魔法神話 レイ&アフーム ~もしもリリなの世界にハジケた奴らと邪神が絡んできたら~ 作:ショーン=フレッチャー
悲しみと、怒りの、アースラ。
アースラでは今後についての話し合いが行われていた。
「地球は真実を公表しなければならなくなった。時空管理局の事、魔術の事、そして今回の事件のこともな」
デビッドが苦々しそうに言う。
「これで今までの秩序は崩壊する! たった1本の動画でここまでの騒ぎを引き起こすとは、這い寄る混沌、何を考えている」
「それよりも目の前の差し迫った事態や、クティーラを見つけんとクトゥルーが復活してまう」
櫻子は焦るような声色だ。
「それについて報告があります」
リンディが静かに言う。
「今回の一件を正確に把握しているのは私達以外にありません。そのことを上に報告したところ、本件について私達アースラは超法規的権限を得ることになりました。本件の解決のために如何なる措置を取ってもいいと通達されました」
どよめきが起きる。
「それは……」
はやてが言葉に詰まる。
「上はようやく事態が逼迫していることに気付いたのかどうかは分からないが、とにかく、これで僕達は巨大な権限を得ることになった」
クロノが言う。
「……レイが聞いたらどう思うだろうな」
「遅すぎる、って怒るんじゃない」
クロノの独白にアリサが合わせる。
「ああ、言いそう、そして思い切り悪い顔しそう」
すずかも言葉を合わせる。
そのまま全員黙ってしまう。
誰もが沈んだ顔をする。
「……ここから先の作戦行動は非常に危険であると私は判断します。私はこれ以上皆さんを危険に晒したくはありません。ですから、ここから先の作戦はアースラのみで行おうと思います」
再びどよめきが起きる。
「じゃあ、私達は?」
「帰って、ください」
はやての問いにこらえるように答えるリンディ。
「何で!? まだなんも終わっとらんで!」
「みんなをこれ以上失いたくないからよ! わかってよ! 誰が予想できたというの? レイくんが、死ぬなんて……」
童女の様にわめくリンディに誰も何も言えない。
誰もが限界だった。
「……っんああああああああ!」
あすかが突然大声を上げる。
「このままでは未練が残る! みんなそうやろが! レイの奴に何も恩返しできんと、せめてこの事件くらいは俺たちの手で解決せんと、未練が残るやろが!」
「そうよ、未練が残るのよ」
アリサが口に出す。
「後悔するのよ、ここで何にもできないと、アイツが守りたかったものが全部消えてしまうんじゃないかって、怖いのよ。だからリンディ提督、わがままは言わないわ、でもせめてこの事件を最後まで見届けたいのよ」
全員がアリサの言葉にうなずく。
「そうだね、このままだとみんなすっきりしないだろう。どうだろう、せめて見届けるくらいはいいんじゃないだろうか」
ド・マリニーが言う。
「……みんな、こういう時に限って自分勝手なんだから。いいでしょう、同行を認めます。だたし命令順守ですよ」
「「「「「「はい」」」」」」
誰もが返事をする、アフーム=ザーを除いては。
「アフームちゃん?」
なのはがアフーム=ザーの顔を覗き込む。
その顔は陰鬱で、覇気がない。
「妾は、行かん」
そう言うと、アフーム=ザーは駆け出す。
「アフームちゃん!?」
なのはが声をかけるも、アフーム=ザーはそれを振り切る。
咄嗟のことに誰もが動けない。
だが、すぐになのは達が追いかける。
ド・マリニーも追いかけようとするが、クロウに止められる。
「ここは彼女たちに任せようじゃないか。我々大人があれこれ言うより、友達の声の方が届くかもしれない」
クロウの言葉にデビッドと櫻子も頷く。
「そういうものか」
クトゥピェが呟く。
「きっと、そういうものなのです」
リンディが答える。
アフーム=ザーが逃げ込んだ先は仮眠室だった。
一足遅れてなのは達も仮眠室にたどり着く。
仮眠室の扉が開く。
中には、巨大な段ボールハウスがでんと置かれていた。
段ボールハウスに入り口や窓のようなものは無く、完全な密室の様であった。
段ボールハウスの中からは中島みゆきが聞こえてくる。
恐らく、この段ボールハウスの中にアフーム=ザーがいるのだろう。
「アフームちゃん、聞こえる?」
すずかが声をかける。
段ボールハウスの中から返事は無い。
「私達は、レイくんの敵を討ちたいの。レイくんの無念を晴らしたいの。アフームちゃんもそう思うでしょ」
「私達が出来ることは少ないかもしれへん。それでも、少しでも、レイくんに恩返しができたらなあ、ってだけなんよ」
はやても段ボールハウスに向かって声をかける。
「アフームもさ、一緒に戦おうよ。みんな悲しいんだ。でも、私達はそれ以上にレイのために戦いたいんだ」
アリシアも段ボールハウスに向かって声をかける。
少ししてから、段ボールハウスから声がする。
「妾には、わからぬ。妾がどうしたいのか、わからぬ。今まではレイがどうにかしてくれていた。じゃが、レイのいない今、妾は何をすればよいのかわからぬ」
「アンタは、レイがいなきゃ何も出来ないって訳!?」
アリサが一喝する。
「そうじゃよ、妾はいつもレイに導かれてきただけ、レイの付属品にすぎぬ。神などと名乗ってはおるが、その実態はただの装置に過ぎん」
「アンタねえ! 何言ってるのよ! 自分で考え、自分で行動しているアンタのどこが装置ですって! ふざけないでよ! アンタしかいないのよ! この中でアンタがアイツら邪神と戦える力を持っているのよ! そのアンタがここで動かなかったらどうなると思う! レイの守りたかったものが全部なくなっちゃうのよ! それでもいいっていう訳!?」
「アフームちゃん、神様だっていうなら、私達の、レイくんの友達のお願いを聞いて。戦って、レイくんが守りたかったものを守るために」
すずかがアフーム=ザーに願いをかける。
「お願いなの! このままじゃ……」
「お願い!」
「お願い! レイのために!」
「お願いや! みんなアフームちゃんを頼りにしとるんや」
なのは、フェイト、アリシア、はやてがアフーム=ザーに願いをかける。
「……それでも、妾は、動きとうない。レイなき世界に、意味を見出せぬ」
「意味ならある!」
なのはが叫ぶ。
「私達がいる! 私達友達でしょ! 私達じゃ理由にならない!? みんなアフームちゃんの友達で! レイくんの友達だよ! 私達じゃあ動く理由にならないの!?」
しばらく無言が続く。
「……みんな勝手じゃ。こういう時に限って、救いを求める。レイを引き合いに出して、妾を動かそうとする。本当は妾とて動きたい。レイの敵を討ちたい。じゃがな、それ以上にレイがいないことが悲しいのじゃ。レイは妾の全てであった。レイがいたからこそ、この世界を愛おしく感じることが出来た。そのレイがいない今、頭では分かっていても、心が追い付かないのじゃ」
アフーム=ザーの言葉に誰も何も言えないでいた。
やがてあすかが呟く。
「この様子を見て、アイツは、レイは何て言うやろな」
少ししてからアフーム=ザーの声がする。
「レイならば、きっと、妾を叱咤するじゃろう。そんな子に育てた覚えはありまへん! とでも言いそうじゃ。ああ、そうじゃ。レイはいつだって行動する人間じゃった。理屈倒れじゃが、それでも行動する人間じゃった。レイならばきっと動くのじゃろう。僅かな勝ち筋を見つけてはそこに向かって進むのじゃろう。妾にも、出来るじゃろうか」
「出来る出来ないじゃないわ、やるかやらないかよ」
アリサが言い放つ。
「そうじゃな、レイならば、きっと言われずともやるじゃろう。そうじゃ、やるのじゃ。誰に何と言われようと己を貫くのがレイのやり方ではなかったか」
「だとしても、あれはやりすぎだと思うけどね」
アリシアが呆れるように言う。
「そんなレイの背中を妾は見続けてきたのではないか。ここで動かなかったら、妾はレイに叱られてしまうな。出来ることをしなかったせいで、多くの物を失うくらいなら、ここで動かねば」
「そうだよ、レイなら、きっとここで動けって言うよ」
フェイトがアフーム=ザーを励ます。
「動け! 妾の体! 今ここで動かんで何とする! この世界を、レイとの思い出の詰まった宝石箱を守るために! 動け! 動け! 動け!」
「そうだ、動くんだ。さもなくば、待っているのは!」
ユーノがアフーム=ザーに声をかける。
「……後悔と自責。そんなのは
段ボールハウスが吹き飛ぶ。
莫大な魔力が放出されると同時に、アフーム=ザーの姿が露わになる。
アフーム=ザーはなのは達に背を向けていたが、しっかりと立っていた。
そして何故か全裸だった。
「「「「「「何で全裸!?」」」」」」
あすかとユーノは目を塞ぐ。
それが男のエチケットである。
アフームは首だけ振り向くと、にっと笑う。
「ありがとう、お蔭で大切なものを失うところじゃった」
「「「「「「その前に服を着て!」」」」」」
「行こう、皆が待っておるのじゃろう? 皆には迷惑をかけた。一言謝らなければな」
「「「「「「服を着て!」」」」」」
「さあ、行こう! 後は野となれ山となれじゃー!」
「「「「「「だから服を着てー!!!」」」」」」
アフーム=ザーは悠々とブリッジに向かう。
なのは達はそれを必死に引き留めるのであった。
何とか服を着たアフーム=ザーを引き連れ、なのは達はブリッジに戻った。
「先程は迷惑をかけてすまなかった」
アフーム=ザーはブリッジをしながら詫びる。
「うん、何でブリッジなんだ?」
クロノが疑問を呈する。
「手っ取り早く陳謝の気持ちを伝えるにはこうするしかなくてな」
「余計分からんからやめてくれ」
アフームはしぶしぶブリッジを止める。
「それより、これからの行動を決めなくてはなりません。我々は何をすべきか、まずはそれを決めましょう」
リンディが口を開く。
「それなんですが、その前にIMSに連絡を入れてもいいでしょうか?」
デビッドが声を上げる。
「先の動画に対するIMSの対応が知りたいのです。それ如何によっては私達の行動も決まってきます」
「解りました。許可します」
リンディの許可を受けたデビッドは早速IMSと通信を繋ぐ。
やがてモニターにはIMSの紋章が映し出される。
通信が始まった。
「こちら金剛=ダイヤモンド家です。至急理事会と繋いでいただきたい」
「畏まりました」
オペレーターの無機質な声からしばらくして、老人の声がする。
「連絡をありがとう、デビッド=K=ダイヤモンド君。丁度君達に連絡を入れようとしていたところだよ。管理局の船から直接連絡を入れてくるとは予想外だったがね」
「恐縮です。それで今回連絡を差し上げた件ですが」
「解っている、動画の件と君の息子の件だろう。動画の件については心配いらない。全てこちらで対応することにしよう。幸いにも君の息子が遺してくれた資料が大量にあるのでね。記者質問には困らないだろう」
「それは、息子も浮かばれましょう」
「そして、君の息子の件についてだ。先程理事会で決定したことだが、君達夫婦にはこのまま君達の息子の敵討ちを行ってもらいたい」
「それは」
「恐らくだが、君達は管理局と協力関係を築いたのだろう? 心臓の欠片を奪われた時点で管理局の女性局員が犯人であることは報告を受けている。であるならば協力して対応していたのは容易に推理出来る。君達はこのまま管理局と協力してCthulhu復活に対応してもらいたい」
「畏まりました」
「それから、管理局の方々」
その言葉に、アースラクルーは背筋を伸ばす。
「くれぐれも、宜しくお願いしますよ」
「はい、心得ております」
リンディが返事をする。
「そして、クトゥグァ、クトゥドェ、クトゥクヒ、クトゥシャ、クトゥピェ、クトゥジィ、アフーム=ザーよ。我ら人の子をお守りください。汝らのために戦った偉大な少年のために」
「「「「「「任せよ」」」」」」
秩序六神とアフーム=ザーは揃って答える。
「それではこれで失礼しよう。我々の未来に幸あらんことを」
通信が切れる。
「これで我々は、大手を振って作戦に参加できることになりました」
「よろしゅう御頼み申します」
デビッドと櫻子が改めて挨拶をする。
リンディは頷くと、声を上げる。
「それでは、作戦会議を始めます」
「まずは、我々がどう動くべきかだ。その方針を固めたい」
クロノが意見を促す。
「這い寄る混沌はクラナガンでCthulhuを復活させようとしています。であるならば、既にクティーラはクラナガン近海にいるのでは」
「その可能性は非常に高いだろうな」
デビッドの意見にクロウが賛同する。
「ならば、クラナガン近海を徹底的に捜索する必要があるね」
「今出来ることと言ったらそれくらいしかあらへんしなあ」
ド・マリニーの提案に櫻子も賛同する。
「それでは、ミッドチルダ、クラナガン近海を徹底的に捜索するという方針でよろしいでしょうか」
「その前に一つやってほしいことがあるのじゃが」
アフーム=ザーから提案が出される。
「何ですか?」
「何、妾達の信仰獲得のための一手じゃよ。パワーにブーストをかけるための方策じゃ」
「それは一体?」
クロノが問いかける。
「記者会見じゃ!」
「「「「「「記者会見!?」」」」」」
その言葉に一同驚愕するのであった。
レイを失ったことで進むべき道を見失ったアフーム=ザーであったが、友の声に応えその心を奮い立たせる。
アフーム=ザーが示した策、記者会見の意味とは一体?
次回、前代未聞の記者会見が幕を開ける!
感想、お返事待ってます。