Another Trigger 〜弓手町支部所属の攻撃手〜   作:匿名中

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第十三話 チーム戦③

 

 

 あれは確か四年前の時だった。

 小学校から中学科に上がり、私は中高一貫の私立星輪女学院に、くまちゃんは公立の中学校へと別れて、約半年ほど経った頃だった。

 小さい頃から体が弱く病弱な私と仲良くしてくれたくまちゃんと別れたことは寂しかったが、学校が別れても付き合いが疎かになることはなかったから大丈夫だった。

 けれども、元から体調を崩して学校を頻繁に休んでしまう私は学校の行事に参加することは難しく、加えて皆新しい環境故か自分のことに必死で、友達があまりできなかったのは凄く寂しかった。

 

 どうにかしないと、と。

 

 私自身そう思っても体は言うことはきいてくれない。

 あの時だって、くまちゃんも新しい環境で大変なのに私が寝込むとすぐに家に来てくれた。

 前々から外で元気に遊べない私に外のことを話してくれるくまちゃんだったけど、その時は新しい友達や勉強、学校の雰囲気について話してくれた。

 ほかの中学校からの派閥とかがあって、くまちゃんもちょっと苦労しているらしい。

 そんな時だ。

 

「玲、新しい学校は大丈夫?」

 

 ───これ以上心配はかけられない。

 

 今まで散々心配をかけて今更何を、と笑われるかもしれないが、その質問に対して真っ先に心に浮かんだのはそんな言葉だった。

 僅かに言い澱みはしたが、自分なりに明るく返せたと思う。

 けど、くまちゃんからしたら大根芝居もいいとこだったらしい。

 口には出してなかったが、すぐに嘘と見抜かれた。

 

 この二ヶ月後に、くまちゃんが通う学校の文化祭に招待された。

 

 文化祭と言っても、中学生がやれることなんて高校生と比べるとかわいいもので、多くのクラスは何かしらの作品を作ってクラスルームに展示。あとは有志で舞台上で漫才やカラオケ、凄いものになるとバンドなどをするぐらいだった。

 私の通う中学校は中高一貫の私立だけあって、公立の人らのものと比べたら豪華だったし、高校生の人らは出店などを行なってもいた。

 そんな学校に通う私をくまちゃんが文化祭に誘ってくれたのは、私が自校の文化祭に参加出来なかったからだろう。

 

 正直、当時の私にとってはそんな優しさが痛かった。

 

 頑張らきゃいけないことは分かってる。

 私だって、出来ることなら元気でいたい。

 でも、やはりこの病弱な身体が現実を知れと言いたげに邪魔をする。

 

 焦りが苛立ちに変わってしまう。

 

 そんな苛立ちで、自分の心の醜さを知る。

 

 自分で分かってしまうほどの悪循環だった。

 

 そんな風に考えながら、体育館内でくまちゃんと有志による発表を見ている時だった。

 

「くまっ!」

 

 不意にくまちゃんの横に知らない女の子がやってきた。

 くまちゃんは彼女の名前を呼んで、言葉を交わし始める。

 聞き耳を立てると、どうやらくまちゃんは今回の文化祭に際しての委員になっていて、クラスをまとめていたらしい。

 自身のクラスの出し物で少し不手際があって、少し手を貸してほしいっていうのが彼女の目的のようだった。

 

 まだ半年ほどしか経っていないが、くまちゃんはクラスから頼りにされてる存在になっていた。

 

「(凄いな、くまちゃん)」

 

 内容自体はすごく事務的なやり取りだったが、側から見れば仲良く話しているように見え、それが私に見せつけられているように感じた。感じてしまった。

 

「ごめん、玲。ちょっとだけ離れるけど、いい?」

「うん、大丈夫。ここで待ってるね」

 

 笑みを浮かべてそう言うと、くまちゃんは申し訳なさそうな顔のまま行ってしまった。

 それと同時に有志の発表が終わる。

 すると、体育館からかなりの人が抜けていった。

 不思議に思っていると、館内放送が響く。どうやらこの後の中庭で有名なお笑い芸人のお笑いライブがあるらしい。

 気づいたら、百人以上いた館内には十数人ぐらいしかいなくなっていた。

 動こうという気持ちになれない。

 くまちゃんに待ってる、と言ったからではない。

 単純に、気持ちが動かなかった。

 

「(どうなるんだろ、私)」

 

 どう()()んだろう、ではなく、どう()()のだろうと内心で呟く。

 何をやろうとしても、もう無理だと決めつけてしまった。

 この体質に最後まで振り回され、そして、なされるがままにするしかないのだろうと、思ってしまった。

 そんな風に、考えている時だった。

 

『え〜……、皆さん、こんにちわ』

 

 次の有志の人が、たった一人で壇上に上がっていた。

 男の人だった。

 彼はどこか慣れない様子でソワソワとしながら、次の言葉を探していた。

 かわいそうに、と口には出さないが素直に思った。

 辺りを軽く見渡せば、先ほどよりも明らかに人が減っており、残っている人も何処かサボりに来た人や物見遊山で馬鹿にする気満々の男の子たちばかり。

 せっかくこの日のために準備してきたのに、これでは報われない。

 しかし、彼は続けた。

 

『え〜、人が少なくなってしまって可哀想って思ってる方、大丈夫です。わざとこの時間を狙って順番を練ってもらいましたので』

 

 緊張した笑みを浮かべながら、そう言う彼。

 その言葉を聞いて、私は少し安心したように肩の力を抜いた。

 だが、ほかの人たちは何やらクスクスと笑っていた。

 

『今回、自分歌うんですけど、ここで一つ。自分が歌うのは既存の曲ではなく、自分で作詞作曲した歌です』

 

 周りの人たちが急にヒソヒソと話し始めた。

 曰く、大丈夫かと。黒歴史確定だなと。お笑いの方に見に行った方がいいんじゃないかと。

 二人ぐらいが席を立って外に出た。

 まぁ、それも当然といえば当然だと思う。

 自分で曲を作ったのは凄いが、所詮は中学生が独力で作った曲だ。純粋に期待しろという方が無理だ。

 

『本当ならバンドでやりたかったんですが、見ての通り、集まりませんでした。楽器できる友達、居なかったとです』

 

 本当に落ち込んでるようにいう彼に、私を含めて何人かがクスクスと笑う。

 

『なので、今回あらかじめ自分が録音した曲でやらせて頂きます。ちゃんとカラオケバージョンで作ってきたので、口パクとかじゃないです。安心してください』

 

 気にしてねぇぞ、と一人の男の子が声を上げた。

 それを聞いて、壇上の彼は苦笑いを浮かべてヒラヒラと手を振る。

 ここで一つ咳払いを挟んだ。

 

『ここまでの話で出て行かなかった皆さん。ありがとうございます。自分が人前で歌うのは多分今日だけです。自分の歌を聞けるのは、後にも先にも試聴してくれた文化祭実行委員会の一部と貴方方だけです。ラッキーとでも思ってくれたら嬉しいです。それと』

 

 そこで区切ると。小さく笑みを浮かべて続けた。

 

『歌詞に注目しながら、聞いてくれると幸いです』

 

 そう言うや否や、音源の人たちに合図を送る彼。

 スピーカーを通じて館内に響く音楽。

 その完成度に皆が息を呑み───

 

 

「あ…………」

 

 

 私は、曲に乗せて送られた彼の『言葉』に救われた。

 

 

 

 

 ♦︎ ♦︎ ♦︎

 

 

 

 

「たしかに一時期話題になってたけど、そんな事があったんだ」

「那須先輩がたまに鼻唄で歌うのって、その時の曲だったんですね! 納得しました!」

 

 恥ずかしそうに視線を下に逸らし、頰を赤く染めながらそう告白した那須に熊谷と日浦が各々感想を述べる。

 かく言う俺は両手で顔を覆っていた。

 理由は明確。誰でも黒歴史を晒されればこうなるだろう。

 

「まさか、ボーダーにそれに知ってる人がいるとは……。というか、よく覚えているな。もう五年程前だぞ?」

 

 ポツリ、と小さく独り言として呟く。

 俺が中学二年、より細かく言えば両親が死ぬまでの趣味であった曲の製作であった。

 パソコン内で各楽器の音を作るのではなく、俺は自ら楽器で音を奏でて、音声も専用のマイクを使っていた。

 ドラマやキーボード、ギターやベースといった楽器や専用のマイクは高価なものだ。通常の家庭なら、ここまでのものを子供に買い与えたらしないだろうし、部屋の防音だってしなくてはいけない。

 けど、俺の両親は俺がしてほしいというと対価はあったものの、了承してくれた。

 以前、俺が中学二年まで両親に好きにやらせてくれたって言うのはこの事だ。

 もちろん、これは趣味であったため、中一までは自身の中で完結していたが、中二の頃にほかの人に聞いてみてほしいという欲求が沸いた。

 で、結局文化祭の、そして大人数に聞かれるのは恥ずかしかったため人数が一番少なくなる時間帯を狙って歌わせてもらったというわけだ。

 

「(もっとも、両親が死んでからは楽器には一度も触ってないんだけどな)」

 

 おそらく埃を被っているだろう楽器を思い起こしながら、俺は区切りをつけるため一度息をついてから口を開いた。

 

「と、とりあえず、次のチーム戦に向けて話し合わないか? 次の対戦相手の情報はあらかた聞いたけど、俺は君らのことを知らない。お互いの情報交換をしときたいんだが……」

 

 そう言うと、帽子を被った小柄な子が手をピシッと挙げた。

 

「日浦茜です! ポジションは狙撃手! よろしくお願いします」

「樹神一葉だ。日浦さん、よろしく………ん?」

 

 ふと、何やら含むような笑みを浮かべる彼女から目の前に右手が差し出されているのに気づいた。

 それが握手と気づいた俺は素直に応じていると、日浦と以前会ったことある黒髪の子のあいだで何やらアイコンタクトが交わされた。

 

「熊谷友子です。ポジションは攻撃手。どうぞよろしくお願いします」

「あぁ、以前はわざわざすまなかった。よろしく頼む」

 

 日浦に次いで自己紹介を終えた熊谷は、同じように自然と右手を差し出して握手を求めた。

 当然応じる。

 すると、熊谷と日浦が那須の方へ視線をやり、からかうような笑みを浮かべて口を開いた。

 

「玲も、もう一度しっかり自己紹介」

 

 熊谷がそう言うと、那須が驚いたように僅かに両目を見開き、頬を薄く赤めながら視線を下にやった。

 この自己紹介の流れでいうと、熊谷は遠回しに握手しなさいと言っているようなものだ。

 小声で日浦が「那須先輩、ファイト〜」と呟いた。

 彼女たちは知ってる。

 那須が樹神を迎えるための台詞を、壁に向かって何度も練習していたことを。

 樹神が来ることで一番緊張しているのが、那須だということを。

 

 一番楽しみにしていたのが、那須であることを。

 

 だからこそ、日浦も熊谷も、樹神も那須の言葉を待っていると、やがて那須は覚悟を決めたようにゆっくりと視線をこちらに向けて声を挙げた。

 

「改めて、那須玲です。ポジションは射手。よ、よろしくお願いします」

 

 オズオズと差し出された那須の右手を、ゆっくり、それでいて力強く握る。

 

「改めて、弓手町支部所属の樹神一葉だ。ポジションは攻撃手。迷惑をかけるかもしれないが、よろしく頼む」

 

 そう言って小さく笑みを浮かべると、那須も、どこか安心したように微笑を浮かべるのであった。

 

 

──────────────────

 

 

『時間が迫ってきました〜、三チーム対抗戦第二戦目。実況は私、太刀川隊の国近と、解説には初戦で樹神くんにボコボコにやられた米屋くんと諏訪さんをお招きしてま〜〜〜す』

『ボコボコされた言うな』

『あんなの、初見じゃ無理だろ』

 

 再度場面は変わって、Bランク戦ブースの観客席。

 先程人見が座っていた実況席には、おっとりとした雰囲気を纏う国近の姿があり、実況席には拗ねたように両肘を机に乗せ、両手で頬杖をついている諏訪と米屋の姿があった。

 気合い入れて臨んだせっかくの第1戦目を速攻といわんばかりに終わらせられた諏訪は不機嫌の色が濃く出ているが、米屋は諏訪の真似をしているものの、笑みを浮かべている辺りある程度ふっきれているようだ。

 ふと、米屋が国近の方を向いて問うた。

 

『弾バカと国近先輩だけっすか? アレ、知ってたの』

『そだよ〜。つい先週、出水君が連れてきて、太刀川隊室で練習してたの〜。一応、秘密って言われたけど、樹神隊員が自分でバラしちゃったからね〜』

『かぁ〜、まじかぁ』

『うちの出水くんをハブった罰だねぇ。諏訪さんは、言うとこ出水くんを生贄にした罰?』

『うっせぇ!』

 

 そんなやりとりをしながら、米屋が「緑川じゃなくて、弾バカにしときゃ良かった」と呟くと、実況席の前に座していた緑川がジト目で米屋を見つめ、出水は舌を出していた。

 

『さて〜、そろそろ時間ですので、始めてきましょ〜。解説のお二人さん、この試合、どう思います?』

『まぁ、まず、樹神先輩が中位の部隊に参加して、相手が上位勢ってところが注目だよなぁ。生駒隊と王子隊って、今何位でしたっけ?』

『生駒隊は暫定三位、王子隊は暫定六位だねぇ〜。ちなみに、那須隊は暫定十一位だよ〜』

『パワーバランス、結構ちょうどいいんじゃねぇか? 樹神のアレも既に割れてやがるし、危険度もダントツだ。動き方次第じゃ簡単に袋にされるぞ』

『王子隊は言わずもがなだけど、生駒隊も流石に無視は出来なさそうだねぇ。樹神隊員は影浦隊員や村上隊員にも完全に勝ち越してるし、生駒さんもそこは意識してるじゃないかな?』

 

 どこか柔らかい口調で進められるやり取りだが、ほとんどの者が彼らの言葉に同意する。

 元からあった近接の攻撃力に加え、第1戦目で目にした樹神の高トリオン能力による中距離の攻撃力。

 先程誘導弾(ハウンド)炸裂弾(メテオラ)しか使っていなかったが、彼のトリオンキューブは二宮よりも大きい。威力が最も高い通常弾(アステロイド)を使えば、シールドを張ろうとも削り落とされるのは容易に想像できる。

 たった一人の存在とはいえ、無視するには脅威が大きすぎるのだ。

 

「(まぁ、通常弾(アステロイド)は使えないみたいなんだけどな)」

 

 ほかの面々が考えてそうなことをまとめた荒船は、ふと内心でそう呟く。

 加えて、訓練生らは二宮の脅威と比べて戦慄しているが、そもそも二宮の攻撃力は彼のトリオン能力の高さによるものではなく、彼自身の戦術と経験から来るものだ。単純な射手としては樹神は二宮にまったく及ばない。

 だが、それらも樹神の高機動による攻撃力や一閃といった技能と組み合わせれば一流へ昇華する。

 これにどう対処するか、それが重要とも言える。

 

「王子の奴、どうするんだろうな」

「さぁ? まぁ、なにかしら対策はしてるだろうから、そのお手並み拝見だな」

 

 先程よりも後ろに位置する席で並んで座る荒船と村上。

 その二人のやり取りに、ようやく隊室の掃除が終わり、先程合流して二人の前の席に座る来馬隊の別役が言った。

 

「存外、生駒さんの旋空でポックリ落ちちゃうんじゃないですか?」

 

 両隣にいるはずの来馬と今が飲み物を買いに行って不在のためか、行儀悪く身体の向きを反転させ、席に両膝を乗っけて後ろを向く別役。

 その姿に苦笑いを浮かべながら荒船が答えた。

 

「ん〜、まぁ、あり得ない話じゃない。あの人の旋空は、警戒してて完全に防げるモンじゃないからなぁ。けど、近づけば一葉に軍配が上がるんじゃねぇかな?」

 

 影浦と村上との戦闘を見て、樹神の近接戦闘能力の高さを知る荒船はそう結論付ける。

 たしかに、生駒は現在攻撃手五位であるため、現ランクでいえば影浦や村上よりも上だが、元々影浦は攻撃手四位であった上に、生駒に対しての村上の勝率も、最近は高い。

 それらを踏まえれば、生駒は攻撃手としては影浦や村上よりも下であると考えられる。

 そう思っての結論だったが、その言葉に小さく「いや」と否定の声を上げたのは村上だった。

 

 

「生駒さんの厄介さは旋空だけじゃない。多分、一葉も苦労するんじゃないか?」

 

 

『さぁ、そうこうしているうちに始まりました三チーム対抗戦第二戦目。那須隊の選択マップは市街地A。各隊員の配置は………え?』

『は?』

『ん?』

 

「ひっでぇ」

 

 実況、解説の面々が言葉を無くし、出水が苦笑いを浮かべて小さく呟く。

 彼の見つめる先、第二戦目のマップで各隊員の位置情報を写したモニターには、真ん中に那須隊を置いて、綺麗に王子隊と生駒隊が分かれているのを写していた。

 

 

─────────────────────

 

 

「ラッキーだね」

『あぁ。おかげで合流しやすい』

 

 そう言って即座に動き始める王子と蔵内。

 マップを見てみると、左端に王子隊が集まっている状態で、横長に各隊員が展開している。

 今一番王子隊の中で敵に近いのは、樫尾だ。

 

「カシオ、一番近いのは誰か、分かるかい?」

 

 そう聞かれた樫尾のスタート地点はマンションの上であったため、直ぐにバックワームを起動して下を見渡す。

 すると、次いで樫尾の息をのむ声が通信で聞こえた。

 

『樹神先輩です!』

 

 

 

 

『なんやラッキーやな』

「そっすね」

 

 王子隊と同じようなやり取りを行う生駒と水上。

 一番右端に転送された生駒は急いで中心に向かって疾走しており、水上は屋根伝いに最も真ん中寄りに転送された南沢へ向かいながら、マップを見ていた。

 

「海、お前がいっちゃん敵に近い。誰か分からんから少し待て」

『りょ〜かいっす』

 

 いつもなら突撃をかます南沢だが、樹神だったときのことを考えて大人しくバックワームを起動して屋内に待機する。

 水上はその返事に満足して、再度マップに視線を落とす。

 現在は生駒隊全員がバックワームを起動して中心へ向かっており、左端に転送された向かい側の面々も同じのように動いている。

 次いで、戦闘が勃発してそうな真ん中の面々の動きを見ると、水上は気づいた。

 

「隠岐、海にいっちゃん近い奴、誰か分かるか?」

『え〜っと、ちょい待ってくださいね』

 

 水上の言葉を聞いて、グラスホッパーを使って高層建築物へ登る隠岐。

 その流れのまま狙撃位置についてスコープを覗くと、数秒して発見した。

 

『くまちゃんっすね』

「うし、海、詰めぇ。俺らもすぐに着く。隠岐は狙撃はせんでえぇ。一応ほかの奴らの索敵を頼むで。マリオ、タグ付けと隠岐、海の支援頼む」

『はいよ』

『隠岐、了解』

『え、いいんすか?』

 

 生駒隊オペレーターの真織と隠岐の了解の声に対し、南沢は素直に疑問を口にした。

 すると、水上は頭を掻きながら告げた。

 

「なんや挟み撃ちになってるっぽいわ。んで、真ん中の敵さんは那須隊。樹神クンを落とすんなら他を早よ落とした方がええ」

『おけっす!』

『海、那須隊の援軍来る前に落としてまえ!』

『んじゃ、一応敵さん来ないか見ときますね』

 

 そう言って、生駒隊各個動き始めた。

 

 

 

『なーなー、隊長の生駒さんには何かないん?』

「特にないっす。はよ来て下さい」

 

 

 

 

 不味い、と。

 マップのド真ん中に転送された那須は思った。

 自分に最も近いのは、自身の転送位置より左に位置する日浦茜。その奥に樹神。そして、右の離れた場所に熊谷。

 味方の四人が真ん中にある程度固まっているのはいいが、右側に四人、左側に三人に挟まれるようにして展開していた。

 

 那須は右側と左側でどのような組み合わせが考えられるか、即座に頭の中でシミュレートする。

 

 レーダーを確認すると、自身の味方以外の反応は四つ。つまりはバックワームを起動しているのが三人いるということだ。

 そのうち、生駒隊の狙撃手である隠岐であることはほぼ確定。

 では、他は誰なのか。バックワームで反応が消えていない最初のレーダー情報を見るに、消えているのは樹神側の一人と熊谷側で一人であると分かる。

 では、何故バックワームを起動したのか。

 転送直後に反応が消えたのは、恐らく隠岐。では、それ以外のに消えた反応の共通点は何かと言われると、敵である私たちに近かったという点であった。

 

「(多分、一人でいる状態で樹神先輩から狙われないためのバックワーム。じゃあ、それ以外は……)」

 

 今レーダー上に見える、他の敵の動きを観察する。

 左端では真ん中に向かいつつ、二つの反応が合流したことから、恐らく同チーム。足の速さから王子隊。

 右では少し動きがバラついてはいたが、今となっては各々が真っ直ぐ目的地に向かっている。左端に王子隊二人が集まっていることから、消去法的に生駒隊がまとまっているのだろう。

 どちらの隊も、動きに全く迷いがなさそうに見える。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ!」

 

 ここで、那須は完全に自身の隊がキッチリ王子隊と生駒隊に挟撃される寸前であることを理解した。

 

「くまちゃん、急いで北西に向かって! 絶対に捕まっちゃダメ!」

 

 今から援護に回ろうと、那須が到着したと同時に敵の面々も合流してしまう。

 それだと私たちに勝ち目はない。

 そう考えた那須は、どうにか北に逃げて、三角形のような三つ巴にするためにそう指示したが。

 

『ごめん、玲。見つかったみたい』

 

 熊谷が僅かに焦りの声色を含んで言葉を返す。

 次いで、耳元で先ほどまで別室に引きこもっていた那須隊のオペレーターである志岐小夜子が、熊谷が戦闘状態に入ったことを報告してきた。

 

「(駄目、このままじゃ)」

 

 移動していてはいたものの、考える時間が長すぎた。

 そのせいで指示が遅れ、完全挟撃という最悪の展開の手前に足を踏み入れてしまっている。

 耳元から入ってくる情報を聞くに、熊谷と戦闘しているのは生駒隊の南沢。合流を阻むように位置取りされながらの戦闘とのことだ。

 これでは合流は出来ない。

 モタモタしていると、生駒隊が熊谷の元に揃うことはおろか、王子隊丸々が樹神とぶつかってしまう。

 一度指示が遅れ、後手に回ってしまったこと。そして、樹神という憧れの存在が自身の隊にいることの緊張から、那須はいつもより頭が回らなくなってしまった。

 その時だ。

 

『俺が熊谷のフォローに行こうか?』

 

 ふと、樹神からの通信が入った。

 那須は一瞬反応に遅れたが、すぐに口を開いた。

 

「で、でも、樹神先輩の方には……」

『王子隊三人が揃ってるんだろ? さっきマンションの屋上に反応の消えた黒色の隊服の奴を見た』

 

 言葉を先回りして答える樹神に、那須は口を閉じる。

 これで熊谷の方に生駒隊が集結してるのは確定。絶望的な状況へ王手がかかる。

 

 ここから先は、対応が遅れれば詰む。

 

『幸い、王子隊が中心から一番遠い。俺が最速で熊谷のところで生駒隊を引き受けるから、那須たちは後ろに引きながら、王子隊を少しでも足止めしてほしい。そっちが俺らのとこに来た時には、最低二人は落としとく』

「それなら、樹神先輩が王子隊を相手取るのは無理ですか?」

『いや、それがもう既に補足されてるようで、合流を優先してるみたいだ。部隊全員で満を辞して待ち受けられれば、俺も落とされない自信はない。それに』

 

 樹神は一呼吸挟んで、続けた。

 

『生駒隊も王子隊も、俺の()()()を知らない。熊谷の近くが俺じゃないと知れれば、生駒隊も踏み切ってくるはずだ。そこを突いた方が、俺としては落としやすい』

 

 そう締めくくる樹神は、そのまま那須の返答を待つ。

 那須は、一度熊谷の方に向いていた足を止めて樹神の方を見る。

 この通信は那須と樹神だけの通信。元々全員で共通にしたかったが、自身の隊のオペレーターが男性恐怖症なのもあって、樹神とのパスは那須のみしか持ち得ていない。

 故に、今の決定権を持っているのは那須のみ。

 時間がないと分かっているとはいえ、少しだけ考えてしまうが、那須はついに決心した。

 

「……分かりました。お願いします」

『了解した。おそらく生駒隊の狙撃手が他を警戒しているはずだから、那須はなるべく上空を迂回しながら王子隊の方に変化弾を打ち込んでくれ。それで俺が近くにいないと知れるはずだ。あと、一分耐えてくれと、熊谷に伝えてくれ。直ぐに向かう』

 

 それを最後に、通信が切れる

 これが最適解かは分からない。

 だが、元々チームの自力では王子隊や生駒隊の方が上なのだ。那須たちがどれほど集まっても、そのままぶつかれば不利なのは那須隊。ここでのジョーカーは樹神なのだ。それをどう動かし、ぶつけて活かすのかが、この戦いの鍵。

 那須は三度ほど小さく呼吸を挟むと、右手を上に掲げた。

 

変化弾(バイパー)っ!」

 

 

 

 

誘導弾(ハウンド)

 

 メイントリガーの方で誘導弾(ハウンド)を発動させながら、炸裂弾(メテオラ)に変わり、新しくサブトリガーの方に入れてもらったバックワームを起動する。

 慎重にトリオンキューブを分割した後、マンションのほうへ放つ。

 すると、広く撃ったはずのトリオン弾はマンションのある階に向かうように収束していく。

 

「(やっぱり見ていたか)」

 

 誘導弾(ハウンド)の誘導方法には二つある。

 まずは使用者の視線の先へ向かう視線誘導。そして、トリオンを感知して自動的に追尾していくトリオン感知誘導。

 今回は当然後者。と、いうより俺が使う誘導方法は主にこれだ。

 これにより、先ほどの黒服の隊員の位置が粗方割れる。

 と、なれば相手はどうするかというと全力逃走だろう。

 それは一人では俺に勝てない、と思ってる故の行動だ。俺を見てすぐにバッグワームを起動したことからこれはほぼ確定だろう。

 加えて、初めてバックワームを起動する俺の存在もあり、一度逃走のため俺の捕捉を切ってしまった向こうは俺の存在に気になって慎重にならざるを得ない。

 

「(これで少しは足を止めてくれればいいんだけどな)」

 

 俺はそう思いつつ、家屋の屋根から道路に降りると、()()()()()()のところでグラスホッパーを起動し、加速を開始した。

 

 

 

 

『すみません! 樹神先輩を見失いました!』

「いや、それは仕方ないね」

 

 樹神とは真反対の面でマンションから降下する樫尾を遠目に捉えながら、王子は樫尾をフォローする。

 王子は、地面へ落ちていく樫尾に一つ質問を飛ばした。

 

「コダマルクが来る様子はないかい?」

『え、あ、はい。今んところ追ってきてないようです』

 

 その言葉を聞いた王子は、次いでレーダーに視線を落とした。

 樹神の反応が消えているのにすぐさま気付いた王子は、走りながら数秒すると、結論を口にした。

 

「うん、コダマルクはイコさん達の方に向かったみたいだ」

『え? それは、何故?』

「わざわざおよその位置が分かったコダマルクがカシオを追わない理由はそれくらいしかないよ。僕たちがカシオの元にまだ着かないのはレーダーを見ても明らか。その気なら僕たちが着く前にカシオを落とせたはずだよ」

 

 樫尾が飛び降りたマンションがトリオン弾によってガラガラと一部崩壊しているのを見ながら王子がそう言うと、蔵内が不意に口を開いた。

 

「なるほど。だからか」

「? 何がだい?」

「王子が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。樹神の動きを浮き彫りにするため、わざと起動しなかったんだな」

 

 王子と並走している蔵内の指摘に、王子は得意げに「まぁね」と呟いた。

 王子は樫尾の元に急ぎながら、続ける。

 

「おそらく、那須(ナース)達はイコさんらの方をメインに、引き気味にこっちを足止めだと思う。今生駒隊と戦闘してるのは、二人の距離感的に熊谷(ベアトリス)だね。本気でこと構えてくることはないと思うけど、中距離の那須(ナース)と遠距離の日浦(ヒューラー)には注意していこう」

「了解」

『了解です』

 

 

 

 

 

 

「(…………二、十秒ッ!)」

 

 心の中でそう唱えつつ、熊谷は自らに振り下ろされた刃を受け止める。

 上段からの振り下ろしを防がれた目の前の少年、南沢は笑みを浮かべながら直ぐにヘソの位置に両手を下ろすと、柄で熊谷を押すようにして体当たり。

 

「うっ!」

 

 熊谷は後ろに軽く飛ばされながら態勢を崩す。

 それを見た南沢は舌を出して───

 

「旋ッ空、孤月ッ!」

 

 見え見えに横へ一閃。

 軌道が分かったことが助けに、熊谷は孤月を自身の身体に固定して斜めに受けた。

 あまりの威力に弾かれかけるが、なんとか耐える。

 那須の言葉を受けてからは、受けに回って時間を稼いでいる熊谷だが、段々と押され気味になってきていた。

 熊谷は典型的なカウンター型の攻撃手だ。

 相手の攻撃に合わせて己の一撃を乗せる、もしくは返すのを得意としており、それには相手の動きをある程度知る必要がある。

 そんな彼女の相手をしている南沢は、正直言って熊谷との相性が悪い。

 彼の剣筋や身体の運びは通常のそれとは異なり、自由なものが多い。先程から受けて南沢の動きを観察するが、数瞬前の彼の動きは未来の彼の動きの参考にならない。

 

『熊谷先輩っ! あと十数秒で生駒隊の援軍が到着してしまいます!』

 

 あえて受けに回ってようやく凌いでいた状況に、志岐の報告で暗雲が立ち込める。

 それが一体誰なのか。生駒、水上のどちらにせよ、彼女にとって最悪であることに変わりない。

 

「(あと、三十秒。もしくはもっと)」

 

 そう内心で呟きながら再度構え直して、南沢を見つめる熊谷。

 正直、樹神が来るまで持ちそうにない、と思っている。

 先ほど樹神がいた場所からここまでおよそ2キロはある。

 それをたった一分で走破できるとは到底思えなかった。

 

 そして、それは熊谷だけではない。

 

『樹神先輩、レーダーから消えてますね。一応警戒しときます』

『いや、流石に間に合わんやろ。海、いけそうか?』

『も〜ちょいっすね。やっぱ熊ちゃん先輩固いっすわ』

『柔らかそ〜な見た目しとんのにな』

『やかましいわ』

 

 隠岐の報告を聞いた生駒隊も、熊谷と同じ結論に至っていた。

 水上は向かってきているか不明だが、樹神が来る前に熊谷を落とすべく動き出す。

 

 

 

「ぐぅっ!」

 

 約束の一分まで残り二十秒ほどで、再び体当たりで体を浮かされる熊谷。

 すでに四肢には軽い斬傷がいくつもあり、彼女自身も既に限界に近い。

 そして。

 

「ア〜ステ……」

 

 不意に左の家屋の屋根から新たな声が聞こえた。

 そこに視線を向けると、水上がトリオンキューブを投げるべく構えてる姿が写った。

 加えて、視界の端でギリギリ捉えれた南沢の後ろおよそ三十メートル先。

 そこには、すでに上段の構えで旋空を放とうとする生駒の姿。

 

「(残り、十秒…………もぅ無理)」

 

 流石に避けきれないと判断した熊谷は、悔しさに表情を歪めつつ、せめてと水上の方はシールドを展開し、防がないと知りつつ生駒の旋空のおよその太刀筋に孤月を添える。

 

「(ごめん、玲)」

 

 そう、心のうちで謝罪を浮かべ、瞳を閉じようとした時。

 

 

 急に水上が爆発した。

 

 

「な!?」

「水上先輩っ!?」

『警戒ッ!』

 

 南沢と生駒の耳元に、細井の鋭い声が抜ける。

 すると、生駒の元には上空から曲線を描いてトリオン弾が襲来。南沢の元には、横から凄まじい速度で一人の人物が突っ込んできた。

 

 樹神だ。

 

「っ!」

 

 南沢は彼の姿を確認すると、すぐさま孤月を振り抜いた。

 今、生駒にトリオン弾が襲いかかってきているため樹神の対処は難しいと考えた末、自分が止めなくてはならないと判断したが故である。

 だが、彼に樹神を止める力はなかった。

 

「うぇっ!?」

 

 そんな情けない声を上げながら、南沢は一瞬で両腕を切断されてしまう。

 次の瞬間、両腕をなくして無防備になった南沢の胸ぐらを掴むと自身に引き寄せる。

 その行動の意図を読めず混乱する南沢は腹に何か当たる感触がしたと思うと、凄まじい速度で後ろへ射出された。

 

「(……グラスホッパー)」

 

 樹神の後ろで見ていた熊谷は、彼が一体何をしたのか理解する。

 だが、何をされたか分からない南沢は勢いを殺すことができず一直線に生駒の元へ吹き飛ばされる。

 狙われた生駒は上空からのトリオン弾をギリギリまで引きつけ、前に飛び出すことでなんとか回避したところであり、目の前に飛んできた南沢に驚きつつ、キャッチしようと身構えた。

 が。

 

『イコさんっ!』

「!?」

 

 不意に耳元から隠岐の声が聞こえた。

 生駒はそれに反射的に伏せると、南沢の身体を何かが貫通し、生駒の髪の毛を掠めた。

 

『トリオン配給機関破損。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 聞き慣れた機械音が響いたと思うと、南沢の身体は淡い光に包まれ上空へ登っていった。

 何をされたのか、生駒は理解する。

 視線の奥の樹神の姿から一閃を放ったのだ。

 

「隠岐」

『……すみません、声を発する間もなかったッス』

「ちゃうちゃう。ナイスや、助かった」

 

 生駒の呼びかけに、報告が遅れたことを咎めるのかと勘違いした隠岐は謝罪を口にし、生駒はそれを訂正して感謝を述べる。

 実際、隠岐は肉眼で、彼らのオペレーターである細井真織も直前に樹神がバックワームを外したことでレーダー上で樹神の反応を確認できはした。

 

 それを告げるよりも、樹神が速かっただけの話だ。

 

「……流石に、全員とはいかないか」

 

 視線の先に生駒を捉えながら、小さく呟く。

 それを聞いた熊谷は思わず苦笑いを浮かべてしまった。

 聞いてたより、十秒も早い到着だ。

 樹神はチラリと熊谷を見ると、安心したように微笑を浮かべて、短く息を吐いて言った。

 

 

「まぁ、とりあえず、間に合って良かった」

 






 読んでいただき、ありがとうございます。
 今回もまた一万文字を超えてしまいました。
 読みにくくて、すみません。

 加えて、大変遅くなってしまいましたが……

 皆さんのお陰でお気に入り数が1900を超え、評価数は百人以上を達成しましたっ!!!

 応援、お気に入り登録、評価をしていただいた読者様、本当にありがとうございます!
 月に一度更新するかどうかの更新ペースですが、これら読者様のお陰でとても励みになっております!
 これからも、どうか当作品をよろしくお願いします!!
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