Another Trigger 〜弓手町支部所属の攻撃手〜 作:匿名中
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「俺のトリオン量、増えたか?」
昼の二時過ぎごろ。
俺がメインに使っているこの『スコーピオン』というトリガー。形を自由に変えられ、出し入れも自在、剣として使うのも身体のどこに生やして使うのも思うがままのトリガーであるが、その分脆いという欠点がある。
俺がボーダーに入隊した三年半前の当時、正隊員になるためランク戦にのめり込み、家族にも迷惑かけないよう土曜と日曜の二日でB級へ上るための条件である4000ptを達成した時のスコーピオンの硬度は今も覚えている。
なりふり構わず、それでいて必ず勝つためにスコーピオンの強度を正確に把握しようとしていたのだから当然だ。
まぁ、正隊員になったら直ぐに家に近い支部に転属願いを出したからそれ以降ランク戦には顔を出していないが、今はそれはいい。
最近感じてたスコーピオンの違和感。
それを確認するためにワザと相手の攻撃を受けたり硬い部分を狙って攻撃していたのだが、スコーピオンが壊れる様子がないのだ。
それを見て、俺は確信する。
あきらかにスコーピオンの硬度が上がっている。
それに伴っての理由は、俺のトリオン能力の向上が真っ先に上がるわけだが──
「(スコーピオンの硬度、体感で二倍ぐらいになってるんだが。ここまでトリオン量が向上することなんてあるのか?)」
基本身体に生やす形でスコーピオンを使っている俺だが、珍しく剣の形でスコーピオンを型どり、軽く振るってみる。
相変わらず随分と軽い。
これがモールモッドのブレードを五度防いでもヒビすら入らない硬度だなんて誰が信じるだろうか。
「今日の防衛任務は、たしか七時までだったな。現状把握のために、本部に寄ってトリオンを計測してもらう時間はあるか」
そう言って時間計算する俺は今日一時から七時まで防衛任務に着いている。
もちろん今日高校があったが、防衛任務のために昼に早退してきたのだ。
また、今日に限らず、平日は基本防衛任務を理由に昼に早退している。理由は単純明確で、よりお金を稼ぐために防衛任務を昼過ぎに入れており、月曜と木曜に限っては五時に防衛任務を終了して五時半から九時まで他のバイトを入れている。
高校入学時は昼に早々と高校から出て行く俺を嫌な目で見てくる先生もいたが、毎回の定期テストでは進学校であるうちの校内でぶっちぎりの一位を取り、模試でも全国百位以内の学力を維持しているため、しばらくするとそういった目をしてくる先生はいなくなり、逆に頑張れよと応援してくれる先生が増えた。
たまに成績維持の努力を怠るな、と言ってくる先生もいるが、俺も将来は大学進学し、学費全額免除を狙っているため成績を落とすつもりはさらさらない。
俺は手に持っていたスコーピオンを消し、視線を左に向けてボーダー本部を見据えると、防衛任務終了したら二十分で本部に行こうと決意した。
♦︎ ♦︎ ♦︎
「よし、到着」
防衛任務終了後、社会人の支部所属隊員と持ち場を交代すると、支部長に本部に向かう旨を無線で連絡して、本部まで全力疾走。結果、七時十五分と予想よりも早い時間で着くことが出来た。
グラスホッパーを使って加速したのが功を成したのだろう。
俺は軽く服をはたくと正面入り口から本部に入り、古い記憶からボーダー内の地図を引っ張り出して、廊下を進み始めた。
義務的にトリオンを計測するのは入隊時だけだが、C級ランク戦ブースの奥に任意にトリオンを計測してくれる部屋があったはずだ。
そんな記憶を頼りに、着々と歩を進めて行くと、急に人の行き来が増えたことに気付く。
行き交う人の殆どが訓練生であるC級隊員だ。当たり前だがその大半が学生で、今が放課後という自由な時間であるため、これほどの人数がいるのだろう。
だけど、まぁ──
「(こっちをチラチラ見てくるのは、ちょっとやめてほしいけどな)」
僅かに苦笑いを浮かべつつ、俺は小さくため息をつく。
恐らくここまで奇異な目で見られるのは、俺が正隊員であるのにもかかわらず全く見たことのない顔だからだろう。
その視線に俺は居心地の悪さを覚え、無意識のうちに早足になって廊下を進む。
暫くすると、広い空間に出た。
横に長いその空間は壁に個室がいくつも設けられ、そこへ至るための階段が取り付けられている。その部屋の数はおよそ二百ほど。
さらにその真ん中には大きなモニターが取り付けられており、ご丁寧にそれに向かうよう観賞用のソファーがいくつも設置されていた。
C級ランク戦ロビー。
それがこの施設の名前だ。
俺はその光景に懐かしさを覚えながら、止めていた歩みを再開。
ソファーに座って雑談をしている者、モニターを見ながら何やら真剣な表情を浮かべている者、自分の右手の甲に視線をやってため息をついている者、逆に嬉しそうに頬を緩めている者、と様々な模様の訓練生の姿が見える。
ここにいる者の大半は正隊員になるべくポイントを取ろうとしている者だろうが、思いの外ポイントが伸びず悩んでいるようだった。
ふと、モニターの方に視線をやる。
そこには3562ptのスコーピオン使いの隊員と3844ptの『アステロイド』と呼ばれる射撃用トリガーを突撃銃で使用する隊員の試合が映っていた。
スコーピオンの剣を持った隊員が次々と飛んでくるアステロイドの弾丸を避け、手に持った剣で防ぎ、着々と距離を詰めている。
突撃銃を用いて弾丸を連射する隊員は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべており、スコーピオンを使う隊員は笑みを浮かべていた。
この試合はスコーピオンの隊員が勝つだろうな、と思いつつ、前からずっと検討していた考えが頭の中を過った。
「(そろそろ、俺も対人戦の訓練もしようかな)」
右腕を持ち上げて、右手の甲に視線を落とす。
今は見えないが、三年半前の最後にそこに浮かんでいたのは『4013』という正隊員の条件ギリギリの数値。
「(支部所属とはいえ、トリオン兵ばかりと戦闘をするのは違うよな。よし、トリオンを測ったら軽くランク戦やってみるか。今の自分の力量をはかる良い機会だ)」
そう心の中で決めた俺はロビーの奥に進み、トリオン計測室なるところに入った。
中にC級隊員はおろか人っ子一人おらず、また奥に部屋があるようだが机で先に進めないようにされていた。
俺は少し声量を上げて、奥にいるであろう職員を呼ぶ。
「すみません。トリオンを計測したいのですが」
「おぅ。ちょいと待ってな……ん? 正隊員か? 見たことない顔だが」
部屋の奥から返事が聞こえたと思うと、すぐに声の主は奥から姿を現し、俺を見て驚いたように眉を上げた。
「はい。弓手町支部所属の樹神一葉と申します」
「ほう、支部所属の正隊員がここに来るとは珍しい。トリオンを計測したいなら弓手町支部でも出来るんだが……まぁ、それはいいか。それじゃあ、早速この棒を握っといてくれ。計測する」
「はい」
少し顔にシワが浮かんでいる、見た感じ技術職であろう男性は棚から機械を取り出すと、一本の棒をこちらに渡した。
俺は男性の言う通りに棒を握ると、男性が機械を操作し始める。
数秒ほどの沈黙。
そして、ピー、と計測完了のような音が響くと、男性は数値が示されているであろうパネルを見て、
「はぁっ!?」
驚愕の声を発した。
「どうしたんです?」
「え、いや、はぁ? この数値って……」
恐る恐るといった感じでパネルをこちらに見せる男性。俺はそれを見ると、僅かに笑みを浮かべて口を開いた。
「やっぱり、以前よりも二倍近くになってたか」
そのような納得の声をこぼした俺とは対照的に、男性はブツブツと独り言を繰り返していた。
「この数値は……出水くん、いや二宮くん以上の……上に報告すべきか? すべきだろうな。だが、しかし、支部所属の隊員が、まさかこんなトリオンを……」
聞いたこともない名前に首を傾げつつ、俺はここから立ち去ろうと踵を返して言った。
「それじゃ、ありがとうございました」
「え、あ、あぁ」
いまだ呆然としている男性職員を置いて、俺はロビーの方に戻ると早速ランク戦をしてみようと空いているブースを探し始める。
一番下の列の部屋は既に埋まっており、ここから一番近い空いている部屋は階段を二つ登った293号室だった。
そこに向かうため階段を上りつつ、俺はロビー内に設置された時計を見る。
「大体七時三十分。八時には出たいから、時間的に出来るのは五、六試合ぐらいか?」
そんなことを呟いた後、階段を上りきって293号室に入ると、次いで部屋内に設置された椅子に座って、対戦用パネルに手を当てる。
瞬間、機械がこの部屋を使用するのが正隊員であることを読み取り、訓練生であるC級隊員を抜いた対戦リストを提示した。
「アステロイド、バイパー、孤月、ハウンド、孤月、スコーピオン、メテオラ……色んなトリガー使いがいるけど、ポイントがなぁ」
俺はリストにのぼったトリガーの名前を口に出しつつ、その隣に記されたポイントを見て苦笑いを浮かべる。
大体が俺と同じ四千台か五千台。その者達を侮っているわけではないが、今回は俺の力がどこまで通じるかを試したいと思ってのランク戦だ。出来ることなら六千台以上、欲を言えばマスターレベルである八千台の相手と戦ってみたい。
そう考えてはいるものの、今リストにあるのは六千以下の者たちばかりだ。
俺は仕方なさげに一つため息をつくと、この中で一番ポイントの高い5723ptの孤月を扱う321号室の人と戦おうとパネルに手を伸ばした、その瞬間だった。
「ん?」
新たな部屋番号が一番下に追加される。
一応確認のために使用トリガーと所持ポイントを見ると、次いで驚愕。
孤月の8921pt。
俺が相手したいと思っていたマスターレベル、しかも俺と同じアタッカーだ。
これ幸いと俺は笑みを浮かべて、その部屋番をタッチして、対戦申請を送る。
訓練生同士のランク戦とは違い、正隊員同士の模擬戦は双方の合意で行われるため、事前に対戦の約束をするか、こういった形で片方が対戦申請を送る必要がある。
勿論後者の場合断られる場合もあるが、そうなったら仕方ない。向こうに先約がいたか、あまりのポイントの低さに相手すらされないか、だ。
しかし、その心配は杞憂に終わった。
着信音が部屋の中に響く。
最初は携帯かと思ったが、すぐに違うことに気づいてパネルの方を見た。
パネルの左端の方に、通話マークと番号が表示されていた。
これは各ブース同士の通話を可能にする機能で、使用するとこのように掛けてきた部屋番号と通話マークが表示される。
部屋番号は、やはりというか、先程対戦を申し込んだ相手がいる部屋番号だった。
俺は通話マークを一度タップして、挨拶をしようと息を軽く吸おうとするが──
『十本以上の勝負なら受けます。それ以下ならやりません』
女の声だった。
だが、挨拶もなしに条件を突きつけるその声には不機嫌な色を隠しきれておらず、明らかに此方を下に見ているようだった。
まぁ、自分のポイントの半分もいかない相手から試合を申し込まれたら嫌な思いもするか。
俺はそんなことを思いながら、パネルの右上に表示されている時間を見ながら、一本ごとの試合時間を計算して八時までに終えることが出来るかを計算する。
ほかの人とは対戦できなくなるが十本勝負はできそう、という結論に至り、俺は口を開いた。
「十本勝負で頼みます」
『……分かりました。ボコボコにされて、途中で嫌になっても知りませんから』
その会話を最後に、通話が終了する。
数秒して、先程の通話相手から対戦申請が送られてきた。内容は市街地ステージでの十本勝負というものだった。
俺は即座に了承すると、部屋内に機械音声らしき女性の声が響いた。
『個人ランク戦。ステージ「市街地A」。十本勝負。転送開始まで、あと十秒』
俺は大きく身体を伸ばすと、次いで脱力。
およそ三年半ぶりの個人ランク戦だ。
俺は緊張で少し早くなった鼓動を落ち着かせるように深呼吸を一つ。
そして。
『……三、二、一。転送開始』
瞬間、視界が白に覆われ、すぐに晴れる。
その久しぶりの感覚に俺は小さく笑うと、次いで周りを見渡す。
そこはもうブースの中ではなく、街の中だった。
ビルといった巨大な建物、飲食店、スーパーといったものはなく、ただの居住区といった風景。
俺は感覚を確かめるように両手を開閉しながらそれらを視界に収めると、俺の正面十メートル先辺りの空間が歪んだ。
そこに人のシルエットが映し出されると、今回の対戦相手である人物が現れた。
「……中学生か?」
その人物、予想よりも一回り小柄な少女の姿を見て、俺はわずかに眉をひそめて呟く。
此方を見つめる鋭い目つき、ツインテールとは言い難い二つ結びの髪型。身長が低いため、腰に帯刀しては地面に当たるためか得物である孤月を背中に帯刀している。
二葉より少しばかり小柄とはいえ、美少女ばりに整ったその顔を見るとそれとなく大人びた雰囲気を感じる。
「なんですか?」
ふと目の前の少女が俺の視線に気づいて、不愉快そうに顔を歪める。
俺は思春期の女子に対して配慮がなかったかと思い、頭を下げる。
「ジロジロ見て悪かった。マスターレベルのアタッカーが女子中学生だとは思わなかったんだ」
言い訳まじりにそう謝ると、彼女は興味なさげに視線を横にそらし、ため息を一つ吐いて「そうですか」と呟くと、背中から孤月を抜刀し、構えた。
「それでは、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
挨拶も交わし終えたので、俺も意識を切り替えて敵を仕留めることに集中する。
向こうもそんな俺の雰囲気の変化を感じたようで、少し驚いたように眉を上げる。
しかし、直ぐにそれを収めると、こちらを見据えつつ孤月を横に倒す。
そして、俺はまずは小手調べと攻撃を行うべく一歩前に進めようと──
「韋駄天」
そんな小さな呟きが耳に聞こえた瞬間、俺の首に鋭い衝撃が走った。
読んでいただき、ありがとうございました。
次回もどしどし原作キャラを登場させていきますので、次回もよろしくお願いします。
次回の更新日は2月9日0時0分です。