魔法神話 レイ&アフーム ~もしもリリなの世界にハジケた奴らと邪神が絡んできたら~ 作:ショーン=フレッチャー
健康のために、もぎ(ピー)てぅ。
3つ目のハートストーン収集に同行したのはなのは、フェイト、はやての3人だった。
ユーノとヴィクトリアに同行した3人は今、遺跡の回廊を歩いている。
壁面には壁画が描かれている。
その内容はなのは達には一切わからなかった。
「ここはとある宗教団体が儀式に使っていた場所なんだ。壁画はじっくり見ない方がいいよ、こう言っては何だけど胸糞悪い内容だから」
ユーノの言葉にひっと慄く3人。
しかしヴィクトリアは意に介した様子はない。
壁画は魚の顔をした亜人が何やら儀式をしているような内容である。
文字も彫り込まれているが、それがいったいどのような言語なのか皆目見当もつかない。
文字自体も不可解な曲線で構成されており、全く内容をうかがい知ることが出来ない。
デバイスの翻訳機能もこの文字はお手上げのようだ。
「ユーノ君はこの文字分かるん?」
怖さを紛らわせるためか、はやてがユーノに話しかける。
「いいや、全く。でも絵から読み取れることは多いからね」
「ここ、ユーノは来たことあるの?」
フェイトの問いにユーノは答える。
「いいや、ここの壁画は有名だから大学の資料で見たことがあるだけなんだ。実物を見るのは初めてだよ」
「そんなに有名なの?」
なのはの疑問にユーノが答える。
「ここは次元世界でも屈指の悪名高い秘密宗教の儀式場なんだ。何故悪名高いかは察してね。文化人類学的には興味深いサンプルではあるけれど、嫌悪感を持たれやすいことをしているから」
3人はそれで通じたのか、何も言わず身震いした。
「これから向かうところはまさにそれが行われた場所なんだ。全く、クロノの奴めこういうとこに女の子を向かわせるもんじゃないよ。あのクソ雑魚ナメクジ野郎め、デリカシーが無さすぎる」
「「「「言い過ぎじゃない……?」」」」
やがて巨大な扉の前にたどり着く。扉にも意匠が施されており一枚のイコンのようであった。
「はいじっくり見ない、精神に異常をきたしても知らないよ」
ユーノが恐ろしいことを言うので3人は再び震え上がる。
「ユーノ君は大丈夫なの?」
なのはが問いかける。
「僕はほら、もうすでに汚染されてるようなもんだからさ」
「「「ああ……」」」
「え、何、どういうこと?」
ヴィクトリアが話についていけず、困惑する。
「ユーノは
「成程」
フェイトの回答に納得するヴィクトリア。
その間にユーノは扉を開ける。
「みんな、行くよ」
扉の先は円形闘技場のような造りとなっていた。
だだっ広い空間に5人だけというのは何やら奇妙な感覚すら覚える。
「このどこかにハートストーンがある。このレーダーを頼りに見つけ出すよ」
ユーノが懐から取り出したレーダーにはロストロギアの位置を特定する機能がある。
「「「ちくわじゃん!?」」」
その見た目はどう見てもちくわであった。
「えーと、どう反応したらいいのかしら」
再び困惑するヴィクトリア。
「ツッコめばいいと思うよん」
ちくわから声がする。
「「「喋った!?」」」
「さあて、見つけるとしますか!」
ユーノが意気込む。
その様子を数多くの彫像が見下ろしている。
その形は、タコともイカともつかぬ頭部、類人猿のような胴体。そしてコウモリのような翼を備えていた。
その形をなのはたちが見ることはなかったのは幸運だろうか。
「クロノ貴様ー!」
任務終了後のアースラ艦内。
ユーノがクロノにシャイニングウィザードを決める。
「「「「「「何やってんの!?」」」」」」
「よくもあんな精神衛生上よろしくないところにみんなを放り込んでくれたな! 少しは気を使うこととかできんのかー!」
「ぐああああああ!」
ユーノがクロノにコブラツイストをかける。
「「「「「「やめなよ!」」」」」」
「そ、そうはいっても、これからいろいろな任務をするうえで必要な経験だろう! 気味が悪いからという理由で任務を放棄できるか!」
「だったらもうちょい人員出せや! アースラに武装局員はいるだろうが!」
「こ、これも経験だと思って」
「理由は聞いた! だが気に食わん!」
「「「「「「理不尽だ!」」」」」」
「マスター、お疲れ様です」
ソフィアがユーノに話しかける。
「ああ、ソフィア、無事発掘できたよ」
「それは何よりです」
「そっちはどうだい、進んでいるかい?」
ソフィアの仕事は発見した文献からハートストーンの位置を精査することである。
「ええ、先程全資料の閲覧を終了しました。これから精査です」
「それは何より」
「それと気になる情報が」
「何だい?」
「聖王協会のカリム・グラシアの
「ハートストーンにかかわる記述かい?」
「ええ、早急に耳に入れておくべき情報かと」
「聞かせてくれますか?」
リンディが話すよう促す。
「わかりました。皆さんよろしいですね」
全員が頷く。
「集めてはならぬ脈動する石が九つ全て集まるとき異郷の海底より空腹の神が蘇る
それを食い止めるは解放者にして皇帝なる者女神と共に新たな神話を紡ぐ
空腹の神と解放者にして皇帝なる者一度死して再び蘇る
そして世界の中心で互いに殺し合うであろう」
「「「「「「はい?」」」」」」
「このような預言が為されていました。なお、現在解読中とのことです」
誰もがぽかんと呆ける。
「なあ、意味わかる?」
はやてが皆に問いかける。
誰もが首を振る。
ユーノですら肩をすくめる。
「何なのそれ、まるで意味が通じないわ。何なのよ空腹の神って」
ヴィクトリアが呟く。
「……固有名詞から一応推理できそうだけど、これ本腰入れないと無理かも」
「ユーノ、わかるのか」
クロノがユーノに問いかける。
「あくまで推理だよ。この解釈が正しいかどうかなんて誰にも分らないしね。それでいいなら少し時間をくれれば全文の解釈を作るけど」
「……頼めるか。どうも引っ掛かることがある」
「了解。多分その引っ掛かりはレイの態度だね?」
「ああ、レイがハートストーンを集めるなと言っていた。この予言を知らないのにだ。何か引っ掛かる」
「その勘、信じてみるよ」
「……そうか、回収は止められないか」
「ええ、向こうさんにはこちらの本気度が今一つ伝わらなかったようで」
八雲紫の呟きにレイが答える。
「こういっては何ですが、あなたも管理局に物が申せる立場なのでしょう? あなたの持つ外交ルートを全開で駆使すれば、不可能ではないのでは?」
「それをやったらおしまいです。伝家の宝刀どころではありまへん。それに部署が違いますから、話が通るかどうか。僕の顔が効くのは、あくまで一部署なんです。全体に聞く顔は持ち合わせておりまへん」
八雲藍の問いにレイは答えていく。
「無理矢理事を為せば歪みが出る。貴様はそれを恐れているな? 随分ともどかしい顔をしているぞ」
「ははは、わかりますか。いやあ、管理局という組織は複雑怪奇。折角手に入れた権力も宝の持ち腐れですわ」
摩多羅隠岐奈に指摘され、乾いた声で笑うレイ。
「今回の異変は貴方が鍵、幻想郷だけでなく、外界にも危機が迫っている。そして貴方自身にも」
紫に指摘され、レイは冷や汗をかく。
「6年毎の死の運命……」
「レミリア・スカーレットが貴方に告げた運命。その6年目が来ている。貴方はそれを乗り越えなければならない」
「苦しい話です。世界の危機と己の危機、同時に攻略せねばならんものですから」
レイは出されたお茶に手を付ける。
「旧き神の結界は張り終えました。外界でもあらかた張り終えたのでしょう?」
「ええ、しっかりと張りましたよ。ほとんどの結界に関わりましたから」
藍に確認され、レイは確りと頷く。
「問題は管理局が地球にある心臓を取りに来ないかだ。それについてはどうなんだ?」
「……僕の予想では十中八九取りに来るでしょう」
「対立は?」
「……必至です」
隠岐奈に質問され、レイは言葉を噛み殺すように答える。
「外の連中だけで守り切れるかしら?」
「個人的な意見を申しますと、多分無理です。最強の戦闘魔術師集団である我が家を全員駆使させて、漸く守り切れる。但し、一回のみですが」
「誰もが貴方ほど神の寵愛を受けているわけではない。寧ろ実力を維持し続けていることの方が奇跡といっても過言ではないわ」
「恐縮です。恐れながら、技術、知識提供の代償に、幾人か幻想郷の住人を借り受ける事は出来ないでしょうか」
紫との会話で出たレイの意見に賢者達は目を丸くする。
「それは、どういうことか分かっているのね」
「無論、最終手段ですが。備えておきたいのです」
「我々としても黙って見ているわけにはいかない。この九頭竜異変、解決のためなら喜んで手を貸そう」
「私も同意見よ。貴方ならば外界でも一時的に幻想郷を再現出来る。その力を使うのね」
「それ以外にも備えることはたくさんありますが、それも行います」
「お前は一体どれだけの策を講じるつもりなのだ?」
隠岐奈の問いにレイは口角を吊り上げ、答える。
「無論、僕が安心できるまで」
聖王教会の一室。
クロノとユーノ、カリムが頭を突き合わせていた。
議題は例の預言についてである。
「集めてはならぬ脈動する石が九つ全て集まるとき異郷の海底より空腹の神が蘇る
それを食い止めるは解放者にして皇帝なる者女神と共に新たな神話を紡ぐ
空腹の神と解放者にして皇帝なる者一度死して再び蘇る
そして世界の中心で互いに殺し合うであろう、か」
クロノが預言内容を呟く。
「我々ではこの予言内容を解読する事は出来ませんでした。ユーノ・スクライアさんでしたか? あなたが解釈を持ってきたと」
「はい」
ユーノが頷く。
「これは僕の友人、第92管理外世界、地球で外交官とキング・オブ・ハジケリストをしている者の言葉なんですがね」
「存じております。虚空教団の教主になられた方ですね」
「ええ、彼曰く、今地球ではある神が復活することで地上が大混乱するそうなんです。彼は今その対応に追われているのですが、その彼がハートストーン収集を止めるよう進言したんです。僕たちが予言を見つける前にです」
「そのことが何か関係があると」
「はい、彼は根拠もなく物事を恐れる人物ではありません。その彼が取り乱すほど恐れている。ですから、この件は恐らく事実なのだろうと思われます。預言にある異郷が地球の事なら、1行目の解釈はこのようになります」
カリムはユーノをじっと見つめる。
「脈動する石がハートストーンの事だとして、これは本来集めてはならないものであること。そして全部で9つあること。そして、地球のその神にまつわる何かであることが分かります。友人曰く、神の心臓らしいのですが」
「神の心臓、ですか」
「あくまで、らしいですがね」
ユーノは肩をすくめる。
クロノはため息をつく。
「まとめると、ハートストーンは謎の神の心臓だから集めてはならない、ということか?」
「ま、そうなるね」
カリムは考え込むそぶりをする。
「わかりました、では2行目の解釈はどうなっていますか」
「そうですね、キーワードは解放者、皇帝、女神です。解放者というのは虚空教団に伝わる英雄の事です。彼は未来に現れる英雄で人の時代最後の英雄で、神代の時代を復活させる存在であると言われています」
「解放者が、既に存在していると?」
「恐らく」
カリムとクロノが目を見開く。
「続いて皇帝という言葉。解放者にして皇帝という表現から、彼はブリリアント皇帝の末裔である可能性が高いでしょう。過去の次元世界で皇帝を名乗ったのは数あれど、虚空教団の関りという点では、ブリリアント皇帝である可能性が高い」
クロノは顎に手を添える。
「続いて女神、これは恐らく虚空教団で信仰されている神々のうちのどれか、だと思われます。火の神クトゥグァ、水の神クトゥピェ、風の神クトゥシャ、土の神クトゥジィ、雷の神クトゥドェ、氷の神クトゥクヒと、それを生み出したアタラ=ゾー、秩序六神から生み出され解放者によって解放される次世代の神アフーム=ザー。これのどれかでしょう。聖典では神々の性別は明らかにされていないけど」
カリムは驚きのあまり舌を巻く。
「これを踏まえて2行目を解釈すると、ハートストーン収集は解放者にして皇帝なるものによって邪魔される。そして彼は女神と行動を共にしているらしい。こうなりますね。聖王教会の予言なのに虚空教団の話ばかりだ」
「全くです。我々では解読できないはずです」
カリムがため息をつく。
「では3行目はどうなっている?」
クロノが尋ねる。
「これに関しては字面通りに解釈するしかない! あと4行目も! 空腹の神と解放者にして皇帝なる者一度死して再び蘇る、そして世界の中心で互いに殺し合うであろう、ってね」
「世界の中心ってどこでしょう?」
カリムが尋ねる。
「さあ? 虚空教団的にはヘキサグラムだけど、これと言い切れる自信は無いよ」
「無いのかい」
「無い! 何で一度死んでから蘇るのかも、互いに殺し合うのかも分かんにゃい! これが僕の限界! 分かったかコノヤロー!」
「「何で最後投げやり……?」」
高笑いするユーノに困惑するクロノとカリムであった。
どうやらきな臭くなってきました。
謎の像は一体何を現しているのか?
レイくんは管理局との対立を想定しているようですが、一体なぜなのか?
6年毎の死の運命とは一体何なのか?
謎多き預言の解釈はこれで合っているのか?
全てはいずれ明かされます。
待て次回!