魔法神話 レイ&アフーム ~もしもリリなの世界にハジケた奴らと邪神が絡んできたら~   作:ショーン=フレッチャー

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 渾身の力作、第2部第3章開始!
 とくとご覧あれ!


第3章 NC0068 C事件
第1話 預言と脈動する石


 この世にはおよそ人智の及ばぬ事象が存在する。

 この事件もまた、人智が及ばぬが故に起きた悲劇であろう。

 

 

 

 

 

「なんでしょう、これは」

 

 カリム・グラシアが呟く。

 彼女の希少技能(レアスキル)予言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)に新たなページが追加された。

 それによって以下の文章が翻訳された。

 

「集めてはならぬ脈動する石が九つ全て集まるとき異郷の海底より空腹の神が蘇る

 それを食い止めるは解放者にして皇帝なる者女神と共に新たな神話を紡ぐ

 空腹の神と解放者にして皇帝なる者一度死して再び蘇る

 そして世界の中心で互いに殺し合うであろう」

 

 それは、今までの文章の中で最も難解な文言であった。

 

「意味が解りません」

 

カリム・グラシアを含め誰もがこの文章の意味を完全には理解できなかった。

 脈動する石、というものを聞いたことも無ければ管理局のデータベースにも存在しない。

 異郷というのが何処かもわからないし、空腹の神というのもよくわからない。

 解放者にして皇帝なる者とはいったいどのような貴公子なのかすら掴めない。

 女神というのも抽象的過ぎて特定できない。

 一度死して蘇る、という言葉も額面通り受け取るには荒唐無稽だ。

 世界の中心とは何処だろうか、そもそもどの『世界』なのだろうか。

 この予言をいかにして解釈するか、誰もが頭を悩ませていた。

 

「どうしましょう」

 

 カリムはぼそりと呟く。

 原則として彼女の予言は管理局上層部に公開されることになっている。

 しかし、このような預言では彼女の正気が疑われてしまう。

 下手をすれば、今後の活動に支障が出るかもしれない。

 今回の予言は聖王教会上層部の頭を苦しめることになってしまったのだ。

 今まで預言を的中させてきただけに、今回の予言では回答が得られないとわかると、彼女の在り様すら問われることになる。

 

「シスター・カリム、あなたの予言の扱いが決まりました」

 

 彼女の上司がいつになく硬い面持ちで言う。

 

「今回の予言は解読途中ということにして、公開することにします」

「それで納得なさるのでしょうか」

「納得しようがしまいが、そうするしか今はありません」

 

 カリムは何も言えなかった。

 

「あなたも納得できていないようですね。私もです。ですが、管理局とうまくやっていくには、あなたの名誉を守るにはこの方法しかありません」

「何故、何故私は預言の力をもって生まれてきたのでしょう」

「……それは誰にも分らないことです」

 

 この時点で、預言を正確に理解できた人物は1人もいなかった。

 後になって、全てが明るみになったとき、ようやく彼女含め多くの人々が理解できたのであるが、そのことを今の彼女は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 ユーノ・スクライアは現場派の考古学者である。

 故に危険な目には何度も遭遇してきたが、その度に自らを成長させていった。

 現在、ユーノはとある古文書から遺跡の位置を特定し、早速発掘していた。

 この発掘作業には他のスクライア一族の面々も関わっている。

 

「う~ん、間違いなくこの位置なんだけどなあ」

「いかがいたしましたか、マスター」

 

 ソフィアがユーノに尋ねる。

 

「この地図を見てくれないか。今発掘している遺跡のマッピングなんだけど」

 

 ユーノが地図を取り出す。

 

「ここ、この空白地帯に何かがありそうなんだ。その空白地帯が目の前のこれ」

 

 ユーノが目の前の壁を指さす。

 

「入り口が見つかればなあ」

「何かお手伝いできることがあればいいのですが」

「いやあ、日常のことをやってくれるだけで助かってるよ。無限書庫の管制人格にやらせる仕事じゃないけど」

「ですよね~。最近無限書庫らしい仕事なんて、この遺跡の情報検索ぐらいでしたし、なーんか一気に情報検索するような仕事ってないもんですかねえ。管理局の皆さんは私達を軽視してますし。ハラオウンさんぐらいですよ。よく利用してくれるのは。軽い無茶ぶりも多いですけど」

「いつかあの腹黒野郎に原因不明のおできが出来る呪いでもかけてやろうか」

「やり方知ってるんですか?」

「知らない」

 

 2人は笑い合う。

 

「いや~しかし、見つからない! この空間の手掛かり!」

「テキトーに掘ります?」

「だったらいっそのこと全部爆破しちゃうさ」

「ヒュー、流石マスター!」

 

 2人は再び笑い合う。

 

「「何か出ろやーーー!!!」」

 

 2人はいきなり怒り狂い、壁面を蹴る。

 すると、ガラガラと壁面が崩れる。

 

「……マスター」

「……見つけちゃったね」

 

 ユーノは急いで他の一族を集めると、早速空白地帯の調査を始めた。

 

「ここは、まるで祭壇だ」

 

 ユーノが呟く。

 

「では奥にに何かあるかもしれないですね」

「その可能性は大いにある」

 

 やがて奥へとたどり着く。

 最奥部は広くなっており、祭壇という予想を裏付けるものでもあった。

 部屋の中央には何かが安置されている。

 

「「「「「「これは……」」」」」」

 

 誰もが口をそろえる。

 それは伝説の物でしかなかったからだ。

 青く苔むしていながらも、赤く輝きながら心臓の様に脈動する石。

 それは数多の古文書に記されながらも、実在が確認されなかった石であった。

 これがのちにハートストーンと名付けられるロストロギアと人類のファーストコンタクトだった。

 

 

 

 

 

「ハートストーン、ですか」

 

 ミッドチルダ地上本部機動二課、課長室でヴィクトリア・マーシュ二等空尉は新たな仕事を申し付けられていた。

 

「ああ、新しいロストロギアが見つかったんだ。お前、今新しい仕事ないだろ? どうだい、やってみる気はないか」

 

 課長が進めてくれた仕事は、かつて彼女の母親や祖母が探し求めていたロストロギアを集める仕事だ。

 そのことを彼は知らないが、これはきっと偶然では片づけられない力が働いているに違いない。

 ヴィクトリアは満面の笑みで引き受ける。

 

「やります!」

「そうか、かなり長期の仕事になるから、その分の手当はつくし、他の仕事は入れないようにする。しっかりやれよ」

「はい!」

 

 

 

 

 

 夏、海鳴市、金剛=ダイヤモンド邸。

 ここは、地球と管理局の外交拠点でもある。

 アフームとアウラとアリアはこの家でレイのピアノ演奏を聴いていた。

 曲はEL&Pのトリロジーだ。

 何を隠そう、レイ=金剛=ダイアモンドはプログレマニアである。

 演奏の最中、管理局用の通信端末が入電する。

 レイは演奏を止めると、空中にモニターを展開する。

 

「あ、キリン大好きめかぶ太郎先輩」

「クロノだ。ていうか誰だそいつ。それより仕事の話だ」

 

 クロノのツッコミと共に仕事の話に入る。

 

「ユーノの奴が新たなロストロギアを発見した」

「聞きましたえ、えらく興奮しとりましたんで急速冷凍光線を浴びせて海に流しましたわ」

「何やってんだお前は。それでな、今回発見したのと同じものが複数あるとのことで、アースラと地上本部の機動二課で協力体制を敷いて全て回収することになったんだ」

「ほうほう、その手伝いをいつものメンバーに頼みたいと」

「話が早くて助かる。そういうことだからスケジュールを調整してほしい」

「はいはい、任せときなはれ。ふうむ、比較的楽そうな仕事ですなあ」

「そうじゃな、これならなのはのリハビリにもってこいなのではないかの」

 

 アフームが話に入ってくる。

 先日なのはは無事に足を含めて完治したばかりである。

 まだ仕事はしていない。

 なのはの件があって以降、レイのスケジュール管理は緊縮を増した。

 以前より仕事の量を減らしたので当然不平が出たが、なのはのことを持ち合いに出して何とか納得してもらった。

 

「なのはか……」

 レイが呟く。

 事故の日以来、なのはとレイの間には溝が生まれていた。

 なのはが目覚めた時のやり取りのせいかとレイは考えていたが、どうもそれだけではないらしい。

 それは、なのはが目覚めたと聞いて、皆が駆け付けた時の話である。

 皆がなのはの心配ばかりするので、レイは拗ねてドジョウになって白目を剥きながらウーパールーパーを舐めていた。

 

「あー楽しー! ウーパールーパー舐めるの楽しー!」

「アンタね、構ってほしいならまともな行動をとりなさいよ。もうすっかりいつも通りじゃない」

 

 アリサにツッコミを入れられただけで、それ以降レイに声をかける者はいなかった。

 この時点でなのはは自分の足とリンカーコアについて聞かされていた。

 

「なのは、大丈夫? 気を落とさないで」

 

 フェイトが心配そうに声をかける。

 

「大丈夫だよ。ちゃんとリハビリすれば治るっていうし、早く治してまた頑張らないと」

 

 その言葉に一同は不安を覚える。

 

「頑張りすぎないでね。なのはちゃんはそう言うところがあるから」

 

 すずかが釘を刺す。

 

「うん、大丈夫だよ。無理はしない。無理したら同じことになっちゃうもんね」

 

 その言葉に一同はほっと胸をなでおろす。

 

「ちゃんと治せば、またみんなの役に立つよね」

 

 レイはその言葉に何かひっかかりを感じた。

 それは幽かな違和感ではあったが、なのはの闇を暴くには十分だった。

 

「この世に役立たずなんておらんよ。みんな何かしらいつも誰かの役に立ちながら生きとるんや。今は直す事だけを考えんさい」

 

 レイがなのはに声をかける。

 

「……レイくんはいいよね、何でもできて。デバイスも作れて、頭もよくて、戦うのも上手だし、いろんなところで活躍してる。この前も部隊のピンチを救ったんでしょ。すごいよね、大活躍してる。でも、私は何にもない」

「何もないてこたあないでしょう」

「ううん、何にもない。フェイトちゃんを助けたのも、プレシアさんを助けたのも、アリシアちゃんを助けたのも、夜天の書を直したのも、リインフォースさんを助けたのも、みんなレイくんのおかげじゃない! 私何かした? 魔法しか出来ることはないし、魔法を撃つことしか出来ていない! 魔法がなきゃ私なんて……」

「なのは!」

 

 レイが一喝する。

 

「今の発言を取り消せ。それは史郎はんと桃子はんに、皆に失礼やぞ」

「ねえ、魔法の使えない私に価値ってあるの?」

「噴!」

「グべ!」

 

 レイはなのはの首を締めあげると、そのまま昏倒させた。

 

「麻酔完了」

「「「「「「思いっきりCQCだよ!?」」」」」」

 

 この日以降、なのはとレイの間にぎくしゃくした雰囲気が流れるようになったのである。

 なのはの闇を図らずもレイが暴くことになってしまったが故であった。

 先日やっと退院したなのはの出迎えにもレイは渋々向かう始末であった。

 表面では取り繕っていても、水面下ではかみ合っていないことが誰の目にも明らかな状態であった。

 

「どないしたもんかね」

 

 レイがぼそりと呟く。

 

「ん? 何がじゃ?」

「いや、何でもあらへん。それよりもスケジュールの方やけど、なのはにも参加させようと思うんやけど、どうやろか」

 

 レイの提案にクロノは乗る。

 

「いいんじゃないかな、このくらいの仕事なら復帰後初の仕事としていい感じになりそうだ」

「ほんなら、それで組んどきますわ。フェイトとアリシアは執務官試験があるんで抑えめにするとして、他に要望は?」

「いや、それでいい、君に任せる。それより、なのはとの関係修復が大事なんじゃないのか」

 

 痛いところを突かれてレイは苦い顔をする。

 

「……どうにかしますよ、どうにか」

「レイにしては弱気な発言じゃな。そこは断言するところじゃないのかの」

「断言できるほどの根拠があらへん。人の心は複雑怪奇やから」

「言い訳乙じゃ」

「酷いこと言わんといて」

「あーもういいか? そろそろ時間だから」

「その前に一つだけ。今回回収するロストロギアはどんなもんや? 詳しくは聞いとらんもんでな」

「ああ、いいとも、資料を送ろう」

 

 新たにウインドウが開かれ、ロストロギアの情報が出てくる。

 

「ロストロギア、ハートストーン。命名者はユーノ・スクライアだ。外見は赤く、心臓の様に脈動しているのが特徴のロストロギアだ。強い魔力を発している。材質は不明だ。既存物質には当てはまらない性質を持っている。聞いているのか?」

 

 レイはハートストーンの画像を見たまま呆けている。

 

「執務官殿。これは集めたらあかん代物や。今すぐ、回収を中止してくれへんか」

 

 その顔は今までにないほど真剣なものだった。




 いきなり不穏な空気が漂い始めておりますが、皆様どのようにお過ごしでしょうか。
 今回から始まる第2部第3章は私が最も力を入れて妄想したパートであります。
 それ故完成には相当な労力を要しました。
 楽しんでいただければ幸いです。
 感想お待ちしています。

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