魔法神話 レイ&アフーム ~もしもリリなの世界にハジケた奴らと邪神が絡んできたら~   作:ショーン=フレッチャー

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 前回のあらすじ
 邪神、復活。


第23話 ドアをノックするのは誰だ?

 生まれたてのクトゥルーが一つ、大きくいななく。

 それと同時に邪悪な精神波が放たれる。

 それは瞬く間にミッドチルダに広がり、未曽有の事態を引き起こしていることだろう。

 いや、現にクトゥルーの巨大な躯体が地上に降臨しているのだから、この時点で大災害になっているのだろう。

 再誕したクトゥルーを前に歯噛みする一同。

 一方のミスターNは満面の笑みを浮かべる。

 アフーム=ザーはそんなミスターNを睨みつける。

 

「……これで勝ったと思うなよ、這い寄る混沌。すぐにクトゥルーを滅却して貴様も滅却する!」

「威勢のいいことで、でも出来るかな?」

「出来る出来ないの問題ではない、やれるかやれぬかじゃ!」

「いやそれ同じ意味じゃない?」

 

 ミスターNが冷静にツッコむ。

 

「娘よ、こやつは我々が抑える。お前は一刻も早くクトゥルーを屠るのだ」

「母上達……」

 

 クトゥジィの言葉にアフーム=ザーは臨戦態勢になる。

 

「我々も手伝おう」

「正直奴相手に出来ることはないからね、僕達は僕たちの出来ることをさせてもらうよ」

 

 クロウとド・マリニーが参戦を表明する。

 

「クロウ、ド・マリニー、感謝する」

 

 そう言うと、アフーム=ザーは神々しい銀色の光に包まれると、天高く舞い上がる。

 クロウとド・マリニーもそれぞれ時空往還機に乗り込み、高く浮かび上がる。

 そして3人はクトゥルーへと向かっていく。

 

「レイ、妾は、頑張っておるぞー!」

 

 前代未聞の、世紀の大決戦が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 アースラではなのはたちが動向を見守っていた。

 

「やはり復活は止められなかったか……」

 

 ユーノが歯噛みする。

 

「でもこれが一番精神衛生上最良の策何でしょう?」

 

 シャマルが言う。

 

「うん、そしてそれが私達の出せる最高の策でもある」

 

 すずかが言う。

 

「これでもし、アフームちゃんが負けたら……」

 

 フェイトが不安そうに言う。

 

「そういうことは言わない方がいい。勝つさ、シルバー、いやアフーム=ザーは」

 

 シグナムがフェイトをたしなめる。

 

「そうだ、勝つんだ」

 

 クロノが力強く言う。

 

「僕たちが勝って、次元世界の法と平和は守られるんだ」

 

 全員がモニターを見つめる。

 アフーム=ザーとクトゥルーの戦いが映し出されていた。

 

「苦しいな、何も出来ないのは。結局最後は人任せになるんだから」

 

 シグナムが呟く。

 

「それは私達も思ったわ」

 

 アリサが言う。

 

「だったら俺たちに出来ることをすればええ」

 

 あすかが力強く言う。

 

「信じよう、勝利を、アフームの勝利を」

 

 

 

 

「突撃隣の晩御飯!」

 

 巨大しゃもじを手にアフーム=ザーがクトゥルーに襲い掛かる。

 クトゥルーはそれを顎の触手で迎え撃つ。

 

「断ち切れ!」

 

 しかし、触手はしゃもじと時空往還機から放たれたビームによって切り裂かれてしまう。

 

「ボディ! ボディ! ボディ!」

 

 アフーム=ザーの纏うエネルギーが固体となってクトゥルーの体にパンチを浴びせる。

 追い打ちと言わんばかりに時空往還機から白いビームが放たれる。

 クトゥルーは懐のアフーム=ザーを捕まえようとする。

 しかしそれよりも早くアフーム=ザーは離脱する。

 既にクティーラは産後の消耗している段階でアフーム=ザーによって焼き殺された。

 しかし、クトゥルーはその亡骸を喰らうことで、パワーアップを果たしていたのだ。

 クトゥルーの悍ましい所業に眉をひそめるアフーム=ザー。

 この光景が全世界に垂れ流されているのかと思うと、アフーム=ザーに悪寒が走る。

 

「ここまででかくなれば、一気に潰すのは難しいな」

 

 アフーム=ザーにはクトゥルーを確実に屠る手段が思い浮かばなかった。

 相手は自分よりも巨大な相手である。

 エネルギー体を纏った神の状態であったとしても、その差は歴然だった。

 前回はクタニドを含めた全員で協力することで何とか殺すことに成功した。

 しかし、今のクトゥルーは心臓を備えた完全体である。

 今の自分で十分だろうか、とアフーム=ザーは不安になる。

 

「じわじわと削っていくしかないの」

 

 アフーム=ザーは笑みを浮かべる。

 こんな時だからこそ余裕を持たなければならない。

 レイの口癖で、信条だった。

 

「レイよ、妾はもう導かれるだけの小娘ではないぞ。其方の生き様はしかと刻み付けた」

 

 アフーム=ザーがスペルカードを取り出す。

 

「かようにデカブツであれば避けるのもままならんであろう?」

 

 アフーム=ザーがスペルカードを発動する。

 

「六元『永劫不滅のエレメンタル・パーティー』!」

 

 火が、雷が、氷が、風が、水が、土がクトゥルーに襲い掛かる。

 それは誰もが息をのむ美しさであった。

 銀色と虹色の6元素の弾幕がクトゥルーに四方八方から降り注ぐ。

 

「これで少しは、削れてくれよ……!」

 

 アフーム=ザーの額には汗が浮かんでいる。

 クトゥルーは一つ大きくいななく。

 戦いはまだ終わりそうにない。

 

 

 

 

 

 ビルの屋上ではミスターNが実況を続けていた。

 ミスターNの周りを秩序六神が取り囲み、監視している。

 そのような中でもミスターNは高らかに謳うように実況を続ける。

 

「みんな見てくれよ、この幼児虐待の様子をさ!

「酷いと思わないかい? 生まれてくる命はみんな平等だろう?

「だからみんなやりたいことやろうぜ!

「殺したい奴は殺せ! 破壊したい奴は壊せ! 死にたい奴は死ね! 迷惑かけたい奴は存分に暴れろ!

「クトゥルーがこの世界を支配する様になったら、いや、数多くの旧支配者たちが蘇ったらそんな素敵な世界が待っているんだぜ!

「だからみんな応援してくれ! クトゥルーに勝利を!

 

 ミスターNが画面の向こうに呼びかける。

 それが届いているかはどうかは誰にも分からない。

 

 

 

 

 

 冥府へと至る道は寂れており、侘しいものではあるが、数多くの魂で賑わってもいた。

 彼らは一言も発することなくただ静かに流れに身を任せている。

 その中にかつてレイ=金剛=ダイアモンドと呼ばれた魂が流れていた。

 同級生の中では頭一つ飛びぬけた高身長も、亡者の群れの前では左程意味をなさない。

 老若男女の魂の流れに身を任せるその姿に、嘗てのキング・オブ・ハジケリストの面影は無い。

 薄暗いトンネルのような道を抜けると、そこは川であった。

 川には橋が架かり、渡し守が川を横断している。

 河原では若く幼い霊が石塔を積み上げては、鬼に崩されている。

 

「三途の川、か」

 

 レイがぽつりと呟く。

 それが声となってはっきりと響いたかどうか分からない。

 レイは懐に手を入れる。

 そこには渡し賃らしきものは無かった。

 レイは溜息をつく。

 目の前の子供たちと同じように、自分も石塔を積み上げては崩される悪夢みたいなルーティンワークに従事しなければならないのかと思うと、さもありなんである。

 

「久しぶりだねえ」

 

 背後から聞き覚えのある声がかけられる。

 振り向くと、桃色の髪をした大振りの鎌を持った一人の少女がいた。

 

「小野塚、小町……?」

 

 レイは驚きのあまり、言葉に一瞬詰まる。

 

「何で幻想郷担当のあんたが?」

 

 少女、小野塚小町はにっかりと笑う。

 

「上からの命令でね、アンタを案内しに来たのさ。アンタにふさわしい地獄にね」

 

 地獄、と聞いてレイは消沈する。

 レイは目を閉じ、溜息をつく。

 

「……僕は裁きを受けられんのですか?」

「裁きはそこで待ってるのさ。あたしはそう聞いているよ」

「……左様ですか」

 

 レイは一つ大きく息を吐く。

 

「……案内してもらいましょか」

「あいよ、一名様ご案内」

 

 そういうと二人は船に乗って三途の川を渡る。

 道中レイは無言だった。

 自分は本当に死んだのだと改めて実感したのだ。

 センチメンタルな気分に浸っていると、いつの間にか船が彼岸へとついていた。

 

「ここが?」

「いいや、もう少し歩く」

 

 小町に先導され、荒々しい岩だらけの道を進んでいく。

 しばらく歩くと、そこは禍々しい造りの門にたどり着いた。

 オーギュスト・ロダンの『地獄門』もかくやと言った佇まいであった。

 その門にレイは思わず唾を呑む。

 

「ここが?」

「そうさ、ここがあんたにふさわしい地獄さ。裁きは向こうで待ってるよ、さ、行った行った」

 

 小町に促され、レイは門を開ける。

 眩しい光がレイの目を刺す。

 レイは思わず目をつぶる。

 やがて目が慣れてくると、そこには驚愕の光景が広がっていた。

 

「なななななななんじゃここはーーー!!!」

 

 そこにいたのは地獄を覆いつくすほどの虚空戦士(ハジケリスト)達。

 彼らは謎の車輪を足で回したり、逆さ吊りにされていたり、巨大なタービンを協力して回したりしていた。

 

「ここは虚空戦士(ハジケリスト)地獄! 生前一流の虚空戦士(ハジケリスト)だったものが送られる最終就職場! 誇れ! 貴様は一流のハジケリストとして認められたのだ!」

 

 ルービックキューブをいじりながらズッキーニの格好をした男がレイの隣で解説する。

 レイはズッキーニ男からルービックキューブをひったくると遠くへ投げ飛ばした。

 

「うわーん! 僕のルービックキューブ~!」

 

 ズッキーニ男は泣きわめく。

 

「俺は本当に死んでもうたんやな……」

 

 レイが黄昏ていると、何者かが接近してくる。

 

「貴方達! 何をさぼっているのですか! 早く作業に戻りなさい!」

「ひいい! すいません、閻魔様!」

「閻魔!?」

 

 女性らしい良く通りながらも威厳を感じさせる声が響き渡る。

 女性の声に怯えるズッキーニ男。

 レイはその声に聞き覚えがあった。

 その声の主を見た時、レイの表情は驚愕に染まる。

 

「アンタは四季映姫・ヤマザナドゥ! 何でここに!?」

 

 幻想郷の閻魔、四季映姫・ヤマザナドゥであった。

 

「知り合いだからでしょうか、あなたに裁きを下すために派遣されてきました」

「ん? オイ見ろよ! あいつ、キング・オブ・ハジケリストだぞ!」

 

 レイの首にかかるキングの証を見た虚空戦士(ハジケリスト)達が騒ぎ出す。

 

「キング! 何故その若さでここに!?」

「殺されちゃったの」

「何と! キングが殺されるなんて」

「貴方達! 静まりなさい!」

 

 四季映姫・ヤマザナドゥの一喝で虚空戦士(ハジケリスト)達は静まり返る。

 四季映姫・ヤマザナドゥは閻魔帳を取り出すと、ぱらぱらとめくる。

 

「レイ=金剛=ダイアモンド、あなたの所業、しかと見させていただきました。あなたは概ね善行を為したといえるでしょう。しかし、あなたは少々やりすぎる所がある。何をするにも過剰に準備をし、行動する所があります。今回の一件に至ってもその傾向が大いに見られます。常に物事に対し怯え、過剰に反応するその姿勢はいささか不健康と言わざるを得ません。よってあなたは現世行きです。蘇り、今すぐ善行を為すのです」

 

 四季映姫・ヤマザナドゥの言葉にレイは驚きを隠せない。

 

「それは、どういうことで」

「これをご覧なさい」

 

 四季映姫・ヤマザナドゥが浄玻璃鏡を持ち出す。

 そこにはクトゥルーと戦うアフーム=ザーとクロウとド・マリニー、ミスターNを見張る秩序六神が映し出されていた。

 

「これは……」

 

 レイは絶句する。

 苦労して討伐したクトゥルーが蘇り、クラナガンに降臨しているのである。

 その光景にレイは絶望を禁じ得ない。

 

「閻魔よ、今ここで俺が蘇っても何ができるでしょう。相手は神々を集めて、それでようやく殺せたほどの邪神なのですよ。俺1人が蘇ったところで、どれだけの戦力差が埋まるか」

 

 レイの声に力は無い。

 レイは浄玻璃鏡に映し出された光景を見てすっかり心が萎えていた。

 その時だった。

 

「俺たちが力を貸そう!」

 

虚空戦士(ハジケリスト)の一人が声を上げる。

 

「微力だけど俺たちのハジケ力を合わせればきっと届く!」

「だからあきらめるんじゃねえ!」

「みんな……」

 

 レイが顔を上げると、そこには虚空戦士(ハジケリスト)地獄中の虚空戦士(ハジケリスト)が集っていた。

 彼らがレイに手を差し伸べる。

 レイがその手を取ると、レイの中から力が湧いてくるような気がした。

 かくして、レイは虚空戦士(ハジケリスト)達から力を分けてもらうのだった。

 

「俺は2Bの鉛筆」

「おおきに」

「俺はルーペ」

「おおきに」

 

 でも半分は捨てた。

 

「最後に生者のエネルギーがあれば、貴方は現世へと戻れるでしょう」

 

 四季映姫・ヤマザナドゥが静かに言い放つ。

 

「しかし閻魔よ! そのエネルギーは一体どこから……」

「これを見てください」

 

 四季映姫・ヤマザナドゥが浄玻璃鏡を再びレイに見せる。

 そこには必死で祈る人々が映し出されていた。

 その中にはレイのよく知る人物もいた。

 彼らはクトゥルーが放つ精神波に苦しみながらも必死に祈っていた。

 その光景にレイは呆然とする。

 

「今世界中の人々が貴方の神々に祈りをささげています。その中には貴方への祈りも含まれているのですよ」

「俺への?」

「ええ、邪神と戦った貴方への鎮魂の祈り、そして、この状況を打破してくれる救世主への祈りです。その祈りのエネルギーは貴方が現世に戻るには十分な程あるのですよ」

 

 レイは祈りのエネルギーが自身に流れ込んでくるのを感じ始めていた。

 レイは静かに目を閉じ、エネルギーの高まりを感じ取っていく。

 それは、人々の持つ潜在的な力であり、誰もが持ちうるものであり、それを行使するには誰かの力を借りなければいけないものであることを、レイは理解した。

 その力を行使するものを、人々は神や英雄と呼ぶということもレイは理解した。

 レイは静かに目を開ける。

 

「みんな、おおきに」

 

 レイは静かに口を開く。

 

「不肖、レイ=金剛=ダイヤモンド、現世に戻り見事邪神を討伐して見せよう」

 

 そう言うとレイは、四季映姫・ヤマザナドゥや虚空戦士(ハジケリスト)達に見送られながら、力強く元来た道を引き返していくのだった。

 

 

 

 

 

 アフーム=ザーとクトゥルーの戦いは膠着していた。

 アフーム=ザーの放つ弾幕はクトゥルーを削っているのかどうかわからない。

 クロウとド・マリニーの放つ時空往還機のビームもまた、クトゥルーに対して有効な攻撃とは言えずにいた。

 ミスターNはなおも実況を続けている。

 

「そうそう、言い忘れていたことがあったんだけど、僕が殺した少年についてだ。

「彼ね、ブリリアント帝国の皇帝家、ニュートラル王家の末裔なんだよね。

「つまり、第6次元文化圏の正当なる支配者の血を受け継いでいるってわけだ。

「すごいよね、どこのラノベかよっ、て話だよ。

「アフーム=ザーの大神官にして、ブリリアント帝国の皇帝って、ねえ。

「正しく、努力、友情、血統、才能という少年漫画のツボを押さえているよね。

「全く、属性盛りすぎ、訳が分かん無くなるよ。

「貴様!」

 

 アフーム=ザーがミスターNの発言を聞いて激高する。

 

「妾の怒りが有頂天! お前、調子ぶっこいてた結果じゃよ!」

 

 アフーム=ザーの放つ銀色の砲撃がミスターNに降りかかる。

 しかし、ミスターNは黒い霧となって回避する。

 その隙にクトゥルーの重い一撃がアフーム=ザーに入る。

 

「「アフーム=ザー!」」

 

 クロウとド・マリニーが思わず声を上げる。

 吹き飛ばされるアフーム=ザー。

 地面はえぐられ、コンクリートが剥がれる。

 クレーターの中心にアフーム=ザーがヤムチャのように倒れている。

 彼女は立ち上がろうとするが、力が入らないのか、僅かに震えるだけである。

 そして黒い霧から戻ったミスターNは実況を続けるのだった。

 

「あーらら、これはもう決まりかな。

「人類の皆さん! おめでとう! クトゥルーの勝利ですので、この世界は自由と欲望のワンダーランドになります! あはははははは!

 

 その時だった、強烈なオーラがミスターNを襲った。

 そのオーラに覚えはなかったが、明らかに自分にとって敵性の存在であることは分かった。

 

「っ! 今のは!」

 

 ミスターNがオーラが発せられた方向を降り向く。

 するとそこには、痛車が浮いていた。

 

「「「「「「痛車!?」」」」」」

 

 アースラで一斉にツッコミが起こる。

 痛車から一人の男が降りてくる。

 その姿を見て、ミスターNは動揺する。

 

「貴様、確かに殺したはず!」

「貴様を地獄に送るため、舞い戻ってきてやったで。感謝せい」

「貴様、いったい何なんだ!」

「俺は100%レイ=金剛=ダイアモンド! そして100%カレーが好きな男でもある!」

 

 レイ=金剛=ダイアモンド、復活。




 レイ、復活。
 果たしてレイはこの戦いを変えることが出来るのか。
 次回、クライマックスが始まる。

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