Another Trigger 〜弓手町支部所属の攻撃手〜 作:匿名中
あぶないッ!
『……なんか一瞬で二人落ちちゃったね』
『おいこら実況』
五秒にも満たない一瞬の間に起きた攻防にランク戦観戦室全体が言葉をなくしている中、実況席に座っている国近がポツリと呟き、それを諏訪が突っ込む。
しかし、実際全てを認識するには第三者視点では難しく、現に樹神が何をしたのか分かってるものは少なかった。
故に、一人一人が認識できた範囲内で擦り合わせることになる。
『最初の
『そうですね〜。樹神隊員は生駒隊までおよそ百メートルの時点でバックワームを解除、
そう言って諦めたように目を閉じて笑う国近に、たまらず諏訪は苦笑いを浮かべる。
すると、両手で頬杖をついていた米屋が口を開いた。
『水上先輩は
『おっ? 米屋隊員、分かったの?』
期待の瞳を米屋に向けながらそう尋ねる国近。
すると、米屋は目を細めて続けた。
『樹神先輩が
『待て待て。
そう詰めた諏訪に思い出されるのは二週間前のB級ランク戦。生駒の援護を行おうとした水上が
二宮や出水といった高トリオン能力を持つ者であればキューブ自体が巨大であるため狙撃出来そうであるが、それと比べれば水上のそれは小さい。
加えて、五百メートルほど離れた位置から撃ち抜くなんていう神業は他では見れない。
本当に変態だなこの人、と。
諏訪が東に対してそう感じたのは久しくない。
そう思って米屋に詰め寄った諏訪だが、米屋は簡潔に述べた。
『シールドッスね。水上先輩が撃ち出す手前にシールドを張ったみたいッス』
『あ〜〜、なるほど〜〜』
『なるほど〜、じゃねぇだろ!? あの瞬間であんなピンポイントにシールド貼れるかっつの!?』
米屋の言い分に納得の声を上げる国近と、乱暴に声を荒げる諏訪。実際、シールドを扱ったことがある面々は高速で動いてのピンポイントシールドの技量の高さに驚いており、心情的には諏訪派だ。
だが、荒船ら樹神を知る面々に関しては納得していた。
「元々、グラスホッパーでも似たようなことしてたし、一葉ならこんぐらいは出来るだろ」
「あそこまでピンポイントなのは予想外だけどな」
荒船が帽子のつばを触りながら吐き出した台詞に、村上が苦笑いとともにそう添える。
別役ら初見勢は、未だに目を白黒してる。
そして、それによって落ちた生駒隊はというと。
「うっそやん。そんなんありか」
「しゃーないしゃーない。切り替えぇや」
緊急脱出後に転送されるベットから起き上がって細井の隣に移動してきた水上は心底嫌そうに述べ、細井は支援端末を操作しながらフォローする。
水上は小さくため息をついて、自身のモサモサした頭に右手をやって軽く掻きながら言葉を溢す。
「東さんにやられた時とおんなじや。何されたんか訳分からんかったわ」
「あんな一瞬じゃぁどうしようもあらへんやろ」
『せやで水上。次は気ぃ付けぇ』
「どうしようもないことをどう気をつけろと?」
我らが隊長の言葉にそう突っ込む水上。
しかし、次いで大きくため息をつくと切り替えて口を開いた。
「んで、どうします?」
『せやなぁ……とりあえず、やれるだけやってみるわ。とりあえず、水上。隠岐の狙撃のタイミング、お前に任せたで』
「了解。隠岐」
『分かってます。あれはズルいっすわ。下手に撃てません』
先ほどのグラスホッパーの速度を肉眼にて捉えていた隠岐は、冷や汗を滲ませながらそう呟く。
もし下手な一発で樹神に位置バレし、こちらに標的を変えられでもしたら此方もグラスホッパーを使えど簡単に追いつかれ、やられる。
加えて、今スコープ越しに見える樹神は生駒を捉えつつ、周囲からの攻撃、つまりは狙撃を警戒してるのが見て取れた。このまま撃ってもただ居場所を晒すだけだ。
だからこそ。
『俺が撃つのは、イコさんに注意がいった時ッスね』
「せや。タイミングはこっちで見極める。いつでも撃てるよう、準備しとき。確実に、
『……了解』
そう言うと、隠岐は手に持ったイーグレットを高速度狙撃銃であるライトニングへ切り替える。
威力や射程を捨てて弾速を重視した理由は二つ。グラスホッパーによる樹神の速度の緩急が激しいため、通常の狙撃では外してしまう可能性があるため。
そしてもう一つは、なんて事ない。
威力など捨てていい。結局のところ、シールドを展開させなければ良いのだ。
『イコさん、頼んます』
『おう』
隠岐のそんな一言に、生駒は短く答える。
戦闘が始まった。
♦︎ ♦︎ ♦︎
日浦は隠れていた。
自身の得意狙撃銃であるライトニングを体に抱きしめながら、バックワームを纏い、とある一軒家の一室に身を潜めていた。
狙撃手が隠れる理由というのは、至極単純だ。
狙撃手というのは、一度撃てば位置が割れてしまう。遠距離攻撃という絶対的なアドバンテージを持つ狙撃手だが、その分寄られれば脆い。
このデメリットはどの狙撃手でも共通であり、あの始まりの狙撃手である東でもそれは変わらない。もちろん、例外はいる。玉狛に所属する木崎レイジは
では、日浦もそういった理由で隠れているのか、といえばそれは違う。
現在彼女が隠れているのは、近くに狙撃にはうってつけの高層マンションがあり、その上、もう少しで近くを
何故わざわざそんなところで隠れているのか。
たしかに、敵が近くを通るところに隠れるというのは危険極まりない。だが、それを加味しても王子たちが通り過ぎた後、
近くのマンションを狙撃位置にしようとは思っている。だが、そこが絶好の狙撃位置というのは王子も分かっている。
だからこそ、そこで隠れてしまうのは危ない。
だからこそ、狙撃の射線がほぼ通らず、それでいて本来なら隠れるはずもない一軒家に隠れる。
もちろん、万全を期すならば王子たちが通らない、よりマンションから遠い位置に隠れるべきではある。
だが、日浦自身、足の速さというのは言うほど突出してはいない。下手に狙撃位置から遠ざかれば挟撃が遅れてしまう可能性もある。
そして、これが決まり手。
わざわざ王子たちが通るであろう位置に隠れるというセオリーから外れた方法。それであれば、あの聡明な王子を上回れる気がしたのだ。
那須やオペレーターである志岐にも、この試みは伝達済みだ。二人からも了承は得られている。
あとは、王子たちが
大丈夫、と。
抱えたライトニングを一際強く抱きしめながら、その時を待つ。
──────。
────。
──。
荒々しい破壊音と屋根を踏破していく音が遠ざかっていった。
日浦は小さく息を吐くと、次いで立ち上がり、外に出るべく玄関へと向かい始めた。
急げ急げ、と内心自分に言い聞かせながら駆ける。
今は追ってくる三人を後退しながら
早いうちに挟撃できるならそれに越したことはない。
そう思って玄関の扉を開けて外に出た時だ。
ドシン、と黒い壁にぶつかった。
その壁に顔から突っ込んだ日浦は、思わず尻餅をつく。
無意識に涙目になりつつ自身の鼻は右手をやりながら、ぶつかった黒い壁を見上げる日浦。
結果的に言うと、ぶつかったのは黒い
「
優しい笑みを浮かべながら、日浦を見下ろす王子。
そんな彼に対して日浦は──
「は、はひぃ」
そう呟く事しかできなかった。
『ここで王子隊員に見つかってしまった日浦隊員が
『隠れ方は悪くなかったんだけどなぁ。王子の奴が一つ上をいったな』
『あの発見のされ方、怖っ』
『ナイスだ、王子』
『ナイスよ、王子くん』
『ナイスです!』
「ありがとう」
内部通信でそう言葉をかけてくれる二人に感謝を述べながら、王子は先行くチームメンバーに追いつくべく走る。
樫尾や蔵内、オペレーターである橘高は、王子が相手の戦略を読み取った上での一点と思っているが、王子自身、確信を持って動いていたわけではない。
王子にとって、日浦の発見はラッキーぐらいのものだった。
現状、王子隊にとっての最優先事項は生駒が落ちる前に、その戦いに参入する事。生駒や隠岐が落とされれば、数の優位性が一気に失われる。
故に、今王子たちが最もされたくないのは、時間を稼がれる事であった。
那須を追うこの時間は、王子の中では必要経費として織り込んでいるが、日浦が背後から挟撃してくることは勘定に入れていない。
前と後ろの方向を同時に意識することなど出来ない。
一度挟撃の形が出来てしまえば、日浦を取るために大きく時間を取られる上、数が一つ減ってしまう。
それを危惧した王子は日浦が居ないことを想定に入れながら、
もし、日浦のいる位置が北か南で、前後に挟まれていなかったとしても、王子の優先は変わらない。
前後にさえ挟まれなければ、樹神の元へ参入するまでは日浦は無視するつもりであった。
「(まぁ、落とせたのは僥倖。あとは
そう考えているうちに、蔵内たちに追いついた王子。
相変わらず、那須は三人が用いりそうな道筋を予測し、
三等分にされた攻撃などシールドで簡単に防げるのだが、小賢しいことにたまに全員狙いと見せかけた一人打ちをしてくるので、あまり油断はしていられない。
加えて、そろそろと熊谷が那須に合流してくるはずだ。
王子はそこまで考えて、笑みを深めた。
そろそろだ、と。
「みんな、少し勝負しようか」
時をほんの少しだけ遡ること、生駒と樹神。
熊谷をすぐに那須の方へ逃がした樹神は、視線の先三十メートルほど先で居合の型を保つ生駒と睨み合っていた。
荒船や村上、そして那須隊室に行ってから重ね重ね聞いた、攻撃手の中で最大間合いと威力を誇る生駒旋空。
簡単な話だが、生駒旋空は間合いが遠ければ遠いほど威力が増す。『旋空』というオプショントリガーが孤月の切っ先に近い方が威力があるという、そんな理由ではない。
単純な理屈だ。
本来の二倍以上の間合いを誇る生駒旋空が四十メートルという距離で振られれば、例え通常十五メートルほどの旋空が目で追える速度であっても、生駒のそれは目で追えない。
得物が長ければ長いほど、それが振られた時の切っ先の速度はより速くなる。
そして、速ければ速いほど、威力は上がる。
そも、何故彼が生駒旋空という神業に等しい一撃を持つのか。
それは生駒自身が居合の達人ということが挙げられる。
関西からのスカウト組である生駒は、元々祖父により剣術を教わっていた。剣道ではなく剣術。居合が特筆されているが、純粋な剣の腕も高い。
それが、現攻撃手五位
「(さて、どう出る?)」
視線の先で居合の構えで此方を見つめる生駒を見ながら、俺は出方を探る。
本来ならグラスホッパーで距離を詰める、一閃を打ち込むとするが、生駒の旋空は俺の手札のどれよりも速いらしい。
下手に動いて先を読まれれば一瞬でやられそうだ。
で、あれば、
「───」
グラスホッパーを起動し、俺の一歩先に上向きで置く。
俺の右足を前に出し、それを踏もうとすると───
横に鋭い一閃が薙いだ。
ほんの一瞬の拡張でありながら、俺の両脇に建っていた家宅は瞬間的に斬り崩され、音すらも斬り裂いたかのように明瞭に響く。
それは予想よりも速く、グラスホッパーで跳べば腹を横に両断されるような一撃であった。
跳んでいれば、の話だが。
「っ!?」
先ほど右足が踏み出した先。
そこはグラスホッパーではなく、その横の地面であり、その踏み込みのまま態勢を下げた。
ほんの一瞬遅れて俺の毛先を掠めた生駒の旋空。
それを確認できた後、すぐさま新しいグラスホッパーを起動して左足で蹴る。
加速して突撃した先にいる生駒が二の太刀を振る前に一撃を与えるつもりで攻撃した。
だが、生駒は振り切った孤月を手慣れた様子で手元に引くと、俺の一撃を受け止め、そのまま鍔迫り合いに移行。
一瞬で距離を詰められたことで口元を歪ませる生駒に対し、俺は平静を装いながら内心で安堵のため息を吐いた。
「(死んだかと思った……)」
紙一重に生駒旋空を躱した時、これまでで一番生きた心地がしなかった。
想像以上に、俺が予測した以上に、話に聞いた以上に速い一撃。傍目から見て完全に俺の一閃の上位互換のように感じた。
それでも。
「(距離は潰せた)」
ここからは俺のスコーピオンが届く間合い。
村上のように此方へ寄せ付けない盾を持っているわけでもなく、影浦のようにスコーピオンの二刀流というわけでもない。
荒船の時と同じだ。
孤月の間合いより近づいてさえいれば、向こうのほうが不利である。
速攻で落とす。
時間がないのだ。
「(流石に鋼より固いことはないだろ!)」
そう結論づけて、俺は猛攻を開始した。
『さぁ、生駒旋空を回避して距離を詰めた樹神隊員! ここは俺の距離だと言いたげにスコーピオンを振るいます! 生駒隊長も後ろへ引きながら一撃一撃を捌く〜〜!』
スクリーンにデカデカと表示された生駒と樹神の戦闘を実況する国近。
その攻防のレベルの高さに訓練生どころか、正隊員の面々も思わず息を飲み、実況の国近も無意識ながら実況に力が入る。
米屋は二人の一手一手を読みながら、俺だったらと頭の中でシミュレートを行い、「あ、俺なら死んだ」と何度か呟く。
ちなみに諏訪は何か言おうと口を開いては閉じてを繰り返していた。
そんな実況解説を視界に捉えつつ、最後列の席で樹神と生駒の剣戟を観戦していた荒船と村上は感嘆のため息をついた。
「イコさん、流石だな。樹神の攻撃を真ん前に、初めてで良くいなしてる。俺ですら慣れるのに二十本はかかったっつーのに」
「元々孤月の扱いはボーダー随一だったからな。加えて引き気味に戦ってるってのもあるけど、あれは多分
「? 経験則って何ですか、村上先輩?」
お互い視線をモニターにしたまま、それぞれ自らの感想を告げる二人に、彼らの前の席に座る別役が視線を後ろに向けて、そう尋ねる。
すると、村上は笑みを浮かべて口を開いた。
「そのままの意味だよ。俺やカゲみたいな二刀流、荒船のような我流の孤月術と違い、根本としてあるイコさんの剣術。それを軸に、相手の動きや視線で攻撃を予測して動いてるんだ。小さい頃から学んでいたからこそ、反射的に体が動いてるんだろうな」
そんな彼の説明に、別役は姿勢を戻してモニターに戻しつつ、「はへ〜」と感動をこぼす。
その時、ふと別役とともにその説明を聞いていた荒船が小さく呟いた。
「けど、このままじゃ結局ジリ貧だ。一葉の猛攻に、少しずつイコさんも追いつかなくなってきてる」
実際その通りで、当初はうまく捌いていた生駒だったが、小さな斬傷が次々とその身に刻まれていく。
生駒自身も、その状況を良くは思っていないはずだ。
それだというのに、大きく仕掛ける様子もなければ戦法を変える様子もない。
であれば、彼が待っていると考えられるのは
「隠岐の狙撃か?」
ポツリとこぼした荒船の一言に、村上がすぐさま否定した。
「いや、それだけじゃ不十分だ。一葉自身、狙撃手というポジションを警戒してる。攻めてるのが一葉である以上、そこに気を配るのは容易だ。今隠岐が撃ったとしても、それが効果的だとは思えない」
腕を組んでそう淡々と告げた村上。
すると、荒船が横目に村上を見つめ、「お前の考えはどうなんだ」と答えを催促。
その視線に苦笑いを浮かべながら、村上は小さく答えた。
「いや、まぁ……多分、イコさんはもっと
一分ほど樹神の攻撃を捌いている生駒は、表情は変わらないが、そのやりにくさに内心「アカーン」と叫ぶ。
孤月の剣戟、剣筋というのは直線を描くのに対し、樹神の剣筋というのはひどく自由でかつ多角的だ。右へ振られた刃が、次には彼の左足から顔を出し、下から襲いかかる。
「っ!」
そうしているうちに、生駒は気づく。
僅かに後退しながら刀で受け、晒し、躱していたそれらが加速していくことに。
「ぐっ!」
加速する。
「っ!」
加速する。
「───ッ!!」
加速する!
「ぐぉ!?」
ついには襲いかかってくる刃に孤月が間に合わず、身を引くことでなんとか軽傷に済ませる。
無理に身を引くのではなく、軸足とは反対の足を後ろに引き、即座に重心を退くことで安定した態勢で回避とする。
回避後の態勢が崩れてしまえば、次に来る刃を防ぐことは叶わず、結局仕留められてしまうことは明白。
それを無意識下に理解していた生駒は、ギリギリで致命傷を回避する一方、態勢を崩すことはなかった。
そんな生駒に、焦るのは樹神だ。
元々早いうちに落とすつもりで望んでいるこの攻防。狙撃手という援護が見込まれてはいるが、それ以外の
攻撃に必要な間合いもスコーピオンの方が孤月より近いだけあって、こちらの攻撃は容易であるが、孤月は攻撃に必要な動作分の距離がない。
もちろん、無理に距離を取って攻撃に移す手もある。
だが、それが一度防がれれば、次の防御に手が回らなくなってしまうため、生駒が攻撃に移る手はない。
完全に後手へ回っている生駒。
対して先手を取れていることから、樹神が狙撃手を警戒する余裕は十二分にある。
十二分にあるが───
「(殺しきれない……ッ!?)」
目の前で孤月を構える生駒。
影浦のように同じ間合いの二刀流でもなく、村上のようにレイガストという大きな盾で身を寄せれないようにしてるわけでもない。
それでも、殺しきれない。
「くそッ」
そう小さく吐き捨てる樹神は、より鋭く深い一撃を当てるべく大きく前進、生駒の元へ迫っていく。
ほぼ体が密着してしまうほど近づき、手刀の要領で横薙ぎに首を狙う一撃を防がれ、迫ってしまう。
「あ、まずい」
その様子を見ていた村上は思わずそう呟き、
「───」
ゴーグル越しに生駒の鋭い瞳が光った。
剣術の話をしよう。
刀という武器が生まれ、戦争が起こらなくなっていったことで、本来圧倒的な優位性を持つ槍や弓が衰退していった頃、剣に覚えのある各々が自身の生み出した剣の
有名どころでいえば、厳流島の戦いで有名な宮本武蔵の二刀流剣術である『二天一流』、佐々木小次郎の『巌流』、幕末の天才剣士として有名な沖田総司の『天然理心流』などがある。
剣術というのは、流派が違えばほぼ別物だ。
故に、それらと生駒の学ぶ剣術の違いを挙げればキリがない。
だが、それらと生駒の剣術には明確な違いが一点ある。
剣術の中には、『体術』を技として修める流派が少なからず存在する。それはキックやパンチといった直接的なものではなく、どちらかといえば柔術に近い。
足を掛ける、腕を巻くといった技術を持つ流派がある。
しかし、生駒の剣術に柔術が修められているかといえば、そうではない。
では、古来の剣術との違いは何か?
──それは殺し合いではなく、現代のスポーツとして化した剣道にも残る攻撃。
手刀を弾いた生駒は、俺のみぞおちの元に孤月を握った両手を添える。
──それは鍔迫り合い、といった膠着状態でも有効な一打。
防御に回していた孤月を樹神と生駒の間に入れたことで、守りがあまくなった側部へ向けて、樹神がスコーピオンを突き刺そうと右腕を振りかぶる。
──それは、ボーダー内でも随一の生駒の
「か……ッ!!??」
──なんてことない、ただの『体当たり』だった。
♦︎ ♦︎ ♦︎
打撃の一点から弾けるように広がる衝撃。
樹神は自身の一閃と同等か、それ以上に鋭い踏み込みによるものと反射的に判断した。
体を大きく使った踏み込みではなく、限られたスペースで小さく足を前に運び、わずかな重心の前進のみで莫大な踏力と反発力をそのまま相手に打撃として伝える一撃。
ただの体当たりと侮ることなかれ。
スポーツとして広がる剣道においても、有力者による体当たりは相手を数メートルは吹き飛ばす一撃となる。
それが生身より十数倍の身体能力を持つトリオン体と、長年剣を培ってきた生駒によって成り立った『体当たり』。それは、村上が用いるスラスターによる
それを想定外のタイミングで打ち込まれた樹神が踏ん張りなどしているわけがなく、凄まじい速度で吹き飛ばされた。
「……っ!」
即座に樹神のサイドエフェクトが発動。
突き抜けるような衝撃をその身に受けながら、どうすべきか思考を開始。
スローモーションに動く世界でも、ほんの一瞬で十数メートル以上吹き飛ばされている中、自由に体が動かせるわけもない。
腕を引こうにも、足を畳もうにも、体当たりの衝撃で後ろへ吹き飛ばされたことによる風圧で満足に行えない。
思考の果てに導き出した答えは、グラスホッパーを俺の背後に展開し、無理やり体を起こすこと。
もちろん足で踏まない以上、起こした態勢が安定とは程遠いものになるのは想像つく。
だが、起こせさえすればある程度リカバリーは効く。
起こせさえすれば、だが。
「旋空」
風の暴音でほぼ聴覚が機能していない中、なぜかそれは明瞭に聞こえた。
視線の先で、居合ではなく、上段からやや斜に構えた状態で孤月を振りかぶる生駒の姿。
俺がサイドエフェクト中、手を錯誤している内に手慣れた様子で次なる一撃に繋げるべく構えた彼は、小さくそう告げた。
「──孤月ッ!」
グラスホッパーを起動して、なんとか背後に展開した数瞬後に振り下ろされる孤月。
最初の居合による生駒旋空。
それが走馬灯のように思い返された俺は、理解した。
間に合わない、と。
今回も読んでいただき、ありがとうございました!
生駒さんの剣術については正直描写がなく未知数ですので、あんまり予測で詳しく書くつもりはなかったのですが、一つのシーンが「お?」と私の琴線に触れました。
それは、生駒さん対ヒュース!
最後の一戦、生駒さんがヒュースを突き飛ばして旋空で両断したとき、「これ、凄くない?」と勝手ながら思い、今回想像で書いてしまいました。
もしおかしいと感じれば、ご指摘お願いします。
それでは、当作品を読んでいただいた読者様、良いお年を!
来年もよろしくお願いします!