Another Trigger 〜弓手町支部所属の攻撃手〜 作:匿名中
本当に、お待たせしました。
色々と言い訳したいところですが、本編の方をどうぞ。
レーダーを見る余裕はない。
見えたとしても、那須たちを撃破した王子隊は全員バックワームを装備してレーダーに映らないため、彼らがいつ来るか分からない。
だが、タイミングは決めた。
俺の背後、王子隊が来るであろう方向。
王子隊がこちらに参戦するその瞬間。
その時が俺が生駒さんに仕掛けるベストだ。
ほんの少しでも意識を散らさなくては、いくら踏み込んでも決定打に欠ける。
「(一瞬だ。一瞬でも不意をつければ殺せる)」
これまでの攻防でそう確信した俺は、生駒の機微を拾うため少し離れ、スコーピオンを長めに伸ばして攻撃を繰り返す。
やはりというか、生駒さんは若干引き気味に、それでいてドッシリと構えて防御を行う。
個人ランク戦はお互い一対一の取り合いなので、自分も相手も攻め気がなくては勝てないが、味方や複数部隊がいるチーム戦となると守ることで状況が好転する場面がある。
まさにこの場面がそうだ。
四肢の半分がやられた俺では、防御に全力を尽くしている生駒さんを取ることは出来ない。
彼が待ってるのが、王子隊なのか、はたまた隠岐の狙撃なのかは分からないが、外部からの新しいアクションがないと状況が変わらないだろう。
だからこそ、俺も待とう。
「(───来た)」
そうしてやってきたのは、隠岐の狙撃ではなく王子隊だった。
目の前で、俺に全神経を向けていたであろう生駒さんが一瞬俺の後ろに向けられたのが分かった。
その瞬間、俺も生駒さんも仕掛ける。
俺はメインをスコーピオン、サブでグラスホッパーを起動し踏み込もうとする。
しかし、先に王子隊がやってきたタイミングを知れた生駒さんの方が俺よりも早く行動を起こしていた。
左下に構えていた弧月を右上に───生駒旋空を放つ。
「っ!」
相変わらずの鋭い太刀筋だが、俺はサイドエフェクトの恩恵と先ほどと違って近いために生駒さんの手元が分かることあって、最小限の動きで回避する。
そして、生駒さんがわざわざ生駒旋空を放った理由、それは後方の王子隊への攻撃の結果というと。
「(流石に予測してたか)」
回避と同時、横目に後方を確認すると王子隊全員が無事回避に成功していた。
生駒さんが俺を無視して王子隊狙いだったのは驚きだが、それが釣りである可能性、狙撃を警戒する。
だが、狙撃の気配は特にない。
ならば、目の前の敵を落とすことに集中だ。
「っ!」
生駒旋空を放った生駒さんは、両手で振り切った弧月から左手だけ離すとすぐさま太刀を返し、右手で握った弧月を先程の剣筋をなぞるように打ち下ろす。
流石の太刀捌きだけあって、生駒旋空と王子隊の動向に注意がいってしまった俺の攻撃よりも、この二撃目の方が速い。
「(だが、これをいなせば……)」
そう思った俺は、体内で
左手で受けて、グラスホッパーを用いて右膝で刺そうと試みる。
が───
「?」
左手で受けた弧月は、あまりにも手応えがなさすぎた。
受けるのをミスることはあり得ない。弧月は伸びることあっても短くなることなど聞いたことない。その間合いは理解している。
この違和感に反射、サイドエフェクトが反応。
何故、と。
その理由は簡潔だった。
「ッ!?」
時間の進みが緩やかになった視界に映る生駒さんの弧月。
それが、俺のスコーピオンと当たると同時にいとも容易く彼の手から離れていた。
あたかも、元々離すつもりであったかのような。
そう考えついた瞬間、次に俺に襲ったのは衝撃だった。
「がっ!」
なんてことない、生駒さんは振り切ろうとした弧月を手放すと右腕をそのまま左へ、そうして右肩を俺に差し出して、踏み込みの勢いで体当たりをかましてきたのだ。
俺が彼に向かおうとする勢いに対抗するように放たれたその衝撃は、先ほど受けたものと良く似ていた。
「次は、外さへんで」
体当たりの最中に済ませたのか、先ほど宙に離された弧月は消え、今は彼の腰の鞘に再現出していた。
そして、その弧月に右手を添える。
───居合。体当たりの後の姿勢は、あまりにも完璧なものであった。
「旋空……」
居合からの生駒旋空。それは先程ようなものよりも鋭く、そして疾いのだろう。それこそ、先のような俺のグラスホッパーでの回避では間に合わないぐらいに。
次は外さないために、先と似た展開で、先よりも完璧な生駒旋空を放とうとしたのだろう。
「弧月ッ」
力強く言い放たれた彼の言葉。
そこには必殺の意味合いを大きく纏い、これが決着であると示していた。
先ほどの上段ではなく、居合からの生駒旋空。
あぁ───だと、思ったよ。
「な」
いつものように放とうとした生駒旋空。
鞘の内側を滑らすように、最速で最効率に最適度に力を乗せて放つはずだった生駒さんは、弧月の柄の頭を何かにぶつけたかのような感触を得たと思うと、自身の体が軸足を中心にその場で強く回転した。
急に回り出した視界と、振り抜こうとした弧月が振り抜けなかったことに頭が追いつかない。
分かったことと言えば。
「俺の勝ちだ」
これは樹神の仕業であるということだった。
生駒は、そんな樹神の声を聞いたと思うと、スコーピオンで胴を真っ二つにされ、
♦︎ ♦︎ ♦︎
生駒さんの動きを予測したわけではない。
そも予測できていたなら、ショルダータックルを受けてはいない。
それでも、俺があの瞬間に反応できたのは、これまで放たれた生駒旋空に速度の違い、つまりは練度に差が見受けられたからだ。
最初の居合から放たれた生駒旋空は、通常の状態からギリギリもギリギリ、何とか避けられた。
しかし、次の上段からの生駒旋空は、崩れた体勢からの無理やりな復帰だったのに、それでも四肢の一部を取られた程度に済んだ。
俺はあの時死んだ、と判断していた。
最初の速度のまま振られれば間違いなく両断される、と。
だが、それでも俺は生き残った。
この時点で違和感が生まれる。
違和感に合わせて、生駒さんは居合の達人であるという情報から俺が導き出したのは、居合からの生駒旋空が彼にとっての最高速かつ最高威力であるという結論だった。
あとは普通に考えるままだ。
最大限崩した体勢から、上段からの生駒旋空を回避されたのであれば、次は万全の生駒旋空を放とうとするだろう。
そこを利用し、彼の柄の頭にすぐそばにグラスホッパーを展開させてもらった。
思い通り、弧月を振り抜こうとした彼はグラスホッパーに反発し体勢を大きく崩す結果となったのだ。
「(さぁ、次だ!)」
彼の体当たりで後退してしまった身体をすぐさまグラスホッパーで加速して生駒を両断した後、すぐさま身を翻して王子隊を見据える。
三人固まって登場した彼らの反応は様々だった。
樫尾は驚きと緊張に表情を強張らせ、蔵内はわずかに冷や汗を、王子は俺に視線を向けながら微笑を浮かべている。
──先手、必勝!
「
失った腕の先に、大きなトリオンキューブが展開。
キンッ、と音を立てて分割されたその数は四分割の計六十四。俺がしっかり弾速・威力・射程や誘導率の強弱、そして撃ち出す方角を設定できる限界数だ。
「は、
俺に少し遅れて、王子隊各員はトリオンキューブを発現させる。
見た限り全員、俺よりもトリオンキューブが小さい。おそらく彼ら全員合わせて俺のと並ぶかどうかぐらいだ。
しかし、発射のタイミングは俺よりも少し速かった。
何故、と思いサイドエフェクトが発動したが、見れば納得。全員の
おそらくグラスホッパーでの回避を想定して、誘導率を最大にしたのだろう。
「(舐めるなよ)」
少し遅れて撃ち出した後、俺は起動していたグラスホッパーを王子隊の方向とは別方向に向けて展開。彼らの
王子隊全員に等しく弾数を当てるため、三方向に分かれて弧を描き向かう俺の
全力でグラスホッパーで跳躍。
すると、誘導率が強くとも完全に終えず、俺の背後に
だが、それでも強誘導率で設定されたそれらは再度弧を描き俺を追おうとしてくる。
「関係ない」
その光景を一瞥した俺は、そう吐き捨てて王子隊へ視線を向ける。
彼らは各々が
下手にひとまとまりになって、俺にまとめて殺されるのを警戒してるのが分かる。
俺が一塊になって防御を固めるより、散ってでも多方向から先読みの攻撃で動きを潰される方が嫌がると理解しているようだ。
「(良く俺のことを分かってるが……それならそれ用の動きをさせてもらう)」
俺の
つまりは、今彼らはお互いのフォローが簡単には行えない状態。
もちろん、その状態は長くは続かないが、それでも俺の速度なら一人を落とすには十分だ。
「(とりあえず一人はもらうぞ!)」
二枚目のグラスホッパーを展開し、俺が向かうのは彼らの中で一番弱い奴、樫尾──ではなく倉内。
もちろん、本来なら弱い奴から削るのが一番だが、すでに俺一人で彼ら一部隊を相手にするなら、まず厄介な奴から。また、今この場面で俺がされて困るのは、仕留めると決めた相手に粘られて他からのフォローが入り、結果一人も落とさないことであるため、近距離での対応がないであろう倉内が白羽の矢に立ったわけだ。
そうして標的とした蔵内。
彼は二人と少し離れて一軒家の屋根上に上がっていた。
俺は二度目の全力跳躍で彼に向かうと、俺の後ろを追っていた
だが、そのスコーピオンが蔵内に刺さることはなかった。
「なに?」
「ぐッ!」
俺が蔵内へ一直線に向かう横から、一人の男が突貫。
見ると、それは俺が先ほどこの中では最弱と判断した樫尾であった。
彼はあろうことか俺の全力跳躍に合わせて、いや、合わせられてはおらず勢い余って俺の先に出る結果となったわけだが、それでも俺の攻撃に間に合って見せた。
彼もグラスホッパーを使って割り込んできたのだろう、というのは分かる。
しかし、余裕がない中で俺の行動に反応出来たというのは納得がいかない。
聞いていた情報と今の彼の差異に違和感が生まれ、ふと王子を見た。
変わらず、人を食うような笑みを浮かべていた。
「(このやろう)」
瞬間的に判断した。
彼が俺の行動を先読みし、既に樫尾へ対応するように言いつけていたのだ。
「上等だ」
そう小さく呟き、俺と相対した樫尾の心臓を一突き。無理やり介入してきただけあって体勢が悪く、呆気なく取ることが出来た。
出来たわけだが。
「ナイスだよ、カシオ」
樫尾は自身がやられることよりも、俺に組み付くことを優先していた。弧月をわざと手放して両手で俺の服を掴み、グラスホッパーによる機動力を削ろうと苦心する。
『トリオン供給──』
そんなシステム音が響くと同時、左からは王子が此方に駆け出してスコーピオンと弧月の二刀流、前の蔵内は両手とも分割のないトリオンキューブを射出準備。そして、背後からは未だに
「(樫尾の緊急脱出より、攻撃が入る方が速いな……)」
王子や蔵内の攻撃は勿論、最初に放った
つまりは、回避・離脱を許さない多方向からの攻撃。
ここまで王子は詰めていた。
『部隊全員で詰めて、その上での一人犠牲が前提でようやく、だけどね』
樹神だけにならず、樫尾にしろ、蔵内にしろ、今こうして王子の想定通りになったことに驚いている中、王子は苦笑い気味にそう溢すが──
「けど、捕まえたよ」
普段の笑みで、樹神にそう告げた。
「(くそ……ッ!)」
樫尾にまとわりつかわれながら、体勢を無理やり王子の方へ向ける。
メインをスコーピオン、サブをシールド。
シールドに関してはなるべく最低限の広げ方で済むように気を使いながら、王子の方向以外からの攻撃を防ぐべく展開。
工面してはいるが、集中シールドどころか普段のシールドよりも広く展開はしてしまっているため強度に不安が残る。だが、そもそもの俺のトリオン量と、蔵内の両トリガーがアステロイドではないこと、
サブを攻撃に回さないが、それでもスコーピオン一本で王子を相手取ることは出来る。その後に樫尾が
「来い!」
──ここが正念場と判断。
弧月とスコーピオンの二刀を独特に構え、向かってくる王子。
俺はと言うと、手数をカバーするため、体内で
そうして、二人の刃が交わろうとした瞬間だった。
「──失礼」
火薬が弾け、重弾が発射されたような激音が
「がッ!?」
思わずそう言葉を吐き出しつつ、視線を王子から背後に移す。
二枚抜きで同じく狙われた王子は何故か回避に成功しており、右腕を吹き飛ばされるだけに済んでいた。
そして、問題の背後。
そこには、視線の先十五メートルほどの近場の屋根の上で、明らか人に向けるべきでないであろうゴツいライフルを構えた隠岐の姿があった。
「流石に、ただやられっぱなしってわけにはいきませんので」
俺の視線に気づいた彼は、自身のサンバイザーの唾に触れながら、困ったように笑みを浮かべてそう呟いた。
もちろん、隠岐の存在を忘れていたわけではない。
だが、それでも彼の姿を確認したと同時に胸を駆け巡ったのは馬鹿な、という思いだった。
まず、俺の足を削った一撃目を放った方向とは明らかに真逆に位置している点。グラスホッパーでの移動といえど、ここまで位置を変え、尚且つここまで
そして、弾の威力。確実に一撃目よりも威力が何倍何十倍と上がっており、背後ならば一枚の広げたシールドで防ごうと考えていたことが馬鹿らしくなるぐらいの破壊力を有していた。
「(狙撃銃にも、種類があるのか……)」
撃ち抜かれた後、発動したサイドエフェクトで拡張した時間の中。俺はそんなことを考えながら、ある程度考えがまとまると、ゆっくりと両目を閉じて。
『戦闘体活動限界。
トリオン体が弾け、初の敗北を喫するのだった。
♦︎ ♦︎ ♦︎
三チーム対抗戦第二回戦。
そこで俺がやられた後は、結局残った王子と蔵内が隠岐を取って、終了した。
隠岐にやられ、那須隊の隊室の簡易ベッドに放り出された俺は、少しの間起き上がらず思考にふけていた。
短い手数ながら、王子に動きを完全に読まれていたことに、俺は僅かながらショックを受ける。
トリオン兵ではない多人数を真正面に捉えた上での戦闘は、俺にとって経験の薄い部分。
ランク戦をやっていても思ったが、経験が薄い所となると相手の厚みに屈するところに出てくる。
二宮さんにも以前、動きが単純だと言われたこともある。
単純な戦闘であれば、よっぽどのことがなければ負けることはないと思うが、読み合いの部分では他よりも一歩劣る。
「それ以外にも、トリガーの種類についても知識が浅いな……自分には関係ないものと考えすぎてた」
そう呟きつつ、俺はゆっくりと起き上がった。
とりあえず、二回戦目が終わった以上他の隊の部屋、加えて女子だけの部屋に男の俺が居座るわけにはいかないので、軽くお礼を言って退室しようかと思う。
まぁ、もし彼女たちが許せば少しトリガーのことも聞こうかなと考えながら、俺はベットルームを出た。
「……あ、樹神先輩。お疲れ様でした」
「那須さん、おつかれ」
俺を迎えたのは那須。
笑みを浮かべてはいるが、どこか顔色が悪い彼女に気づいた俺は退室の挨拶よりも心配の言葉が先に出た。
「どうした? 顔色悪いぞ?」
「ッ! い、いえ、大丈夫です!」
俺の指摘に明らかに過剰に反応した那須。両手を握り、それらを肩あたりまで持ち上げて元気アピールするのだが、正直あんまり説得力はない。すると、そんな俺の様子に気付き、那須の後ろで心配そうに見てた熊谷が口を開いた。
「すみません、樹神先輩。玲、生まれつき身体が弱くて……思いの外、疲れちゃったみたいなんです」
「そうだったのか……負担をかけて、すまなかった」
せっかくのチーム戦で、那須隊に合わせるのではなく孤立して動いてしまった結果、那須隊がそのまま実力に差がある上位陣と相対することとなってしまった今回の戦い。
生駒隊を抑えることが出来たわけだが、それでも正面衝突した那須隊、特に一人で抑えた那須の負担は大きかっただろう。
そう思っての、一人で動いてしまったことの謝罪だったわけだが、何故か、那須の表情に悲痛なものが走った。
「わ、私は、大丈夫です。こちらこそ、すみませんでした。大したことが何も……何も、出来なかったです」
強がるような笑みを浮かべながら、最後は噛み締めるようにそう言った那須は、暫くして不意に俺から視線を外すと、廊下へ出る扉に目を向けた。
「樹神先輩、今回共闘していただいて、ありがとうございました。もしこの後急ぎの用事があるのであれば、構わず御退出くださいね」
「……こちらこそ、ありがとう。それじゃぁ、遠慮なく、退出させてもらうよ」
俺は少し間をあけてから小さく頷くと、那須の後ろにいる熊谷と日浦に軽く挨拶して扉に向かう。
本当は、彼女たちが良ければ軽く狙撃銃のトリガーとかについて聞こうかな、と思っていた。
けれど、那須の様子から、それはしないでおこうと判断した。
邪魔だから俺に早く出て行って欲しい、という雰囲気を感じ取ったわけではない。
むしろ、歓迎ではあったのだろう。
ただ、今の那須のことを考えると、俺はいない方がいいだろう、と。
熊谷と日浦の両名の様子からも、それは明らかだった。
心配は残るが、次の対戦がある。
俺は大きく息を吐いて、そういったものを頭の隅に寄せると、次に向けて気持ちを切り替えるのであった。
シューという空気が抜ける音を立てながら、扉が廊下への出入り口を塞ぐ。
次に向けての準備があるであろう樹神を見送った熊谷と日浦は、すぐさま那須に視線を戻す。
そうして、なんて声を掛けようかと口を開けては閉じてを繰り返し、やがてその答えに至らなかった熊谷が、小さく遠慮気味に那須の名前を読んだ。
「玲……」
二人に背を向けてる那須が、どんな顔をしているかは分からない。だが、それでも明るいものではないということを二人は確信していた。
「……くまちゃん、茜ちゃん」
そして、那須自身も、どう言葉を紡げばいいのか分からなかった。
今自分の胸の中に抱えるモヤモヤを、どのように伝えれば、吐き出せばいいのか分からないのだ。
それでも、ただ、一言。
「……悔しいね」
短い言葉だったが、二人にはその声が震えていたことに気付いた。
憧れの相手が来る、同じ味方として共に戦える。
対戦前はそのことである意味一杯一杯で、楽しみにしていたはずだった。憧れの人に少しでも良い印象が残るよう、アピールしようという気持ちもあったのかもしれない。
だが、舞い上がったその気持ちを、先の戦闘で完膚なきまで叩きのめされ、最初から最後まで樹神に頼ったような結果となった。
樹神が気にしていないのは、分かっている。
転送位置が悪かった、というのもその通りだろう。
ただ、それでも自分が情けなかった
那須だけでなく、結果的に樹神に頼りきりになり、王子隊相手に何も出来ずにやられてしまった熊谷も日浦も、那須の背中から視線を落とす。
せっかくのチーム戦。
このままで、終われない。
言葉はなくとも、三人の気持ちは同じだった。
♦︎ ♦︎ ♦︎
「……はい。分かりました。では、失礼します」
チーム戦第二回戦終了してから少しばかり経過した頃、ボーダー内の、ある一室前の廊下で、携帯片手に誰かと通話する人物がいた。
彼は通信先の人物といくつか言葉を交わしたあと、神妙な様子で電話を切る。
その後、自身の携帯に視線を落として軽く操作し、一段落したように携帯の電源を落とすと、緊張の糸をほぐすかのように小さくため息を吐こうとした時だ。
「東さん!」
突然もたれかかっていた壁のすぐ横の扉が開き、そこから一人の少年が飛び出して来た。
それに思わずビクッと驚いた男性、東春秋は手に持っていた携帯を落としそうになるが、なんとか持ち堪えると、飛び出してから少年に視線を向ける。
「こ、小荒井」
「あ、すみません……」
突然の登場と大きな声に東さんが驚いたと理解した少年、小荒井登は声を落として謝罪を口にする。
すると、彼の後ろから新しく一人の少年が現れた。
「小荒井、少し落ち着いてから行動しろよ。東さんに迷惑かかっちゃうだろ」
仕方なさそうな表情を浮かべる黒髪の少年、奥寺常幸。
彼はいつも言ってるだろと言いたげに視線を小荒井に向けると、小荒井は罰が悪そうに奥寺から顔を背ける。
すると、その様子を見かねた東が笑みを浮かべながら口を開いた。
「俺は大丈夫だったから気にしなくていいぞ。それより、何かあったんじゃないのか?」
「あ、そうだ!」
東の言葉で用件を思い出した小荒井は、再度東に視線を戻して口を開いた。
「次、俺たちの番になりました! 相手は鈴鳴第一と、香取隊の二人と樹神先輩の合同チームです!」
「……そうか、分かった」
小荒井の報告に、東は少しばかり遅れて頷く。
「作戦は考えてるか?」
「あ〜……それはですね」
「候補はいくつか立ててるんですが、準備期間が短いのでどれも確実性に欠けている状態です。なので、東さんの知恵を借り受けたいのですが……」
「そうか、分かった。じゃあ、隊室で詰めようか。人見は?」
「待機して、今はもう東さん待ちですよ〜」
「それはすまなかった。急いで戻るとしよう」
「うっす」
「はい」
二人は東の提案に元気良く返事をすると、少しばかり駆け足で戻っていく。
東はその二人に遅れて続くと、ふと携帯に視線を向けた。
彼が思い出すのは、先ほど通話先の相手のことだ。
「言われなくても、なるべく樹神くんに経験を積ませるようにしますよ、『教授』」
そう呟いて、東は携帯電話を自身のポケットへしまうのであった。
ご愛読、ありがとうございました。
おおよそ四ヶ月の期間を開けて、ようやくの更新、本当に申し訳ありません。
月一更新と言った時は、普通に月一更新は出来るだろうな〜、と本気で思っていましたが、そんなことは全くありませんでした……。
長らくお待たせして申し訳ないところに重ねての謝罪になりますが、今後は不定期更新とさせていただきます。
もちろん、書くことをやめるつもりはなく、これからの原作前も、原作突入後もバシバシ続けていくつもりです!
ただ、思いの外リアルが落ち着かないので、不定期とさせていただきます、本当に申し訳ありません……。
最後に、改めてになりますが読者の皆さま、沢山の評価とお気に入り、本当にありがとうございます!
以前はお気に入り数、評価数と一定のラインに達したら感謝を述べていたのですが、最近は更新することにこだわるあまり、そちらの言葉を記すことが少なくなっておりました。
お気に入り数が2300以上、評価数に関しては140人以上と、とても多くの人に読まれ、評価していただけているのだな、と今になってまた元気をいただいております!
面白いと思ってお気に入りしていただいた読者さま、わざわざ評価を投げていただいた読者さまの期待に応えられるよう、これからも執筆と更新を続けていきますので、また本作品をよろしくお願いします!