Another Trigger 〜弓手町支部所属の攻撃手〜   作:匿名中

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申し訳ありません。
投稿する話を間違えました。


原作前
第一話 樹神一葉①


 俺こと、樹神一葉の朝は早い。

 朝の六時に起きると、顔と歯を洗うべく洗面台に直行する。

 そこで顔と歯を洗い終えると、次に台所へ向かい、洗い終えて乾かしている三つの弁当箱を手に取る。

 一つは俺のもので、残りの二つは俺の無機質な弁当箱と違い、一回り小さく薄いピンク色をしたものだった。

 この二つは、中学二年生と中学一年生の妹二人の分だ。

 俺はそれらに付着している水分をキッチンペーパーで軽く拭き取ると、テーブルの上に並べる。

 その後、炊飯器に洗った米をセットしてスイッチを入れ、冷蔵庫から食材を取り出すと三人分のおかずを作り始める。

 

「休日の間に仕込んどくと、やっぱり楽だな」

 

 そうしているうちに七時になり、トタトタと階段を降りてくる音が聞こえた。

 俺はそれに反応して、卵焼きや小ぶりのハンバーグといった出来立てのおかずをテーブルに運ぶと、ちょうど二階から降りてきた人物がリビングに姿を現した。

 

「おはよ、兄貴」

 

 そう挨拶しながら入ってきたのは、僅かに癖付いた髪をボーイッシュに短く整え、中学の制服をまとう少女。成長期に入り女の子らしい体つきに移行し始めてるこの少女は、兄の俺から見ても美少女だと

 樹神二葉。

 それが樹神家の長女の名だ。

 

「おう。おはよう、二葉」

 

 二葉は俺の挨拶に微かに笑みを浮かべると、テーブルに置かれたおかずを見て目を輝かせる。

 

「ハンバーグあんじゃん。やった」

「まだそのおかず熱いと思うから、もう少し冷ましてから弁当に詰めてくれ。あと、ご飯も頼む」

「了解」

 

 そのやり取りを最後に二人は口を閉じると、俺は使用した調理器具を洗い始め、二葉は炊飯器から熱々なご飯を冷ますため大きな皿に取り出し始めた。

 少しして、二葉は皿に三人分のご飯をよそい終わると、それをテーブルの上に置いて、先程出てきた扉の方へ向かった。

 

「それじゃあ、弁当詰める前に三葉を起こしてくる」

「ん、分かった」

 

 視線は洗い物に向けたまま返事をすると、二葉が階段を駆け上がっていく音が響く。

 俺はというと、洗い物を終えると一階の自室に戻り、高校の制服に着替え始める。今の季節は夏なので学ランを着る必要もなく、高校三年生にもなったため着替えるのは慣れたものだ。その際に身だしなみを整え、あらかじめ勉強机の上に用意しておいた学生カバンを持って、再度リビングに戻った。

 およそ五分ほど経ったと思うが、リビングに二人の妹の姿は無いどころか、階段を降りてくる音も聞こえない。

 俺はそのことにまたか、と小さく息を吐いてから、次女の部屋に行くべく階段を登り始めた。

 二階に登って、突き当たり右の部屋が長女である二葉の部屋で、その反対が次女の部屋だ。

 そこに近づく度に、二葉の早く起きろ、早く起きないと兄貴が怒るぞー、怖いぞー、といった声が聞こえる。

 そのことに苦笑いを浮かべつつ、次女の部屋の扉を開けた。

 

「ほら、兄貴が来たぞ〜」

「ん〜……」

 

 ベットの側で座り込み、妹を起こそうとする二葉とベットの上で布団を抱きしめるように寝ている少女が部屋の中にいた。

 二葉のショートとは違い、セミロングの頭髪をベットの上に散らしながら愛らしい寝顔を晒すこの少女は二葉と姉妹とあって美少女である。

 樹神三葉。

 それが樹神家の次女だ。

 

「三葉、起きろ〜」

「ん〜…、やぁ」

 

 そう言うと、寝言とはいえハッキリと拒絶の言葉が彼女の口から吐き出され、俺は二葉の方を見る。

 二葉は肩をすくめて、困った顔をしていた。

 それを見て、俺は仕方ないとため息をつくと、続ける。

 

「早く起きないと、日曜日の買い物置いてくぞ」

「っ! やだ!」

 

 カッと目が見開かれ、まるで弾かれたように三葉の身体が起こされる。

 俺と二葉はその様子を見て思わず苦笑いを浮かべると、俺は三葉の頭を撫でた。

 

「さ、朝ご飯食べるぞ」

 

 

 ♦︎ ♦︎ ♦︎

 

 

 樹神家の食卓に俺と二葉、三葉が並ぶ。

 ここに母親と父親が並べば普通の家庭と言えるが、俺たちに両親はいない。

 四年前にあった近界民による大災害、第一次近界民侵攻。その時にうちの両親は妹二人を庇って命を落としたからだ。

 当時の俺は中学二年生。今となっては家や金銭的なことはある程度自分で回しているが、その頃は俺も両親を亡くして傷心しており、正直ほかのことは何も見えていなかった。

 そんな俺が今こうして生活し、妹二人と笑えているのは、おばあちゃんのおかげだろう。

 おばあちゃんは俺たち家族と一緒に住んでいる、いわゆる二世帯住宅だったが、あまり俺たちの家族の生活等には口出しはせず、側から見守っている人だった。

 しかし、両親が死んだ時からは人が変わったかのように俺たちに厳しくなった。

 躾はもちろん、勉強や料理といった様々なことまで見るようになり、間違ったことをする度に静かに怒る。特に俺に対しては、そういった躾以外にも税金の払い方や家計の回し方、生活するにおいて大事なことを教えてくれた。

 両親が死んだことによる毎月の国からの補助金と保険金には一切手をつけず、自分が子供たちに残そうとしていた貯金からお金を切り崩して、生活費に当てる。

 俺には中二からバイトをするよう諭し、貯金するように言い聞かせた。俺はそれに従い、バイトを始めてそれらを貯金に回した。

 学生生活とバイトの両立に忙しい俺を見て、一度、今は県外に引っ越してしまった当時の友人に言われたことがある。

 

 他の皆は普通の生活を送っているのに、何故俺はこんなに頑張らなければならないのか、思わないのか?、と。

 

 そういった疑問は特に抱かなかった。

 というより、長男だから頑張るべきだと思っていた。

 おばあちゃんからも、私が死んだら妹二人を守れるのは長男の一葉だけなんだよ、と言われ続けていたから。

 プレッシャーに感じていなかったわけではない。ただそれ以上にそれは俺が頑張らなくてはと思う理由になっていた。

 これまで両親には他の子供よりも自由に好きなものをさせてもらって、好きなものを買ってもらっていた。

 そのぶん頑張らなくては、と。

 そうして高校に入ってバイトを増やし、妹たちも両親の死に一区切りついた二年後だ。

 

 おばあちゃんが死んだ。

 

 早朝に心筋梗塞で急死してしまったため、遺言に何かしら言われたわけではないが、その前の晩、妹二人が寝静まった頃に言われたことがある。

 

 苦労をかけてごめんね、と。

 生き残ったのが私でごめんね、と。

 高校生なのにこんな重荷を背負わせてごめんね、と。

 これまで厳しく接して、辛い思いをさせてごめんね、と。

 

 今まで一つも弱音や泣き言を漏らさず、正しかったおばあちゃんが目に涙を浮かべてそう言った。

 今思えば自分の死期を悟っていたからこその言葉だったのだと思うが、当時の俺はひどく激昂した。

 

 ふざけるな、と。

 この二年間、誰が俺たちを育ててくれた、と。

 両親を亡くした俺たちに愛情をくれたのは誰だ、と。

 生きる術を教えてくれたのは誰だ、と。

 全部貴方だ、と。

 

 ──だから、そんな悲しいことを言わないでくれ。

 

 俺は途中から泣きながら、叫んだ。

 妹たちが寝ているのも忘れ、おばあちゃんに向かって声を荒げた。

 終いには言葉にならず、ただただ嗚咽をこぼすばかりとなり、視線を下げて涙を拭う。

 

 不意に、暖かいものに包まれた。

 一瞬遅れて、それがおばあちゃんの抱擁によるものだと気付き、涙を拭う手が止まった。

 耳元で声がした。

 

 ──ありがとう。どうかいつまでも健やかに。二人をお願いね。

 

 その言葉に小さく、そして短く、任せて、と答える。

 

 

 この六時間後におばあちゃんは亡くなった。

 

 

「? どうしたの、お兄ちゃん?」

「え……あぁ。何でもないよ。少しボーッとしてただけだ」

「そう?」

 

 昔を思い出して、少し涙が浮かんだ俺を見た三葉が疑問を投げて、俺が誤魔化すように笑う。

 三葉は少しだけ困惑した顔を浮かべて朝ご飯であるパンに目を向けたが、横目にこちらを見つめていた二葉は悲しそうな目をしていた。

 

 まいったな、心配させてしまったか。

 

 俺は苦笑いを浮かべてパンを一気にかきこむと、「ごちそうさま」といって、先程中身を詰め込んだ弁当をカバンに入れ、持ち上げた。

 

「それじゃあ、行ってくる。家を出るときの鍵の施錠と洗濯物、洗い物を頼むな。今日も帰るの夜の九時ぐらいになると思うから、ご飯まで待てなかったら棚のおやつを食べていいからな」

 

 そう言うと、俺は早足に玄関へと向かい、靴を履いた。

 だが。

 

「兄貴、ちょっと待って」

「ん?」

 

 呼ぶ声に振り向くと、二葉が俺を追いかけてきていた。

 俺が何事かと彼女に寄ると、二葉は俺の耳元に顔を寄せて言った。

 

「兄貴、辛かったら私達にいつでも言うんだぞ。兄貴みたいに家のこと全部なんて言えないけど、ちょっとでも、ほんのちょっとでも手伝えるなら私たちも……」

 

 それ以上言葉は続かなかった。

 俺は一度二葉の肩に手をやり、体から離すと笑って口を開いた。

 

「何を言ってんだ。もう十分に手伝ってもらえてるよ。俺が九時に帰ってきて、十二時前に寝れるのは、お前たちのおかげなんだぞ?」

 

 なるべく安心するように笑顔を浮かべてみせたが、二葉の表情は変わらず心配そうな顔をしていた。

 それを見て、どうしたものかと頭の中で考えを巡らせる。

 原因は明らか、完全に先程俺が浮かべた表情のせいで、二葉に不安を与えてしまったのだ。

 どうにか元気を出そうと言葉を選ぶが、そう簡単に出てくるものではない。

 そうして考えること五秒。ふと二葉が視線を落として呟いた。

 

「兄貴……私は、兄貴の苦しそうな顔を見るのは、すごく、辛い」

 

 予想外の言葉に、思わず目を見開いてしまう。

 その言葉は、先程リビングで見せた二葉の表情を的確に表した言葉であり、俺が絶対に見せないよう心掛けていた表情で、そして──

 

「二葉」

「?」

 

「──俺も、お前たちが悲しそうな顔をするのは、ものすごく辛いよ」

 

 そこまで言うと、乱暴に二葉の頭を撫でた。

 キャッ、と可愛らしい悲鳴が二葉の口からこぼれるが、驚くのは最初だけで、そのあとは成すがままにそれを受け入れる。

 俺は撫でたまま、続けた。

 

「だから、笑顔でいよう。俺たちは、普通の家庭とは違うし、俺もお前らも苦労してるけど、俺はそれを辛いと思ったことは一度もないよ。帰ったら二葉と三葉の顔が見れて、目が覚めたら二人におはようって言える。それだけで俺は十分に幸せだ。その日々のためなら、俺も頑張れる。二葉は違うか?」

 

 俺の問いに、二葉は小さく首を横に振った。

 

「だろ? だから、笑顔だ。今回は俺が悪いけど、俺はお前らに笑顔でいてほしい。お前らが笑顔なら、俺も笑顔になれる。だから、さ」

 

 俺は撫でていた手を外して、精一杯の笑顔を浮かべると──

 

「いってきます」

 

 そう言った。

 それに少し呆けた表情を浮かべた二葉だったが、俺の顔を見ると、いつのまにか溢れていた涙を拭い、笑顔を浮かべて返した。

 

「いってらっしゃい!」

 

 俺は二葉の笑顔を見て満足そうに頷くと、次いで彼女の後ろに目を向けた。

 

「三葉〜! いってきます!」

「うん! いってらっしゃい!」

 

 いつのまにか玄関のすぐそばにいた三葉は、俺の声に反応して駆け寄ってくるとハイタッチを交わした。

 それを見て、二葉が驚きの表情を浮かべる。

 三葉がすぐ後ろにいたことに気づいていなかったんだろう。

 次いで二葉は自らの少し赤くなった目と涙の跡に気付き、三葉にバレてはマズイと思ったのか洗面台に走っていった。

 

「お姉ちゃんと何かあったの?」

「うん? いや、なんでもないよ。トイレじゃないか?」

「ふ〜ん」

 

 三葉はあまり納得のいっていない表情をしていたが、俺は再度いってきますと言うと、玄関の扉を開けた。

 いってらっしゃい、と後ろから声がかかり、首だけ振り向いて手を振りながら扉を閉めた。

 

「さて、今日も頑張りますか」

 

 そう言って、俺はいつもの通学路を歩き始めた。

 

 




読んでいただき、ありがとうございました。
次回からは原作キャラとの戦闘や主人公の戦闘力などに触れます。

次回の更新日は2月8日0時0分です。
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