魔法神話 レイ&アフーム ~もしもリリなの世界にハジケた奴らと邪神が絡んできたら~   作:ショーン=フレッチャー

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 前回のあらすじ
 正直、6歳の子供が背負っていい十字架じゃないと思うんだ。


第15話 YAH YAH YAH

 レイの浮かべる黒い笑みに戦慄するクロノ達。

 彼らは理解してしまう。

 目の前の少年がとんでもない存在をバックに着けていることを、その気になればその存在にあらゆる要求が出来てしまうことを、その存在がとてつもないほどの力を秘めていることを。

 

「……レイ、僕には最後の疑問がある」

 

 ユーノが声を上げる。

 

「預言の3行目だ、解放者にして皇帝。解放者というのはアフーム=ザーを封印から解放する者の事だ。つまり、レイ、君だ。その君が皇帝と呼ばれている」

 

 ユーノは一息つくと、再び話し始める。

 

「これはたった今思いついた僕の仮説何だが、金剛家とダイヤモンド家の祖先はブリリアント皇帝家、ニュートラル王家の末裔なんじゃないか。でなければ、君が皇帝と呼ばれる理由が無い! それに、無限書庫で言っていただろう! ニュートラル王家の紋章が金剛家の家紋と、ダイヤモンド家の紋章と一致するって! 恐らく、ニュートラル王家の末裔が古代の日本とイギリスに転移して、そこで家を興した。それが金剛家とダイヤモンド家!」

 

 その仮説は大胆が過ぎるものではあったが、一応筋の通ったものであった。

 

「金剛家の初代も、ダイヤモンド家の初代も何処とも知れぬ所からやってきた、という言い伝えがある。あくまで伝承やけど筋は通っとる」

「ニュートラル王家は虚空教団の創始者であり、皇帝であり司祭であったと聞く。つまりレイ、君はキング・オブ・ハジケリストになるべくしてなった人間だってことだ。君はこの世で最も神に愛された人間だってことじゃないか!」

 

 ユーノは肩を震わせる。

 

「勿論、預言が正しいという仮説に基づいている。でも、恐ろしいことに辻褄が合ってしまうんだ。レイ、君のルーツはニュートラル王家にあるという仮説が」

「ユーノ、それの何が問題なんや?」

 

 あすかがユーノに問いかける。

 

「ニュートラル王家に末裔はいないことになっている。記録によるとニュートラル王家は謎の現象によって全員死亡したと伝えられているんだ。それが生き残りがいて、更に末裔がいる。これは歴史上の大発見と言わざるを得ないんだ! それだけじゃない、第6次元文化圏では未だにニュートラル王家へのリスペクトが続いているんだ。今代のキング・オブ・ハジケリストがニュートラル王家の末裔だと分かれば、全力で君を担ぎ出すだろう! それこそ、管理局から独立してもおかしくないくらいにね!」

 

 その言葉はクロノとリンディにとって衝撃的だった。

 

「お、おいそんなことになったら」

「間違いなく色々こじれるだろうね。勿論これは最悪の場合。でも、レイの地位がとんでもないことになるのは間違いないよ」

 

 レイは黙って目を閉じていた。

 

「驚いたな、まさかこれだけの情報で真実に辿り着く者がいるとは」

 

 クタニドが声を上げる。

 

「ユーノ君、君の言う通りだ。レイ=金剛=ダイヤモンドは、いや金剛家とダイヤモンド家はブリリアント皇帝家であるニュートラル王家の正当な末裔だ」

 

 どよめきが起きる。

 

「これはいずれ話す事だったのだが、今ここで君によって真実が暴かれてしまった。そうだ、金剛家とダイヤモンド家の初代は最後の皇帝の2人の弟なのだよ。彼らはニュートラル王家を襲った不幸から運よく逃れ、地球へと転移した。しかし急いで転移をしたために2人ははぐれてしまった。彼等はその地でそれぞれ王に仕え、王の娘を娶りその血を残した。そして今、その血は合流した」

「それが、俺やという訳か」

 

 レイが感慨深げに呟く。

 

「そうだ。これはあまりにも強力な血の運命。定められた歴史なのだよ」

「俺の存在は歴史に固定されとるという訳か」

「それだけニュートラルの血が旧神にとって大きな意味を持つということだ。秩序六神に最も愛された一族。そしてその末裔にして解放者であるレイ=金剛=ダイヤモンドという存在がどれだけ奇跡的な存在か解るか?」

 

 クタニドの問いかけを正しく理解できたのは金剛=ダイヤモンド家とユーノだけだった。

 

「俺の存在はあまりにも神々にとって大きすぎる」

「人間にとっても大きすぎるよ。レイ、君の存在が虚空教団と言う組織を変えてしまう。それだけじゃない、第6次元世界を中心に君の存在が大きな権力となって君臨するだろう」

 

 ユーノは再び肩を震わせる。

 

「……僕達スクライア一族は元はブリリアント帝国の大公家。そして、放浪の目的は皇帝の末裔を探し出すこと。たった今、僕は一族の悲願を達成した! レイ! 君と僕は出会うべくして出会ったんだ! 君こそ僕達が探し求めていた鍵を携えた皇帝! その人だったんだ!」

 

 ユーノは感極まった様子で立ちすくむ。

 それを見ているレイは以外にも冷静であった。

 

「その、何や、急にそんなこと言われても困るんやけど。でも、何か腑に落ちたわ。ブリリアントに初めて来たとき、なんか懐かしさみたいなものを感じたんやけど、そういうことか。俺の中のニュートラルの血がノスタルジーな感覚をもたらしたんやな」

 

 レイは遠い目をする。

 

「なんか、凄い話になってるんだけど」

 

 アリサが口を開く。

 

「ええと、つまり、レイくんはどういう存在なの?」

 

 なのはが疑問を呈する。

 

「レイは、神話に記された英雄であり、王朝を開くことの出来る唯一の資格を持っている存在。すなわち歴史を変える存在なんだ」

「俺がねえ、今一つ実感が沸かん。が、それだけの価値が俺にはあるということが判った」

「いつの間にかレイの存在が宇宙規模になっていた件について。いやはや世の中というのは分からぬものじゃのう」

 

 レイとアフーム=ザーはどこか他人事のように言う。

 

「「「「「「間違いなく、あなたのせいぞ!」」」」」」

 

 全員でアフーム=ザーにツッコむ。

 

「それよりも目下の問題はCthulhu復活の方や。これを何とかせん限り、俺は枕を高くして眠れんし、権力闘争に精を出すことも出来ん!」

「「「「「「権力闘争!?」」」」」」

「レイよ、頑張るのじゃ。これが終わればレイには莫大な権力が待っておるぞ。それでやりたい放題するのじゃ!」

「「「「「「何する気!?」」」」」」

「まず手始めにドッキリマンチョコのシールを全種類揃えるよう会社に圧力をかけるのじゃ!」

「「「「「「使い方がショボい!」」」」」」

「どうせなら新フレーバーを提案するのはどうやろか」

「「「「「「それただの商品開発!」」」」」」

「コラボ商品ってのも悪くないかもね」

「「「「「「もうただの企画会議だコレ!」」」」」」

 

 十分後。

 

「という訳で、権力を手に入れたら一番最初にやることは、荒れ地にちくわを植えるボランティアを募集することに決定しました」

「「「「「「意味わからーん!!!」」」」」」

「環境問題は大事じゃからな」

「「「「「「絶対関係ないって!」」」」」」

「よし! 権力の力でエコ活動するためにも、Cthulhuを何としてもぶっ殺す!」

 

 レイが妙な意気込みを見せる。

 

「その意気だ若殿」

「我々も邪神殺しは本懐の一つ」

「打合せ通り、参加しよう」

 

 秩序六神が口々にレイを激励する。

 

「「「「「「そして皆でちくわを植えよう!」」」」」」

「「「「「「やりたかったの!?」」」」」」

「……感謝いたします。荒れ地にちくわを」

「「「「「「荒れ地にちくわを!」」」」」」

「「「「「「何その合言葉!?」」」」」」

 

 ちくわを掲げながらレイ、アフーム=ザー、ユーノ、デビッド、櫻子、秩序六神は掛け声を上げる。

 

「この戦い、私も参加しよう」

「クタニド師!?」

 

 クタニドが突如参加を表明する。

 

「一族のけじめは一族でつけねばならん。私がCthulhuを直接抑えよう。それに私がいれば奴の放つ精神波を抑えることが出来るはずだ」

「クタニド師、ほんにおおきに。あなたがいれば100人力です」

「ちょっと待ってください、レイくん、あなた、一体何をしようとしているの?」

 

 リンディが声を上げる。

 

「俺達がやろうとしていることはただ一つ。Cthulhu抹殺です。そのために、心臓の欠片を奪われん様にしとったんです。全ては奴を確実に殺すため。奴の眷属を一掃するため。そのためにこちらが最大限有利になる状況を作っとったんです」

 

 その言葉に誰もが絶句する。

 

「旧神の封印が弱まったことでCthulhuの活動が長期化する恐れがある。その前に何とかせんといかん。そこで俺は持てる力を最大限使うて対策を取っていたわけや。Cthulhuを最大限弱体化させた上で、こちらは最大限の戦力で迎え撃つ。ただそれだけのはずやったはずなんやけど」

 

 レイが俯く。

 

「どこで計算が狂ったんやろ」

「間違いなくあの女の存在じゃ。あの女が深きものども(Deep one’s)でなければ、Cthulhuの信奉者でなければここまで追い詰められることはなかったはずじゃ」

「いや、それ以前に僕がハートストーンを発掘したことだよ。そもそもそれが発端なんだから」

「一番の問題は管理局がCthulhuの脅威を理解出来なかったことじゃろう。まあ、理解しろと言っても難しい話ではあるが」

「それなんだよなあ。僕も今まで旧支配者なんて知らなかったし」

 

 ユーノが首をかしげる。

 

「次元世界は歴史が散逸しとる。そのせいで記録が残っとらん可能性がある。しかし、旧支配者の脅威は間違いなく迫っとる。これから次元世界では旧支配者にまつわる事件が多発するんやろなあ」

「それは、僕たちでも解決できるのか?」

 

 クロノが息を呑む。

 

「さあな、頑張れば行けるんちゃう?」

「そんな適当な」

「一応、対抗できたという前例もあるしなあ。上手くやれば行けるやろ」

 

 レイの発言はどこか他人事であった。

 

「まあ、それもこれも、ここでCthulhuを殺しきれるかどうかにかかっとる。もしも失敗したら次に狙われるのはミッドチルダかもしれんのやで」

「そんなまさか」

 

 クロノの顔が若干引き攣る。

 

「有り得ん話ではない。妾達神は宇宙空間を移動する術位持っておる。奴が縄張りを広げようと他の次元世界に手を出す事は容易に考えられる。そこでどれだけの惨劇が繰り広げられるか。知ってしまった以上、協力してもらうぞ?」

 

 アフーム=ザーの眼光にアースラ一同竦み上がる。

 

「せやで、お前さん方もあの女を追ってるんやろ? あの女の行き先なら予測がつく。知りたいよなあ? なら協力せい、こっちで勝手に処理されたくなければな」

「……ヴィクトリア・マーシュ2等空尉の問題は我々の問題だ。彼女の問題を勝手に解決されたとあってはこちらの面子が立たない」

「では、協力ということでいいですかな、提督殿」

 

 リンディは少し考えこむと、やがて顔を上げる。

 

「わかりました。これよりアースラはIMSに協力し、ヴィクトリア・マーシュ2等空尉の行方を追います」

「そう来なくては」

 

 レイが指を弾く。

 

「とはいえ、相手は神。こちらの方が相手には詳しいのでな、基本的にはこちらの指示に従ってもらいます。さもなくば、待っておるんは死です」

 

 レイがどすの利いた声で忠告する。

 その言葉にアースラメンバーは震えあがる。

 

「この任務は今までにないほど危険なものになるでしょう。相手は確実にこちらを殺しにかかってくるでしょう。いくらバリアジャケットがあるからと言って楽観視は出来まへん。我々の目的は心臓の奪還と、空尉さんの確保。どちらにせよ、空尉さんが目的であることに間違いはあらへん」

 

 誰かの唾を呑む音が聞こえる。

 

「その、2つが終わったら」

 

 フェイトの言葉にレイは頷く。

 

「神々の出番や。俺達人間はアースラに退避する。いや、正確にはCthulhuが復活したら神々の出番や。それまでに俺達は空尉さんを確保せんとあかん」

「それまでどれくらいの時間があるの?」

 

 すずかが問いかける。

 

「分からん、Cthulhuの居所であるルルイエの浮上する時間も完全に予測は出来ん。その上浮上してからどれくらいでCthulhuが復活するかも分からん。俺達の出来ることは出来る限り早く確保すること。それだけや」

「ルルイエ? 浮上?」

 

 アリサが質問する。

 

「Cthulhuの所在は南太平洋に沈んだムー大陸の一部、ルルイエという都市や。星辰の位置が揃ったときルルイエは浮上する。その時、Cthulhuは外に出て活動すると言われておる」

「まるでおとぎ話みたい」

 

 なのはが呟く。

 

「でも事実なんや。ここまで来ておいて信じられんとは言わせへんで。既に神話の時代は始まっとるんや。否が応でも新時代に対応してもらうで」

 

 レイはアースラの面々を眺める。

 誰もが現実感のない様子ではある。

 それを見てレイは口角を上げる。

 

「これより、アースラの指揮権を俺が担う! 嫌とは言わせんへんで! 死にたくなければ全員俺の指示に従うことやな!」

 

 その言葉にクロノとリンディは顔をしかめる。

 しかし、こればっかりはどうしようもないと諦める。

 

「これより、全員でアースラへと戻りルルイエ上空に静止する! そこで再びミーティングを行う! 全員、生きて帰すからな!」

 

 向かうは南緯47度9分、西経126度43分、南太平洋上の奥津城、ルルイエ上空である。




 この1週間新作のアイデアを練っていましたが、出てくるのはレイくんの物語ばかりでした。
 なので、レイくんを主人公とした外伝的作品を書こうと思います。
 第2部終了後に投稿する予定なので皆さん是非読んでください。
 さて、明かされるレイの血統と金剛六芒星の秘密。
 荒れ地にちくわを!
 再び手を取り合うレイと管理局。
 果たして、この事件の結末は。
 待て次回!

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