魔法神話 レイ&アフーム ~もしもリリなの世界にハジケた奴らと邪神が絡んできたら~   作:ショーン=フレッチャー

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 前回のあらすじ
 Cthulhu爆発四散! サヨナラ!


第25話 少年よ神話になれ

 銀色とも虹色ともつかない光球がクトゥルーを飲み込む。

 光球は音も無く一瞬でクトゥルーの姿を掻き消す。

 その神々しい光景にアースラにいる面々は息をするのも忘れてその光を眺める。

 やがて光が収まっていく。

 爆発の跡には何も残っていない。

 

「……熱源反応、生体反応、共にありません。クトゥルーの完全消滅を確認しました」

 

 オペレーターの一人が絞り出すように報告する。

 報告の後もアースラの内部は静寂に包まれていた。

 

「勝った、んか」

 

 はやてがようやく口を開く。

 その後もしばらく静寂が続く。

 

「勝った、んやな。邪神相手に」

 

 あすかが気の抜けた返事をする。

 誰もが現実感の無さに襲われていた。

 妙な浮遊感が彼らを包んでいた。

 しばらくしてから、誰かが叫んだ。

 

「勝ったーーー!!!」

 

 その一言でアースラは歓声に包まれる。

 誰もが互いに抱き合い、勝利を祝う。

 中には涙を流すものもいた。

 正面のモニターにはレイとアフーム=ザーが映し出される。

 2人はしばらく光球の跡を眺めていたが、やがてアースラに気付いたのかカメラ目線になる。

 2人は画面に向かってピースサインをする。

 やがて2つのピースサインは接近していく。

 そして指の先端同士がくっつく。

 

「「ダブル!」」

「「「「「「何がしたいの!?」」」」」」

 

 思わずアースラの全員でツッコむ。

 その直後から笑いが起き始める。

 アースラの中はさっきまでとは打って変わって和やかな雰囲気になる。

 ふとクロノが画面を見ると、レイが下を指し示している。

 数回下を指し示した後、レイとアフーム=ザーは降下していく。

 その方向はミッドチルダだ。

 レイとアフーム=ザーはミッドチルダに向かって飛んでいく。

 

「迎えに行くわよ! あの2人を!」

 

 アリサが声を上げる。

 

「うん、行こう! クロノくん! リンディ提督!」

 

 なのはがクロノとリンディに確認を取る。

 

「皆まで言うな! 提督!」

「ええ! 行きましょう! みんなで!」

 

 リンディは涙を拭くと、オペレーターに命令を出す。

 

「転送ゲートを開いて! 今から指定する座標に!」

 

 

 

 

 

「勝った、か」

 

 クトゥドェが天を見上げながら呟く。

 秩序六神の誰もが天を見上げ、満足そうな表情を浮かべる。

 それとは対照的な様子なのがミスターNだ。

 

「勝っちゃったよ、あいつら勝っちゃったよ」

 

 ミスターNは呆然とした様子で空を見上げる。

 

「どうしよう、このままだと宇宙が終わってしまう。困ったなあ、どうしよう」

 

 ミスターNは必死に頭を回転させる。

 その表情は鬼気迫るものだった。

 

「プランを変更しなきゃ。もっと混沌(カオス)に、面白くしなきゃ。そうしないと宇宙が終わってしまう。困るよ、こんな面白い世界が終わってしまうなんて。兄貴も姉貴もご立腹だよ」

 

 ぶつぶつと呟きながらミスターNは計算する。

 どうしたらもっとこの世界を混沌(カオス)に出来るか。

 どうしたらもっとこの世界を面白くできるか。

 それこそが彼の存在意義、這い寄る混沌の役目である。

 

「こんな宇宙など終わってしまえばよいではないか」

 

 クトゥジィがミスターNに声をかける。

 ミスターNが頭を抱えながらクトゥジィを見やる。

 

「貴様らアザトースの忌み子が支配する宇宙など壊れてしまえばよい」

「それは、アザトースを目覚めさせる、ということかい?」

 

 ミスターNの問いかけにクトゥピェが答える。

 

「そうだ、奴を目覚めさせて、この宇宙を終わらせる。この世界に生きとし生ける全ての者を救済した後でな」

「なんてことを……、こんな面白い世界を壊そうってのかい!?」

 

 秩序六神は一斉に頷く。

 そしてクトゥドェが口を開く。

 

「旧神にとっては胸糞悪い世界だ。この世界での現象が他の宇宙に影響を与えんとも限らん。一刻も早くこの世界を滅却せねばならん」

 

 その言葉にミスターNは激高する。

 

「酷いよ! 折角ここまで面白くしたのに! まだまだ宇宙を面白くするアイデアがあるんだ! 悪いけど君達にこの宇宙を壊させるわけにはいかない! 僕はこの宇宙を守って見せる!」

「既に賽は投げられた。貴様の思い通りにいくか。私達は何としてもこの宇宙を破壊してみせるぞ。貴様ごとな」

 

 クトゥクヒがミスターNを力強く睨む。

 ミスターNは口角を引きつらせる。

 

「……どう思うんだろうね。この世界の人々は。この世界がただの夢だと知ったら」

 

 ミスターNは嘲るように言い放つ。

 クトゥシャが鼻を鳴らす。

 

「ふん、それを含めて我々が全ての魂を救済するのだ。それが済み次第、アザトースを叩き起こしに行くぞ。覚悟しておくんだな」

「させないよ。この世界は、アザトースの夢は終わらない。永遠にアザトースは眠り続けるんだ」

 

 クトゥグァがミスターNを睨みつける。

 

「夢はいつか覚めるものだ。始まりがある以上終わりというものは必ず存在する。我々がその終わりをもたらす。首を洗って待っていろ」

 

 クトゥグァの言葉を受け、ミスターNは高らかに笑いだす。

 ひとしきり笑った後、ミスターNは急に真顔になる。

 

「クトゥルーが死んだからアイツが動くのは確定。その周辺を焚きつけてみるか」

 

 ミスターNは決心した顔で空を見上げる。

 

「ラバン・シュリュズベリイ、君の蛮行、大いに利用させてもらうよ」

 

 そう言うとミスターNは一瞬で黒い霧となって消えた。

 秩序六神は苦々しい顔をする。

 なのはたちが転移してくる5秒前の事であった。

 

 

 

 

 

 空を覆っていた厚い雲が少しづつ消えていく。

 雲に切れ目が生じ始め、そこから陽光が差し込み始める。

 そこへ、アースラの面々が転移してくる。

 反対側から2機の時空往還機が降りてくる。

 時空往還機からクロウとド・マリニーが降りてくる。

 彼らは秩序六神の方へと駆け寄ってくる。

 

「勝ったよ!」

 

 アリシアが声を上げる。

 

「ああ、勝ったな」

 

 クトゥジィが柔和な顔で返事をする。

 誰もが空を見上げる。

 その上空ではレイとアフーム=ザーが虹色の透明な流線型のカプセルに包まれながら大気圏突破していた。

 カプセルは大気との摩擦で煌々と輝く。

 その光は地上からでも確認することが出来た。

 

「あっ、あれじゃない?」

 

 すずかが天に輝く光を指さす。

 

「どれどれ?」

 

 フェイトがその光を見ようとかかとを上げる。

 

「あそこ! あそこに2人が!」

 

 なのはは光を見つけたのか、しきりに指さす。

 

「どこ? どこにおるん?」

 

 はやては未だその光を見つけられずにいた。

 カプセルが放つ光はだんだんと大きくなる。

 カプセルは中間圏を突破し、成層圏へと突入する。

 雲は切れ目を増やし、いくつもの陽光の柱が作り出される。

 ビルの屋上ではなのは達が2人の到着を今か今かと待ち侘びている。

 

「あっ、見えた!」

 

 アリシアが声を上げる。

 

「おお、あれか」

 

 あすかもカプセルの姿を確認する。

 やがて、カプセルと地上との距離が縮まっていく。

 そして、なのは達の目の前にカプセルが着陸する。

 カプセルの中ではレイとアフームが直立不動のまま、腕をWのような形にしている。

 

「「「「「「キン消しみたいな格好してる!?」」」」」」

 

 2人のポーズはまさにキン肉マン消しゴムそのままであった。

 カプセルが割れ、2人が地上に降り立つ。

 待ってましたと言わんばかりに、一斉に皆が駆け寄る。

 たちまちの内に2人はもみくちゃにされる。

 

「「「「「「おかえり!」」」」」」

 

 皆が声を上げる。

 

「「ただいま」」

 

 レイとアフーム=ザーはやっとのことで返事を返す。

 それから皆が口々に2人をねぎらうような言葉をかけるが、一斉に言うので聞き取れない有様だった。

 始めは聞き取ろうとしていたレイとアフーム=ザーだったが、結局聞き取れないようだった。

 

「俺は聖徳太子ちゃうで!」

 

 思わずレイが叫ぶのも無理はない。

 そう叫んだあと、一同から笑いが起こる。

 

「何やもう。みんな勝手に言いおって」

「仕方が無かろう、死んだ者が生き返ったのじゃ。もう会えぬと思っていたのに、こうしてまた話が出来ることが皆嬉しくてたまらぬのじゃよ」

 

 困惑するレイにアフーム=ザーは笑みを浮かべながら声をかける。

 そんな中、あすかがあることに気付く。

 

「そういや、這い寄る混沌は?」

 

 その一言に皆が反応し、全員で辺りを見回す。

 俯き気味にクトゥピェが口を開く。

 

「奴は逃げた。どこに行ったかは分からん。だが、奴は次の計画について話しているようだった。恐らくその計画を実行するために動き始めたのだろう」

「次って、またこんな事件を引き起こす気なの!?」

 

 アリサが思わず叫ぶ。

 

「奴の事だ、直接は介入せんでも何らかのアクションは旧支配者側に仕掛けるだろう。そして大規模な被害をもたらす案件を促す。今回のようにな」

 

 クロウが真剣な面持ちで言う。

 誰もが今回の事件を思い返して身震いする。

 

「じゃがそんなことはさせぬよ、妾とレイがそのような事件を潰して回ると決めた。妾達が人類と秩序の守護神となろう」

 

 アフーム=ザーが胸を張る。

 

「よろしゅうお願いいたしますえ、我らが神、アフーム=ザーよ」

「新たに神となった息子をお願いします」

 

 櫻子とデビッドがアフーム=ザーに頭を下げる。

 

「神!? どういうことなん!?」

 

 はやてが思わず声を上げる。

 その声は上ずっていた。

 

「いや、多分一度死んで蘇ったからやと思う。世界には死んだことで信仰を得ている人物もおることやし。現に俺には神格が宿っとる。世界中の祈りが俺の力を引き上げてくれとるし、間違いなく俺は神になっておる」

 

 レイの台詞に誰もがぽかんと口を開ける。

 

「そんなのって、あるの?」

 

 なのはがようやっと言葉を発する。

 

「多分すごいレアケースだと思う。まさかこのような事態になるとは想像も出来ないよ。多分僕たちは歴史の生き証人になっているんだろうね。新たな神の誕生という歴史の転換点に立ち会ったことで」

 

 ド・マリニーが口を開く。

 

「そうじゃ、これは歴史を変える一大事である。それ故、デビッドと櫻子には頼みがある」

「「何でしょう?」」

 

 アフーム=ザーはデビッドと櫻子に向かって口を開く。

 

「合祀せよ! 妾とレイを共に祀るがいい! その信仰の力が妾達の旧支配者を打ち倒す力となろう!」

「「ははーっ!」」

 

 アフーム=ザーの神託にデビッドと櫻子が頭を下げる。

 

「俺が祀られる側になったか……」

 

 レイは感慨深げに天を仰ぐ。

 見た目少女に大の大人2人が頭を下げるという奇妙な光景がそこにはあった。

 

「ものの見事にカオスだな」

 

 クロノが呟く。

 

「でも、不思議と嫌な気分ではないな」

 

 クロノがレイに近づいていく。

 

「レイ!」

「ん?」

 

 レイがクロノの姿を確認したその瞬間、レイの手に手錠が掛けられた。

 

「え?」

「被疑者確保! 取調室を開けといてくれ!」

「え? ちょっと待って、俺が何をしたん?」

 

 レイはあまりの展開にうろたえる。

 誰もがこの状況を把握出来ていない。

 

「質量兵器禁止法違反と、危険運転致死傷罪、あと勝手に飛行物体を飛ばしたこともな」

「……緊急避難ということで」

「ダメだ。あきらめろ。資料映像はばっちり残っているんだ」

「……ガッデム!」

「ほら、歩け、安心しろ、中でかつ丼くらいはおごってやるから」

「わあい取調室でのかつ丼やー、って普通に食いたいわー!」

 

 取調室へと送られるレイ。

 その様子を誰もが呆然と眺めるのであった。

 

「こんなオチあり?」

 

 はやての呟きに誰もが首を横に振るのだった。

 

 

 

 

 

 翌日、レイは取調室から出ていた。

 

「うーん、娑婆の空気はええのう」

「1日だけでしょ」

 

 アリサのツッコミを意に介さず、レイは思い切り伸びをする。

 

「それにしても、よく1日で出れたね」

 

 すずかが不思議に思って声をかける。

 

「ああ、それはな、ちょいと司法取引をな」

「「「「「「やっぱり」」」」」」

 

 全員がそうだろうと思ったと言わんばかりの顔をする。

 

「言うても大したことやないで、管理局に邪神に対抗する部署を作り、そこに俺のポストを作ってもらうだけやで」

「え、それって、レイくんの部隊ってこと?」

 

 はやてが聞き返す。

 

「さあ? 俺がどういう形でその部署に関わるのかは分からん。ただ少なくとも、管理局は今回の件を相当憂慮しているってことは分かる」

「どうして?」

 

 なのはの問いにレイは答える。

 

「俺の出した条件をほとんどそのまま飲み込みおった! 管理局の上の人らは今回の件で相当被害を出したことに顔を青くしているそうや。この後もこのような事件が続くとなると、未然に防ぎたくなる気持ちもわかる。その邪神の専門家が雇える状況にあるんや、飛びつきたくなる気持ちもわかる」

「でもレイって組織とか似合わなさそうだから意外、自分から雇われに行くなんて」

 

 アリシアが驚いた様子を見せる。

 

「必要とあればな。管理局の情報網と権威があれば行動しやすくなる。その二つは相当大きい! 俺が今必要としているものやからな」

「何で? 神様になったんだから関係ないと思うけど」

 

 フェイトが疑問を呈する。

 

「俺は神であると同時に人でもある、よって地上の法に縛られるんは当然のことや。それに俺の体は限られとる、情報と権威があれば対応がしやすいやろ。早期発見、早期解決が一番や」

「管理局とレイとの要求が互いに一致したのさ。上は相当参っているよ。預言を無視したことで相当な被害を出したことにね」

 

 クロノが話に入ってくる。

 

「僕たち管理局は完全な想定外の出来事に遭遇した時の脆弱性が露呈してしまった。次元世界の平和を司るものとしては致命的な弱点だ。その穴をレイが埋めてくれるんだ。情報も権威もくれてやるさ。その代わり、出来ることはしっかりしてくれよ」

「わかっとりますって、執務官殿。このレイ=金剛=ダイアモンド、仕事で手を抜いたことはありまへん」

 

 ふう、とクロノはため息をつく。

 この年下の無駄に有能な少年の優秀さは何度も実感している。

 今更何を言ったところで想定以上の結果を出してくれるのだろう。

 

「それで、メンバーは一体どうするんや?」

 

 あすかがレイに問いかける。

 

「それなんやけど、まだ何にも決まっとらんねん。せやから、これからの交渉次第やな」

 

 レイは空を見上げる。

 

「ここからが俺と世界の新たなスタートや」

「違うじゃろう?」

 

 アフーム=ザーがレイに声をかける。

 

「妾達、の間違いじゃろう?」

 

 レイはそっと微笑むと、静かに頷いた。

 空はすっかり晴れ上がり、太陽がさんさんと輝いている。

 それは新たな時代の始まりを予感しているようであった。




 という訳で、レイくんの物語はここで一旦お終いとなります。
 皆様、ご愛読ありがとうございました。
 またいずれお会いできる日がありますよう。

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