Another Trigger 〜弓手町支部所属の攻撃手〜 作:匿名中
月一更新と言いながら、大きく期間を明けてしまい申し訳ありませんでした!
初めは順調と思っていた。
自分たちより上位の相手、しかも一部隊全員を引きながらの戦闘とはいえ上手く足止めできている、と。
那須は距離を取りながら着々と迫ってくる王子達を見ながら、そんな風に考えていた。
日浦があえなく落とされた時は表情が軽く歪んだが、それでも時間稼ぎとしては充分。加えてもうそろそろで熊谷も合流する。
この時まで那須一人で足止めできたのは、王子隊の動きによるものがデカイ。
元々射角が広い那須にとって、されて最も嫌なことは三人がバラバラに散って、屋根を伝っている自分から見えないよう住宅を盾に下道を縫ってくることだった。
しかし、当の王子隊は全員下の道路に降りて死角を攻めず、那須が視認しやすいよう三人とも屋根を踏破してまで直線的に那須へ向かっている。
おそらく複雑な下道を抜けて時間をかけるよりも、被弾や姿を補足されるというデメリットを無視してでも、より早く樹神のもとに向かいたいのだろう。
だが、それも今となっては悪手に思える。
時間を優先する王子隊だが、現に那須一人に抑えられて時間も食っている。
そんな現状を、あの王子が良しとするわけがない。それでも策を変えないのは今の状況を打破する手段がないか、それとも───
ここまで考えた那須は、ふと王子の表情に目がいった。
那須が撃ち出す弾をシールドで的確に防ぎつつ、屋根を伝う彼の表情は見慣れた笑みが浮かんでいる。
まるでこれはいつも通りである、と。観察するように細めた視線を向けながら言外から伝えてくるそれに、那須は背筋に冷たいものが駆けた感覚に陥った。
そして、確信する。
「(初めから狙いが──)」
「もう遅いよ」
那須の考えるを読み取ったが如く、王子が小さくそう告げたその瞬間、三つの声が同時に上がった。
「
今まではシールドで防ぐばかりで攻撃など一切しなかった王子隊の全員が一斉にトリオンキューブを発現。そこから射角・弾速・威力の設定を行う段階、その速さに三人の差異はない。つまり、全員が最速かつ同時に撃ち出してくる。そうなれば三人の位置関係的に多角でより防ぎづらい攻撃を放つことができる。
それを可能としたのは、この攻撃が策として知らされていたわけだからではない。
「(これまでずっとやってきたことだ。言わなくても皆分かってくれてる)」
射手が本職の那須は、その三人の様子からすぐさま同時に
そこまで考えた那須が展開したのはシールドではなく
「やるね」
明らかな攻撃に対して受けに回るのではなく、出来る限り攻勢を取り後手に回らないようにする那須を見て、王子はそう呟く。
ただでさえ人数という点で不利を得ている以上、一度後手に回れば最後まで振り回されることになるのを分かっているのだろう。
曲線を描いて那須へ到来する
王子たちは最低限のシールドを貼って防ごうと試みる。攻撃が来る前に複雑な弾道を設定することは出来ないだろうという読み故の対応だ。
そして当の那須は、正面と左右からやってくる
左右の
しかし、正面のみの弾幕だけではシールドを抜くほどの威力はなく、那須はフルシールドで耐えた。
それら正面を突破した後、那須は王子へ視線を移して相手の所動を確認。続けて蔵内と樫尾へ。
「っ!?」
最後の樫尾に視線をやると、彼が一直線に自分に向かってきているのが見えた。その速度は先程追ってきた時と比べて一段階速く、先の足止め時は手を抜いていたことが分かる。
そこまで考えて、那須は再度
半分は樫尾へ、もう半分は王子達の方へ向かわそうとするが、そこで気付き、足を止めた。
「(王子先輩達がいない!?)」
さっきまでは屋根を伝っていたはずの王子達の姿が消えていた。おそらく、視線が樫尾に移った瞬間に屋根から下道に進路を変えたのだと判断した那須は、続けて苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
それもそのはず、王子が動き始めてから流れるような動きで連携していく王子隊は、とても一人で相手できるほどのものではなく、最善を尽くしているつもりでも後手へ回されたのが感じ取れてしまう。
少なくとも、相手すべき三人のうち二人を見失った時点で詰みの一歩手前まで来たようなものだ。
「(警戒はしてたのに……ッ!)」
多方向からの敵を相手取る際は、大前提として全ての相手を視認できてなくては不味いと知っていた。格上とならば尚更だ。
せめてものの攻勢、樫尾に全ての
そう思い、いつものようにトリオンキューブを樫尾へ撃ち込もうとした瞬間だった。
「足を止めたのは良くなかったね」
そんな言葉が耳に届いた瞬間、那須は反射的に左に跳ぶ。
刹那、鋭い衝撃が走ったと思うと、右腕が切断され、右横腹に浅い斬傷が刻まれた。
声の主は王子。先ほどまで五十メートルは離れていた先にいた人物だ。
那須は左手で横腹に開いた傷を抑えつつ、わずかに目を見開く。
「(来るのが早すぎるッ!?)」
彼の速さを甘く見ていたわけではない。
彼どころか、王子隊は全員が走れる隊として有名だ。
正直なところ、今まで自分が一人で抑えられたのが不思議なぐらいの速度を有しているのが彼らだ。
だが、それでもこれは速すぎる。
このマップは高いビルなどはない代わりに住宅が密集しており、下道は複雑な構成をしているというのに、まるで何処をどう通れば最短か分かっていたかのような───
『正確なオペレート、ありがとう』
『どういたしまして』
困惑する那須とは対照的に、王子は振り切ったスコーピオンの刃を変形させながら、ここまで最短距離を示してくれた自隊のオペレーターである橘高にお礼を述べる。
今回、王子が仕掛けたタイミング。これは橘高がマップの構成を調べ上げ、最も素早く移動できる下道の進路を正確に示すことができるタイミングであった。
たとえ複雑な行路でも、行先が分かれば迷いはない。
その結果、那須の想像よりも早く彼は近接に臨むことができたわけだ。
「さて、
そう不敵に笑い、無理な回避で態勢が崩れた那須にとどめを入れようとスコーピオンを振りかぶる王子。
だが、その刃が那須に届くことはなかった。
「まだよ!」
那須を庇うように横から介入してきたのは那須隊の攻撃手である熊谷だった。
彼女は先に自身の得物を王子と那須の間に入れて攻撃を防いだ後、続けて自らの身体を差し込んで鍔迫り合いへ。
那須を王子から守るように立ち回る熊谷に対し、那須は後退。
「っ!?」
あることに気付いてしまった。
「玲ッ!」
語気を強める熊谷の言葉にハッとした那須が見たのは、王子の背後から迂回するように向かってくる
咄嗟にシールドを構えて防ごうとする那須だが、それと同時に別方向から直線的に向かってくるトリオン弾に反応が遅れてしまった。
「クッ……」
さらに漏れ出すトリオン、削られた機動力。
それ以上に那須の反応が遅れたことに疑問が浮かんだ熊谷は思わず眉を八の字に曲げた。
そんな彼女に、王子は先ほどと変わらない笑みで告げる。
「
途端、先ほど後ろから
流石に王子と同時に相手取ることが出来ないと判断した熊谷はバックステップで那須の元へ退がり、那須は自身のふとももを撃ち抜いた蔵内へ向き直る。
『玲、どうしたの!?』
『熊ちゃん……』
僅かな睨み合いの間、内部通信で那須の違和感を訪ねる熊谷に、那須は焦燥を滲ませて返した。
『トリオンが……もう……』
『──そんなッ』
あまりにも早いトリオンの減少に、熊谷は思わず言葉を零す。
だが、考えてみれば有り得ない話ではない。
継続的に使用し続けた
加えて王子と蔵内によるダメージから漏れ出すトリオン。
既に致命的な展開であるが、瞬間熊谷はある可能性を想像してゾッとする。
熊谷のその予感は命中だった。
「悪いね。
那須のトリオン切れによる攻撃不可。そのトリオン切れのタイミングで熊谷による介入を呼び込んだこと。王子らと蔵内で挟まれ、逃げ出すことが出来なくなっていること。
これら全て、王子の策略の内。当初の目的通り、樹神一人孤立させるよう、彼の味方を削る。
ランク戦のような前準備もないこの試合でここまでの策を、読みを通した王子に、二人は背筋に冷たいものが走るのを感じていた。
♦︎ ♦︎ ♦︎
「よっ」
軽快な言葉と共に、生駒隊の狙撃手・隠岐はビルの屋上から飛び出した。
僅かな浮遊感の後、すぐさま重力に捉えられ落下をする隠岐はグラスホッパーを起動して落下から跳躍に移り、高速度で別の狙撃位置へ向かう。
本来、先ほど構えていた狙撃位置から狙撃手が移動する理由は二つ。狙撃を終えたか、ターゲットが現在の位置から狙えなくなったか。
今回は前者だ。
『ナイススナイプやったで。よぅ当てた』
彼の耳元に既に
『んまぁ、当てただけッスけど……』
風を切るように次々とグラスホッパーで跳躍を繰り返す彼は、先ほど放った狙撃弾の行く末を思い返す。
そして、一言。
『まさか、あの体勢から死なないとは思わなかったッスわ。怖いッスね、あの人』
『カゲや鋼を
隠岐のおどける台詞に、水上はため息混じりにそう呟く。が、その少し後。
『………嘘。ふつうに驚きやわ』
『どうゆう見栄やねん』
小さな声での訂正に、細井が突っ込みを入れるのだった。
「(なんで生きてるんだ、俺)」
上段で振り下ろされた生駒旋空。
サイドエフェクトによるスローモーションの中で想像した生駒旋空は何とか目で追える速度であった。
当然、本来であれば生駒旋空による剣撃は一瞬であり、常人では捉えることは出来ない。
しかし、サイドエフェクトによるスローの世界を見てきた彼にとってはその一瞬を捉えることができる一撃であった。
それを踏まえて、一番最初に見た居合による生駒旋空の剣速。それがそのまま振られていれば、利き腕である右腕を肩の先から切りとばされるに留まらず、縦に二分割されていてもおかしくなかった。
が、それが何故か彼の生駒旋空よりも俺のグラスホッパーによる起き上がりが間に合い、結果右腕を切りとばされるだけに済んだ。
もちろん、起き上がって旋空を避けるのに全力を尽くしたので、生駒隊の狙撃手から放たれた一撃を避ける、防ぐことは出来ず、左足首を撃ち抜かれている。
「(だが、生きてるなら上々。まだ何とかなる)」
四肢の内、二つを削られたこの現状。俺は左足首から先をスコーピオンで何とか形作り、生駒を見やる。
彼は弧月を構えたまま、低く唸った。
『あれで死なんとか嘘やん。誰かフラグ立てたん?』
『フラグって何やねん』
『やったか? とか、もらった! とか言うてへん?』
『言うとらん。集中しぃや』
『ちょっと海に聞いてや。フラグ立てたかって。海が言ったに一票入れるわ』
『しつこいわ! はよ集中せぇ!!』
まさか五メートルほどの視線の先で、無表情にそんなやり取りを行なわれているとは思わない樹神は、ひとまず左手で右肩の傷口を抑えて生駒の動向を見やる。
旋空を放つにも中途半端な距離故か、弧月を鞘に納めずに抜刀して剣道のような中段の構えを取っている。
ありきたりな型であるが、素人目からして隙がなく、どれほど彼が積んできたのかが窺い知れる。
「(南の方角からの狙撃を足に受けたのはキツイな。スコーピオンで足をかたどるのも久しい……。右腕もない今、上手く立ち回れるか?)」
そんな風に考えている時だ
『ごめんなさい……ッ!』
「っ!」
久しく音沙汰なかった内部通信に、切迫した声色でそう告げる那須。
その数瞬後、俺の後ろでドンッと大きな音を立てて二つの光が空に昇った。
音に釣られて横目に後ろに視線を向ける樹神に対して──
「フッ!」
生駒はそれを隙と捉えて旋空を起動、斜めに斬り下ろす。
もちろん、その初動を目で捉えていた樹神はスコーピオンで作った足で地を蹴り付けて横に跳んで回避。同時にグラスホッパーを起動して回避した後に生駒へ肉迫するが、それを読んでいた生駒は振り下ろした弧月を返し、「それはさっき見た」という言葉を添えて、下段から斬り払いを放つ。
俺は小さく舌を打ちつつ、反射的に集中シールドを太刀筋に置き、俺は勢いのまま左手に枝刃で発現させたスコーピオンで刺突。
集中シールドで弧月を払えなかった生駒は、瞬時に肩幅に広げていた両足の内、右足を僅かに浮かせて右にスライドさせる。
すると、生駒の身体は右に倒れ、樹神が胸に放った刺突を直撃からギリギリかすめる程度に抑まる。そして、彼の行動はそれだけに留まらず、防がれてしまった弧月を集中シールドから上に抜き、身体の倒れる向きに添えて交差する樹神へ横に払った。
「(判断が的確すぎるだろ)」
一度見たとはいえ、流れるような生駒の対応に内心そう呟く樹神。生駒の放った横振りに合わせてグラスホッパーを左足元に発現し、それに触れることで体を持ち上げて回避する。
左足がギリギリ間に合わなかったが、元々スコーピオンであるそれを砕かれても特に問題はない。
グラスホッパーで跳ねた身を空中で反転させる樹神は、即攻撃するために再度グラスホッパーを使って、宙から生駒に向けて全力突撃。
弾丸のような速度で降り注いだ攻撃。
だというのに、生駒は自身の弧月でスコーピオンを防ぐことに成功していた。
「クソッ!」
先ほど上がった二つの光。
同部隊の那須と熊谷の
だが、正面からの攻撃が思いの外通らない。と、いうより通りづらくなってきている。
しかし、それは考えてみると当然である。
生駒と樹神の戦闘における勝敗。それは単純に各々の得物の扱いや切り札の有無、オプショントリガーやサブトリガーの熟練度以外にも、対人戦闘における経験値も影響する。
スコーピオン使いがどのように攻撃してきそうか、グラスホッパー持ちはどのように動いてきそうか、そも攻撃手はどこを狙ってきそうか。そういった経験から来る予測が、ある程度樹神の動きが知れてきた生駒に現れ始めている。
これは、長年トリオン兵としか戦ってこなかった樹神にはないものだ。樹神はそれらの予測から来る行動を、己のサイドエフェクトで置換してきたに過ぎない。
影浦や村上、そして生駒といった高ランク攻撃手からしたら、それは顕著に現れる。
もちろん──
『三回死んだ思うたわ』
当の本人が落ち着いてそれらを対応しているとは限らないが。
『
『……三回も死にかけた思う瞬間あった?』
『刺突と、今の突撃と……何やろ? イコさん、あと一つなんです?』
『ドンッ!っちゅぅ音。ビックリして心臓止まるかと思たわ』
『『
『いやいやいやいやん。あんだけ慎重な場で突然爆発みたい音してみ? 心臓耳から飛び出るか思うで。イコさん、さっきから心臓バックバク』
『口からじゃなく?』
『てか、あの
『まじか。キッツイな〜』
『樹神クン、イコさんだけで落とすんムズイようでしたら待った方が良さげッスね。そのどさくさで樹神クンだけじゃなく、隠岐とタイミング合わせて王子隊削るんが良いとちゃいます?』
『せやな。そうするわ』
そんな生駒の決定に合わせ、ちょうど二人の鍔迫り合いが終了。樹神が左足の蹴り上げを放つが、生駒は弧月の柄頭で受け止め、それと同時に樹神を押し除ける。
先ほどの体当たりよりも威力は低いものの、人を押し除けるほどの効力はあったようで樹神は退がりながらも倒れないようにしつつ、生駒に攻撃されないようマンティスを放った。
マンティスはその能力上、シールドで防ぐより切り払う方が良いことを知っている生駒は手慣れた素振りで弧月を払う。
呆気なく割れるマンティス。
しかし、体当たりによる少し崩れた体勢を整えるには充分な時間。
続けて放たれた旋空は難なく回避することが出来た。
「(だいぶ鋭く早いが、長距離の生駒旋空よりかは全然避けやすい。あの時はなんで避けれたか分からなかったけど、このぐらいなら……)」
反射による時間拡張、スローモーションの中に行われる思案。
樹神は生駒の旋空について考えを重ねるが、それよりも生駒を落とせる切掛けの方が重要であるため、区切りを付ける。
四肢の内二つを削られたこともあるが、どういうわけか単純な攻撃では落としにくく、そして先ほどの体当たりを警戒して上手く攻めることが出来なくなっているため、このままだと生駒を倒せる気配がない。
頼みの綱として考えた
であれば、残る方法は生駒が樹神に全力の体当たりをぶつけるために誘い、釣るといった方法であるが、データとしてこれまでの彼の戦闘を見れた生駒ならばまだしも、今日初対戦である樹神にはどこをどう釣って仕留めるかを考えるのは困難だ。
現状、遠距離なら旋空、近距離なら体当たりと、自分が一閃を放つ、スコーピオンを発現するよりも生駒の方が早い。後手で誘うにもそれらをしっかり予測でもしてないと隙をつくことは出来ない。
生駒がどうしてくるのか、という予測。
万全ならばまだしも、チーム戦でもある現状であればそれが叶わなければ落とすことは難しい。
そういう意味では、彼の隙、落ち度として捉えれた先ほどの上段による生駒旋空。本来であれば、最初と同じ剣速であれば、間違いなく肩から股にかけて両断されていたはず。
誤認ではないかと思われるだろうが、相手の攻撃といった行動については、このサイドエフェクトと長年付き合ってきたため読み取る精密さ、特にその速度というのはほぼ誤差なく認識できる。
そこに関しては間違いなく、何かしら彼のミスのようなものがあったはず。
そう考えた樹神は、生駒と打ち合う合間合間に発動するサイドエフェクトの中で考え───
「(……ちょっと試してみるか)」
およその答えを見つけたのだった。
♦︎ ♦︎ ♦︎
『なんで死なないんだろうね〜〜』
『いやぁ、たしかにイコさんの旋空と隠岐の狙撃を受けても生きてるのもアレっすけど……』
『生駒の奴と、右腕と左足ぶっ飛んだ状態で渡り合える時点でやべぇな』
現試合中、ほとんどを解説という体をなしていない状態である実況風景。戦闘員ではない国近はもちろん、諏訪も米屋も詳しく説明するような素振りはなく、好きなことを喋っているようだが、これはこれでA級一位部隊のオペレーターとして目の肥えた国近、高い戦闘能力を持つ米屋、部隊の隊長としてチームの動きを捉えてきた諏訪の各発言はなんやかんやで的を得ている、もしくは解説が欲しかった部分の答えとして成り立っていた。
そして現在、本来の那須隊が全滅し、王子隊が生駒と樹神の元に向かい、隠岐が狙撃場所を大きく変えるため移動しているという場面。
最終決戦に近づいているというのは明白であった。
『イコさんは旋空が目立ちますけど、当然それだけで攻撃手五位になれるわけじゃない。さっきのぶちかましも含めて、目立たないところで上手いトコが沢山あるんだけども』
『一つ一つ、上手く樹神の野郎がいなしてやがんな。右肩ぶった斬られた時から、特に慎重さが増しやがった』
そう二人が話す中でも、生駒の細かく上手い所が
近づいてきた樹神に自ら当たることで相手の勢いを挫く、強引に鍔迫り合いに持ち込む。そして、相手の前に出た膝より内に自身の膝を入れて、膝の内から外に流すことで相手の態勢を崩す、など。
どれも細かいながらも効果的な挙動ながら、樹神が大きく崩れる様子はない。
その答えは、ズバリ諏訪が申した通り。
サイドエフェクトで事前に察知して対策する、もしくは素早いリカバリーでゼロに近いマイナスで留めているためだ。
体当たりの一件で警戒が増した樹神は、そうした慎重さが目に見えて現れてきた。
それ故にここまで負担をかかえながらも、生駒という猛者相手に互角までの戦闘を続けられている。
だが、しかし、と。
『でも、もっと攻め気を持たないと厳しいよね』
不意に国近がそう呟いた。
少し驚いた風に諏訪と米屋が国近を見やると、その視線に気付いた彼女がへにゃりと笑った。
『いや〜、太刀川さんならって考えてみたらね〜。ちょっと思うところがあって』
「国近の言う通りだな」
実況として拡大音声で聴かれているためか、実況にありまじき先を急いだ発言に国近は少し言い訳混じりに続けるが、それを聞いていた荒船は静かに肯首する。
「一葉の悪い癖だ。アイツはオンオフが激しすぎるせいか、攻め気を失うと引きずりやすい。このままだと王子隊が合流してマズイことになるぞ……」
「樹神くん、まだまともに多人数相手の戦闘をしてないから、正直キツそうかな」
荒船に次いで、今回樹神初見である来馬が追言。それらに関しては村上も同意見のようで、特に言葉を挟む様子はない。
「目に見えて慎重になるな、足を削られると」
「あぁ、普通の防衛任務で部位欠損することは少ねぇから、戸惑ってるのもあるんだろうな」
そうこう言葉を交わす荒船らだが、解説席の結論も彼らと似たようなものだった。
やはり、チーム戦や対人戦の経験値が浅いというのが、浮き彫りになる。
本来であればオペレーターといったサポートと合わせて、前段階でチームと動きを合わせることが出来たはずではあるのだが。
「志岐さん、男無理ですからね〜。けど、それでもサポートないの駄目でしょ」
「こらこら」
率直すぎる別役の意見に来馬がもう少し歯に衣着せるよう咎めるが、正直なところ、こういう場面でのオペレーターの存在が大事になってくると考えているため、ほぼ同意見であったりする。
那須の
だからこそ、ここまでくっきり那須隊と樹神で分かれてしまっていると予想される。
『(地力で元から上位と中位で差がある以上、樹神先輩を上手く使わなくちゃいけないのにな。まぁ、志岐ちゃんにそれを言うのは酷か)』
口には出せないため、内心でそう考える米屋だが、チラッと横目に確認した諏訪の表情からも同じような雰囲気を感じられた。
『(まぁ、転送位置も最悪に近かったから、これでもまだマシな方かな? 逆に万全の王子隊相手に時間稼ぎメインでここまで引き下がれた那須隊がナイスなのかね)』
状況整理のため、国近と諏訪が話している中で無言でモニターを見る米屋。そんな米屋に解説しろとジト目を向ける出水だが、彼がすぐに気付く様子はなかった。
『さて、そろそろ王子隊が生駒隊員と樹神隊員の元にたどり着きそうです』
『隠岐も、狙撃位置を変え終わったみたいですね。さっきのところとは大きく変えてる辺り、樹神先輩対策かな?』
『いや、この状況だと生駒隊は樹神よりも王子隊に目を向けた方がいいだろうに……』
『だから、それはアレっすよ。隠岐は樹神先輩、イコさんは
『全隊員が集う決戦の場。残り試合時間は二十分ありますが、決着までは十分もないでしょう!』
そう宣言する国近に、反論を挟むものはいない。
A級だろうが、B級の上位者だろうが、誰もがこの混戦が最終決戦と考えている。
最初のチーム戦と個人戦ばかりで樹神の無双の姿ばかりを見てきた各隊員。
チーム戦二戦目という序盤にして、上位部隊が樹神を崩すことが出来るのか、皆言葉を忘れて注目する。
王子隊と生駒、樹神。
お互いがお互いを視認した。
生駒と、樹神が大きく動いた。
本編をお読みいただき、ありがとうございました!
そして、更新が大幅に遅れてしまったことを改めてお詫びいたします。大変申し訳ありませんでした。
コロナの影響というわけではなく、純粋にリアルが忙しくなってきていたため、書けないという状況が続いてしまいました……。
ある程度落ち着いたので、執筆活動を開始、改めて月一更新とさせていただきます。息抜きに書いている呪術の方もようやくアニメ化ということで、ボチボチ書いていこうとも思ってます。
また今回のように長期間待たせることはないと思いますが、次の更新も一ヶ月後ということでお待たせしてしまいますが、当作品への応援よろしくお願いいたします。