魔法神話 レイ&アフーム ~もしもリリなの世界にハジケた奴らと邪神が絡んできたら~ 作:ショーン=フレッチャー
レイの事か……、レイの事かーーー!!!
レイの体が空中で爆散する。
誰もがその様子を眺めることしか出来ない。
「レーーーーーーイ!!!」
アフーム=ザーの声がルルイエに響き渡る。
這い寄る混沌は満足気に頷く。
「うん、これで頭は潰した。これで君達は大いに弱体化したわけだ。それでは僕はこれで失礼するよ。いろいろとスケジュールが立て込んでいてね。まあ、楽しみにしててよ。今度は僕の計画を実行する番だからさ」
そう言うと、這い寄る混沌は黒い霧となってかき消える。
レイの体が、ルルイエの固い石畳に衝突する。
ぐちゃりと生々しい音がする。
レイの服は点々と真っ赤に染まり、元の色が分からなくなっている。
レイの体が動くことはない。
デビッドと櫻子が恐る恐るレイに近づく。
デビッドが脈を、櫻子が息を測る。
誰もがレイに近づいていく。
デビッドと櫻子は顔を見合わせると、静かに首を横に振る。
アフーム=ザーはがくりと膝をつく。
「嘘、じゃろう。レイ、どうせ、いつものようにハジケていれば何とかなるのじゃろう。のう、レイよ、レイよ……」
アフーム=ザーの目からは知らず知らずの内に涙が溢れていた。
クタニドは天を仰ぐ。
「何故、こうなった……」
レイの突然死はアースラを悲しみと衝撃で覆いつくした。
あまりの出来事に誰もが反応することが出来ない。
「嘘、やろ」
はやてがぼそりと呟く。
誰もその声に答える者はいない。
あまりのことに誰もが呆然としている。
突然のこと過ぎて頭が働かないのだろう。
涙を流すという反射すら、今の彼女達には出来ない。
「……レイくんのバイタル、確認できません」
エイミィが何とか絞り出すように報告する。
その事実が、レイの死をはっきりと意識させる。
「……武装隊、遺体の回収を」
クロノが嗚咽交じりの声で武装隊に命令する。
「「「「「「……はい」」」」」」
武装隊がしずしずと行動に移る。
「……くそっ!」
クロノはコンソールをガンと叩く。
その顔には悔しさと悲しみが滲んでいた。
レイの遺体は回収後、丁寧に縫い直されるために、処置室へと運ばれた。
その間、誰もが終始無言だった。
アフーム=ザーに至っては未亡人ルックであった。
レイの遺体が処置室から出てくる。
レイの遺体には白い布が掛けられ、その姿を見ることは叶わない。
顔の部分の布がめくられる。
苦悶の表情で絶命した顔も、今は穏やかに目を閉じている。
その顔にも縫った後が見られる。
「そうやった、人が死ぬって、こんなにも悲しいことやった……」
はやてが嗚咽交じりの声で言う。
「うああああああっーーー!」
アリシアが泣き崩れる。
誰よりも気丈で明るかった彼女が感情のままに泣いている。
堰を切ったように誰もが泣いていく。
「お前は、偉大な戦士だ……」
シグナムがレイを称えながら泣く。
「すげえよ、お前はすげえ奴だったよ……」
ヴィータが顔をくしゃくしゃにする。
「……」
ザフィーラは無言で天を仰ぐ。
その目には確かに光るものがあった。
「レイくん……」
シャマルがぽろぽろと涙を流す。
(一歩間違えれば私も……)
リインフォースがレイと自分を重ねながら涙を流す。
「この、あほんだら!」
あすかが泣きながら悪態をつく。
エストはあすかの肩に手を置きながらさめざめと泣く。
「う、ううっ、レイくん……」
はやての顔は涙ですっかりびしょびしょだった。
「死ぬ順番、間違えてるわよ……」
プレシアがむせび泣く。
「レイ、レイ……」
フェイトは大粒の涙をぼろぼろとこぼしている。
「馬鹿ぁー! 何で死んじまうんだよっー!」
アルフが大声を上げながら泣き崩れる。
「何故、こんなことに……」
リニスは嗚咽を漏らしている。
「お前が死ぬなんて、聞いていないぞ……」
クロノがこらえきれない涙を流している。
「レイくん……」
リンディも涙をこらえきれていない。
「馬鹿ぁ……」
いつもは強気な姿勢を崩さないアリサもこの時ばかりは泣いていた。
「う、うう」
すずかもさめざめと泣いていた。
「偉大だよ、君ってやつは……」
ユーノも男泣きでレイの死を悲しむ。
「レイくん、レイくん……」
なのは顔を伏せ、泣き崩れる。
「レイ、こんなにも悲しんでくれる友達が……」
櫻子が静かに涙を流す。
「レイ、お前はよく戦った……」
デビッドがレイを褒め称えながら泣く。
「レイよ、何故妾を置いて逝く……」
アフーム=ザーが号泣する。
クロウも、ド・マリニーも、秩序六神も目に涙を浮かべ、レイの死を悼む。
レイの死は誰の心にも暗い影を落とした。
アースラブリッジ。
ここもまた悲しみに包まれていた。
なんやかんやでレイはバックヤードからは人気があった。
何しろ、バックヤードの重要性をよくわかっている少年だったからだ。
彼がバックで動いたお蔭でP・T事件も、闇の書事件も円満解決に至った経緯がある。
そのような意味ではレイは見事な指揮官になるだろうと誰もが思っていたし、そうなったとき一緒に働いてもいいと思える人物であった。
オペレーターの一人が涙を拭いたその時だった。
アースラに何か映像ファイルが送られてくる
それを開いた時、モニターに異常が発生した。
「これは!? ウイルス!?」
オペレーターは警報スイッチを押す。
艦内にアラートが鳴り響く。
すぐさま、リンディたちがブリッジへとやってくる。
誰もが目を真っ赤にしている。
「何事ですか!?」
リンディが鼻声で叫ぶ。
「わかりません! 動画ファイルが送られてきたかと思うと、この有様で」
「動画ファイルが! 勝手に開きます!」
動画ファイルがウィンドウに展開され、モニターに映し出される。
映っていたのは、白い背景に、黒人少年、這い寄る混沌だ。
「「「「「「這い寄る混沌!」」」」」」
誰もが怒気を含んだ声で叫ぶ。
「あーあー、マイクテス、マイクテス。皆さん聞こえてますか、いつもニコニコあなたの隣に。這い寄る混沌です。この動画は全管理世界と第92管理外世界、地球の全てのデータ端末に送付しています、ちゃんと目を通してね。しかし、這い寄る混沌というのは名前としていかがなものか。よし、これから僕はミスターNと名乗ることにします。覚えてくださいね」
這い寄る混沌、改めミスターNは動画の中でにこやかな笑顔を浮かべている。
その様子が、アースラクルーの神経を逆撫でさせる。
「今回何でこの動画を作ったかと言いますと、結論から言います、あと3日ぐらいでで人類は滅びまーす。
「何でかと言いますと、まあ、それは僕の所為なんですがね、まあ、タイミングがあったからですかね。
「別にふざけている訳じゃないですよ、本当にたまたまなんです。
「んじゃ、説明していきますね、地球の皆さん、詳しい説明は後で政府か国連からあると思うので、担当の人は頑張ってくださーい。
ミスターNはにこやかに手を振る。
「まず前提として、この世界には魔法、魔術というものがあります。
「次元世界の人たちは何を言っているんだ、と思うかもしれませんが、これは魔法を知らない世界にも送っているので説明が必要なんですよ。
「同時に、魔術と言う異なる体系の魔法技術もあるので、そこについても説明してしまいたいと思います。
「まず、魔法とは、端的に言うと魔力と言う素粒子を用いて展開される科学技術です。
「故に数式で表現することが可能です。
「次元世界ではポピュラーな技術であり、魔法を用いて発展しているという歴史があります。
「一方の魔術は、霊的な存在の力を借りて行われる、神秘的な技術ということになります。
「神とか、天使とか、悪魔とか、そういったものの力を借りて力を行使するんです。
「言ってしまえば、オカルト体系ですね。
「地球には魔術を扱う専門の国際機関があるんですって、公にはされていないけど。
「とまあ、こんな違いがあるんです。
「とりあえず、魔法魔術が存在するってことを覚えておいてください。
ミスターNは一息つくと、また話し始める。
「それでは、今回の事件のあらましについて話したいと思いまーす。
「事の発端は1人の少年があるロストロギア、あ、過去世代の遺物ですね、それを発掘したことから話は始まります。
「ハートストーンと名付けられたそれはなんと超古代の邪神の心臓だったのです!
「しかし誰もそのことを知りません、時空管理局の誰もね。
「あ、時空管理局というのは簡単に言うと複数の次元世界を管理する組織の事です。
「知っていたのはこの事件に関わっている者の中では2人だけ、邪神復活を企む管理局の女と、復活を阻止しようとする地球の少年。
「少年はハートストーンを集めないように管理局相手に力説しますが、なしのつぶて。
「仕方なく少年は管理局相手に妨害行為を仕掛けます。
「しかし、ハートストーンは順調に集まっていきます。
「少年の妨害行為もうまくいかず、途中で失敗してしまいます。
「なんと、ハートストーン最後の1個は地球にありました。
「管理局はなんと何としてもそれを集めるように担当者に圧力をかけてきました、組織って怖いですね。
「一方の少年も何としても集めさせないように策を巡らします。
「そしてハートストーンを巡ってぶつかり合う両者!
「しかし少年の策も空しく、ハートストーンは全て集まってしまいます。
「ここにきて管理局の担当者は全てを知ります、遅いですね。
「そして今まで戦っていた相手と手を取り合って、ハートストーンを奪い返しに向かいます。
「場所は邪神が眠る城、地球は南太平洋のルルイエ!
「そして少年の活躍もあって、なんやかんやあって邪神は復活したけど、すぐに倒されちゃって、管理局の女は少年に射殺され、心臓は再びバラバラになったのでした。
「めでたしめでたし、じゃないんだなあ。
「なんと、その少年を僕は殺しちゃいました。
「だって邪魔だったんだもん、僕の計画を絶対邪魔してくるからね。
「聞いているかい、アフーム=ザー、君の愛した英雄の事だよ。
這い寄る混沌は煽るような口調で、ふざけているかのように笑う。
「そうそう、僕の計画についてだ。
「別に僕の計画の目的に人類絶滅は含まれていないんだよね、結果的にそうなっちゃうだけで。
「僕の計画の目的は今回殺されてしまった邪神の復活。
「その副産物で人間の心が壊れちゃうだけなんだよね。
「それこそ、先程地球で起きた一斉ヒステリーをもっと酷くした様な感じにさ。
「あれ、凄かっただろう? 突然人が叫びだしたり、酷い頭痛が起きたり、狂ったような事件や事故が起きたり、妙なビジョンが見えたりさ。
「多分地球全体で起きていたはずだよ。
「一応、地球の国際機関が秘密裏に対策していたみたいだけど、それでも防ぎきれなかったみたいだね。
「それを第1管理世界、ミッドチルダの首都、クラナガンで起こそうってだけなんだ。
「別に妨害してもいいんだよ、出来るものならね。
「ていうか、ちゃんと信じているのかな?
「僕は真実しか話していないつもりだけど。
「こういうスケールの大きい話って、信じられにくいからね。
「だから、信じてくれるように、この動画の最後に先の戦いの映像を載せておきまーす。
「加工とかしていないことは調べればすぐにわかるからね。
「それじゃあ、よい終末を!
ミスターNが手を振る。
動画が切り替わり、クトゥルーとクタニドの戦いが映し出される。
「これは、どういうことなの……」
リンディが呟く。
「わからない、奴が何を考えているのか、まるでわからない」
デビッドが頭を抱える。
「奴は混乱を楽しんでいるんだ」
クロウが言い放つ。
「奴は、這い寄る混沌はわざと情報を公開することで人類が慌てふためくさまを眺めて悦に入っているんだろう」
「性悪だな」
ド・マリニーが吐き捨てるように言う。
「這い寄る混沌は旧支配者の中で唯一人類に明確なアプローチを仕掛けてくる神格だ。だがそのアプローチは悪意の塊だ。決して気を許せるものじゃない」
「今のでよくわかりました」
クロウの言説にリンディは答える。
動画はレイとヴィクトリアの戦いを映し出している。
誰もがこれから訪れるであろう、事態にどう対処していいかわからなかった。
解っているのはただ一つ、このままではいけないということだけだった。
しかし、どのような行動をとればいいのか、具体的に言えるものはいなかった。
動画はまだ続いている。
レイが死に、アースラは深い悲しみに包まれる。
しかしその直後、這い寄る混沌によって次元世界と地球に混乱がもたらされる。
この事態に人類は、神々はどのように立ち向かうのか。
物語は終わらない、例え主人公が死んだとしても。
感想、お返事待ってます。