魔法神話 レイ&アフーム ~もしもリリなの世界にハジケた奴らと邪神が絡んできたら~ 作:ショーン=フレッチャー
涙の数だけ強くなれるよ、アスファルトに咲く花のように♪
アースラのブリーフィングルームに全員集合している。
これから始まるのは9個目のハートストーン発掘についての会議だ。
「9個目のハートストーンは地球にあります」
エイミィの声にどよめきが起きる。
「9個目だけ文献が無かったんだけど、ハートストーンの放つ魔力波を解析して得られたデータを次元世界各地に照らし合わせてみたところ、地球からハートストーンの波動が検知されたんだ」
「レイはハートストーンを知っているような素振りをしていた。恐らく地球にあるハートストーンを見たことがあるのだろう」
クロノが顎に手を当て考えるように言う。
「それで、ハートストーンは地球のどこに?」
はやてが問いかける。
「アメリカ合衆国、カリフォルニア州、サンティアゴ、サンボーン太平洋古代遺物研究所。ここから反応があったの」
「名前から察するに考古学の研究所みたいだね」
ユーノが言うと、皆が頷く。
「ということは、ハートストーンは既に発掘されて、研究所の中ってこと?」
アリサがエイミィに問いかける。
「いや、それはまだわかんないかな。まだ上からしか情報を取っていないから。いろんな方向から情報が取れればどこにあるのか判るよ」
「とにかく、今回は発掘ではなく、交渉して譲ってもらうことになる可能性がある」
ここで、クロノは黙り込んでしまう。
「クロノ?」
ユーノがクロノの顔を覗き込む。
「あ、ああ、大丈夫だ。交渉するためには、IMSの協力がいる。レイに連絡して、交渉を要請してもらおう」
レイの名前が出た途端、一瞬で空気が重くなる。
未だ晴れない盗聴盗撮と封印の容疑が原因だ。
「レイくんとアフームちゃん、もうずっと学校に来ていないし、何してるんだろう」
すずかが呟く。
未だレイとアフームの所在は不明だった。
「とにかく、連絡を取ってみましょう」
リンディに促され、クロノはレイをコールする。
数度のダイヤルコールの後、レイがモニターに現れる。
「おや、お久振りで。そちらはお変わりないようで」
「久しぶりだな、お前は、少し痩せたか?」
「連日激務なもので、でもまあ、今の仕事が終われば元の生活に戻れるでしょう」
「そうか、今日連絡したのは、ハートストーンの件についてだ」
ハートストーンの名前が出た途端、レイの顔色が変わる。
「……何でしょ」
「地球にハートストーンがあることが分かった。その場所にどうやら所蔵されているか、舌に埋まっているかは分からないが、あることが分かった。譲渡、あるいは発掘の交渉がしたい。連絡をつないでもらえるか?」
レイは黙ったまま、クロノを見据えている。
「レイ?」
「……申し訳ありまへん。考え事をしてました。ようござんしょ、交渉はこちらで引き受けましょ」
「そうか、わざわざすまないな」
「その代わりこちらからも条件があります」
「何だ?」
「現在管理局が所有しているハートストーンを全て違うところに保管したうえで、アースラ内にハートストーンが1つもない状態で来ていただきたい。それが条件です」
クロノはその言葉に固まる。
「それを、しろというのか」
「出来ることなら、すべて異なる次元世界に保管していただきたいものですが」
「……一応上と掛け合ってみる。少し待ってくれ」
「いい返事を期待しています」
「それじゃあ、また連絡する」
「お待ちしています」
コールが切れる。
クロノは勢いよく机を叩く。
その音に皆が怯む。
「無理難題言いやがって!」
クロノの怒号が響く。
その剣幕に誰も何も言えないのだった。
「第3回九頭龍異変対策会議~」
「もうやけくそね」
「コスプレする余裕もないんですね」
咲夜と妖夢はすっかりハイになったレイを見て呟く。
「その様子では、戦うことになりそうなんですね」
「交渉はやはり決裂ですか」
早苗は緊張した面持ちで、文は予想通りといった顔で言う。
「ええ、十中八九戦うことになるでしょう。ハートストーン引き渡しの条件を言ったら渋い顔されました。上司に掛け合うと言ってましたが、まあ通ることはないでしょう」
「決まりだな」
魔理沙の言葉にレイは頷く。
「ええ、作戦は実行します。これから紫はんと隠岐奈はんのところに行って作戦実行の打ち合わせをしますんで」
「すでに現地には話を通してあるんでしょ。随分と用意のいいことね」
霊夢がレイを皮肉る。
「予測はしてましたから」
「そこまで予測出来て戦いは回避出来ないのな」
「相手の思考を読むとこういう結論に至るんです。それにこちらとしても譲れない部分があるので。となるともう最後の手段に出るでしょうな、向こうさんは」
魔理沙の指摘をレイはさらりと流す。
「随分と気が短いんですね、管理局という組織は」
「早苗はんの言う通りです。相手はガキ大将みたいなもんですから。圧倒的な武力を背景に数多の次元世界を管理する、この所業をガキ大将と言わずしてなんと表現したらええんでっしゃろ」
「言い得て妙ですね」
文の一言に一同頷く。
「ガキ大将に絡まれる方は堪ったもんじゃないわ。そう言う奴に限って奪うだけで与えることをしないのよね」
鈴仙が肩をすくめる。
「そうなんですよ、時空管理局という組織はまさにその通りなんです。世界からいろいろなものを奪っていくくせに、その恩恵はほとんどない。そのことをほとんどの人が気付いていないんです」
「愚民政策ここに極まれり、ですね」
文がやれやれといった表情で言う。
「彼らとしては管理局の傘に入ることで安全保障を約束されたとでも思っているんでしょうな。実際はそんなことないのに」
「まるで詐欺ね、見ていられないわ」
咲夜がため息をつく。
「という訳なんで、この戦いは負けられない戦いなんです。今回の異変を抑えるという意味でも、これからの管理局との対応という意味でも」
「政治のことはよくわからんが、ここで私達が負けたら幻想郷も危ないという認識でいいんだな?」
「魔理沙はんの言う通りです。我々はここで負けるわけにはいかへん。これは戦争です。地球と管理局の戦争です」
「勝手に巻き込んで欲しくないのですが」
「妖夢はん、出来ることなら戦争は回避したい。せやけど、状況がそれを許してくれんのです。それに、ここで負けたら、我々は自治の権利を失うかもしれんのです。そうなったら、幻想郷存続の危機かもしれんのです」
「それはさすがに言い過ぎでは」
それでも早苗は不安そうな表情を隠せない。
「地球に魔法が知れ渡ることで、幻想と現実の境界が破られる可能性があるんです。博麗大結界だけで幻想郷を守り切れるかと言われると、微妙なところがあります。そうなると、待っているのは幻想郷の崩壊かもしれんのです」
レイの言葉に全員黙り込む。
「ようはここで勝てば、そうはならないってことでしょ」
「霊夢はんの言う通りです。勝てばいいんです。そのための対策はしてきました。そうでしょう?」
全員が頷く。
「皆さん、勝ちましょう。幻想郷を守るために」
レイの帽子が開き、中から酒と杯が現れる。
「景気づけに一杯、いきましょう」
レイは杯を配り、酒を注いでいく。
レイ自身も杯を持つ。
「それでは、戦勝を祈りまして、乾杯!」
「「「「「「乾杯!」」」」」」
全員杯を煽る。
レイは盃を乾かすと遠くを見るような眼をするのであった。
アースラのブリーフィングルームになのは達を含めた全員が集合している。
中央に座るリンディの顔は渋い。
「上に連絡したところ、条件は飲めない、如何なる手段を以てしてもハートストーンを確保せよ、と通達が来ました」
「それは……」
クロノが絶句する。
部屋はどよめきに包まれる。
「つまり、管理局は無理矢理でもハートストーンを取って来いってこと!?」
アリサが声を上げる。
「そんな、そんなことしたらいけないのに」
すずかが泣きそうな声で言う。
「これが、これが管理局のやり方なんか!?」
はやてが大声を上げる。
「こんなやり方、到底許されるもんやないで」
あすかもこの通達には立腹しているようである。
「どうして、こんなことが平気で言えるの」
フェイトも泣きそうな声だ。
「有り得ない。管理局は地球を何だと思ってるの!」
アリシアの声にはすでに怒気が含まれている。
「こんなの、レイくんには言えないよ」
なのはが沈んだ声で言う。
「……それでも僕たちは管理局員だ。上からの命令には絶対だ」
クロノが感情を押し殺しきれない声で何とか言う。
「こんな理不尽な命令でもなんか!」
「それが組織というものだ! そう言うシステムに僕たちは組み込まれているんだよ!」
はやてが上げた大声に、クロノも大声で返す。
「僕だってこんな仕事したくはない! でも命令なんだ! 管理局より強い組織が無い以上、管理局の命令は絶対なんだ! 上は管理外世界だからと甘く見ている。問題があっても、威圧的交渉でうやむやにするつもりでいる。こういう組織なんだよ、時空管理局ってのは」
クロノは机に頭を突っ伏す。
「この作戦に君達は参加させない。こんな恥ずかしい作戦に参加して君達の経歴に傷をつけなくていい。これは管理局と地球の外交問題に発展しかねない作戦だ。君達を巻き込みたくない」
ブリーフィングルームが静寂に包まれる。
「そのことですが、クロノ、上層部から追加の命令があります」
リンディが苦虫をかみつぶしたような顔で言う。
「何です、艦長」
「……嘱託として参加している魔導士も全員作戦に参加させるように、という命令です」
「上は何を考えているんだ! これ以上問題をややこしくする気か!」
クロノが激高する。
「上層部はみんなを管理局側に取り込みたいようね」
「だからと言ってこんなやり方! 政治の道具にするなんて!」
「それが組織に属するということです。レイくんもきっとそうなのでしょう」
「アイツが、政治に利用されている? むしろアイツは、政治を利用するタイプだ。だからなのか、だからアイツはこんな真似をしているのか?」
「レイくんの意図は分かりません。ですが私たちは命令を、作戦を遂行しなければなりません」
リンディは目を閉じる。
「レイくんに連絡を」
「……わかりました」
クロノはレイにコールする。
数度ベルが鳴り、レイが出る。
「はいはい、こちらIMS外交部」
「……クロノだ」
「おや、執務官殿。何用で」
「……上に掛け合って見たところ、そちらからの要求はすべて拒否された」
「あらら、まあそうなりますわなあ」
レイは飄々とした態度を崩さない。
「分かっていたのか。分かった上であんなことを言ったのか!」
「そら、まあ、一縷の望みは賭けとりましたが」
「……君はそういう人間じゃない。粗方予想はしていたんだろう」
「ええ、まあ、こう来るだろうなと言うのは予想しとりました」
「管理局としてはハートストーンを確保するために動く」
「そうでしょうな。ではこちらも守るために色々しますえ」
両者の間に沈黙が流れる。
「クロノ、代わってくれますか」
「艦長」
クロノはリンディに通信を代わる。
「レイくん、どうしてもハートストーンを引き渡す事は出来ませんか。このままでは」
「提督殿、それはそちらが要求を断った時点で話はついているんですよ」
「……こちら側にはなのはさん、アリサさん、すずかさん、フェイトさん、アリシアさん、はやてさん、あすかさんがいます」
「そちらの上は人質を取ったつもりですかな。随分な真似を」
「レイくん! これ以上私達を苦しめるのはやめて! 私達は貴方達と戦いたくはないの! 平和的な解決をしましょう! まだ、まだそれが出来るはずです!」
レイは目を閉じ、そっと一息つく。
「奇遇ですな。僕も同じことを考えとったんです。出来ることなら平和的な解決が望ましい。せやから、出した条件を呑むよう上に掛け合って下さい」
「……それは出来ないわ」
「話になりませんな。俺が泣き落とせるとでも?」
「なんで、なんでこうなるの。私はただ、職務を全うしているだけなのに」
「僕も職務を全うしていますよ。お互いの組織の目的がすれ違っとるからこうなっとるんです」
「……戦いは避けられませんか」
「最早是非なし」
レイの言葉に一同凍り付く。
その言葉はどうしようもなく冷たく、重いものだった。
「……事前に通達はします。それまでに回答を用意して下さい」
「ご親切にどうも。我々の答えは変わりませんよ」
「……これで失礼します」
「失礼します」
モニターが閉じる。
ブリーフィングルームの空気は最悪になっていた。
なのは達はなぜこうなったのか理解できず、おろおろするばかりである。
ユーノは黙って目を閉じている。
クロノは爪が食い込まんとばかりに手を強く握る。
ヴィクトリアは心配そうにそれらを眺めているのだった。
新元号が発表されましたね。
それはそうと、作中では何やら不穏な雰囲気になっています。
レイくんが危惧していた事態になってしまったようです。
果たして管理局はどのような手段に出るのか?
地球と管理局との関係はどうなってしまうのか?
レイは一体何をしてくるのか?
待て次回!
感想、お返事待ってます。