魔法神話 レイ&アフーム ~もしもリリなの世界にハジケた奴らと邪神が絡んできたら~   作:ショーン=フレッチャー

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 前回のあらすじ
 Cthulhu、復活。

 ※今話では残酷な表現が含まれます。それでもいいという方はどうぞ、お読みください。


第17話 邪神降臨

 アースラ艦内は大パニックだった。

 クトゥルー復活と共に失神するもの、発狂するものが続出したからだ。

 レイのお守りのおかげで最小限の被害で済んだのは言うまでもない。

 

「あれがクトゥルー……」

 

 プレシアが呟く。

 

「あれをどうにかできるんでしょうか?」

 

 シャマルが不安そうに言う。

 

「今はレイくんを、皆を信じるしかありません」

 

 リンディの声は微かに震えていた。

 

 

 

 

 

「ミスター・クロウ! ミスター・ド・マリニー!」

「わかっている!」

 

 レイがクロウとド・マリニーに呼びかけると時空往還機の扉が開く。

 そこから黄金色の光が這い出てきた。

 黄金色の光はやがて形を成す。

 クタニドが地球に降り立ったのだ。

 

「クトゥルー! 今一度雌雄を決しようぞ!」

 

 クタニドが目覚めたばかりのクトゥルーに向かっていく。

 

「さてとこちらは」

 

 レイが目を向けた方向にはクトゥルー復活の知らせを受けて活性化した眷属共がいた。

 触手を備えた肉塊、右腕のムナガラー、巨大な半魚人の父なるダゴンに母なるハイドラ。

 彼の息子達、ガタノゾーア、イソグサ、ゾス=オムモグに木星に封印された娘達ヌクトサとヌクトルーも動き出していることだろう。

 ヴィクトリア含めた深きものども(Deep Ones)は感動しているのか微動だにしない。

 奥津城からCthulhuによく似た小さな落とし子、クトゥルヒも這い出てくる。

 その様子になのは達は動くことも出来ない。

 

「レイよ、ここから先は」

「うむ」

 

 アフーム=ザーに言われ、レイは頷く。

 

「みんな、ここまでおおきに。ここから先は神の領分や。人の仕事はここまでや」

「そんな……」

 

 クロノが力なく言う。

 

「アフーム=ザーよ」

「相分かった!」

「「封印解除! 殲滅形態(ジェノサイド・モード)!」」

 

 レイがアフーム=ザーに解放者の鍵(Remorter’s Key)を差し込み回す。

 アフーム=ザーから膨大な量の魔力が噴出する。

 

「アジスアベバー! あびゃばびゃびゃばやばやびゃばびゃびゃばっばやびゃびゃば!」

 

 アフーム=ザーがレイに抱き着きその顔を舐め回す。

 レイの顔はなぜか劇画調である。

 

「あれだけの力だ、きっと理性すら狂わせてしまうんだろう」

「オッペラスッチョンコーポレーショーン!」

 

 ユーノが分析したとおりだと、みんな信じたかった。

 

「ふう、準備運動終わり!」

「「「「「「うそーん!?」」」」」」

「アフーム=ザーよ、秩序六神よ、我らが神よ、ご武運を」

 

 レイ、デビッド、櫻子がアフーム=ザーに対して跪く。

 

「うむ、レイもな、それじゃ、がんばるぞい!」

 

 アフーム=ザー、秩序六神がそれぞれの髪の色と同じ色の魔力を纏いながら眷属達の方へと飛んでいく。

 

「さてと、俺は俺の仕事をしますか」

 

 レイが顔のよだれをふきながら体を伸ばす。

 

「レイくん、仕事って?」

 

 すずかの問いにレイは答える。

 

「心臓を守るお仕事や」

 

 ヴィクトリアとカプセルに向かってクトゥルーの触手が伸びてくる。

 それを防がんとクタニドも触手を伸ばす。

 ヴィクトリアは受け入れるように両腕を広げる。

 そこにレイが割り込む。

 そして、触手を細切れにしたのだった。

 

「散髪『触手床屋の三郎さん』!」

「おのれ! どこまでも邪魔をするつもりか!」

「あたり前田のクラッカーや。俺はまだあきらめとらんのでな」

「往生際の悪い!」

「よう言われる」

 

 レイとヴィクトリアが睨み合う。

 

「さ、みんな早くアースラへ!」

「でも!」

 

 なのはが悲痛な声で叫ぶ。

 

「俺は引き際を心得とる。さ、早く!」

 

 レイに促され、櫻子、デビッド、クロウとド・マリニー以外はアースラへと戻る。

 それを見届けると、5人はクトゥルーへと向き直る。

 

「さて、ここが人類存亡の瀬戸際だ。気張っていくぞ!」

「「「「おう!」」」」

 

 クロウに発破をかけられた戦士たちはそれぞれの戦いへと赴く。

 奥津城正面ではクトゥルーとクタニドが組み合っている。

 アフーム=ザーはクトゥルヒを殲滅しながらクトゥルーを背後から攻撃する。

 クトゥグァはムナガラーに張り付く。

 クトゥドェはガタノトーアに相対する。

 クトゥクヒはダゴンとハイドラに向かい合う。

 クトゥシャはヌクトサとヌクトルーを迎え撃たんと、木星へと飛び立つ。

 クトゥピェはイソグサに勝負を挑む。

 クトゥジィはゾス=オムモグとぶつかり合う。

 クロウとド・マリニーは時空往還機からのビームでアフーム=ザーや秩序六神の援護を。

 金剛=ダイヤモンド家の3人は心臓がクトゥルーの手に渡らないようにする仕事をしていた。

 櫻子とデビッドがカプセルに群がる深きものども(Deep Ones)を屠っていく。

レイはヴィクトリアと一騎打ちを再び始めた。

 

「「心臓は絶対に渡さん!」」

 

 戦いは加速していった。

 

 

 

 

 

「なんだよこれ……」

 

 ヴィータが思わず呟くほど、アースラ艦内は大混乱だった。

 気絶する者、発狂する者、それを介抱する者でまともな運営が出来なくなっていた。

 阿鼻叫喚の渦の中、プレシアが寄ってくる。

 

「お帰りなさい、あの、金剛=ダイヤモンド家の皆さんとクロウさん、ド・マリニーさんは?」

「残ったわ、今も戦ってる」

 

 プレシアの問いに、アリサが答える。

 

「戦ってるって、あれと?」

 

 プレシアが示す方向にはムナガラー、ダゴン、ハイドラと戦うクトゥグァとクトゥクヒ、時空往還機が映し出されていた。

 

「あの一家は心臓を渡さないようにしてるわ」

 

 別のモニターには彼の一家の戦いが映し出されている。

 

「みんな、大丈夫かな」

 

 フェイトが呟く。

 誰もその問いにすぐに答えられるものはいなかった。

 

「大丈夫だよ、ね?」

 

 アリシアも不安そうに呟く。

 

「信じるしかない、彼らの無事を、勝利を」

 

 シグナムが自分に言い聞かせるように言い放つ。

 誰もが祈るようにモニターを眺める。

 

「ああっ!」

 

 はやてが叫ぶ。

 モニターでは真っ白に凍り付いたハイドラがカプセルの方へと倒れこもうとしていた。

 

 

 

 

 

 カプセルに向かってハイドラが倒れこむ。

 それを察知した金剛=ダイヤモンド家の3人は素早く離れる。

 遅れてヴィクトリアも離れる。

 カプセルにハイドラの頭部が衝突する。

 その衝撃でカプセルが粉々に砕け散る。

 

「母なるハイドラよ! 感謝します!」

 

 ヴィクトリアがハイドラの下敷きになった心臓の欠片目掛けて駆け出す。

 

「させん!」

 

 レイもまた心臓の欠片に向かって駆け出す。

 しかし、距離を取り過ぎたのが仇になったのか数多の深きものども(Deep Ones)に阻まれる。

 その間に、ハイドラの頭の下から、心臓の欠片が取り出される。

 しかし、それはレイの手によってあらかじめ封印されていた。

 

「大丈夫か? 大丈夫やろな!?」

 

 ヴィクトリアはデバイスから全ての心臓の欠片を取り出す。

 

「甦れ! 心臓よ! 偉大なるCthulhuの心臓よ!」

 

 Cthulhuの心臓が輝き始め、一塊に集まり始める。

 そして封印が剥げていく。

 

「あ、ああ」

 

 レイが悲痛な声を上げる。

 

「あはははははは! ついに! ついに心臓が完成した! これで悲願は達成される! お母さま、おばあ様! 私は遂にやり遂げました! これで……」

 

 それ以上、ヴィクトリアが言葉を紡ぐことはなかった。

 銃声がする。

 ヴィクトリアの額から鮮血が噴き出す。

 ヴィクトリアは後ろに大きくのけ反ると、そのまま倒れ込む。

 その目はかっと見開かれている。

 レイの手にはリボルバーが握られている。

 銃口からは僅かに煙が漂う。

 レイは倒れ込んだヴィクトリアに近づく。

 レイは無言で完成したクトゥルーの心臓を抱えると、クトゥルーを見やった。

 クトゥルーは心臓に手を伸ばさんとし、クタニドがそれを押さえつけている。

 

「レイ! 絶対にそれを渡すでないぞ!」

 

 クタニドが声を上げる。

 レイは無言でうなずくと、心臓を抱えて走り出した。

 

 

 

 

 

 アースラは凍り付いていた。

 レイがヴィクトリアを殺した。

 その衝撃が全員を襲っていた。

 

「アイツ、なんてことを……!」

 

 かろうじてヴィータが絞り出すように声を出す。

 モニターでは真っ白に凍り付いたダゴンが倒れ伏す様子が映し出される。

 その様子に歓声が起きる様子はない。

 クロノは歯噛みしている。

 その顔は悔しさで大きく歪んでいた。

 

 

 

 

 

 クトゥルヒをいとも容易く殲滅していくアフーム=ザーは絶好調だった。

 彼女だけではない、秩序六神がそれぞれの仕事を終えつつあった。

 全力の3割しか出せないとはいえ、彼女達は神である。

 所詮眷属では相手にならなかったということか。

 木星へと飛び立った風神クトゥシャも間もなく戻ってくることであろう。

 彼女達はクトゥルーを取り囲みながらちまちまと攻撃を当てていく。

 非常に繊細な作業ではあるが、彼女たちはそれをやり遂げていた。

 一方の地上では、心臓を抱えて走るレイと、それを追いかける深きものども(Deep one’s)、それらを追い払うデビッドと櫻子という状況になっていた。

 レイはラグビープレーヤーの様に両手でしっかりと心臓を抱えながら走る。

 そのレイから心臓を引きはがさんと前後左右から深きものども(Deep one’s)が迫ってくる。

 レイはそれらを元素の魔力で覆った足で蹴り飛ばしたり、全身に元素の魔力を纏いながらのタックルで吹き飛ばしたりしながら確実に進んでいた。

 レイ達は奥津城の背面、すなわちクトゥルーの背後を目指す。

 迫りくる深きものども(Deep one’s)は3人の手で次々と殺されていく。

 しかし、深きものども(Deep one’s)は同胞の死を気にすることなく3人に襲い掛かる。

 3人が通った後には血だまりと多くの深きものども(Deep one’s)の死体が転がっている。

 3人はそれを一顧だにすることなく、際限なく迫ってくる深きものども(Deep one’s)をひたすら殺し続ける。

 そこに感情も感慨もない、失敗すれば地球文明が終わる、それを阻止せんがためただひたすら殺戮の限りを尽くす。

 

「てけり・り! てけり・り!」

「てけり・り! てけり・り!」

 

 いつの間にか、巨大な紫色のスライム状の生物、ショゴスに囲まれる。

 

「ちっ! こいつらか!」

「厄介な真似を!」

 

 デビッドと櫻子が歯噛みする。

 その時、天から稲妻が降り注ぎ、ショゴス達を消し炭に変える。

 レイ達が天を見上げると、そこにはアフーム=ザーがいた。

 

「こやつらは妾に任せよ!」

「助かった!」

 

 天から銀色の弾幕が降り注ぎ、ショゴスや深きものども(Deep one’s)を次々と死体に変えていく。

 レイ達は弾幕の雨の中を駆け抜けていく。

 クトゥルーの手の届かない背面へと。

 そのクトゥルーはというと、見事に押されていた。

 目覚めたての上、心臓が無いため全力を出すことが出来ない。

 そこに自らの半兄弟であるクタニドに体を押さえつけられている。

 あまつさえ、周囲から秩序六神によって攻撃され、肉体が崩壊していく。

 両腕はクタニドの両腕で押さえつけられ、顎の触手もまたクタニドの触手で絡めとられている。

 この状況ではとてもではないが心臓を取りに行く事は出来ないだろう。

 可能性があるとすれば、眷属が心臓を持ってくることぐらいしかない。

 クトゥルーが一縷の望みに賭けている頃、レイ達は奥津城の背面へとたどり着いていた。

 彼らの周囲には数多の深きものども(Deep one’s)やショゴスの死体が転がっている。

 レイは必死に解放者の鍵(Remorter’s key)をCthulhuの心臓に突き立てる。

 しかし、封印されるのは僅か数秒だけ、強制的に封印が解かれてしまうのだった。

 

「やはり、再びバラバラにする以外に方法は無さそうやな」

「どうするのじゃ?」

「強力な旧神のエネルギーを与えるぐらいしか思いつかん」

 

 レイはクタニドに念話を送る。

 

(クタニド師、Cthulhuの心臓をもう一度バラバラにする方法何ですが)

(それならば、我々旧神の力がいる。強力なエネルギーをぶつければ、心臓は分割される)

(ありがとうございます)

 

 レイは早速、秩序六神に念話を送る。

 

(こちらレイ、こちらレイ、Cthulhuの心臓の破壊に貴殿らの力が必要と分かった! 至急協力を要請する、オーバー!)

((((((了解、オーバー!))))))

「それでは行ってきます」

「「行ってらっしゃい」」

 

 デビッドと櫻子に見送られ、レイとアフーム=ザーは天高く飛びあがる。

 空中には既に秩序六神と時空往還機が待ち構えていた。

 

「ほんじゃ、行きます!」

 

 レイがCthulhuの心臓を真上に放り上げる。

 秩序六神がCthulhuの心臓を指さし、エネルギーをぶつける。

 真下からアフーム=ザーが銀色のエネルギーをぶつける。

 真上から時空往還機の光線が降り注ぐ。

 心臓に罅が入る。

 

「! 行ける!」

 

 心臓にエネルギーが衝突しているせいで、クトゥルーは苦悶の呻き声を上げる。

 心臓の罅が大きくなっていく。

 そして、心臓が割れ、再び欠片になる。

 

「今や!」

 

 レイが懐から解放者の鍵(Remorter’s Key)を取り出すと、心臓に次々と突き立てていく。

 クトゥルーの心臓に旧神の力がコーティングされ、そこにレイの封印が加わることで、完璧な封印が施されたのであった。

 レイとアフーム=ザーは空中の心臓を全て拾い集める。

 秩序六神は再び指先にエネルギーを込める。

 

「「「「「「撃ち抜け!」」」」」」

 

 クトゥルーの脳天を真上から六色のエネルギー光線が貫く。

 体を縦に貫通されたクトゥルーは断末魔の悲鳴を上げながら崩れ去っていく。

 その様子をクタニドは静かに眺める。

 誰もが、勝利を確信した。




 ……今回の話は作中屈指のビターを誇ると思います。
 皆さんも何か思うところはあるでしょう。
 しかし、レイくんはこの時、確かに殺意をもってヴィクトリアを殺しました。
 そのお陰かは分かりませんが、無事にCthulhuを倒せました。
 それは喜ばしいのですが、果たしてレイくんはこれからどうなってしまうのか。
 次回、管理局は決断を迫られる。

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