魔法神話 レイ&アフーム ~もしもリリなの世界にハジケた奴らと邪神が絡んできたら~   作:ショーン=フレッチャー

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 前回のあらすじ
 レイの血統、マジ尊い……。


第16話 浮きあがってくるもの

 南緯47度9分、西経126度43分上空、アースラ。

 ここで、レイ達はルルイエの浮上を待っていた。

 

「星辰の位置からして何時ルルイエが浮上してもおかしくはあらへん。それまでに俺達が出来ることは少ない。さっさとミーティングを終わらせるで」

 

 レイの声にミーティングルームの緊張が高まる。

 

「……皆思うところはあるやろう。せやけど、ここが正念場なんや。頼む、今だけは俺の指示に従ってくれ」

 

 レイの声は若干震えている。

 レイの帽子が開き、中から湯気と共にみそ汁が現れる。

 いつもとは違うレイの気迫に誰もが気圧されていた。

 

「覚悟ならとっくにあるわ」

 

 あすかが声を上げる。

 

「お前には返しきれん恩が仰山ある。それをここで返せるかもしれへんのや。存分に俺を使え! レイ=金剛=ダイアモンド!」

「我ら守護騎士も同じく参戦しよう」

「お前にははやてとリインフォースを助けてもらったんだ。また一緒に地球を救おうぜ」

「主はやて……」

「みなまで言わんといてな、リインフォース。行こう」

 

 シグナムとヴィータを始めとした守護騎士、はやてが参加を表明する。

 

「恩返しならこっちだって、ねえフェイト、母さん」

「うん、レイが困っているなら、ここで恩返しする」

「そうね、いつ返そうか困っていたのに、急に来るなんて困ったわ」

 

 テスタロッサ家も参加を表明する。

 

「私達も恩返しはしなくちゃね」

「そうね、命とデバイスの恩返し。ここで払うわ」

「うん! レイくんが困っているなら助けないと!」

 

 すずか、アリサ、なのはも参加を表明する。

 

「友よ、義によって参戦いたす」

 

 ユーノも劇画調で応答する。

 

「レイ、みんな退く気はないようだぞ」

 

 クロノがレイに話しかける。

 

「サンキュ、サンキュ、マジ助かるわ」

「「「「「「軽っ! しかもみそ汁飲んでるし!」」」」」」

「ハッ! このみそ汁は豆腐と玉ねぎのみそ汁! 契りのみそ汁じゃないか!」

 

 ユーノが驚きの声を上げる。

 契りのみそ汁とは、古来より虚空戦士(ハジケリスト)が生死をかけた契りを交わす時に飲み交わすみそ汁である。

 

「「「「「「このみそ汁にそんな深い意味が!?」」」」」」

「このみそ汁を振る舞うとは、レイ、本気なんやな」

「その心意気、見事だ」

 

 櫻子とデビッドが皆にみそ汁を振る舞う。

 

「「「「「「ワン・フォー・みそ汁! オール・フォー・みそ汁! 1人はみそ汁のために! みんなはみそ汁のために!」」」」」」」

((((((なにこれ……))))))

「「「「「「いざ契り!」」」」」」

 

 その一言でみそ汁が飲まれていく。

 

「ワサビ入れときました」

 

 レイの一声で皆みそ汁を吹き出す。

 

「「変なもん入れんなー!」」

「ぐはぁ!」

 

 ヴィータとあすかのダブルラリアットがレイに炸裂する。

 

「このノリ、いつものレイくんなの」

「何ていうか、何ていうかだよね」

 

 なのはとすずかが呆れ顔で言う。

 

「さて調子も戻ったところで、ミーティングを始めますか。とはいっても、作戦はただ一つ。ルルイエが浮上し次第、空尉さんを見つけ出し、一気に強襲する。タイムリミットはCthulhuが復活するまで。それの具体的な時間は分からんから出来るだけ早く事を終わらせる必要がある。何か質問は?」

「作戦の人数だ、誰が出るんだ?」

 

 クロノの問いにレイはすぐさま答える。

 

「全員や、全員で行く」

「流石に多すぎないか?」

「恐らく、心臓を守るために数多くの深きものども(Deep one’s)が待ち構えていることやろう。そいつらの包囲網を最速で突破するためにも、質と量、両方が必要や」

 

 レイの言葉に全員が頷く。

 そこに、エイミィから艦内放送が入る。

 

「みんな! 海底から巨大な何かが浮上してくる! 何アレ!?」

「ルルイエだ! ルルイエが浮上しているんだ!」

 

 クロウが声を上げる。

 

「全員ブリッジへ! エイミィはん! 転送の準備を!」

「りょ、了解!」

 

 レイの号令と共に全員ブリッジへと移動する。

 

「見ろ、ルルイエが浮上してきたぞ!」

 

 モニターを眺めていたド・マリニーが叫ぶ。

 全員がモニターにかぶりつく。

 

「あれが、ルルイエ……」

 

 誰ともなく呟く。

 それは威容であり、異様であった。

 非ユークリッド幾何学の曲面で構成された構造物の数々。

 海藻と泥で覆われた石畳。

 中央には不気味な奥津城。

 それを取り囲むは曲線の塔。

 ルルイエがその全容を露にしたのだ。

 

「っ! あれは、マーシュ2等空尉!」

 

 クロノが叫ぶ。

 画面に映っていたのは、半魚人を先導するヴィクトリア・マーシュだった。

 彼女の姿はすっかり変容していた。

 半魚人はCthulhuの心臓が封じられたカプセルを運んでいる。

 

「何あれ、気持ち悪い……」

 

 アリサが露骨に嫌悪感を示す。

 

「あれが深きものども(Deep One’s)、Cthulhuの眷属や。あの様子を見るに、心臓はまだCthulhuの元へは届いとらんみたいやな」

 

 レイが冷静に分析する。

 

「みんな! 今からマーシュ2等空尉からハートストーンを奪取する! 転送の準備を!」

 

 クロノが発破をかける。

 

「ちょい待ち」

 

 レイが一旦ストップをかける。

 

「みんなに渡しておくもんがある」

 

 そういうとレイは皆にあるものを配り始める。

 金剛六芒星が記された護符の様なものだ。

 

「これは?」

 

 クロノが質問する。

 

「俺特性のお守り。精神汚染を和らげると同時に、魔力に邪神特効を付与するんや。防御と運が5アップするで」

「「「「「そーゆーアイテムなの!?」」」」」」

 

 

 

 

 

 ヴィクトリア・マーシュは歓喜の真っただ中だった。

 Cthulhuの心臓が全て揃い、ルルイエが浮上した。

 奇跡的ともいえるタイミングをものにできたことは彼女にとって幸運なことだろう。

 中央の奥津城を目指す深きものども(Deep One’s)の一団を彼女は率いている。

 すでに彼女の体は変容し、深きものども(Deep One’s)に近いものになっている。

 彼女は進む、彼女にとっての栄光を求めて。

 しかしそれは突然阻まれた。

 目の前に人影が現れた。

 

「この道は通行止めや、他の道を行け」

「何ですって?」

 

 レイ=金剛=ダイアモンドだ。

 レイが手刀を切り、合図をする。

 その瞬間。

 

「「「「「「シュート!」」」」」」

 

 数多の魔力弾が深きものども(Deep One’s)の一団に襲い掛かる。

 

「ハーハッハッハッハ! だから言うたのに!」

「レイ、それは悪役の笑い方じゃぞ」

 

 正面にはレイとアフーム、側面にはなのはたちがいる。

 完全に包囲を完成させていた。

 

「今更何のつもり? 今からでも私たちの邪魔が出来るとでも?」

「チャンスがあるならそれを掴みに行くのが俺のやり方でね」

「神を利用してでも?」

「Cthulhuの死はアフーム=ザーの、秩序六神の願いでもある。俺が手を貸さん道理はあらへん」

「不敬な! 我らが神の死を願うなど!」

「血で血を洗う縄張り争いをしとる連中には言われとうないな」

 

 ヴィクトリアとレイが互いに睨み合う。

 

「これで勝ったつもりかしら」

「負ける勝負はせん主義でな」

「我が同志たちよ! この不届き者達に思い知らさせてあげなさい!」

 

 ヴィクトリアが高らかに叫ぶと、あちらこちらから深きものども(Deep One’s)が現れる。

 その数数百を超えている。

 そのあまりの不気味さに悲鳴が上がる。

 

「落ち着け! 冷静に対処するんや!」

 

 レイの一声で戦いが始まった。

 

「ド・マリニー!」

「わかっているさ!」

 

 クロウとド・マリニーは時空往還機から光線を発射する。

 

「せええええええい!」

「おおおおおおお!」

 

 櫻子とデビットは得物を振り回しながら、家伝の武術で半魚人を屠っていく。

 

「うおおおおおお!」

 

 シグナムのレヴァンテインが閃く。

 

「はああああああっ!」

 

 ヴィータのグラーフアイゼンが半魚人を吹き飛ばしていく。

 

「でやああああああ!」

 

ザフィーラの拳が唸り、半魚人を殴り飛ばしていく。

 

「「タイフォーン!」」

 

 エストとあすかがバッシュとダッカスをもって切り伏せていく。

 

「「放て、ブラッディダガー!」」

 

 はやてとリインフォースが夜天の書から刃の雨を降らす。

 

「ああ、もう! うざったい!」

 

 アリサのサンシャインホープが放つ熱が輝く。

 

「お願い、止まって!」

 

 すずかのムーンライトドリームが纏う冷気が半魚人を凍らせていく。

 

「凍り付け!」

 

 クロノのデュランダルから放たれる魔力が半魚人を凍り付かせていく

 

「「サンダー、レイジ!」」

 

 フェイトのバルディッシュとアリシアのグレイブから放たれる電撃が半魚人を焦がしていく。

 

「シュート!」

 

 なのはのレイジングハートから放たれる砲撃が半魚人を吹き飛ばしていく。

 

「ほあたたたたたたたたたたたた!」

 

 ユーノは毒手拳で半魚人を打ち据えていく。

 

「「「「「「いつの間に身に着けたの!?」」」」」」

「神の力、思い知るがいい! ロックオン!」

 

 アフーム=ザーの声と共に金剛六芒星が半魚人共に表示されていく。

 

「神罰『フォーリングメテオ2007』!」

 

 天から弾幕が半魚人共に向かって降ってくる。

 

「アフームちゃんロックは正確無比、敵と判断したものだけロックする」

 

 クトゥグァが炎を撒き散らし、半魚人を焼き尽くしていく。

 クトゥドェが雷を放出し、半魚人を瞬く間に消し去っていく。

 クトゥクヒが放つ冷気で、半魚人は一瞬で凍り付いていく。

 クトゥシャが気圧を操作することで、半魚人はいとも容易く破裂していく。

 クトゥピェが水を操作し、半魚人から水分を奪い去っていく。

 クトゥジィが石を操り、半魚人を叩き潰していく。

 

「邪ッチェリアァァァァァァッ!」

 

 レイがヴィクトリアと一騎打ちになる。

 

「クトゥルーが復活すればこの世は地獄になる! それでもええんか!」

「地獄? 天国の間違いではなくて?」

「どこがや! 破壊と殺戮のワンダーランドのどこが!」

「それこそ素晴らしいじゃない。全ての欲望が肯定されるのよ。破壊したいものは破壊し、殺したいものは殺す。死にたいものは死に、戦いたいものは戦う。あなた達が信じて疑わない秩序こそ不健全だわ。欲望は肯定されるべきよ」

「全てに対して寛容であるならば、誰かの不寛容に関しては不寛容にならざるを得ん。お前の言う欲望は誰かの不寛容や。到底許せるもんやない」

「それは本当に寛容なのかしら」

「誰かに迷惑をかけることを許せと? 誰かを傷つけることを許せと? それは人間の理性の否定や。人は一人では生きていけぬ。だから協力するためのルールが要る。貴様のそれは究極の個人主義や。その世界で生きていける者は僅かでしかない」

「それが自然の摂理というものよ」

「違う! それは種の保存に反する! 生物の本能やない!」

「そうね、私達が求めているのは本能を超えた崇高な理性。それを実現するための欲望の肯定。欲望の追及の先に真の生き方というものがあるわ」

「そんなものは無い! 欲望の果てに待っているのは虚栄と破滅や」

「話は平行線ね」

「わかり切った事やろうに」

「あなたが言い出した話じゃない」

 

 ヴィクトリアの杖とレイの棒が交差する。

 互いが互いを打ち据える。

 互いに吹き飛ぶ。

 

「「ファイア!」」

 

 互いが砲撃を打ち合う。

 砲撃は重なる爆発を起こす。

 黒煙は晴れ、互いの姿が露わになる。

 

「おおおおおおッーーー!」

 

 レイがヴィクトリアに接近する。

 レイがヴィクトリアの杖を掴み、引き寄せる。

 ヴィクトリアは強化された筋力でこらえる。

 そのまま2人は杖を引っ張り合う。

 

「それを寄越せ!」

「渡すものか!」

 

 レイの帽子が開く。

 中から現れたのは火炎放射器だ。

 

「生憎、俺は世界を救うためならどんな手でも使う主義でね!」

 

 火炎がヴィクトリアを襲う。

 しかし、ヴィクトリアは杖から手を放そうとしない。

 それどころか、魔力で全身を覆い、火炎に耐えている。

 

「チッ、厄介な真似を」

「生憎、私は神を復活させるためならどんな手でも使う主義なのよ!」

「人のセリフをパクるな! ただのやせ我慢のくせに!」

 

 その時だった。

 地響きが鳴り響く。

 震源地は中央の奥津城だ。

 誰もが奥津城を見やる。

 奥津城の扉が開こうとしていた。

 

「間に合わなんだか!」

「神が! Cthulhuが復活だ!」

 

 ヴィクトリアが叫ぶ。

 のそり、のそりと奥津城から巨体が這い出てくる。

 その姿は見覚えがあるものだった。

 イカともタコともつかない頭部。類人猿の様な胴体、コウモリのような羽。

 しかしその色はあまりにもくすんでいた。

 青とも緑とも灰色ともつかない色の体色は見ているだけで吐き気を催させる。

 奥津城から異臭がむわりと這い出てくる。

 思わず誰もが鼻を押さえ、屈んでていた。

 そのおかげでその姿を直接見やることはなかったのは幸運だろうか。

 

「全員、見るなぁーーーっ!」

 

 レイがあらん限りの声で叫ぶ。

 Cthulhuが復活した。




 外伝は、中々書けないなあ……。
 それは、まあ、置いといて。
 海底都市ルルイエが浮上する。
 ヴィクトリアの目論見は果たして成就するのか。
 それともレイがそれを阻止するのか。
 そしてとうとう復活したCthulhu。
 この先何が待っているのか、神ですらわからない。
 待て次回!

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