魔法神話 レイ&アフーム ~もしもリリなの世界にハジケた奴らと邪神が絡んできたら~   作:ショーン=フレッチャー

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 前回のあらすじ
 レイ、とうとう窃盗にまで手を染めるも、未遂で終わる。


第12話 夢で逢いましょう

「ブレイズキャノン!」

 

 クロノの砲撃がアフームに迫る。

 しかし、アフームはそれを片手で防いでしまう。

 

「そこっ!」

 

 ヴィクトリアの射撃魔法が放たれる。

 しかし、アフームはそれを意に介する様子はない。

 

「つまらん、攻撃に気合と愛が足りぬ。それでは気持ちよくはないではないか」

「お前は何を求めているんだ!」

 

 クロノが大声を上げる。

 アフームは口角を妖艶に吊り上げる。

 

「当然、快感じゃよ」

「くそっ! だから相手にしたくないんだ!」

 

 クロノ達はアフームに対して攻めあぐねていた。

 いくら攻撃しても効いている様子が無い。

 魔力より先に気力が尽きるような相手だ。

 それに、ここにレイがいないということが彼らを焦らせる。

 この戦いにおける司令塔であるはずのレイが今どこで何をしているのか、さらなる悪巧みを企んでいるのか、それが彼らの焦燥感を煽る。

 

「もうへばったのか、妾は一度も攻撃してはおらんぞ。これでは戦いにならぬではないか」

「何なのあの子!? 本当に人間なの!?」

 

 ヴィクトリアがヒステッリックな叫び声を上げる。

 

「多分、人間、だと思う」

「そこははっきり言いきって!」

 

 ユーノが曖昧に答えるも、ヴィクトリアがツッコむ。

 

「三人がかりでこの様か! Sランクオーバーなのか、アフーム、君は!」

 

 クロノが叫ぶ。

 

「さあな、管理局の指標で妾達は測れぬよ。そもそもそのような指標など無意味じゃ。妾達は常に思うが儘、何時だって自然体じゃ」

 

 アフームがスペルカードを構える。

 

「故に、妾達は自由じゃ。其方達とは違う。組織に支配されるのではなく、組織を利用する。妾達はIMSに使われておるのではない。IMSを利用しているのじゃ。自由『フリーダム斎藤の奥の細道行脚道』!」

 

 アフームの背後から無数の弾幕が降り注ぐ。

 

「防御するな! 出来るだけ回避するんだ!」

 

 クロノが声を上げるも、慣れぬ弾幕にヴィクトリアは苦戦する。

 既に何発か被弾してしまう。

 その様子をアフームは冷たい目で見る。

 

「全てはレイの策通り。妾達の勝利は時間の問題じゃな。あきらめて退くがよい。妾達は忙しいのでな、これ以上其方たちに付き合ってはいられぬ」

「こっちだって、任務を放棄して帰るわけにはいかない!」

「どこまでも組織の犬に徹するか! クロノ・ハラオウン! これは愉快! 貴様がそのような犬畜生とは知らなかったぞ!」

「僕もまさか、君達がそんな悪党だと知らなかったさ!」

 

 クロノが接近戦を仕掛ける。

 しかし、振り上げた右拳はアフームの左手に容易く受け止められる。

 そのままクロノの右腕はひねり上げられる。

 

「ぐああああああ!」

「他愛もない」

 

 そのままアフームの膝がクロノの鳩尾に打ち込まれる。

 クロノは膝を地面につける。

 

「クロノ!」

「クロノ執務官!」

 

 ユーノとヴィクトリアがアフームに近づく。

 その前に、アフームのエネルギー体がクロノを吹き飛ばす。

 ユーノとヴィクトリアは飛んできたクロノを何とか受け止める。

 

「力の差は歴然、それでもなお足掻くか」

「悪いけど、私達に諦めるという選択肢はないの」

「ここまで詰んでいてもか? 理解できぬ。逃げればよかろう、どうせ上司に叱られるのは目に見えてるのじゃ。余計な被害を出さぬうちに退くのが賢明な行動だと思うのじゃが」

「アフーム、君に正論を言われるなんてね」

「これでも妾は普段は真面目な女子小学生じゃぞ?」

「真面目な女子小学生は下着と称して縄を巻いたりしないよ」

「あれはおしゃれじゃ」

「ねえ、なんか話がずれてない?」

 

 ユーノとアフームの話をヴィクトリアが軌道修正する。

 

「とにかく、私達に諦める事は出来ないの。目の前にハートストーンがありながらおめおめと逃げかえることなんて出来ないわ。それに、もうすぐ私達の手に入るのよ」

「何を言っておる。この厳重な封印の前にはいかに強力な砲撃であろうと通さぬ。とうとう頭がおかしくなったか」

「いいえ、最後に勝利するのは私達よ」

「? さっぱりわからぬ。その自信がどこから湧いて出てくるのか」

 

 アフームは首をかしげる。

 そしてモニターを見つめる。

 モニターの一つにはハートストーンが封印されている部屋の映像が映っている。

 

「見るがいい、この通り厳重な封印の前では誰も手出しが出来ぬ。この通りな」

 

 確かに、ハートストーンがある部屋の様子が変化することはない。

 部屋の床から何かが突き出るまでは。

 

「へ?」

 

 ハートストーンがある部屋の床から何かが突き出る。

 それが引っ込むと、海水が溢れ出る。

 ハートストーンを安置した台の周囲を切り取るように穴が開けられていく。

 

「何じゃ何じゃ、一体どうなっておるのじゃ」

 

 ヴィクトリアが笑い声を漏らす。

 

「言ったでしょう。最後に勝利するのは私達って」

 

 その瞬間、磯の香りが部屋に漂う。

 

「まさか、貴様!」

 

 アフームは叫ぶ。

 ヴィクトリアは口角を吊り上げる。

 

「ここに神の心臓は揃った。後は目覚めるのを待つのみ」

「な、何を言っているんだ? マーシュ2等空尉」

 

 クロノが上体を起こす。

 

「最早正体を隠しておく意味もないわ」

 

 そう言うと、ヴィクトリアの容貌が変化する。

 体に青く鱗が現れ、蛙のような顔つきになる。

 

「貴様! 深きものども(Deep one’s)か!」

「え、何? どういうこと?」

 

 ユーノは混乱のあまりおろおろする。

 

「すでに神の心臓は我が手の内にある、そしてたった今最後の欠片が手に入った! 後は神の復活を待つのみ!」

「これは、非常事態じゃ!」

 

 アフームは手元のスイッチを押す。

 

「貴様は逃がさん! 何としてもここで捕らえておく!」

「出来るかしらね!」

 

 モニターの中のハートストーンが下へと吸い込まれていく。

 それと同時にヴィクトリアが脱兎のごとく逃げ出す。

 アフームがそれを追いかける。

 残されたユーノとクロノは事態が掴めず混乱したままであった。

 

 

 

 

 

 警報音が鳴り響く。

 門前の誰もが戦いを止める。

 

「何かが起こっている」

「非常事態か、何やろなあ」

 

 デビッドと櫻子が攻撃の手を止め、研究所の方を向く。

 

「な、何事だ!」

「何が起こってやがる!」

 

 シグナムとヴィータが大声を上げる。

 一見すると研究所に変化は見られない。

 しかし、警報音は鳴り響いたままだった。

 

 

 

 

 

「ぎゃああああああ!」

 

 ゆっくり妖夢が叫び声を上げる。

 それを聞いた妖夢は刀を鞘に納める。

 

「どうやらここまでのようです。あなたとはもっといい形で勝負がしたかった」

「何やと!」

 

 そう言うと空間が変化していく。

 日本庭園が消え、元の研究所が露わになっていく。

 

「な!」

「恐らく二度と会うことなないでしょう。互いに精進しましょう」

 

 

 

 

 

 ゆっくり咲夜の叫び声が赤い部屋の内部に響く。

 それと同時に、咲夜は構えをとく。

 

「これで終わりなのね」

「な、どういうことや!」

「外で何か異常が起きたようね。まあ私には関係のないことだとは思うけど」

 

 散らばっていたナイフが一瞬で消える。

 

「あなたは無事に返すわ。安心しなさい」

 

 赤い空間が研究所に塗り替わっていく。

 

「元気でね、もう少し機動力をつけておくのよ」

 

 

 

 

 

 ゆっくり鈴仙の叫び声が竹林に響き渡る。

 それを聞いたレ鈴仙はルナティックガンを下げる。

 

「タイムオーバー、って所かしら。救われたわね」

 

 すずかはふらふらになりながら鈴仙を見据える。

 

「これ以上何もしないわよ。あなたは元の場所に帰してあげる」

 

 空間が竹林から研究所に書き換わっていく。

 

「それにしても何があったのかしら、まあ、もう関係ないか」

 

 

 

 

 

 ゆっくり早苗の叫び声がする。

 早苗は叫び声と同時に弾幕を全て消すと、地上に降りる。

 ボロボロのアリサも地上に降りる。

 

「タイムアップですか。まあこれ以上はいじめになっちゃいますし」

 

 アリサは肩で息をしながら早苗を見据える。

 

「随分耐えたようですが、弾幕ごっこではとっくに負けですからね、そこのところ忘れないで下さいよ」

 

 空間が神社から研究所に変化していく。

 

「それでは、また会うときがあればうちにお賽銭でも入れていってくださいね」

 

 

 

 

 

 ゆっくり文が叫びながら飛んでくる。

 

「あやや、もうお終いですか。もう少し楽しみたかったのですが」

「あんだけ散々撮影しておいて、まだ撮る気なの!?」

 

 アリシアは荒い息で文を見る。

 

「他の人も撮影したかったのですが、仕方ありません。そういう契約ですからね。契約は順守しなければ信用問題に関わります」

「さっきから何の話!?」

「こちらの話ですよ。あなたには関係のないことです」

 

 空間が書き換わっていく。

 

「機会があればまた取材させてもらいますね、もちろんお友達も一緒に」

 

 

 

 

 

 ゆっくり魔理沙が叫びながら飛び回る。

 

「外で何かあったか、どうやらここでお終いみたいだな」

 

 ボロボロになりながらフェイトはバルディッシュを構える。

 

「おいおい、これ以上やる気はないぜ。元の場所に帰してやるから安心しろ」

「何で、急に」

「それは私も知らん。だが、ここまでにするという契約なんだ。お前の友達が外で呼んでるはずさ」

 

 森から研究所へと空間が変化していく。

 

「お前との勝負は、そうだな、そんなに楽しくはなかったな。私を楽しませたけりゃ、もっと美しい弾幕とそれを避けられる実力をつけてくるんだな」

 

 

 

 

 

 ゆっくり霊夢の叫び声が響く。

 それを聞いた霊夢はぴたりと動きを止め、神社へと戻っていく。

 

「はい、やめやめ、ここまででお終い」

「な、ん、で?」

「そういうことになってるからよ。そういう契約になってるから」

 

 なのはは声を出すことも出来ない。

 

「あんた、無駄にしぶといのね。人生諦めも肝心よ。あんたみたいな生き方疲れそうだわ」

「わ、私は」

「まだやる気? 正直面倒臭いわよあんた」

 

 空間が神社から研究所へと変化していく。

 

「まあ、もう会うことはないから安心して帰りなさい。これ以上首突っ込むと、危ない目に合うから、早めに帰るのよ」

 

 空間が変化していくと同時に霊夢の姿も消えていく。

 やがて、なのはは研究所の元居た場所に立っていた。

 周りにはフェイト、アリシア、アリサ、すずか、はやて、あすかがいる。

 いずれもボロボロで、肩で息をしている。

 誰も声を発することはない。

 だが一目でわかった、みんな自分と同じ目に合っていたのだ、と。

 そこへ激しい足音がする。

 ヴィクトリアが猛然と走ってくる。

 

「ヴィクトリアさん!?」

 

 すずかが叫ぶ。

 その後ろから銭形警部のコスプレをしたアフームが追いかける。

 

「待て~! 逮捕だ~!」

 

 無理矢理作ったような濁声でアフームはヴィクトリアを追いかける。

 

「何が、起きてるの?」

 

 アリサが呟く。

 やがてアフームが来た方向からからクロノとユーノが現れる。

 

「みんな! 無事だったんだね!」

「これのどこが無事なのよ」

「生きているじゃないか。十分無事だよ」

「それよりユーノ、一体何があったの?」

 

 アリシアが問いかける。

 

「分からない、突然ヴィクトリアさんが変化したと思ったら、ハートストーンが消えるし、ヴィクトリアさんは逃げるし、アフームは何かに気付いて追いかけるし、こっちも何が何だか」

「本当にどうなってるの?」

 

 フェイトが心配そうに呟く。

 

「とにかく外に出よう。これ以上ここに居てもしょうがない。それに、マーシュ2等空尉の行動は異常だ。艦長に報告しなければ」

 

 

 

 

 

 ヴィクトリアの逃走とアフームの追跡は続いていた。

 ヴィクトリアはエントランスから外に出る。

 そして、裏手の海へと走っていく。

 アフームもそれを追いかける。

 裏手の海には監視要員として2人若い衆がいる。

 

「おい! お主ら! そ奴を通すな!」

 

 アフームが若い衆に呼びかける。

 

「「はっ!」」

 

 若い衆2人は棒を構え、ヴィクトリアを待ち受ける。

 しかし、ヴィクトリアは2人の直前で高く跳躍し、2人を飛び越える。

 

「っ! いかん!」

 

 アフームは魔力弾を数発ヴィクトリアに向かって放つ。

 しかし、魔力弾はヴィクトリアに当たることはなく、ヴィクトリアは海へとダイブしていく。

 

「くっ! 投網『恋のキャプチャーネット』!」

 

 アフームは投網状の魔力網をヴィクトリアに向かって投げる。

 それと同時に天から白い光がヴィクトリアに向かって降り注ぐ。

 ヴィクトリアが海へと潜る。

 海面には投網と光によってできた水飛沫が舞う。

 飛沫が収まると、アフームは投網を引き上げる。

 

「かからぬ、か」

 

 アフームは天を見上げる。

 そこには柱時計、時空往還機が浮いていた。

 時空往還機がアフームの隣に着陸し、中からレイが出てくる。

 

「レイ、心臓の欠片が奪われてしもうた」

「こっちも、アースラの中に欠片は一つも無い!」

「まさか、全て奴が」

「……その可能性が高いな」

 

 そこへ、デビッド、櫻子、守護騎士達、クロノ達がやってくる。

 

「レイ、心臓は」

「……全て奪われたものかと」

 

 デビッドの問いにレイは肩を震わせる。

 

「マーシュ2等空尉は?」

「海へと逃げていった。今の妾達では追えぬ」

 

 クロノの問いにアフームが悔しそうに答える。

 

「くそうっ! 何て様や! みすみす奪われるとは!」

 

 レイが膝をつき、地面に拳を叩きつける。

 

「一体、何が起きているの? この状況は何? ヴィクトリアさんは何処へ行ったの?」

 

 なのはが問いかける。

 

「正直僕も状況が掴めない。彼女は何故ここから逃げたんだ? ハートストーンを奪ったのは何者だ? 彼女と繋がりがあるのか? レイ、お前は何を知っているんだ?」

 

 クロノがレイに問いかける。

 その時だった。

 天からもう1台時空往還機が降りてくる。

 

「「「「「「!? 何あれ!?」」」」」」

 

 管理局の面々は初めて見る時空往還機に驚愕する。

 時空往還機はレイ達の前に着陸すると、扉を開ける。

 

「どうやら間に合わなかったようだね」

 

 2人の紳士が中から出てくる。

 

「ミスター・クロウ! ミスター・ド・マリニー! 遅いお着きで!」

「やあ、ミスター・金剛=ダイヤモンド。遅れて申し訳ない!」

 

 タイタス・クロウとアンリ・ローラン・ド・マリニーがそこにいた。




 という訳で、ブライアン・ラムレイの『タイタス・クロウ・サーガ』から主人公のタイタス・クロウとアンリ・ローラン・ド・マリニーの登場です。
 詳しく知りたい人は創元推理文庫を今すぐチェックだ!
 短編集の『タイタス・クロウの事件簿』も併せて読むんだぞ!
 とまあ、ダイマはここまでにして、突如豹変したヴィクトリア、果たして彼女の正体と目的とは?
 ハートストーンを奪ったものの正体とは?
 管理局とIMSの戦いの行方は?
 クロウとド・マリニーは何故現れたのか?
 待て次回!

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