Another Trigger 〜弓手町支部所属の攻撃手〜   作:匿名中

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 唐突な更新っ!
 八月中の更新に間に合わなくてすみませんでしたっ!

 代わりといってはなんですが、大ボリュームかつオマケ付きですっ!

 それでは、どうぞっ!



第十一話 チーム戦①

「ぐっ!」

 

 スコーピオンを右手に沿わせて出現させ、相手に分かりやすく、さながら手刀の如き大振りでの一撃を、相手は真っ向に孤月で防ぐ。

 元々防がせるつもりでその攻撃を放った俺は、次いで右足の先に新たにスコーピオンの刃を出現させると、下から両断させるべく右足を素早く蹴り上げるが、彼はそれを読んでいたかのようにバックステップで回避。しかし、わずかに引くのが遅かったため、胸部に浅い斬傷が刻まれた。

 避けきれなかったことにわずかに表情を曇らせる彼の名は辻新之助。彼の着こなす黒スーツから見て分かる通り、彼は以前俺がボコボコにやられた二宮隊の攻撃手(アタッカー)である。

 そんな彼に対して、俺はすぐさま追撃を行うべくマンティスを放とうとするが、右からわずかな物音が聞こえたため、すぐさま中断、後ろに跳ぶ。

 すると、先ほど俺がいた位置に白い刃が蛇のように唸りながら通り過ぎ、その攻撃を放った男は次の瞬間には俺に飛びかかってきた。

 

「よぉ、そんな奴はほっといて俺と遊べや」

「カゲ……」

 

 凶悪な笑みを浮かべる影浦と数秒の鍔迫り合いの後、弾き返して数度の剣撃を交える。

 しかし、次の瞬間彼の表情に変化が生まれたと思うと彼は横に跳んで回避行動、俺はシールドを展開して防御姿勢を取った。

 それに数瞬遅れて襲いかかる数十もの銃弾。

 その射撃方向を見ると、先ほど辻とは別の黒スーツを着込んだ男性が左に銃型トリガーであるP90を構えて此方に撃ちこんでいた。

 

「うお、シールドかったいなぁ」

 

 大きく広げて展開した割にはビクともしない俺のシールドに対してそんなことを呟く銃撃主、犬飼澄晴。

 そんな彼に俺はサブトリガーでグラスホッパーを起動すると、射線を避けるよう少し迂回しながら犬飼を取るべく配置。

 犬飼がそれらに反応し切る前に行動を開始すると、グラスホッパーで加速した俺の軌道を先からなぞるように辻が旋空を放った。

 目の前に突如迫ってきた旋空の刃に、俺は両手にスコーピオンを出現させて受け流すが、グラスホッパーによる加速のせいで下手に勢いがついたために完全には受け流せず、左の二の腕辺りに傷を受けた。

 

「辻ちゃん、ナーイス」

 

 遅れて銃口を此方に向けた犬飼。

 しかし、その引き金を引くことは叶わなかった。

 

「テメェ、俺と一葉のサシに横槍いれんじゃねぇよ」

 

 そう言って犬飼に襲いかかった影浦に、犬飼はサブトリガーのスコーピオンを使って何とか彼の攻撃を受け止めた。

 

「おいおい、これ三チーム対抗戦だろ? その文句は筋違いじゃないか?」

「じゃあ死ね」

 

 反論した犬飼に短くそう言い放った影浦は持ち前の攻撃力で猛撃を開始。

 そんな二人から漁夫の利を得ようと一閃を放とうとするが、先ほど俺に旋空を放ってきた辻が、次は上段に旋空を放つ。それがちょうど俺と犬飼を攻撃する影浦と軌道が重なり、俺らは回避を強いられる。

 加えて次の瞬間───

 

誘導弾(ハウンド)

 

 別の攻撃が空から襲いかかってきた。

 凄まじい弾幕のトリオン弾に俺はグラスホッパーによる回避ではなくシールドを傘のように広げてそれらを防ぐが、俺の右側二十メートルほど先にいつのまにか立っていた二宮から新たに六分割ほどしたトリオン弾が打ち込まれた。

 

「くっ」

 

 なんとか彼の攻撃に気づいた俺は上にシールドを展開しつつ、後ろに跳んで回避しようとするが、攻撃を認知したのが遅れたため避けきれず左足をやられた。

 

「二宮ぁ……っ!」

 

 俺に遅れて二宮の存在に気付いた影浦は忌々しげに彼の名前を呟く。

 対して二宮は影浦の前に立って、内部通信で自身のチームメンバーに指示を下した。

 

『樹神の足は潰した。辻、犬飼はあいつの足止めをしろ。俺はその間に影浦をとる』

『辻、了解』

『犬飼了解!』

 

 先制して俺に銃撃を開始する犬飼。

 俺はそれに対してシールドを貼ることしかしない。

 

「(二宮隊が最初に集まったか。まずいな)」

 

 犬飼の後ろからやってきている辻が俺のシールドを割るべく旋空を放とうと振りかぶっているのを視認し、サイドエフェクトが発動。その間にどうするかを考える。

 突出した機動力はないものの、マンティスという特殊な攻撃法で通常の攻撃手よりも間合いが広い影浦だが、二宮相手ともなると上手く近づくこともできないらしい。先程強引に攻めようとしてはそこを狙った二宮の弾丸に気付き、回避を強いられてるのが分かる。

 俺、もしくは影浦の増援を待とうにもレーダーを見るにまだ時間がかかる。

 

「(トリオン兵なら十数体でも相手できるが、トリガー使い数人、特に連携がしっかり取れてる人らが相手になるとやっぱりキツイな……)」

 

 この三チーム対抗戦を今回まで何度か繰り返していく内に、俺のサイドエフェクトと俺の戦い方が対人に特化し過ぎな上、対チームの経験が薄いのは身に染みていた。

 加えて左足の欠損。通常防衛任務で体験することもないその状態で連携の取れたマスタークラスの防衛隊員二人を相手にするのは苦難である。

 

「(俺の隠し球も既に割れてる。今使おうにも隙がでかい。だからと言って、これまで通りならジリ貧だ)」

 

 そんなことを考えていると、スローモーションな世界で辻が放った旋空がこちらを切り裂こうと伸びてきた。俺はその軌道を読んで犬飼の攻撃を防いでいるシールドに当たらないよう形を変化させ、俺は僅かに横にズレて紙一重、空振りに終わらせる。

 それを見た辻は驚きの表情を浮かべ、犬飼は銃のトリガーから指を引きながら感嘆の口笛を吹く。

 だが、それは結局のところその場しのぎでしかない。

 

「(くそっ、折角のチーム戦のラストだぞ。もっとしっかり考えて物にしろ、俺)」

 

 俺は二撃目の旋空を放とうとしている辻と、その奥で影浦の相手をしていた二宮から助太刀の如く飛来してくるトリオン弾を視界に収めながら、そう心の中で自分に叱責する。

 

 

 B級隊十一個による三チーム対抗戦。

 最終戦であるこの試合が始まって三分ほどで、俺はピンチを迎えていた。

 

 

 

 

 ♦︎ ♦︎ ♦︎

 

 

 

 

 時は遡って、九時間前。

 

「……なんだこの集まり」

 

 玉狛にお邪魔した日からおよそ二週間後の日曜日。

 本来なら土曜日に来ているんだが、今日は荒船たちからお願いされたため日をずらしてきた。

 加えて、先週の土曜日はある事情で俺がカゲたちと模擬戦が出来なかったため今日は昼前と早めに本部に来たわけだが、いつもの待ち合わせ場所であるC級ランク戦ブースのソファ席の周りには、見ない顔の正隊員たちの集団があった。

 いや、よく見たらいつものギャラリーの中にいた顔が何人かおり、ソロの防衛員に支給される制服を着ているものがいないことから、全員どこかしかの隊に所属している隊員なのだろう。

 しかし、この集団はなぜここにいるのだろうか。

 

「お、来たか。こっちだ、こっち」

 

 もしかした別の場所に移動したのかと考えていた矢先、その集団の中から見慣れた顔が覗けた。

 こちらに手を振りながら笑みを浮かべる荒船。いつもの帽子姿は場違い感ともいえるこの集まりの中では安心感を与えてくれる。

 

「荒船、なんだこの集団……ん?」

 

 彼の元に歩み寄って気付いたが、彼の後ろには久々に会う穂刈と荒船と同じ隊服の少年一人がいた。

 俺の視線に気づいた少年はぺこりと頭を下げる。

 

「どもっす。荒船隊の半崎義人っす」

「弓手町支部所属の樹神一葉だ。君のとこの隊長さんにはすごくお世話になってる。よろしく」

「よろしくっす」

 

 そんな自己紹介を交わす俺らを見て、荒船は何か言いたげに苦笑いを浮かべるが、特に何かを言うわけではなくそれを見守る。

 対しての俺は半崎君との挨拶を終えると、次いで荒船に視線を戻して口を開いた。

 

「荒船の隊が揃ってるってことは、この後防衛任務があるのか? それとも任務終わりか?」

「いんや、違う。ちなみに言うと、ここにいる全員も任務とは関係なく集まってんぜ」

 

 そう言いながら辺りを見渡す荒船に、俺も再度周囲の隊員たちに視線を移す。

 明らかに二十人以上いる正隊員。

 これらが任務ではない目的で集まっていることに考えを走らせていると、気付けば一人の男が荒船と俺の近くに立っていた。

 

「はじめまして、樹神一葉君」

 

 先ほどの半崎君のような眠たげな目に黒のロングヘアー。人当たりの良さそうな笑みを浮かべてはいるが、学生ばかりのボーダー隊員の中で一際落ち着きと大人の風格を感じさせる男性だった。

 俺はそんな男の雰囲気に少し言葉が詰まるが、すぐに口を開いた。

 

「……どなたですか?」

「B級部隊東隊隊長の東春秋さんだ」

「加えて、『三チーム対抗戦』の主催者だ。今日行うな」

 

 俺の疑問に、対面に立っていた荒船と穂刈が代わりに答えた。

 その様子に東さんと呼ばれた男は苦笑いを浮かべる。

 

「二人に紹介された通りだ。何人かの希望で、今回の『三チーム対抗戦』を開かせてもらった。よろしく頼むよ」

 

 そう言って目の前に右手をやって握手を求める彼に、俺も右手を持ち上げて応じるが、それと同時に一つ言葉をこぼした。

 

「………三チーム対抗戦?」

 

 今日もこれまでと同じように個人ランク戦を行うと思っていたため、これから始めようというその対戦形式にオウム返しに呟く。

 すると、東さんはゆっくり頷いた。

 

「現在の時刻は九時半。十時から試合時間四十分、休憩三十分の三チーム対抗戦を繰り返して計八試合行う予定だ。一応二試合目終了時に四十分の昼休憩を取ってる。組み合わせに関してはこちらでランダムに組ませていただくよ」

 

 淡々と説明を行う東さんに俺は最後まで書き終えると質問を投げる。

 

「俺は支部所属のフリーなんですが、扱いはどうするんですか?」

「それなんだが、当日になって参加をキャンセルした者がいてな。そこの部隊に入ってもらって一部隊扱いにしようと考えたんだが、話し合いの結果それは無しになった」

「? 何故?」

 

 疑問符を浮かべて聞き返すと、東さんは薄く笑みを浮かべて続けた。

 

「どの部隊も、樹神君を使()()()()()()という意見があってな。組み合わせの際、一番順位の低い部隊か、合同チームに入ってもらうことになった」

 

 俺はその言葉に横目に荒船を見る。

 すると、彼はニヤリと何やら含みのある笑みを浮かべた。

 その反応を見た俺は荒船もこのイベントに一枚噛んでるだろうなと予測した。そして、今回参加してきた部隊の面々の目的も。

 

「(俺のことが話題になってるとは聞いたが、なるほど。個人戦ではなくチーム戦での動きはどうなのかを見るのと、加古さんみたく勧誘目的もあるのかな?)」

 

 俺は再度辺りに視線をやる。

 先程は気付かなかったが、よく見ると何人かが此方をチラチラと伺っているのが分かった。

 

「午前から参加するのは生駒隊、王子隊、東隊、来馬隊、諏訪隊、柿崎隊、那須隊、荒船隊、そして当日キャンセルで隊長とオペレーターがいない香取隊の九部隊だ。午後からは以上の面子から柿崎隊と他何人かが個人の都合で抜けて、代わりに()()()()()()が合流する」

 

 午後からの参加組に良きライバルである影浦と指南を得てかつボコボコされた二宮の名前が挙がり、わずかに目を見開く。

 別段ほかの隊を軽んじていたわけではないが、一段と緊張が引き締まったように感じた。

 

「香取隊の数が少し足りないのと、戦力バランスを考えて、何人か非番の隊員に声を掛けておいた。一応現時点で参加するのはA級の太刀川隊の出水、同じく草壁隊の緑川、加古隊の黒江、三輪隊の米屋。この面々に加えて樹神君で一部隊をローテーションで組んでいく。それでいいか?」

「四人もA級隊員が参加するんですね」

「ほんとはここまで呼ぶつもりはなかったんだがな」

 

 そう言いながら苦笑いを浮かべる東さんに、俺は彼にとって色々と予想外の事があったんだろうなと予想しながら、「喜んで参加させていただきます」と笑みを返す。

 すると、彼は神妙な顔つきで続けた。

 

「もう気付いていると思うが、今回の催しとそれに参加した部隊の目的は君だ。それに伴って、他部隊や隊員の出番が平均して二回ずつなのに対し、樹神君の出番は多くなる。慣れない部隊に参入する上、初の部隊戦。当然肉体的にも精神的にも疲労する。だから、疲労が蓄積してきたら遠慮なく言ってくれ。無理は言わない。そも伝達していなかったからな。チーム戦には不参加で、チーム戦の観戦のみでも構わない」

 

 ぶっちゃけたな、と心のうちで苦笑いを浮かべる。

 だが、たしかにこれらの部隊の殆どの目的がそうであるならば、俺が何度も出るのは自然の話で、精神的な負担となるだろう。しかし、俺としては個人戦をある程度重ねてきたため、新たな試みとしてチーム戦を経験するというのは良い刺激になる。なにより、B級がメインとはいえ、前線で奮闘している部隊の数々とお相手できるのはまたとない機会だ。

 当然それを蹴るはずがなく、加えて俺は真剣な表情で口を開いた。

 

「喜んで参加させていただきます。それに、ここまでのB級部隊の面々とお相手できるのは稀ですので、全試合参加でお願いしたいぐらいです」

 

 そう言うと、東さんは数秒驚いた顔を浮かべるが、次には穏やかな笑みで「言ったな」とこぼす。

 対して俺はニヤリと好戦的な笑みで返すと、彼は一度頷いて大きな声を張った。

 

「これより対戦の組み合わせを行う。組み合わせの発表後、出番となった部隊はそれぞれの隊室にて待機、そのほかはモニター室で試合観戦をするなり、隊室で休憩するなり好きにして良し。それと、今回の対抗戦は規模が規模なので手の空いたオペレーターと隊員には実況と解説をお願いしたい。勿論俺も解説をさせていただく。参加する隊員達の他、ここに今いる訓練生も興味があれば覗いてもらっても構わない」

 

 彼がそう言うと、参加予定であろう隊員達と訓練生がどよめきたった。訓練生がどよめくのは分かるが、正隊員がどよめく理由が分からなかったため少し耳をすますと、どうやら東さんの解説を聞くことができることに驚き、そして喜んでいる様子であった。

 

「(個人で企画してここまでのメンバーを集めるぐらいだったから人徳やカリスマを持ち合わせている凄い人だと思っていたが、実際その通りだったみたいだな)」

 

 そんな風に思っていると、東さんが集まりから外れて、隅で二人の正隊員と待機していた美人のオペレーターらしき人と合流し、持っていた端末を操作。

 それから一分ほどしただろうか、再度彼が口を開いた。

 

「対戦の組み合わせが決定した」

 

 

 

 ♦︎ ♦︎ ♦︎

 

 

 

「失礼します。今回、同じチームとして部隊に参加させていただく樹神一葉です。ポジションは攻撃手(アタッカー)。なにぶん初めての部隊戦ですので、この身、自由に扱ってください。どうぞ、よろしくお願いします」

 

 B級部隊を発足した場合、その部隊が防衛任務に着くにあたってチームワークや伝達事項、戦闘のサポートを行うためのオペレーション室が備え付けられた隊室が与えられる。

 現在、自分がノックをしてから入室したのはボーダー本部内に設えられたとある一室、『柿崎隊』の隊室であった。

 

「お、来たな。初めまして、柿崎隊の隊長を務めている柿崎国治だ。よろしく頼む」

 

 そう言って入室一歩目から動かなかった俺を最初に迎えたのは、柿崎隊の隊長である柿崎さんであった。

 座っていた椅子から立ち上がり、わざわざ俺の前まで来て握手を求める誠実さに俺は勝手ながら善い人なんだろうなと心のうちで呟く。

 求められた握手に応えた後、俺は右手に持っていた紙袋を差し出した。

 

「これ、つまらないものですが」

 

 そう言うと柿崎さんは驚いた様子で受け取り、次いで納得の声をあげた。

 

「組み合わせ発表の後、探したのに樹神君がいなかったのはコレか。わざわざ用意してくれてありがとうな。嬉しいよ」

「本部の購買で買える、ほんとうにつまらないものですけどね」

 

 一時とはいえお世話になる部隊へのお土産に用意したものが簡単なものすぎて少々苦笑いを浮かべる俺に対し、柿崎さんはニカッと笑う。

 突然でなければしっかりとしたものを用意するのだが、時間が時間であったため妥協。正直、変な顔をされるかもと考えていたためにめちゃくちゃ不安だった。

 

「ところで、自分を探していたとのことでしたが……」

「口調、崩してもらっていいぜ。樹神君を探したのは、なに、支部所属だって聞いてたから、ここの場所が分からないかなと思ったから案内しようと思っただけだよ。余計な心配だったみたいだけどな」

 

 そう言って小さく笑う柿崎さんに、俺は安心の息を一つ持って返す。

 チーム戦自体に文句はないが、知り合いが殆どいない部隊に加入するのは緊張していたので、その初っ端が彼のような人で本当に良かった。

 そんな風に思っていると、いつのまにか後ろの方で立って待機していた二人の男女と目が合った。

 

「照屋文香です。ポジションは万能手(オールラウンダー)。よろしくお願いします」

「巴虎太朗です! ポジションは一応銃手(ガンナー)ッスけど、孤月も使って近接戦もします! よろしくです!」

 

 育ちの良さそうな雰囲気を醸し出し、その通り流れるような美しい所作で挨拶を行った少女の名は照屋、ソワソワと活発そうで何やらテンションの高い少年の名は巴と言うらしい。

 俺は彼らに向き直ると同じく挨拶を交わす。

 すると、抑えきれないと言わんばかりに巴が口を開いた。

 

「樹神先輩のランク戦、全部見ました! また今度、俺とも個人ランク戦お願いしますっ!」

「お、おぉ、来週の土曜なら……」

「あざます!」

 

 声の大きさからも感じるテンションの高さに少し押されつつ頷くと、やった!と嬉しそうにはしゃぐ巴。

 不思議に思っていると隣にやってきた柿崎が耳打ちした。

 

「樹神君の紙一重や最低限の回避や防御で戦うスタイルが虎太朗の琴線に触れたみたいでな。余裕があるなら相手をしてやってほしい」

 

 その説明に俺は納得の声をあげた。

 

「そういうことなら、喜んで相手させていただきます」

「あぁ、頼むよ」

「ご迷惑じゃなければ、私もよろしいでしょうか?」

 

 会話にひと段落が生まれてから照屋がハキハキと尋ねる。

 下手に言葉を挟まず、しっかり話の下地が整ったのを確認してから発言した彼女の気遣いに気付いた俺はゆっくりと頷いて「もちろん」と告げた。

 そして。

 

「みんな〜、開始まであと十分切ったわよ〜」

 

 そんな声と共に遅れて部屋の奥から姿を現した柿崎隊のオペレーターの宇井真登華とも挨拶を行うと、俺たちは対戦相手と動きの確認をするのであった。

 

 

 

『開始五分前となりました、東さん主催の三チーム対抗戦。第一戦目の実況は私、人見摩子と』

『えっと、解説役に何故か諏訪さんに連れてこられた古寺と』

『ブースに向かってる途中、諏訪さんに解説席にドナドナされた俺、出水』

『以上の三名でお送りします』

 

 場面は変わってB級ランク戦ブース。

 名の通り、本来ならばB級ランク戦時やボーダー上層部がたまに開くイベントの際に解放されるこの部屋は中央に解説席と実況席を置き、そのほかは試合の様子を映す特大のモニターを見るための観覧席となっている。

 一応、試合観戦だけであれば各部隊に振り分けられた隊室でも可能だが、人多い所が苦手な人物や身内だけで見たい者以外の大体はこちらで観戦する。

 

 さて、話を戻すと、中央に備え付けられた解説席には東隊のオペレーターである人見摩子が座っており、その隣の解説席二つには机に向かって突っ伏して拗ねている出水公平と、そんな先輩をどう元気付けるか悩んでいるA級部隊である三輪隊の古寺の姿があった。

 古寺が解説席に座った経緯は自身の部隊の先輩である米屋に呼び出され、到着の際何やら忙しそうな諏訪洸太郎に半ば強引に連れてこられたから。

 元々少し遅れ気味にやってきた出水は満面の笑顔を浮かべていた米屋と緑川に迎えられて嫌な予感がしていたところで諏訪さんに発見。初っ端の解説ということで断ろうとしたところ、馬鹿二人に生贄にされるかのように置いていかれたという経緯がある。

 ただ、まぁ、それだけであれば、出水もまだここまで凹んでいない。

 では彼が解説席という目立つ場所で見た目完全拗ねている理由とは。それは至って単純であった。

 

『三チーム対抗戦一戦目の組み合わせは、暫定B級10位諏訪隊とA級隊員の米屋隊員、緑川隊員、そして暫定B級6位香取隊の若村隊員による合同部隊。そして最期に弓手町支部所属の樹神隊員が加わった暫定B級13位の柿崎隊の三チームになります』

 

 たった今人見が述べたように、盛り上がるであろう初戦の合同チームに米屋と緑川がいて、自分がハブられたせいであった。

 元から東さんにお願いされて初戦の実況を行う予定であった人見はそんな彼の様子にはてなマークを浮かべているが、その一部始終を見ていた古寺は苦笑いを浮かべながら不貞腐れてる出水を慰めていた。

 

「出水先輩、初戦に出れなかったのは残念でしょうけど、これが最後ってわけじゃないんですから、元気出しましょう。ほら、三チーム対抗戦、始まっちゃいますよ?」

「分かってらー。もう少しこうさせろバカヤロー」

 

 テンプレともいえる古寺の言葉に、出水はピクリとも動かずに一定のトーンでそう返す。

 古寺は顔に苦笑い、額に冷や汗を滲ませ、人見はそのやり取りにクスリと笑みをこぼす。

 そんな三人の様子を上の席から見ていた荒船はふと隣にいた村上と穂刈に尋ねた。

 

「そういや諏訪さんらの隊、今日の午後から防衛任務だったよな? なんで無くなったんだ?」

「知らないな、俺は」

「あぁ。それは昨日、諏訪さんが茶野隊にシフトを代わってもらうようお願いしたそうだ」

「おねがい……?」

「脅迫の間違いじゃないのか、それは?」

 

 村上が自らの隊長である来馬からの情報を返すと、荒船らは少々失礼なことをボソリと呟く。

 しかし、自分もその様子を想像してみると、ボーダーの先輩であり粗にして野をいく諏訪がオドオドしてる茶野達を脅すとまではいかないが、勢いで押し付けられている様子が思い浮かび、自然と苦笑いが浮かんだ。

 そんな会話をしていると、通路側に座っていた村上の側に一人の男性がやってきた。

 

「おまたせ、鋼」

「っ! 来馬先輩、お疲れ様です。早い到着ですね」

 

 一瞬驚いた表情を浮かべたものの、すぐに引っ込めて挨拶した村上に対し、ほんの少しだけ申し訳なさそうにしている男性の名は来馬辰也。樹神のように本部ではなく支部に所属しているが、一部隊の長を務める正隊員である。

 彼は自然と立席し、席を譲ろうとする村上を「大丈夫だよ」と諌めつつ、村上達の真後ろにある三席ほど空いている席に回った。

 

「来馬さん、お久しぶりです」

「おつかれ様です」

「荒船君、穂刈君、こんにちわ。半崎君や加賀美さんはどうしたの?」

「半崎は今飲み物買いに行ってます。加賀美の奴は……」

「片付け中だな、部隊室を」

 

 今回の三チーム対抗戦。先ほど東さんから説明があったように樹神はチーム戦を行う際に一番ランクが低い部隊に参加することになり、今回参加する部隊は全隊中位以上という。となると、荒船隊に樹神が来ることになる可能性が高い。

 そこで問題になるのが今の荒船隊の隊室だ。初期の頃、そこまでルールで縛る必要性を感じず、なるべくアットホームな隊であろうと考えていた荒船は隊室への私物持ち込みを許可していたが、最近の荒船隊のオペレーターである加賀美倫の私物で溢れかえっている。私物といっても、その大半が彼女の創作物である奇抜な人形の数々であるが、人を迎え入れる状態ではないことには変わらないので、隊長命令で片付けをしてもらっているのだ。

 元々片付けるように言っていたのだが、荒船隊自体が仲良いのもあって後で後でとしているうちに、今日に至ってしまった。

 今彼女は泣く泣く隊室にこもって要らない己の作品の片付けと言う名のゴミ捨てを行なっている。

 

「もう隊室への持ち込みを制限するべきか……」

「いいと思うぞ、俺は。そろそろストッパーをかけるべきだ、加賀美に対しての」

「ひとごとみたい言ってるが、お前の筋トレ器具も対象だかんな。あれも大概場所取ってるぞ」

「…………」

「そういえば、太一と今はどうしたんです?」

 

 隊内の事情を話し合ってる荒船らの横で、村上は本来来馬と来るはずだった別役と今の存在がないことに気付き、後ろの来馬に質問を投げる。

 すると、来馬は困ったように笑みを浮かべて口を開いた。

 

「本当はもっと本部には早く着いてたんだけど、荒船くん達みたいに軽く隊室を掃除しようとしたら、ね」

「……太一がやらかしたんですね」

「いや、ついでにいつも掃除してないところを一緒にやろうとしただけらしいんだけど……ちょっと悲惨なことに」

「隊室に向かいます」

「いや、待って! 今ちゃんからお願いされて、僕と鋼だけは一戦目からしっかり見てきて欲しいんだって」

「それは何故?」

「鋼は樹神君のことを知ってると思うけど、僕達は彼のことをあまり知らない。だから、せめて隊長である僕と彼を良く知る鋼だけでもチーム戦での彼の動きを知ってあげなきゃ彼を迎えるに失礼になっちゃうからって」

 

 僕もちょっと強引に送り出されちゃった、と困ったように笑う来馬に、村上は来馬隊長にこんなことで時間を取らせまいと『隊長である責任』と『初めてのチーム戦で動きにくいであろう樹神をサポートしてあげようとしていた来馬の優しさ』に巧みに訴えかけて送り出した、現在ここになき今の思いを受け取り、あとで差入れを持っていこうと心に決めて「分かりました」と席に着いた。

 すると、時間になったのか、再度人見のアナウンスが始まった。

 

『みなさま、お待たせしました。東さん主催、三チーム対抗戦一戦目開始のお時間となりました。改めてまして、解説の出水隊員と古寺隊員、よろしくお願いします』

『よ、よろしくお願いします』

『よろしくっス』

『では、確認として三チーム対抗戦のルールを説明させていただきます。まずは───』

 

 そう言ってルール説明を行う人見を聞きながら、荒船は改めて周りに目をやる。

 やはりというか、現在A級部隊の大半とB級部隊の一部が防衛任務に就いているため席に座る半分がC級隊員となっている。

 しかし、それでも樹神の注目と大規模なイベントであることから残り半分は見知った顔や実力者の姿があった。

 

『さて、そうこうしている内に今回のステージ決定権を持つ柿崎隊がステージの選択を終えたようです。ステージは………工業地区、となりました』

 

 ステージ名を聞いて、ブース内が軽くどよめいた。

 

『工業地区は配管や工業タンク、製鉄建物が多く並んだステージですね。狭い範囲に建物が密集しているに加え、縦に長い建築物や入り組んだ配管などで射線が通りにくいため狙撃を活用するのが難しいマップですが………』

『今回、どのチームにも狙撃手はいない。合同チームにはマスターランクの米屋隊員に加え、軽くて小回りが利く緑川隊員がいるし、高さがあってそれなりに狭い地形だからこそ諏訪隊の主戦術である諏訪隊員と堤隊員の散弾銃による中〜近距離の面攻撃も活かしやすい。正直、数で利を得ることが大きい柿崎隊がここを選んで得る自隊のメリットよりも、他の隊のメリットの方が大きい気がしますね』

 

 古寺のステージ説明に続けて言い放った出水の解説に、荒船含めた他の隊員も同意するかのように顎を引く。

 ステージを選択できるということはそれだけで地形による利を得ることができ、逆に他の隊に不利を与えることが出来る。勿論、これらは自らの部隊の戦術・相手の戦術にもよるが、戦う前にスタートラインが変わるのは大きな要因となる。

 だが、それはB級ランク戦の時の話、今回のような当日に対戦相手が決まる場合は時間がないためチーム戦毎に戦術を組む時間は全くない。故に、相手に合わせた戦術を組むことなんて到底不可能であり、さらには合同チームの存在もある。となると、大抵は柿崎隊自身が目に見えて利になるステージを選択するのだが、

 

「(そもそも、柿崎隊の基本戦法は合流優先からの数による攻め。単純だが、その分ステージによる利を得るのが難しい。なら下手なステージを選んで相手部隊の利になるより市街地あたりを選んだ方がいいはずだが……)」

 

 荒船がそう考察していると、不意にポケットに入れていたスマホが震えたのを感じとり、手に取って起動。

 画面に映ったのはある人物とのライン会話。

 彼は一番新しいメッセージを読むと、フッと笑みを浮かべた。

 

「荒船、どうした?」

「いや……これを見ろ」

 

 荒船の変化に気付いた村上がふと荒船に尋ねると、荒船は自身の携帯を村上に放る。

 それを難なく受け取った村上は携帯の画面に目をやり、荒船と同じく笑った。

 そして。

 

『各者一斉に転送開始っ! 転送位置は珍しく部隊員がバラける形にはならず、逆にまとまっている様子! これはチーム単位の戦闘になると予想されます!』

『北に合同チーム、西に諏訪隊。南東に柿崎隊といった形ですね。何人かバッグワームを起動しましたが、距離と動き的に諏訪隊と合同チームが最初にぶつかりそうです』

『古寺隊員の言った通り、柿崎隊は合流することを優先し、遅れて戦闘に参加する模様。……いや、しかし、柿崎隊に参加した樹神隊員は真っ直ぐ諏訪隊と合同部隊の接敵地点に向かっています。到着すれば乱戦必至。個人ランク戦しかデータがない樹神隊員、一体どう動くのでしょうか?』

『グラスホッパーとスコーピオンの扱いが長けている樹神隊員ですが、部隊戦ともなると対人ではなく対複数、当然各々の間合いや動きが異なるため、行動が制限・戦場が複雑化します。それらにしっかり対応できるかが樹神隊員の最初の課題になるでしょうね』

『なるほど。その点、出水隊員はどう考えていますか?』

 

『───いやぁ、俺たちが思うより、樹神隊員は()()()()

 

 その一言にはてなマークを浮かべる人見と古寺だったが、出水はニヤリと口角が吊り上げるだけで視線をモニターから変えることはない。

 そして、同じような表情を浮かべている荒船と村上。

 彼の手に持つスマホには、簡潔な文のやりとりが映されていた。

 

 

『暴れてやれ』

 

『任せとけ』

 

 

 

 ♦︎ ♦︎ ♦︎

 

 

 

「柿崎隊長、なんでステージの決定権を樹神先輩に委ねたんですか?」

 

 三チーム対抗戦が始まって二分ほど。

 元よりある程度まとまった状態で各地に転送された柿崎隊は既に柿崎と巴が合流済みであり、今は照屋との合流を目指して足を動かしていた。

 その最中に巴から発せられた質問に、柿崎は正面を向いたまま答えた。

 

「今回の三チーム対抗戦は、大半が樹神の実力を見るために集まった人達だ。俺たちにみたいに、半分勧誘目的の人らもいると思う。俺たちも含めて、一戦一戦が貴重な物差しだ。けどさ」

 

 不意に固かった彼の顔が崩れた。

 

「樹神からしたら、部隊戦なんて初めてだろう。右も左も、味方(うしろ)も分からない状態なのに、俺たちばかりがそれじゃダメだろう」

 

 そう言う柿崎の横顔は、困ったような笑みを浮かべていながら、どこか慈愛に満ちた表情であった。

 作戦会議の時、柿崎は樹神に尋ねた。

 どこがいい?、と。

 それに対して、少し驚きを交えながら樹神が指定した工業地区。それに対して照屋も巴も、あまり良い顔はしなかった。

 しかし、柿崎はニカッと笑うと、分かったと了承。樹神も含めて周囲が驚愕してる中、さらにはこう告げた。

 

「自由に動け。俺たちがサポートする」

 

 樹神がどういう考えで工業地区を選んだのかは分からない。

 それでも、柿崎は樹神に対して、後始末はするから好きに動けと言ったのだ。

 隊長のことだ、何か考えがあるに違いないと思っていた巴だが、ここに来て少し不安に思い、口から出た疑問。

 甘い考えだった。自分たちは午後から防衛任務で参加もできなくなる上に樹神の働きを見ることも出来ないことを考えると、貴重な機会をドブに捨てるかのような行為だった。

 

 しかし、それ以上に自分たちの隊長らしい考えだった。

 

「俺、やっぱり柿崎隊長が隊長で良かったです」

「……嬉しいこと言ってくれるな」

 

 こそばゆいと言わんばかりに頰を掻く柿崎は、ちょうど諏訪隊と合同部隊がかち合った地点に向かう樹神を思う。

 個人戦での彼の実力は分かっている。だからこそ、試行錯誤でもいいから部隊戦というものを少しずつ分かっていってほしい。

 故に単独行動を許した。

 故に彼の考えを尊重した。

 どうか部隊戦という新しい戦場で、彼に多く得るものがあるようにと。

 

 これを直接彼に語りはしていない。

 

 ──しかし、そんな思いを樹神はしっかり受け取っていた。

 

 

 

 

 工業地区に建てられたタンクの上を、配管の上を、まるで地上を走破するかのように駆ける。

 初の部隊戦、参加する部隊の戦術に合わせるよう強制されるかと思っていた。自分勝手な行動は咎められるものだと思っていた。

 しかし、今走っているのは自らが選んだステージ。

 そして、自らが考えた動き。

 それらを許してくれた柿崎には感謝の言葉しかない。

 聞けば、柿崎隊は午後から防衛任務で抜けると聞いた。時間的にも二戦目は彼らにないだろう。

 恐らく、柿崎は分かっていた。

 それでも、俺に好きに動けと託してくれた。

 

「応えなきゃ、いけないよな」

 

 俺はポツリとそう零しながら、思考を回す。

 三チーム対抗戦。個人戦とは異なる対部隊による戦い。

 当然、個人ランク戦のような今までの動きではダメだろう。ボーダーには映像として記録を見直すことができる機能がある。それを活用されているのであれば、一対一や二ならまだしも複数にもなると、ある程度動きを予測され逃げ場がなくなる。反射的であるが動き自体は理性的であるため、それは当然だ。

 今マップで確認できる、六つの敵の反応。おそらくモニターに映る風景も火花を散らすよう攻防を繰り返しているのだろうが、それでも誰かが落ちることはない。

 恐らく、俺の存在を気にして、両チームともにストッパーをかけているのだろう。下手に人数が減ると、俺の動き先を潰す駒が減ってしまうから。それでも戦闘を続行するのは、漁夫の利を得ようとした俺を釣るため。

 一対一では影浦を無敗で下すほどの強力な戦力である俺だが、部隊戦ともなると話は別。このまま突っ込んでも俺は恐らく袋叩きで潰されるだろう。

 

 で、あればどうするか。

 

 確認してみよう。

 相手から見えてる俺の手札は、小回りは利かないがグラスホッパーによる高起動力。他、接近戦における攻撃力と不可避の一閃、サイドエフェクト、高トリオンによる超硬シールド。

 一人で防衛任務に着くことが多いため、多対一の立ち回りもそれなりには分かってるが、今回はプログラムであるトリオン兵じゃなく、防衛隊員。あまり一人で無茶は出来ないだろう。

 次に、俺が得ている利について。

 数は完全に向こうの方が上。

 チームでの立ち回りも俺なんかよりもよっぽど長い。

 そんな中で、()()俺が有利なのは何か?

 

「個人戦みたく、対面してから開始じゃないってとこだな」

 

 顔を合わせてから始まる個人戦ではないという点。戦闘中のあの場に()()()()()()()()()()()()()()()という点だ。

 つまりは奇襲。それが今俺が取れる大きなアドバンテージだ。

 ならば、どういった風に攻めるのか。

 まず一閃は論外。あれは隙も大きければ、戦闘中狙えるのは一人のみ。一人落とせたとして、あとの五人を一人で十分に相手取れると思い上がったりはしない。

 そうなると、残りの手札で真っ先に上がるのはグラスホッパーによる高機動攻撃。

 これ自体には大きなデメリットは存在しないが、それは今までの個人戦で見せてきた。諏訪隊も、合同部隊も恐らくそれで来ることが分かってる。

 俺がそれで奇襲をかけてきても対応できるよう、()()()()()で待ち構えているだろう。

 

 ……と、なるとだ。

 ()()()()()()()()()()()()()

 

「ちゃんと使いこなせるまでは、使うつもりはなかったんだけどな」

 

 俺は苦笑いを浮かべながら、そう呟く。

 今用いようとしている手は玉狛から帰ってきてから習得を志した、いわば新たな手札。ぶっちゃけ奥の手ともいえるレベルのものだ。

 だが、今の状態ではまだ完全習得には至っておらず、本部には二人を除いて誰も知られていない。

 本当は二宮さんと再び相見えるまでは取っとくつもりだった。

 

 だが、柿崎隊の皆に好きに動かせてもらってるこの現状で、俺が手を抜くことなど言語道断だ。

 最も効果的と分かっているのに使わないのは、単独行動を許してくれた彼らに申し訳が立たない。

 

「グラスホッパー」

 

 工業建築物の上を走っていた俺は、諏訪隊・合同部隊たちの元まで約百メートルとなった地点でグラスホッパーを真上に向けた形で起動。

 元々地上から十数メートルあった地点から、更に高度に昇る。

 先ほど柿崎隊のオペレーターである宇井さんに確認を取ったところ、敵は比較的広く、高い建物や配管などで囲まれた広場で、地に足をつけて戦っているらしい。

 見晴らしが良く、人数による有利を活かすための場所であるだろうな、そのおかげで今上空に無防備になった俺の存在に気がついていない。

 俺はグラスホッパーの加速による慣性で上に昇りながら、ふと両手を大きく前に差し出した。

 そして、小さく呟く。

 

 

 

誘導弾(ハウンド)……+……炸裂弾(メテオラ)……」

 

 

 

 瞬間、両手の先に出現した巨大なトリオンキューブ。

 二宮のものよりも少し大きなそれを、俺はゆっくりと近づけて徐々に融合させていく。

 そうすること、七秒ほど。

 ちょうど、加速が限界に達し、上空でピタリと俺の体が停止した瞬間だった。

 

 

 ───合成弾が完成した。

 

 

誘導炸裂弾(サラマンダー)

 

 キン、と音を立てて八分割されるトリオンキューブ。

 それらは次第に丸みを帯びると、鋭い音を立てて上空から降り注ぐように広場へと射出された。

 俺もそれに続くよう、新たにグラスホッパーを起動して広場に向かって加速する。

 彼らの姿を視認すると同時、先ほどまで激しい攻防を行なっていた全員が上を見上げて俺を捕捉した。

 まぁ、入り組んだ地形をほぼ真っ直ぐ走破した上、バックワームも着ていなかったので、上から来るとある程度の予測はされていたのだろう。

 だが、俺より先じて向かってくるトリオン弾は予想外だったようだ。

 

「っ!?」

「回避っ!」

 

 八分割とはいえ、一発一発の大きさはそれなりにデカイ。

 咄嗟にシールドを構えながら回避行動を行う誰かに弾丸を視認誘導で集中させれば二人は落とせるだろう。

 

 ──玉狛に行ってみろ。良い経験が出来る。

 

 サイドエフェクトによりスローと化した世界を眺めながら、ふと二宮さんの言葉を思い出した。

 実際に気付くまでずっと胸の内にあった疑問。

 射手トリガーを扱う切っ掛けとして、何故わざわざ玉狛の、より詳しく言えば小南を挙げたのか。

 射手自体は二宮さんを含め、まだ何人もいる。

 そんな中、小南を見てみろと言ったのか。

 その答えは、実際に闘ってみて、すんなりと頭に浮かんだ。

 

 この強大なトリオンで力任せに圧倒するためじゃない。

 小南が炸裂弾で双月の一撃に繋げたように。

 

「(()()()()()()()()()()()()()())」

 

 瞬間、爆発音。

 予想していなかったのもあるだろうが、爆風を撒き散らしながら炸裂することで、この場にいる全員が直撃を避けたものの、大きく態勢を崩した。

 

 ……あとはいつも通りだ。

 

 グラスホッパーを六つ、各々の近くを通るよう角度を付けて配置して、最高速で飛ぶ。

 横を通り過ぎる時は、胸を突くか、首を刎ねて。

 

「ちくしょう……ッ!」

 

 誰かの横を通り過ぎる際、そんな声が聞こえた。

 誰の声か判別できない。

 それほど、六人を倒すのは一瞬であった。

 

『トリオン体活動限界、緊急脱出』

 

 爆煙が舞っていた戦場に、場違いな機械音。

 そこから六つ、光が空に打ち上がった。

 それを見届けて、小さく呟く。

 

「さて、締まっていくか」

 

 

 

 

 




〜オマケ〜

  PROFILE
 ポジション : 攻撃手
   年齢    : 17歳
  誕生日    : 11月23日
   身長    : 181cm
  血液型    : AB型
   星座    : くじら座
   職業    : 高校生
 好きなもの : 家族、友達、杏仁豆腐、味海苔
 嫌いなもの : お酒(誤飲回数二回)
 
 
  FAMILY
 妹、妹
 
 
  PARAMETER ()内は弾トリガー無しの時
 トリオン  : 17 (17)
  攻撃   : 14 (12)
 援護・防御 : 10 ( 9 )
  機動   : 10 (10)
  技術   : 10 ( 9 )
  射程   :  6 ( 3 )
  指揮   :  2 ( 2 )
 特殊戦術  :  4 ( 3 )
TOTAL  : 73 (65)
 
 
  RELATION
 影浦雅人 : 良きライバル(親友)
 荒船哲次 :   恩人  (親友)
 村上鋼  : 良きライバル(親友)
 烏丸京介 : 可愛い後輩 
 二宮匡貴 : 現在の目標
 
 
 TRIGGER SET
  Main trriger
   ・ スコーピオン
   ・ グラスホッパー
   ・ シールド
   ・ ハウンド (なし)
  Sub trriger
   ・ スコーピオン
   ・ グラスホッパー
   ・ シールド
   ・ メテオラ (なし)
 
 
  SPECIAL
  『マンティス』↓
 メインとサブのスコーピオンを繋げることで射程を伸ばし、鞭のような軌動の攻撃を可能とする技。一人で黙々とトリオン兵を処理している間、ふいに中距離攻撃が欲しいと思って試した際に会得した。しかし、中距離攻撃として使用しすぎたせいか大きく曲げることに慣れておらず、影浦の使い方を見ながら練習中。マンティスという名前を知るまでは『直列スコーピオン』と呼んでいた。
 
  『一閃』↓
 三年という期間で生み出した、マンティスの強化版。腕の振りや手首のスナップのみで放つマンティスと違い、全身の挙動を引き金に放つため初動が分かりやすく、放つまでの時間と隙もあるが、一度放つと凄まじい貫通力と速度を誇るため、小南に避けられるまでは一撃必殺であった。
 
 
  SIDE EFFECT
 『超加速思考的反射』
 反射の際、眼に映る世界がスローモーションになり、その間に事象の把握や思考などが行えるという効果。本人の意思とは関係なく発動するため、幼少期ではそれなりに苦労もあったが、体育などでは一躍ヒーローなどにもなったりしていたため恩恵もそれなりにあった模様。
 
 
  OTHER
 ボーダーの本部設立辺りから正隊員になったそれなりの古株であるが、本部に所属していたのは二日間のみで、その後は自宅に近い弓手町支部に転属したため、本部の面々には特に顔を知られてはいなかった。
 四年という年月により、スコーピオンとグラスホッパーの技術やトリオン体での身体操作法が卓越しており、その使用方法もほかの隊員とは少し異なる。また、サイドエフェクトの恩恵もあって回避能力や防御能力も高く、攻撃に対して無理な避け方はせず常に行動の選択肢を保つために安定した態勢であることを心掛けている。反射的なカウンター能力も高く、決まった形を持たないスコーピオンとはとても相性が良い。
 影浦達に会うまでは高校での友達はおらず、クラスメイトからは授業に午前しか参加しないが、成績が非常に良いため、漫画みたいな人物と思われている。一応三年生ということでクラスメイトの顔と学校で何度かすれ違った人物は覚えている。進学校に通っており、クラスはA組である。
 最近、連絡先が増えていく自分の携帯を見るのが好きで、家で思わずにやけていたりする。


 ご愛読、ありがとうございました。
 次回も、当作品をよろしくお願いしますっ!

(オマケのステータス、凄いことになっちゃってますけど、指摘などがあったらジャンジャンお願いします)
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