魔法神話 レイ&アフーム ~もしもリリなの世界にハジケた奴らと邪神が絡んできたら~   作:ショーン=フレッチャー

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 前回のあらすじ
 あれ? この作品はブライアン・ラムレイの作品じゃないよな?


第14話 AD2001 白蛆の再来 ~レイの回想~

 話は6年前、ブリティッシュエアウェイズ機墜落事故までさかのぼる。

 俺はあの時の搭乗者の一人やった。

 そして俺は唯一の生き残りでもある。

 俺があの時に何があったのか、それを話そうと思う。

 北極海上空を航行中のことやった。

 突如として辺りが白く光ったかと思うと、機内は白く凍りついとった。

 周りの人々も大理石みたいに白く凍りついとった。

 誰も息をしとらんかった。

 何人か生き残りがいるみたいやった。

 あちらこちらで悲鳴がしたよ。

 幸いにも機長と副操縦士が生きていたのか、機内放送で生き残りは全員集めることが出来た。

 生き残りは俺を含めて6人やった。

 機長によると、白い光がした後どことも連絡がつかないこと、現在飛行しておらず、どこかに着陸していることが知らされた。

 俺はすぐに気づいたんやけど、俺たちは全員寒さを感じ無くなっとった。

 余りの異常事態にパニックになる者もおった。

 その時機長が言った。

 

「取り乱す気持ちは分かる! だが、私達の仲間には子供がいるんだ。ここは私たち大人がしっかりするべきだろう!」

 

 生き残りの中で未成年は俺だけやった。

 何とか全員が気持ちを整えた後、外へと探索へ向かうことになった。

 副操縦士と勇敢な2人の大人たちが探索し、機長と俺を含む3人が残ることになった。

 ドアを開けていきなり人影があった。

 

「お待ちしておりました」

 

 その人物はしわがれた声で言った。

 

「みなさま、どうぞこちらへ、主人がお待ちです」

 

 俺たちはその老人に促されるまま全員でその主人とやらのところへと向かった。

 飛行機は氷の棚の上に鎮座していた。

 そして目の前には巨大な氷山がそびえたっていた。

 氷山の中はまるで館のように整備されていた。

 そして俺たちは館の主人と対面することになった。

 館の主人は禿げあがった肥満体の男やった。

 その体はまるでゾウアザラシのようやった。

 瞳の色は紫色で、主人の玉座の横には瞳の色と同じ紫の氷筍が立っとった。

 

「主人はあなた方をお助けになられました。されどあなた方をここから出すには力が足りませぬ。もうしばらくすればあなた方をこの城から解放できまする」

「まるでファンタジーだな」

 

 誰かが言ったのをきっかけに笑いが起こった。

 今まで張りつめていた緊張の糸が切れたんやろうな。

 館の主人はそれを咎めるわけもなく、その様子を眺めとった。

 

「ささやかながら饗宴を用意させていただきました。皆さま、どうぞ」

 

 老人に案内され、俺たちは別室へと移動した。

 食堂らしきその部屋にはいつの間に用意したのか、食事が用意されていた。

 誰もがそれに手を出しことを躊躇っておった。

 機長がようやく手を付けて、無事を確認したところで皆安心して食事にありつくことが出来た。

 その場で老人からこの館でのルールが明かされた。

 一つ、食事はここで皆で行うこと。

 一つ、3日に1度主人に謁見すること。

 以上のことが約束された。

 俺たちはそれを約束した。

 食事の後俺達は寝室まで案内された。

 丁寧にベッドメイキングされた寝室を用意された俺たちは、緊張から解放されたのかぐっすりと眠りこんだ。

 翌日、俺達は館の内部を探検することにした。

 取り立てておかしな部屋というのはなかった。

 ただ一つ、氷山の山頂へと続いているらしい階段だけは。

 誰もが尻込みしていこうとは言いださなかった。

 その日の夜、俺はどうしても気になって山頂へと続く階段を上り始めた。

 既に修業を始めとったからな、長い階段はさほど負担にならんかった。

 山頂は小部屋になっとった。

 そこには、灰色の炎がとらわれとった。

 灰色の炎は意味のないうなり声をあげとった。

 俺は灰色の炎の中に鍵穴を見つけた。

 俺はその鍵穴に解放者の鍵(Remorter’s Key)を突っ込んで回した。

 その瞬間、灰色の炎から淀みが噴き出てきた。

 俺はその時、目の前にいるのが何なのか理解した。

 目の前の炎こそ、俺たち一族が信仰するアフーム=ザーであることを。

 そして、俺はアフーム=ザーから狂気を解放したことも。

 狂気が解放されたことで炎の色は銀色に変化しとった。

 

「感謝しよう、解放者よ。其方は何を望む?」

「僕はあなたを信仰するものです。あなたの望みこそ、僕の望みなれば」

「我が望みは全ての醜き神々を滅ぼすことなり」

「なれば、その手伝いをささやかながら致しましょう」

「名を申せ、人の子よ」

「レイ=金剛=ダイアモンドと申します」

 

 これが俺達の出会いやった。

 俺はアフーム=ザーからこの氷山を支配する者の名を聞いた。

 ルリム=シャイコース、それが城主の名やった。

 城主を殺さぬ限り俺たちに自由がないこと、新月の夜のみルリム=シャイコースが眠り、無防備になることを俺は教えられた。

 新月の晩までは後18日もあった。

 それまで俺は毎晩アフーム=ザーの元へ通うことを約束した。

 そして、最初の謁見の日。

 城主の目の前に立った瞬間、俺達6人は猛烈な眠気に襲われた。

 気づいた時にはベッドの中におった。

 そして、6人のうち1人減っておった。

 俺たちは世話役の老人に彼がどこに行ったのか尋ねた。

 

「城主様のみが知っておられます」

 

 老人はそう答えるだけやった。

 3日後、俺たちはいなくなった男について城主に尋ねた。

 

「心配いらぬ、彼は姿が見えぬだけで其方達と共にある」

 

 城主がそう言うと、俺達は再び眠気に襲われた。

 目が覚めた時にはまたベッドの上におった。

 そして、また1人いなくなっとった。

 そのような謁見があと3回続き、とうとう俺1人になってしもうた。

 俺は寂しくてしょうがなくなってもうて、1日の大半をアフーム=ザーの下で過ごすようになった。

 それまでの間に、アフーム=ザーは人に変化する術を心得ていた。

 俺は彼女から力と知恵を授かり、俺は彼女に人とハジケを教えた。

 そして来るべき新月の夜に備えていた。

 いよいよ新月の夜、6度目の謁見の日が来た。

 その日は老人が迎えに来なかった。

 俺は城主の部屋へと入った。

 そこにいたのは太った男ではなかった。

 ゾウアザラシの様な巨躯、目玉の無い眼窩、横に裂けた口、真っ白な体。

 それがルリム=シャイコースの正体やった。

 俺はぞっとしたよ、あまりの恐ろしさにね。

 ふと、静かなはずの空間に声がするのに気付いた。

 聞き覚えのある声ばかりやった。

 それらはルリム=シャイコースの体内から聞こえてきた。

 耳を傾けると、声の正体が分かった。

 機長たち5人の生き残りや。

 声は口々に言った。

 

「こいつは私達を騙していたんだ! 私達を魂事貪り食っていたんだ。苦しい。ここは地獄だ。私たちと同じように食われた者達もここに居る。みんなここから解放されたがっている。今夜しかない、新月の夜しかこいつは眠らない。今だ! こいつを殺して私達を解放してくれ!」

「レイよ、やるぞ」

 

 いつの間にかアフーム=ザーが隣にいた。

 俺は頷くと、切り裂くような鋭い一撃をルリム=シャイコースの胴体に打ち込んだ。

 傷口が裂け、赤黒い液体が噴出する。

 俺はアフーム=ザーに抱えられ空を飛んでいた。

 赤黒い液体は沸騰しているのかぼこぼこと泡立っていた。

 辺りに蒸気が立ち込める。

 

「温泉ってこんな感じなのかの?」

「少なくとも俺はこんな風呂入りとうない」

 

 俺たちは飛行機の方へと飛んで行った。

 そこで救命ボートを何とか出すと、それに乗って脱出することにした。

 赤黒い濁流に乗って俺たちは氷の城から脱出した。

 

「ありがとう」

 

 脱出した時、そう聞こえて気がした。

 俺は静かに祈った。

 背後では氷山から赤黒い液体が噴出していた。

 そして俺たちは氷山の魔力漂う海域から脱出し、無事に拾われた訳や。

 

 

 

 

 

「故にアフーム=ザーは俺と行動を共にするようになり、カモフラージュのため人間の戸籍アフーム=Z=シルバーを使用しているわけや」

 

 場がしいんと静まり返る。

 

((((((想像以上に重い話だったー!))))))

 

 どう反応していいかわからない面々を前に、アフームは静かに口を開く。

 

「レイは邪神専用キリングマシーンでしかなかった妾に人の心を教えてくれた。故に妾はレイを信徒筆頭と考えておる。レイの敵は妾の敵じゃ。そう心得ておけ」

((((((増々逆らえなくなるじゃないですかー!))))))

「俺はアフーム=ザーの権威と力を笠にするつもりはあらへん。せやけど利用するときは利用しますえ」

「あまり脅かすものではないぞ」

 

 6人の女性が現れ、口を挟む。

 その瞬間、レイ、デビッド、櫻子が跪く。

 彼女たちはそれぞれマゼンタ、レッド、イエロー、グリーン、シアン、ブルーの髪を持ち、Tシャツにチノパンと言った出で立ちであった。

 

「母上’s! こちらにいたのか!」

「ああ、ここで力の回復をね」

「アフーム? 今、母上’sって言ったよね?」

 

 ユーノがわなわなと震える。

 

「まさか、秩序六神!?」

「「「「「「正解! よく判ったな!」」」」」」

 

 ユーノは慌てて跪く。

 

「とんだご無礼を!」

「今更今更、それに娘の友人だろう? あまり構えず振る舞ってよい。我々が許す」

「ははーっ!」

「この人達が、アフームちゃんのお母さん達……、本当にみんな神なの?」

 

 すずかが呟く。

 

「ははは、疑わしく感じるのも無理はない。ここまで怒涛の真実に晒されてしまっては、常識がオーバーフローするのも無理はない」

「我々の様に超常の存在と触れ合う機会のない者たちにとっては、信じられんでしょうな」

 

 マゼンタ髪の女性が笑い、レイがフォローする。

 

「秩序六神は狂気に侵されていたと聞く。でもあなた達はどう見ても正気だ! 一体どういうことなんだ?」

 

 ユーノが疑問を呈する。

 それの答えたのはレイだった。

 

「それは、俺が狂気から解放したんや。アフーム=ザーが解放されるということはその他の神々に掛けられた封印も弱まるという事。そうなれば邪神たちの覇権争いが激化するということでもある。そうなる前に先手を打って秩序六神の狂気を解放したんや。とはいっても完全開放には時間がかかる。今の開放率は2、3割程度。完全復活には程遠いが、正気の部分だけを人格形成すれば、ある程度の活動は出来るって訳や」

 

 レイは解放者の鍵(Remorter’s key)を掲げながら得意げに言う。

 

「若殿のおかげでこうして活動できるようになった。未だ全力には程遠いが、邪神を殺すのに何ら支障はない」

「その、今の状態でどれくらいのことが出来るのですか?」

 

 アリシアが質問する。

 マゼンタ髪の女性が考え込む。

 

「ふむ、例えるならば、私ならば1秒あれば東京23区を灰すら残さず蒸発させることが出来る」

 

 その言葉に誰もがぞっとする。

 

「私の姉妹たちも方法は違えど、1秒で東京23区を地図から消し去ることが出来る。恐ろしいか? それが我々神というものだ。特に破壊と創造を繰り返し混沌を秩序へと作り変える我々の力はな」

「心強い限りです」

 

 レイ達金剛=ダイヤモンド家だけが彼女たちの言葉に返すことが出来た。

 他の面々は呆然とする。

 

「逆に言えば、それだけの力が無ければ邪神を滅ぼす事は出来んということや。まあ、実際に目にしたことが無ければ分らんやろ」

 

 レイの言葉には確かな説得力があった。

 実際に邪神に遭遇し、邪神を殺したことのあるレイ以外にこの言葉が言えるものはいないであろう。

 クロノ達はTシャツ姿という、いかにも威厳のなさそうな格好が突然恐ろしく感じられた。

 

「……状況を整理させて欲しい」

 

 クロノが幽かに声を上げる。

 

「ヴィクトリア・マーシュはくとぅるーの信奉者らしい。そして彼女はくとぅるーの復活を目論み、ハートストーンを全て持ち逃げした」

「という仮説やな」

 

レイが頷く。

 

「そして、くとぅるー達邪神に対抗しているのがクタニドさん達ということで」

「そうだ」

 

 クタニドが頷く。

 

「アフームの正体が秩序六神だったか? それの娘で、しかも神で」

「そうじゃ」

 

 アフーム=ザーが頷く。

 

「その母親達である秩序六神もここに居る」

「「「「「「左様」」」」」」

 

 秩序六神が異口同音に頷く。

 

「レイ、確か君の家の信仰は虚空教団と同じだったな。そして、虚空教団が信仰しているのは、秩序六神とその娘、すなわち……」

「我が家で保護していたのは、我らが信仰の対象という訳や。そして俺はアフーム=ザーに、秩序六神にこの世界の事を教える教師の役割を仰せ付かった。つまり俺は神に物申せる立場を頂いた訳や」

「レイ、君はキング・オブ・ハジケリストとして虚空教団の最高の栄誉を頂いたと思っていた。でも、それ以前に君はそれ以上の名誉を持っていたという訳か! ある意味では君が信仰をコントロールすることも出来る位の!」

 

 ユーノが叫ぶ。

 

「この事実を世界が知ったら、世界は俺をどう扱うんやろなあ。現代を生きる聖人となるか、それとも腫物のように扱われるか」

「もし、レイを粗末に扱うようなことがあれば、妾達は黙ってはおられんがな」

 

 レイとアフーム=ザーの言葉にクロノ達は再び戦慄する。

 

「特に管理局がどういうスタンスをとるのか楽しみやわ。第6地上本部はまあ予想がつくとして、他の所がどういう態度に出るのか、くくく、楽しみで楽しみでしょうがないわ」

 

 レイは黒い笑みを浮かべる。

 クロノやリンディは思わず顔が引き攣る。

 

「安心してつかあさい。今すぐ公表する話やないですから。まあ、でも、近いうちに公表はしますえ。これだけの大ニュース、しっかりとお膳立てをしてから発表せんと。既に神々の時代は始まっているんや。その中で脆弱な人類はどのように生きていくのか。少なくとも俺は、秩序の神々は人類の味方や。せやけど、それを人類が受け入れられるんかなあ。特に自尊心が肥大化した連中は」

 

 それは誰にも解らない問であった。




 C・A・スミスの『白蛆の襲来』をみんな読もう。
 収録されているのは、国書刊行会の『ク・リトル・リトル神話集』と新紀元社の『エイボンの書』、創元推理文庫の『ヒュペルボレオス極北神話譚』にあります。
 勿論私は全部持ってますよ。
 恐らくスミスの作品の中で1番有名なんじゃないかな?
 ちなみに、『エイボンの書』にはアフーム=ザーが登場する作品、『極地からの光』が収録されてるので、個人的にはおすすめです。
 この話を書く時にも大いに参考にさせてもらいました。
 ツァトゥグアの大神官、クラーカシュ=トンには感謝しかありません。
 さて、語られた馴れ初めとレイの背負う十字架。
 それは悲壮な決意となってレイを戦いへと駆り立てる。
 その先に待っているのは希望か絶望か。
 次回、さらなる秘密が明かされる。
 感想、お返事待ってます。

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