魔法神話 レイ&アフーム ~もしもリリなの世界にハジケた奴らと邪神が絡んできたら~ 作:ショーン=フレッチャー
果たして、この世に正義というものはあるのでしょうか?
とある無人世界でスカリエッティ製のガジェットらしきものが見つかった。
それを見つけたのは巡航中のアースラだった。
すぐに本局に連絡をし、陸と共同で作戦に当たるようにとの命令が下った。
作戦に加わるのは首都防衛隊ゼスト隊である。
「ゼスト隊ってレイくんとアフームちゃんが出向している隊だよね」
エイミィが呟く。
「そうだ、あの2人がいる隊だ。あの2人は迷惑をかけていないだろうか」
クロノがゼスト隊の面々の胃を心配する。
「大丈夫じゃない? 噂だけど、手柄を上げているみたいだし、かなり馴染んでいるんじゃないかな」
「だといいんだが。あの2人のハジケに対応しきれているのかどうか」
「それはある。凄い心配。だってレイくんってキング・オブ・ハジケリストになったんでしょ。そのハジケって結構ヤバくない?」
「アフームも同等の
「ヤバいよね、私達でも対応しきれなかったもん。おまけに政治的にヤバい立場になったでしょ。ヤバい、私ヤバイしか言ってない」
「虚空教団の教主だからな、本人はまだ修行中だと言ってはいるが、その影響力は絶大だ。既に第6次元文化圏では英雄扱いだそうだ」
「私達とんでもない子を見つけちゃったね」
「ああ、とんでもない奴を見つけてしまったものだ」
アースラは現在、なのは達を迎えに行くために地球に向かっている。
その後、本局でゼスト隊と合流し、目的の次元世界へと向かうのである。
クロノとエイミィはこの事件もつつがなく終わると考えていた。
それが気の緩みであったことを後にクロノは思い知ることになる。
海鳴海浜公園、転送ポジションに一番乗りしたのはテスタロッサ姉妹であった。
「私達が一番か~」
アリシアが呟く。
「あっ、フェイトちゃんとアリシアちゃんや」
そこへ八神家の面々がやってくる。
すっかり走れるようになったはやてが駆け寄る。
「なのは達はまだか?」
ヴィータが問いかける。
「うん、まだみたい」
そこへ、なのはとアリサとすずかが走ってくる。
「お待たせなの!」
「おせーぞ、なのは」
「うちら今来たばっかやん」
「それを言うなら私達もだよ」
全員で笑い合う。
そこへ空中にモニターが現れる。
映っているのはエイミィだ。
「みんなお待たせ! 今から転移するから魔方陣に乗って!」
エイミィの指示に従い、全員魔方陣の上に乗る。
そのまま、アースラへと転移されるのだった。
なのは達を拾ったアースラはその足で本局へと向かった。
そこでゼスト隊と合流するためである。
「本日は宜しくお願いします」
「こちらこそ、お邪魔します」
リンディとゼストの間で挨拶が為される。
「そう言えば、レイくんとアフームちゃんは迷惑をかけてはいないでしょうか」
「いや、2人には助けられていますよ。出来ることならずっと居て欲しいぐらいですね」
「そういえば、レイくんとアフームちゃんは、うわっ!」
リンディがレイとアフームを見つけた時、思わず驚いてしまう。
何故なら、レイが見るからに不機嫌そうにしていたからだ。
「あの、レイくんは一体どうしてこんな状態に?」
「それが、朝書類を確認していたら、いきなりこうなってて、私も何が何だか」
リンディもゼストも困惑する。
「あの、レイくん。一体どうしちゃったの?」
「……提督殿。お久しぶりです」
「お久しぶり、ってあなた見るからに不機嫌よ。何があったの」
「……俺が皆の嘱託シフト管理をしているのはご存知ですよね。俺が不在の間、やたらとシフト入れてる奴がいて、そいつに対する怒りが抑えられなくて」
「それが原因なの?」
「ええ、このままでは俺の管理不行き届きで事故が起きるかもしれん。そうなったときのことを考えると、怒りが」
「わかるわ、わかるけど今は抑えて。これから大事な任務でしょう。抑えて」
「そう言われましても、内側から湧き上がってくるこの怒り、汲めども汲めども湧いて出てくる。この怒りが石油ならどれほど良かったことか」
「確かにそうだといいけど、今は何とかして!」
「仕方ない、妾が何とかしよう」
そう言うとアフームはレイの背中を開き、配電盤の様な装置を露にする。
そしていくつかのつまみを回し始める。
「何をしているんだ?」
「レイの感情を抑えているのじゃ。このつまみを回して、と」
「大丈夫なの!? 大丈夫なの!?」
つまみを回す度、レイの表情や目の色、舌の長さが変化する。
「これで良し! しばらくは怒りを感じぬはずじゃ」
「ハイ、モウ大丈夫デス」
「「全然大丈夫じゃなーい!!!」」
レイの口調はなぜかロボットの様な片言になっていた。
「行くぞレイ」
「畏マリマシタ」
何かが変化したレイを見送りながら、ゼストとリンディは呆然とする。
「……作戦準備をしなければ」
「……そうですね」
2人は打ち合わせのため、艦長室へと向かうのだった。
ブリーフィングルームでは、アースラ武装隊、なのは達、ゼスト隊でひしめき合っていた。
それでも、談笑するには十分な広さである。
そこへ、レイとアフームが現れる。
レイはなぜかギターを背負っている。
「あ、レイ! アフーム! どう、し、たの?」
アリシアが、不機嫌そうなレイを見つけ、言葉によどむ。
レイが、ギターを鳴らす。
「この中に一人! シフトを大量に入れとる奴がおる。お前や!」
レイはなのはを指さす
「えっ!」
なのはは驚きのあまり、声が上ずる。
「確認したら驚いたで。お前さん休日のほとんどに仕事入れとるやないか。休み全くない月もあったで。どういうことやこれは」
レイの追及になのはは俯く。
「これ、自分でいれたな? どういうつもりや! 休むのも仕事の内やで! 少しは自分を労われ! リアル見せてやろうか!」
突然の大声に、アースラ武装隊も、ゼスト隊も思わずレイ達の方を向く。
レイはなのはに向かって拳銃を構える。
「このことを史郎はんと桃子はんは知っとるんか? 後で説教してもらうで! 大体お前さんはな!」
「レイ! 落ち着くのじゃ! ほら、メロンパンじゃ!」
アフームが袋に入ったメロンパンをレイに嗅がせる。
「イエ~ス、イエ~ス」
「そうじゃ、落ち着くのじゃ。ここは森の中、大自然の中じゃ」
「イエ~ス、イエ~ス、うっ!」
「イッた! 今イッたぞ!」
((((((なにこれ))))))
レイは荒い息をしながらも落ち着きを取り戻したようである。
「ハアハア、俺は心配なんや。お前さんが体を壊さんか、疲労で注意力散漫になって重大な事故につながらんか。お前さんは大事な預かりもんなんや。怪我無く事故無く家に帰さんと俺の責任になる。せやから少し過敏になってしまうんや。今は出向中とはいえ本来の責任は俺に課される。恭也兄さんとの約束なんや、お前さんを無事に家に帰すんは。分かってくれ」
「……うん」
レイの言葉になのはは頷く。
「帰ったら、スケジュール確認や。とりあえず来週は全休な。俺が頭下げれば済む話やから」
「でも、向こうに迷惑がかかっちゃうの」
「ええんや、俺達はまだ子供やから迷惑かけてええんや。向こうさんも解ってくれるって。いざとなったらリアル見せればええんやから」
「「「「「「それはダメ!!!」」」」」」
大音響で突っ込みが入る。
「他のみんなもスケジュール確認するで。俺がいない間、皆乱れがちや。特にフェイトとアリシア、執務官試験のためにも少々減らした方がええと思うで」
「「え~」」
「えーやない。合格率が30%とは言え、きちんと勉強すれば受かるもんなんや。俺も勉強みるから頑張ろ! はやても少々入れ過ぎや、夜天の書の主として責任感じんのはええけど、それで体壊したら元も子もないで。あすかとエスト、お前らが止めろ」
「俺に止められると思うか」
「そこを何とかするんが家族の役目やろが、剣ばっか振ってないで心の研究もせい。アリサとすずかは特にいうことなし。スケジュール完璧や」
「でしょ。過ぎたるは猶及ばざるが如し、っていうでしょ」
アリサが胸を張る。
「左様、皆中道を歩めよ。偏るんは宜しくあらへん。働きすぎも休み過ぎも毒や。出向期間が終わったら、また、きっちり管理するからな!」
「「「「「「はーい」」」」」」
レイは一つ大きくため息をつくと、周囲に向かって頭を下げた。
「すいまへん、お見苦しいものを見せてしもうて」
「レイくんってこういうの厳しいのよね。責任ある立場って大変ね」
「なんていうか、同世代なのに保護者感がすごいわね。やっぱり立場って大事なのね」
クイントとメガーヌが緊張した場をほぐさんと、レイに話しかける。
「そうじゃな、特にレイは旧家の跡取り息子じゃ。家を背負うということはそれだけの責任を負う。レイ程外聞を気にする奴もおるまいて」
「左様、人からどう見られているか、それは政治も同じや。狐狸妖怪ひしめく政財界で戦い抜くには大変な労力を必要とするもんでな」
「「だったらハジケた言動はどうなのよ」」
「「それはそれ、これはこれ。それが私達
そこへ、ゼストとリンディが入ってくる。
「皆さん、席について下さい。これから作戦会議を始めます」
本作戦は、アースラ武装隊、ゼスト隊による混成部隊を2つ作る、2方面作戦である。
なのは達も2部隊にそれぞれ振り分けられた。
レイが所属する部隊には、クイント、クロノ、なのは、アリサ、フェイト、はやて、ヴィータ、リインフォースがいる。
もう一方にはアフーム、メガーヌ、ゼスト、すずか、アリシア、あすか、エスト、シグナム、ザフィーラが所属する。
レイは正直不安であった。
このような編成は不和の種になりやすいし、何より、なのはに明らかに疲労の色が見える。
レイはこの作戦が上手くいくには、それぞれの大人の対応が必要なのではないかと考えていた。
同時に、なのはのフォローが必要であるとも。
「ねえ、レイくん」
クイントがレイに話しかける。
「あの白い子、大丈夫? 体幹の軸がぶれているわ。相当疲労がたまっている」
「ええ、さっき注意したとおりの話です。出来る限り僕もフォローするんで、そちらもサポートお願いします」
「わかったわ、気をつけてね」
両部隊が転移され、作戦が開始される。
目標地点まで、両部隊が徒歩で接近していく。
誰もが周囲を警戒しながら、行軍する。
もちろんなのはも周囲を警戒する。
とはいえ、警戒しながらの行動は精神的疲労をもたらす。
今のなのはに常時気を張り続けるということは苦行にも等しかった。
「なのはちゃんは警戒から外れた方がいいわ」
クイントはそう提案した。
「大丈夫、です」
なのはは不安定な体で答える。
「どう見ても大丈夫じゃないわ、辛いんだったらバックヤードに戻って……」
「大丈夫です! 私はやれます!」
なのはが強い口調で断言する。
フェイトとヴィータも心配そうに見つめているが、こういう時のなのはが何を言っても聞かないのをわかっているのか何も言わない。
クイントはレイを見る。
レイは肩をすくめ、首を横に振った。
「行きましょう」
クイントは一つ大きなため息をつくと、作戦を再開した。
その瞬間、空気が変わった。
周囲に魔方陣が展開される。
そこから大量のガジェットが召喚された。
「敵襲じゃー! 敵襲じゃー!」
レイが櫓に上り、半鐘を鳴らす。
全員戦闘態勢に入る。
しかし、AMFのせいか、うまく魔法が使えないものが続出する。
「ええい! 厄介な!」
レイがスペルカードを発動する。
「味符『無味無臭餃子新発売』!」
無数の餃子が弾幕となってガジェットを破壊していく。
「レイ! 助かった! 全力で退避! 作戦を中断する!」
クロノが号令をかけると同時に局員たちは元来た方へと退避していく。
一瞬、なのはは出遅れた。
それが隙だった。
なのはの目の前に多脚戦車の様なガジェット、Ⅳ号が召喚される。
「なのは!」
フェイトが叫ぶ。
レイがなのはに駆け寄る。
なのはは突然のことに固まってしまう。
なのはにⅣ号の鎌が迫る。
レイがなのはに飛び掛かり、鎌は宙を切る。
しかし、もう1本の鎌が、2人を貫いた。
「なのはーーー!!!」
「レイーーー!!!」
フェイトとヴィータの慟哭が辺りに響いた。
第2章もいよいよクライマックス。
次回で第2章が終了します。
第2部は短いって?
いやいや、第3章が渾身の作の上、結構長くなっていますのでご安心を。