魔法神話 レイ&アフーム ~もしもリリなの世界にハジケた奴らと邪神が絡んできたら~   作:ショーン=フレッチャー

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 前回のあらすじ
 知っているのか! ライデン!


第22話 再誕のCthulhu

 アースラでは日夜クティーラの捜索が続いていた。

 クラナガン湾近海を中心に捜索が続いているが、結果は出ていない。

 クロウとド・マリニーも時空往還機の次元位相変化機能で捜索しているが結果はなかなか芳しくない。

 誰の心にも焦りが出ていた。

 

「まだ見つからないのか!」

 

 クロノが声を荒げる。

 無理もあるまい、誰もが同じ気持ちなのだから。

 しかし、口に出してしまえばその思いは伝播し、加速する。

 なお一層のイラつきがクルーの間に広まっていく。

 

「クロノ君、一段とイライラしているね」

「無理もないわ、まだ、見つからないから」

 

 すずかとアリサは事の成り行きを見守っていた。

 彼女達もまた苛ついていた。

 命令順守とという条件とは言え、何も出来ないでいる現状が恨めしいのだ。

 こういう時にバックヤードでも活躍できるレイはつくづくずるい男だと2人は思った。

 

「こういう時に何も出来ないのは辛いな」

 

 後ろからあすかが声をかける。

 

「俺もや、俺みたいに剣しか能のない男はこういう時に何も出来ん。恨めしいわ」

 

 あすかはクロノ達を見やる。

 クロノはオペレーター達と共に画面をつぶさに眺めている。

 彼らの目には隈が出来ている。

 ほとんど寝ていないのだろう、誰もが血走った赤い目をしている。

 

「こんな時、アイツだったら迷わず動くでしょうね」

「うん、そして成果を上げるんだよね」

 

 アリサとすずかが遠い目をする。

 

「アイツは戦うよりもこっちで活躍することの方が多かったからなあ。俺とは違うて何でも出来た」

「アイツは私達の中で一番バックヤード向きだったわ。と言うより指揮官適性が一番高かったわね」

 

 あすかとアリサが顔を見合わせる。

 

「言っていることは無茶苦茶だし、適当だけど、何か説得力と言うか、言葉に力があったよね」

「ほんまにな、何でやろ」

 

 すずかの言葉にあすかが同意する。

 

「そこがアイツの不思議な所よね。私も人より頭がいいという自覚はあるわ。でも、アイツに至っては別次元よ。頭の中身がまるで違うと思うわ」

「私も、レイくんだけは別格だと思う。頭の良さも、おかしさも」

 

 アリサの意見にすずかも頷く。

 

「アイツはなあ、いい意味でも悪い意味でも凄い頭の持ち主やったからなあ」

 

 あすかの言葉にアリサとすずかは頷く、そして3人は黙り込む。

 言いようのない沈黙が場を支配する。

 

「……アイツは、これからもっと活躍すると思ってたわ」

「俺もや」

 

 アリサの言葉にあすかが頷く。

 

「レイくんは、どこへ行っても、思うがままに生き続けると思っていた」

「俺もや」

 

 すずかの言葉にあすかが頷く。

 

「ホント、何が起こるか分からないわね」

「本当に、うん、本当に」

 

 再び3人は黙り込む。

 その時だった、クロウとド・マリニーから連絡が入る。

 

「見つけたぞ! クティーラを見つけた!」

「何だって! 場所は!」

 

 クロノが待ってましたとばかりに飛びつく。

 

「今丁度真上にいる、座標はそちらで特定してくれ」

「座標特定しました!」

 

 オペレーターが喜色満面で答える。

 これで激務から解放されるかと思うと、さもありなんである。

 

「わかった、2人共直ちに帰還してください。情報をまとめましょう」

「ああ、わかった、と言っても厄介であることには変わらないんだがな」

「どういうことです?」

 

 クロウの含みのある言い方に疑問を持つクロノ。

 

「それは帰ってから言うよ」

 

 クロウの返事には喜びは一切感じられなかった。

 

 

 

 

 

 アースラのブリーフィングルームではクロウとド・マリニーの報告を聞くためにメンバーが集められていた。

 

「まず聞いてほしいのは、クティーラはこの次元の位相にいないってことだ」

「次元の位相?」

 

 クロウが発した謎の言葉にフェイトが反応する。

 

「なんて言えばいいのかな、専門家じゃないからうまく説明できるかわからないけど、僕たちのいる空間とはずれたところにいると思ってくれればいいよ。そしてそのずれは角度で表現されるらしいんだ」

「空間のずれ……、レイならわかるかな?」

 

 アリシアが呟く。

 

「多分僕よりうまく説明できると思うよ。そして、ずれた空間にクティーラはいるからこちらかからは見えないし干渉できない。時空往還機だけが干渉できるって訳なんだ」

「それじゃあ、何とかなるん?」

 

 はやての問いにクロウはかぶりを振る。

 

「いや、時空往還機だけではクティーラをどうこう出来ない。ビームの出力が弱いし、あれは精神力をエネルギーにしている。クティーラの前に僕たちがやられてしまうよ」

「アフームちゃん達の力は? 神の力だったらどうにかなるんじゃないの?」

「そうじゃな、うまくいきそうではあるが、どうかの? クロウ」

 

 なのはの言葉を受け、アフームがクロウに確認を取る。

 

「いや、やっぱり瞬間最大出力不足で期限までにクティーラを滅しきれないと思う。時空往還機というフィルターを通すわけだから、彼女達の自慢である超火力を生かしきることが出来ないんだ。下手をすれば早産でクトゥルーの復活が早まってしまうかもしてない。やるんだったら大火力で一気に滅ぼすのが理想なんだけど。それを可能にする大型の時空往還機を操縦できる技術を持った人が用意できないんだ」

「それじゃあ、現状打つ手なしってことか?」

 

 あすかが言う。

 

「そうだね、そうなってしまうね」

 

 ド・マリニーがその言葉を肯定する。

 場が静まりかえってしまう。

 

「クティーラを隠したのは恐らく這い寄る混沌だろう。出産する瞬間に位相を変化させて、こちら側にクトゥルーを呼び出すつもりだろう」

「それまで何も出来ないっていうのか!」

 

 クロウの言葉を受けクロノが憤りを隠そうとしない。

 

「クタニドは先の戦いで疲れている。力を借りる事は出来なさそうだ」

「ますます絶望的やな」

 

 ド・マリニーの言葉にあすかが静かに言う。

 

「幸いにも、この前の様に眷属が出てくるわけじゃない。クティーラは出産で消耗しているだろうから、クトゥルー一体だけを相手にすることになるだろう。余計なことを気にしなくていいのは楽かもね」

「妾達の精神的には、じゃがな」

 

 クロウの言葉にアフーム=ザーが返す。

 

「……出来ることは全て行いました。後はアフームさんに任せるしかありません」

 

 リンディが静かに言う。

 

「任せておれ、信仰ブーストもかかっておる。負けんよ、妾達は、負けんよ」

 

 アフーム=ザーが、秩序六神が静かに闘志を燃やす。

 来るべき決戦に備えて。

 

 

 

 

 

 クラナガン市内のとあるビルの屋上、ミスターNはそこにいた。

 この日がクティーラの出産予定日である。

 

「はいどーも! いつもニコニコあなたの隣に這い寄る混沌ミスターNです。

「今日はクティーラちゃんの出産日ということでね、もうすでに出産が始まっています!

「今日は出産の様子を全管理世界と第92管理外世界、地球に生放送しちゃいたいと思います!

「こんなものを見たら、みんなの精神が狂ってしまうかも!

「でも、そんなの関係ないもんね、これは単なる生理現象だから。

「そしてこの生理現象によって、人の時代は終わりを迎えるのさ!

「始まるのは神々の時代!

「人間は神にすがることでしか生きていけなくなる時代がやってくるのさ!

「さあ! クトゥルーの再誕だ! 新たな秩序の誕生だ!

「ハッピーバースデー! クトゥルー!

「やかましいわ、貴様ー!」

「グハア!」

 

 恐竜の着ぐるみを着たアフーム=ザーがキックをミスターNに喰らわす。

 

「噴!」

 

 アフーム=ザーが恐竜の着ぐるみを気合で破く。

 

「貴様には、恐竜の足すら、生ぬるい」

「ぐぐぐ、君、別の意味で狂ってないかい?」

「黙れ下郎、貴様の所為で何万何億もの人が死ぬと思う。レイの遺志は妾が継ぐ。世界平和のために貴様はそこで乾いていけ」

「世界平和って、大きく出たね、本当に彼がそんなことを?」

「さあな、少なくとも貴様の望んどる事態は阻止したいと考えておったじゃろう」

「でも、現にこうして僕の思惑通りに事は進んでいる。彼は負けたんだ」

「いや、まだ終わっとらんよ。妾達がいる!」

 

 アフーム=ザーが、秩序六神が、クロウが、ド・マリニーが強くミスターNを見据える。

 

「今の君達に何が出来る? 復活したての秩序六神に人間が2人。君に至っては正気になってから6年しかたっていないじゃないか。力も経験も不足している君達に宇宙開闢から存在し続けている僕が負けるとでも? あっはっは、とんだお笑い草だね」

 

 声を上げて笑うミスターNに一同は眉をひそめる。

 

「這い寄る混沌、人間を舐めるなよ。我々人間には可能性の力がある。例え今貴様に敵わなくても、いずれ人間が貴様に牙を剥く時がきっと来る」

 

 クロウが肩を震わせながら、ミスターNに向かって言い放つ。

 

「ジョークがお上手だね、そんな日が来ることはないよ。そうだね、たとえ全人類が僕に向かっていったとしても、僕が負けることは万に一つもない。何故なら僕は外なる神だから。外なる神を物理法則に縛られた人間が倒す事は出来ないよ」

「人の力を侮るな! 人間の団結力は時として恐るべき力を生む! それこそ、邪神を殺すくらいの力をな!」

 

 ド・マリニーが怒号を上げる。

 

「はいはい、そういうこともあるかもね。僕はその実例を知らないけれど」

 

 ミスターNの軽い返しに一同は歯噛みする。

 アフーム=ザーはきっとミスターNを見据えると、口を開く。

 

「……クティーラを召喚せんのか?」

「君達がいるせいで召喚できないんだよ。どうせ出産する前に殺す気だろう?」

 

 ミスターNの軽い問いかけに、一同は頷く。

 

「正解じゃ。ついでに貴様が見せようとしている出産シーンを封じるのもな」

「これはやられたね、君はヘロデ王の様に生まれたての赤ん坊を殺す気かい?」

「クトゥルーは救い主かの? むしろ悪魔の子としか思えぬよ」

 

 アフーム=ザーの言葉を気にすることなく、ミスターNは何処かを眺めるような素振りをする。

 その方向には何も見当たらない。

 

「……ああ、今頭が出てきた」

 

 その言葉に一同は戦慄する。

 

「! 答えろ! クトゥルーをどこに出現させる気だ!」

 

 クトゥピェが怒号を上げる。

 

「ここから見えるところさ。だからここにスタンバっていたんだけど」

「……市内に産み落とすつもりだったか」

 

 クトゥジィが肩を震わせる。

 

「うん、でも結局道中で産気づいちゃって、ここになっちゃった。予定通りにはいかないものだね」

「どこであろうと十分な被害は出るじゃろう、この外道が。おまけに世界中に出産映像を公開とか、どんなプレイじゃ」

 

 アフーム=ザーが強がるように肩をすくめる。

 

「……君、そういうことを言うもんじゃないよ。品性が疑われる」

「心配するでない、妾はドMじゃ」

「そういうことじゃないんだよなあ」

 

 ミスターNは溜息をつく。

 しかし、その素振りに隙は無い。

 

「心臓は、Cの心臓は既に使ったのか?」

 

 クトゥグァがミスターNに尋ねる。

 

「ああ、あれね、見事な封印だったよ。解除するのに今の今までかかったんだから。さっきクティーラに与えてきたよ。無事にクトゥルーに届いているといいけど」

「……そうか」

 

 クトゥグァは静かに呟く。

 

「あれ、意外に驚かないんだね」

「貴様が心臓を何に使うかなど、大体の予想がつく」

 

 クトゥシャがミスターNを射殺すような目つきで言い放つ。

 

「そう、それじゃあ対策もしているわけだ」

「もちろん、対策はあるとも」

 

 アフーム=ザーが額に汗をにじませながら言う。

 

「教えてくれないかな、後学のために」

「大したことではない、ただの気合じゃ」

 

 アフーム=ザーの言葉に、ミスターNは一瞬虚脱感を感じる。

 

「気合?」

「左様、気合でどうにかする。ただそれだけじゃ」

 

 ミスターNは大声で笑う。

 一同は如才なくその様子をじっと眺めている。

 

「それが対策!? 策にもなっていないじゃないか!」

「それが妾達の精一杯じゃよ。受け取るがいい、笑うがいい。それでも最後に勝つのは妾達じゃ」

「ああ可笑しい。ギャグとしては最高だよ」

「お褒めに預かり恐悦至極じゃ」

 

 両者は睨み合う。

 ミスターNの目は何処までも一同を見下したものであり、一同はそんなミスターNに負けじと目力を強める。

 一瞬、ミスターNが遠い目をする。

 その方向には何も見えないが、恐らくその方向にクティーラがいるのだろう。

 

「……今、生まれ落ちた」

 

 ミスターNが呟く。

 その一言に一同は肩を震わせる。

 

「左様か!」

「ようし! 世界のみんな、刮目するがいい! これが生まれ落ちたクトゥルーだ!」

 

 ミスターNが指を鳴らすと。突如として町中に巨大な躯体が召喚された。

 建物が崩れ、土煙が舞う。

 その姿が世界に向けて露わになる。

 タコともイカともつかない頭部、類人猿の様な胴体、コウモリのような羽。

 間違いなくそれはクトゥルーであった。

 クトゥルーが再誕した。




 ミッドチルダの地に、クラナガンの地に、Cthulhuが産まれ落ちる。
 それは次元世界が初めて経験する危機でもあった。
 果たしてこの戦いの行方は一体?
 次回、世紀の決戦再び。
 そして、あの男が久々に登場する。
 感想、お返事待ってます。

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