する様にレイの周りを高速で飛行する。
「そんな手段、いくらでも破りようがあるで。拡散『とろろフィールド』!」
レイの帽子からスプリンクラーの様にとろろが噴き出る。
トーレの全身にとろろがかかっていく。
「ぐああああああ!」
トーレの動きが止まる。
「さらに追撃や、迫撃『納豆インパクト』!」
動きを止めたトーレに納豆バズーカが襲い掛かる。
ねちゃねちゃとした納豆のせいで、トーレの動きは鈍る。
「ご自慢の機動力もこうなってはおしまいやな」
「くっ、この程度で!」
「ほう、まだまだ目から火は消えていないと見た。そう来なくては!」
レイの顔は狂喜満面であった。
チンクとアフームの戦いは、アフームが一方的に殴る展開となっていた。
スティンガーは全て避けられ、自慢の爆発も相殺されてしまう。
チンクはいとも容易く懐に入り込まれていた。
「貴様は! 妾と! 髪色と! 長さが! 被っておる! キャラ! 被りは! 許せんのじゃー!」
「何を言っているのかわからんぞ!」
アフームの鉄拳がチンクを襲う。
重く鋭い拳がチンクにダメージを蓄積させていく。
「何故だ! 何故ここまで良い様にされる!」
「どうもこうも、それが実力の差という奴じゃろう」
「舐めるな!」
チンクは決死の手段に出る。
手に構えたスティンガーをアフームに突き出す。
アフームがそれを避けると、チンクはスティンガーから手を放し、わずかに投擲する。
近距離での爆発はしたことはないが、この少女を引き離すにはこの手段しかないと思った。
スティンガーが爆発する。
チンクは後ろに転げるように飛ぶ。
「はあ、はあ、これなら奴も!」
チンクはアフームの爆殺を確信していた。
「ふむ、随分と思い切った手段に出たのう」
爆煙の中からアフームの声が聞こえる。
チンクの顔が絶望に染まる。
「これでも、駄目なのか」
「間一髪このアーマーが間に合っていなかったら危ないとこじゃった」
アフームは段ボールで出来たアーマーを身に着けていた。
「段ボール!?」
「さて、ここまで抵抗するのじゃから、妾も容赦なく攻めてもよいのじゃろう。このキャラ被りめ!」
「だから何を言っているのかわからん!」
トーレは空中を高速で移動しながら容赦なくレイを責め立てる。
しかし、レイは冷静にそれを六角如意金剛棒でいなしていく。
「反撃させる隙も与えんか、これは厄介」
「貴様、何故反応できる!」
「そら、あんた、神経系を強化しましたから。あんたが機械で強化したようにこっちも魔術で強化したんや」
「だとしても!」
「そこまで自信あったんか? ならそれも今日で終わりやな。よかったなあ世界の広さを知ることが出来て」
「貴様!」
トーレは冷静さを失いつつあった。
当たらない攻撃とレイの口撃が合わさって、トーレのフラストレーションを最大限まで高めていたのだ。
だからそれに気づかなかった。
「廬山昇龍破―――!!!」
アフームの一撃によって打ち上げられたチンクに。
気付いた時にはもう遅かった。
トーレはかろうじてチンクを避ける。
「アターック!!!」
レイによってチンクがトーレに打ち込まれる。
「「ぶ!!!」」
チンクとトーレが衝突する。
この時トーレは気付いた。
己の体に何かが絡まっていることに、それがチンクとトーレを結び付けていることに。
「これは、糸か!」
「ご明察、といってももう遅いで。俺はお前さんが高速機動型と分かったときから細く強靭な糸を垂らしながら戦っていたんや。あんたが気付かないくらいな。さて、お遊びはおしまいや」
「ま、待て!」
トーレは珍しく敵に懇願した。
しかし、それは聞き入れられなかった。
「蜘蛛之巣『ハングリー・スパイダー・クラッチ』!」
「「ぐああああああ!」」
糸が蜘蛛の巣状になり、トーレとチンクを極め上げる。
「そのまま落ちろ! ダンクシュート!」
レイのココナッツクラッシュを喰らい、地面へと落ちていくトーレとチンク。
落下方向にはクアットロがいた。
「! 逃げ……」
「逃がさんぞ」
アフームがクアットロの背後に回る。
「貴様も地獄行きじゃーーー!」
「ぐはっ!!!」
アフームのげんこつで地面に埋められるクアットロ。
落下してきたトーレとチンクと衝突し、砂煙を巻き上げるのだった。
レイが地上に降りてくる。
「戦闘機人だか何だか知らんが、貴様らは人間を舐めすぎや」
か、書ける……!
今までのスランプが嘘のように書ける!
ようし、このまま第3章完結まで頑張っちゃうぞー!