魔法神話 レイ&アフーム ~もしもリリなの世界にハジケた奴らと邪神が絡んできたら~   作:ショーン=フレッチャー

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 前回のあらすじ
 レイとなのはは腹部を貫かれるのでした。



第7話 スターレス・アンド・バイブルブラック

「なのはーーー!!!」

「レイーーー!!!」

 

 フェイトとヴィータの慟哭が辺りに響く。

 

 レイの背中から鎌は突き刺さり、長さ的にもなのはまで届いているだろう。

 鎌が引き抜かれる。

 レイの体から血が噴き出る。

 レイの羽織る着物が真っ赤に染まっていく。

 しんがりを務めていたクロノとクイントが駆け寄る。

 

「レイくん! レイくん!」

「なのは! しっかりするんだ!」

 

 2人が声をかけた時、レイがむくりと起き上がる。

 

「レイくん! 起きちゃダメ! 血が!」

 

 クイントの制止も聞かず、レイは起き上がる。

 レイはじっとなのはを見つめる。

 なのはは荒い息をし、白いバリアジャケットを赤く染めている。

 どうやら貫通していないのか、地面に血だまりは無い。

 その姿を確認すると、レイは目を閉じる。

 

「レイ! しっかりしろ!」

 

 クロノがレイを気付けようとする。

 次の瞬間、レイから凄まじいほどの怒りのオーラが噴出した。

 

「願い奉る、願い奉る、我が血をもってこの娘を癒し給う」

 

 レイが言葉を紡ぐと同時にレイの口から血が溢れ、なのはの傷がふさがっていく。

 

「願い奉る、願い奉る、我より流れいずる血をもって、彼の機械を潰せ」

 

 次の瞬間、火が、雷が、氷が、風が、水が、土がガジェットを襲い、スクラップにしていく。

 一瞬で辺りはガジェットの残骸で埋め尽くされてしまった。

 レイは己の傷を撫でる。

 いつの間にか、鎌で刺し貫かれた傷は塞がっていた。

 レイは口の中の血を吹き出すと、立ち上がる。

 

「レイ! 安静にしていろ! すぐに回収するから!」

 

 クロノがレイに安静を促す。

 しかし、レイは怒りのオーラを噴出させたまま前方を見つめる。

 すると、ガジェット召喚に使われたのと同じ魔方陣が現れる。

 再びガジェットが大量に召喚される。

 

「なのはを連れて行って下さい」

「お前も来るんだよ!」

「俺はストレス解消してから行くんで」

「何を言っているの!? あれだけ血を流しておいて! 貫通してたわよ!」

「もう、平気です」

「そんなわけないだろう! いいから戻って治療を受けろ!」

「なら、この怒りは何処にぶつければええ!!!」

 

 レイが怒号を飛ばす。

 

「俺は! 一体どうすればこの怒りを治めることが出来るんや!」

 

 その迫力にクロノとクイントは気圧される。

 

「丁度ええんや、こいつら潰して、ストレス解消のサンドバッグにするには」

 

 レイは六角如意金剛棒を構えると。ガジェットに向かって突撃する。

 そして、めちゃくちゃにそれを振り回し始めた。

 

「怒符『ローリングレイちゃん2006』!!!」

 

 その動きに型は無かった。

 ただひたすらにストレス解消のためだけに暴れているだけだった。

 それだけでガジェットは破壊されていく。

 間合いの外のガジェットは怒りのオーラが形となって破壊活動をしていく。

 ひとしきり暴れ終わった後、残されたのはガジェットの残骸だけだった。

 レイは肩で息をする。

 そのまま、レイは意識を失い、倒れ込む。

 クロノとクイントは慌ててレイを支えると、急いでアースラへと運び込むのだった。

 

 

 

 

 

 時空管理局病院。

 現在なのはとレイの手術が行われていた。

 誰もがなのはとレイの回復を祈り、手術室の前を離れない。

 そこへ、プレシアとユーノに連れられて高町家と金剛=ダイヤモンド家の面々が現れる。

 それにいち早く言づいたのはリンディだった。

 

「リンディさん! なのはとの容体は!」

「レイはどのような状態なんです?」

 

 史郎と櫻子がリンディに詰め寄る。

 

「……現在手術中です。詳しいことはまだ」

 

 その時、手術中のランプが消える。

 手術が終わったのだ。

 ドアが開き、ストレッチャーに乗せられたなのはが医者とともに現れる。

 

「「「「「「なのは!」」」」」」

「「「「「「なのはちゃん!」」」」」」

 

 全員がなのはに駆け寄る中、リンディは執刀医に話を聞く。

 

「なのはちゃんの様子は……」

「応急処置が効きましたな、思ったよりも容体は安定しています」

 

 誰もがほっと胸をなでおろす。

 

「しかし、リンカーコアの一部と脚部への神経が損傷しています。時間をかければ治るでしょうが、しばらくは魔法を使えないでしょうし、歩くことも困難になるでしょう」

 

 全員の顔色が変わる。

 なのははまだ麻酔で眠っている。

 なのはがこの事実を知ったらどうなるか、想像に難くなかった。

 

「そういえば、レイはどうなってます?」

 

 櫻子が執刀医に問いかける。

 

「そちらは別の者が担当しています。まだ、終わっていませんか」

 

 レイが手術を受けているのは隣の手術室である。

 そちらのランプはまだ点灯したままである。

 すると、ランプが消灯する。

 手術室からレイが出てくる。

 

「「「「「「レイ!」」」」」」

「「「「「「レイくん!」」」」」」

 

全員がレイに駆け寄る中、リンディは執刀医に話を聞く。

 

「レイくんの様子は……」

「何なのあの子。あれで生きてるっておかしくない? それに内蔵のマスコットキャラが自動で修復しているし。内臓のマスコットキャラって何だよ!」

 

 その言葉に、誰もがレイが本当に人間かどうか疑わしい目で見る。

 

虚空戦士(ハジケリスト)って一体何なの?」

「それを言葉で表現するのは不可能じゃし、無粋じゃよ」

 

 アリサの疑問はアフームによって答えになっていない言葉で返された。

 

 

 

 

 

「そうですか、レイくんがなのはを……」

 

 事故当時の状況をリンディとクロノから聞いていた高町家と金剛=ダイヤモンド家。

 史郎が詳細を知って思わず呟く。

 

「レイが間に入ったことでなのはちゃんの傷が浅くて済んだ。レイはよくやったよ」

「それでこそ金剛=ダイヤモンドの男や」

 

 デビッドと櫻子がレイを称賛する。

 

「この度はなんとお詫び申し上げればよいか……」

「顔を上げてください、リンディさん。このような仕事に就いていれば、いずれ起きうることです。私も経験がありますから。とはいえ、私が皆にこんな思いをさせていたのだと思うとやるせない気持ちがあります」

 

 リンディのお詫びに史郎は顔を上げるように言う。

 

「我々IMS外交部としてもお詫びを申し上げます。お預かりしたなのはちゃんを守り切れませんでした」

「頭を下げないでください。レイくんの方が大ごとじゃないですか。それなのに頭を下げてもらっては困ります」

 

 頭を下げるデビッドと櫻子に困惑する桃子。

 

「息子は、レイはあの程度では死にません」

「死にませんって……」

「それよりも、我々にはなのはちゃんを怪我させた責任が生じます。補償は必ず行います」

 

 櫻子が桃子に力強く言う。

 

「我々、時空管理局も出来る限りの補償は致します」

「それよりも、なのはとレイの容体だ。2人は本当に大丈夫なんだろうな」

 

 恭也が不安そうな声を上げえる。

 

「大丈夫じゃ。なのははレイの応急処置が効いたし、レイもそう簡単に死ぬクチではない。大丈夫じゃ、きっと大丈夫じゃ」

 

 そう言うアフームの声は震えていた。

 その様子に誰もが陰鬱な気分になるのであった。

 

 

 

 

 

 なのはが目を覚ました時、目の前は真っ白だった。

 真っ白な天井が映っていた。

 

「気が付いたか」

 

 隣から聞きなれた声がする。

 レイの声だ。

 首だけを動かし横を見ると、ベッドの上に座り本を読むレイがいた。

 

「こ、こ、は……」

「管理局病院。お前さんは手術が終わったところや」

「しゅ、じゅ、つ?」

「左様、覚えとらんのか?」

 

 なのはは思い出していた。

 巨大なガジェットに襲われたことを、レイに助けられたことを、そして、自身の腹に痛みが走ったことを。

 なのはは思わず自身の腹をさする。

 そこには鈍い痛みと共に縫ったような跡があることに気付いた。

 

「俺がおらんかったら、どうなっていたことか。全く、普段から休養をきちんと取らんと、こういう時に動けんのやぞ。これからは気を付けるんやな」

「レイ、くんは?」

「ん?」

「レイくんは、大丈夫なの?」

「この通り、ぴんぴんしとるわ」

 

 そう言いつつ、レイは腹の傷を見せる。

 赤く、痛々しい傷がそこにはあった。

 なのはは自分にも同じような傷があるのかと思うと、ぞっとした。

 同時に、それを何とも思わないレイに対し、わずかではあるが恐怖を抱いた。

 

「なんで、なんで、何も言わないの。私のせいなのに」

「責める理由が無いもんでなあ。それよりも助かって良かった気持ちの方が大きいわ」

 

 なのははレイを理解できなかった。

 どうしたらここまで懐の大きいことが言えるのだろう。

 

「私のせいで、私のせいでレイくんまで怪我したのに、なんで」

「必要以上に自分を責めるな。健康に悪いで」

「なんで、そんなに強いの」

 

 レイは意表を突かれたような顔をする。

 

「知らんがな」

 

 なのはは何も言えなかった。

 

「そんなの知るわけないやろ。強さの意味も解らん餓鬼にそんなこと聞かれても困る。まだ麻酔が効いとるせいで変なこと考えてしまうんやろ。寝てしまえ。寝て気分すっきりしてしまえ」

 

 レイは再び手元の本に目線を向ける。

 なのははそれを見ながら次第に意識が遠のくのを感じた。

 それは絶望感にも似ていた。

 

 

 

 

 

 それはいつものように境内を掃除していた時だった。

 博麗霊夢は何者かが結界を越えてきたことを感じ取った。

 侵入者は博麗神社の真後ろからやってくるようである。

 

「霊夢! 感じたのか!」

 

 スキマから八雲藍が現れる。

 彼女もまた異変を察知したのだろう。

 霊夢は頷くと、大幣を構え、侵入者を待ち構える。

 がさがさと草木が揺れる。

 現れたのは四つ足の何かだ。

 

「「獣!?」」

「妾じゃよ」

 

 侵入者の正体は四つ足で移動するアフームだった。

 その顔は妙に上気している。

 

「なんだ、アンタだったの」

「久しぶりじゃのう、博麗の巫女、賢者の式よ」

 

 アフームは二本足で立つと、2人と挨拶を交わす。

 

「で? 何のような訳? アンタの相方は?」

「相変わらず素っ気ないのう。でなければ博麗の巫女など務まらんか。レイは今入院中じゃ。妾はレイに頼まれ書状を届けるよう頼まれたのじゃ。一枚は八雲紫殿に渡すように言われておる」

「では、私が預かりましょうか」

「藍殿、ではお任せしよう」

 

 アフームは藍に手紙を渡すと、もう一枚手紙を取り出す。

 

「霊夢殿にも渡すよう言われておる」

「私にも?」

「うむ、レイ曰く近々起こるであろう異変にまつわる話だとか」

「あー、それでか、今朝私の勘が働いたんだ。異変にまつわる何かが起こるって。この手紙の事だったのね」

「左様。レイ曰く、この異変は防ぎようがない。じゃが被害を抑える事は出来るとのことじゃ。その方法を記してあるとのことじゃ」

 

 アフームは霊夢に手紙を渡す。

 そこへ、桃色の髪の道士服の女性が現れる。

 

「霊夢! 大丈夫ですか! 今結界に異常が!」

「大丈夫よ。原因はあの子だから」

「お騒がせして申し訳ない、茨華仙殿」

 

 アフームはその女性、茨木華扇に頭を下げる。

 

「あなたでしたか、して何ようです?」

「この手紙を渡すようレイから頼まれたのでな、華扇殿にも渡すよう言われておる」

「私に、ですか。ありがとうございます。そう言えばあなたの相方の姿が見えませんが」

「入院だって、何があったのよ。正直アイツはそう簡単にくたばるようなタマには見えないんだけど」

「レイは、少女をかばって腹を刃物が貫通する大怪我を負ったのじゃ。もう平気なのじゃが、病院が離してくれなくてな、退屈しておるよ」

「刃物で腹を貫通って、何があったのよ。想像するだに痛々しいわね」

 

 霊夢は身震いする。

 

「そのあたりの経緯は話せば長くなる」

「じゃあいいわ」

「言うと思った」

 

 アフームは肩をすくめる。

 

「それでは妾は今日中に手紙を届け終えねばならん。これで失礼する」

「ふむ、一応聞いておくが、どこに届けに行くつもりだ?」

 

 藍がアフームに問いかける。

 

「紅魔館、白玉楼、永遠亭、守矢神社、地霊殿、命蓮寺、神霊廟、後戸の国。幻想郷の有力者のところにはすべて回るつもりじゃよ」

「随分ハードスケジュールね」

「それだけレイもこの異変を危険視しておると言うことじゃ。出来る限り多くの勢力に伝えねばならぬ程な」

 

 そう言うとアフームは霊夢たちに背を向ける。

 

「あ、そうそう、アンタの母親達は元気が有り余っているわ。問題を起こさないからいいけど。顔出しておいた方がいいんじゃない」

「そうじゃな、お使いが終わったら顔を見せるとするかの」

 

 そう言うとアフームは博麗神社から飛び立つのであった。

 3人はアフームを見送る。

 

「では私はこれで失礼する」

 

 藍がスキマを通じて紫のところへと向かう。

 霊夢と華扇は手紙を広げ、中身を改める。

 

「九頭龍異変、ねえ」

 

 霊夢と華扇は空を見上げるのだった。




 前回と今回のタイトルはキングクリムゾンの曲からつけたのですが、皆さん気付いたでしょうか。
 それよりも次回から第3章が始まります。
 物語全体としては佳境部分にあたり、そして今作品の方向性を決定づける部分に当たります。
 さらに第3章では幾多もの謎が明かされます。
 そして皆さんが恐らく予想しないであろう展開が待っています。
 乞うご期待!

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