魔法神話 レイ&アフーム ~もしもリリなの世界にハジケた奴らと邪神が絡んできたら~   作:ショーン=フレッチャー

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 前回のあらすじ
 嗚呼ヴィクトリアよ、君は何処へ行く。


第13話 神々の住まう場所

「……以上が今作戦の顛末、並びにマーシュ2等空尉の異常行動です」

 

 クロノはモニター越しにリンディに報告していた。

 その後ろではレイが現実逃避していた。

 

「平日の昼間から~ゴロゴロ~ゴロゴロ~、あ~あ、ジョージ・ルーカスが俺を主演にせえへんかな~」

「レイよ! 現実逃避している場合ではないのじゃ!」

「大丈夫だ! まだ時間はある!」

「まだ巻き返せるから、いい加減戻ってきんさい!」

 

 金剛=ダイヤモンド家がコントを繰り広げている中、リンディは静かに口を開く。

 

「わかりました、それでアフームさん。あなたはマーシュ2等空尉の行動に心当たりがあるそうですね」

「妾だけではない、レイも解っておる。故にレイはこうなっておるのじゃ」

「それを説明してもらえませんか?」

 

 アフームはデビッドと櫻子の方を見る。

 2人は頷くと、口を開く。

 

「この状況で争っている場合ではありません。一刻も早く彼女を見つけ出さなければ非常に危険なことになります」

「よってここに休戦を申し出たいのですがよろしいでっしゃろ?」

 

 リンディは頷く。

 

「わかりました、休戦を受け入れます。つきましては事態を把握するためにアースラまで来ていただけないでしょうか」

「わかりました、事態は急を要します。一刻も早い解決のために協力しましょう」

「クロウはん、ド・マリニーはん、悪いんやけど着いてきてもらえんやろか」

「もちろん向かわせてもらうよ」

「伝えなきゃいけないことがたくさんあるからね」

 

 そして転送が開始されるのだった。

 

 

 

 

 

 アースラのブリーフィングルームへと全員は移動した。

 

「さて、一度情報を整理しましょう。その前にレイくんを元に戻してもらえるかしら」

「我はゼロ、全てを壊し、全てを作るもの也……」

「「「「「「中二病を発症してるーーー!」」」」」」

「くっ、すまない、打てる手はすべて打ったんだが」

「息子のバグがひどいことになってもうた」

 

 デビットと櫻子が崩れ落ちる。

 

「いや、まだ最後の手段があるのじゃ!」

 

 アフームがレイに相対する。

 

「酒と泪と!」

 

 アフームがレイを思いきりぶん殴る

 

「男と女ァ!」

「「「「「「殴ったーーー!?」」」」」」

「心の闇に呑まれておったぞ。以後気を付けるのじゃな」

「ありがとうございます、マスター・アフーム」

「あの、そろそろ話を進めてもいいかしら」

 

 リンディの一声で話が始まろうとする。

 

「まずは地球側に謝罪させていただきます。命令とはいえこのような事態を引き起こしてしまい申し訳ありませんでした」

「全くや。とはいえ俺の対応もまずかった。こちらも謝罪させてもらいます」

「……これで手打ちということでいいでしょうか」

「お互い恥は晒したくありまへんからなあ」

「艦長……」

 

 クロノが不満そうな眼をリンディに向ける。

 

「これ以上追求すれば、上層部の不満を買いかねないわ。クロノ、私達は組織の人間なの。レイくんを追求すれば私達だけじゃない、上層部まで追求しなければならなくなるわ」

「こんな言葉がある。国家ぐるみの犯罪は犯罪ではない、と」

 

 リンディとレイの言葉に何も言えなくなるクロノ。

 その拳は掌を突き破らんばかりであった。

 

「それよりもマーシュ二等空尉の件です。先程確認しましたが、ハートストーンが全て無くなっていました。彼女がハートストーンを持ち逃げしたと思われます。そちらの方が問題です」

「レイ、教えてくれないか。彼女は一体どうしてしまったんだ。君達が恐れている物は一体何なんだ」

 

 クロノがレイに問いかける。

 レイは両親とクロウ、ド・マリニーのほうをちらりとみると、静かに話し始めた。

 

「恐らく、あの女は深きものども(Deep one’s)という種族との混血。そして深きものども(Deep one’s)は太古の邪神Cthulhuの奉仕種族。あなた達の言うハートストーンとはそのCthulhuの心臓と言われている。あの女の目的はCthulhuの完全復活にあると思われます」

「く、くとぅるー?」

「Cthulhu、もっともこれも正しい発音ではないんですがね。我々が復活を恐れているのはこれなのです。そしてCthulhuはもう間もなく復活するんです」

 

 どよめきが起きる。

 

「まさか、そんな話が」

「事実です。実はCthulhuは以前にも短時間ですが復活しているんです。その時は世界中の芸術家がCthulhuのヴィジョンを見たり、精神が不安定なものによる事件が多発したんです。もしCthulhuが復活したら? 想像するだに恐ろしいことになるでしょう。短時間でも精神が狂うことがあるのやから」

 

 誰もがその言葉にぞっとした。

 

「そのCthulhuを信仰する集団というものが存在します。アメリカは東海岸、マサチューセッツ州のひなびた港町インスマス、ここにかつてあったダゴン秘密教団もその一つです。ダゴンというのはCthulhuに仕える深きものども(Deep one’s)の親玉です。インスマスの名士オーベット・マーシュはこの深きものども(Deep one’s)と交わることで多大な利益を得る代わりに、邪教を町に広めたんです。結果、町の人々は深きものども(Deep one’s)と同化していったんです。肉体も精神もね」

 

 再び誰もが背筋を凍り付かせる。

 

「それは、事実なのか」

 

 クロノが絞り出すように声を出す。

 

「事実や、全て公的な記録が残っとる。何しろ、全て20世紀に起きたことやからな」

「そんな……」

 

 どこからともなく声が上がる。

 

「これは神話であっても伝説ではない。厳然とした事実や」

 

 レイの声が鋭く全員に刺さる。

 

「あまり皆を怖がらせるものじゃないぞ」

 

 クロウが声を上げる。

 

「まだ希望は残っているんだ。僕たちはそれを伝えに来たんだ」

「あの、あなたたちは……」

 

 クロノの問いかけにクロウとド・マリニーは反応する。

 

「自己紹介させてもらおう、タイタス・クロウだ」

「アンリ・ローラン・ド・マリニー、よろしくね」

「我々はCthulhu達邪神やその眷属と戦っているんだ」

「それで、Cthulhuと戦うことになるであろう君達に力と知恵を授けに来たんだ」

「僕があらかじめ呼んだんですよ。それで、クタニド師は何と?」

 

 レイがクロウとド・マリニーに質問する。

 

「それなんだけどね、詳しく説明するために一度君達をエリシアに招待することになったんだ」

「何やて! エリシアに!」

「あの、エリシアとは?」

 

 クロノが質問する。

「旧支配者や外なる神と呼ばれる邪神と敵対しておる旧神たちが治める世界や。ある種の理想郷のような世界やな。ほんまに?」

 

 レイがクロウに確認する。

 

「もちろんだ。百聞は一見に如かず。彼らには理解してもらわないとね」

「時空管理局のスタンスも気になる。僕たちの活動と対立しないかも気になるからね」

 

 クロウとド・マリニーが時空往還機の横にあるダイヤルに手をかける。

 

「さあ、招待しよう! 邪神と戦う全ての者の本拠地、エリシアへ!」

 

 

 

 

 

 時空往還機のドアをくぐるとそこは巨大な光輝く回廊だった。

 壁際には大小さまざまな大きさの時空往還機が所狭しと並んでいた。

 誰もがその光景に圧倒されている。

 

「この回廊の先でクタニドは待っている。みんな、感動していないで向かうよ」

 

 そう言うとクロウとド・マリニーは腰のベルトのスイッチを入れる。

 2人の背中にマントが展開される。

 

「それは?」

 

 ユーノが質問する。

 

「重力低減装置を利用した飛行マントさ。ここからクタニドのとこまでは少し遠いから飛んでいこうと思うんだけどいいかな? 君たちは飛べると聞いたんだけど」

 

 それを聞いて誰もが慌てて飛行魔法を展開する。

 クロウとド・マリニーを先頭にして回廊を飛んでいく。

 回廊は非常に長く、果てが無いように思えた。

 やがて、巨大な扉の前にたどり着く。

 どうやらクタニドの居所のようだ。

 

「クタニド! お客人を連れてきましたよ!」

 

 クロウが声を上げる。

 すると扉が開き、中から一人の美女が現れる。

 

「お帰りなさい、タイタス、ド・マリニー。義父がお待ちです」

「紹介しよう、妻のティアニアだ。クタニドの養子でもある」

 

 クロウによる簡単な挨拶を済ませ、部屋の中へと入っていく。

 そこには巨大な存在がいた。

 イカともタコともつかぬ頭部、類人猿のような胴体、コウモリのような翼、金色に輝く体と瞳。

 彼こそが旧神の一柱、エリシアの管理者クタニドである。

 誰もがその存在の異様さと威容さに圧倒されていた。

 神、と言われてイメージされる老人の姿を想像していたなのはたちはすっかり面食らっていた。

 機先を制したのはレイだった。

 

「お久しぶりです、クタニド師」

「おお、よく来てくれた。遠路はるばる感謝しよう。皆も楽にしてよろしい」

 

 慈愛に満ちたその声は全員の心を落ち着かせるには十分だった。

 

「状況は理解しておる。Cthulhuを復活させようと企む者が奴の心臓を全て奪っていったのだろう。そしてそのために力と知恵を借りに来たことも」

 

 誰もがはっとする。

 

「その通りです、クタニド師。我々ではCthulhuとその眷属に対抗できるだけの質も量も足りないのです」

 

 レイが言う。

 

「そんなことは……」

 

 クロノが言いかけたところでクタニドが喋りだす。

 

「クロノ・ハラオウン執務官。残念ながら君たちの魔法では弱い眷属ならどうにかできても、それ以上となると無理だ。アルカンシエルとかいう空間縮退砲を利用しても高位の存在に対抗する事は出来んよ」

 

 クロノが驚いた顔でクタニドを見る。

 

「驚いたかね、人の心を読むことなど我々にとっては朝飯前なのだよ。既に君たちの名前は把握しているよ」

 

 誰もが驚く。

 

「のう、クタニド。旧神の印のようなものはないのか? 連中の弱点となるものは」

 

 アフームがクタニドに問いかける。

 アフームの率直な物言いにどきりと不安が広がる。

 しかし、クタニドはそれを咎めることなく話を続ける。

 

「ないこともない、旧神の印を君たちの魔道術式に加えることが出来れば、多少は楽になるだろう。だが、あくまでよく効くだけだ。殺しきるにはそれ相応の威力がいる」

「旧神の印?」

 

 誰もが疑問に思う。

 

「旧神が旧支配者を封印するのに使用した印の事や。何故か連中には良く効く」

 

 レイが解説する。

 

「まるでファンタジーだ」

 

 クロノが呟く。

 

「未知の科学やで。これは」

 

 レイが言う。

 

「ふむ、君達には話しておこう、我々旧神と旧支配者との戦いの歴史を。そうすれば理解できるはずだ。何故奴等を復活させてはいけないのかを」

 

 クタニドが静かに語り始める。

 

「話は宇宙創成までさかのぼる。この宇宙を創造したのはアザトースという神だ。彼は勝手な宇宙創造による罰で知性と理性を奪われた。結果、この宇宙は混沌とした状態になってしまった。それを見かねた旧神達は秩序六神を送り込んだ」

「火の神クトゥグァ、水の神クトゥピェ、風の神クトゥシャ、土の神クトゥジィ、雷の神クトゥドェ、氷の神クトゥクヒですね」

 

 ユーノがすらすらと神々の名を答える。

 

「左様、秩序六神によってこの宇宙に秩序が生まれた。しかし混沌は存在し続けた。その結果、この世に数多の種族が生まれた。私もクトゥルーもその一つだ。強大な力を手に入れたがゆえに神をしているがね。秩序六神は数に勝る旧支配者に対抗すべく、神の因子をあらゆる世界にばらまいた。君たちの世界で変換資質と呼ばれているものはその名残なのだよ」

 

 驚きの声が上がる。

 

「そして今から4億年前。旧神と旧支配者の間で大戦争が起こった。結果は我ら旧神の勝ちではあったが、秩序六神が狂気に侵されてしまった上に旧支配者を殺しきることが出来なかった。我々は彼らを封印することまでしかできなかった。その時秩序六神の一部が分裂し、合体することで新たな神が生まれた。その神こそ」

「妾、アフーム=ザーという訳じゃ」

 

 アフームが声を上げる。

 

「アフームちゃん?」

「レイよ、封印を解除するのじゃ」

「よろしいので?」

「構わぬ、もはや人として生きるには無理がある」

「御意に」

 

 そう言うとレイは懐から解放者の鍵(Remorter’s Key)を取り出しアフームに差し込む。

 

「封印、解除」

 

 レイが鍵を回した瞬間、アフームから力が溢れ出す。

 

「馬鹿な! この力、Sランクオーバーどころかそれ以上だ!」

「言うたであろう、妾は神であると。神と人を同じ尺度で測るでない」

 

 クロノの驚愕にアフーム=ザーは静かに答える。

 

「アフームちゃんが神……、どうして今まで人として生きてきたん?」

「はやての疑問ももっともじゃな。丁度良い。ここは妾とレイの馴れ初めでも語るとしようかの、レイが」

「俺かい、まあええが」




 レイによって語られるは『インスマウスの影』と『クトゥルーの呼び声』。
 そして旧神クタニド登場!
 クタニドによって語られるはこの宇宙の歴史。
 そして明かされるアフームの秘密!
 次回、レイとアフーム=ザーの出会いが語られる。
 それは、何とプロローグの複線回収だった!?
 歴史の闇に葬られた事件が語られる。
 Coming Soon!
 

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