Another Trigger 〜弓手町支部所属の攻撃手〜   作:匿名中

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(・ω・) 「さて、バイト終わったし、ハーメルン開こ」


お気に入り数百人突破
評価数、前回の二倍化


(・Д・)


(・Д・)?






第四話 樹神一葉④

「(よし、上出来)」

 

 ペンを置き、問題冊子の各ページを何度か確認すると、俺は胸の内で小さくそう呟いて身体を伸ばす。

 背中からポキパキと心地よい音がし、血行が良くなったように感じる。

 次いで伸ばしている体の力を抜き、静かに大きく息をついた。

 俺は今、高校三年生。流石に受験期だけあって、今回のような模試の受講は必須だ。自身の学力の確認にもなるし、そういった空気に慣れるにも適しているため、今日が土曜日ということを差し置いても、いつものように昼から防衛任務を入れることはしない。

 俺の後輩となる高校一年、二年の正隊員の何人かは防衛任務で抜けているらしいが、まだ受験ではないという点と、いざとなればボーダーの推薦を受けれるため余裕があるのだろう。

 俺はボーダーの推薦を受けてしまえば受験は免れるが、受験者の上位数名に与えられる成績優秀者による学費全額免除が取れないため、真っ当に受けるつもりだ。

 そういった意味でも、狙っている大学の中で俺の学力が何位であるかを知る必要がある。

 なので、ひっそりと猛勉強を行なっていたのだが、

 

「(思ったより難しくなかったな。数Ⅲはともかく、数学ⅡBとか明らかに前年より簡単だったぞ。二時間前に行った苦手科目の英語も、手応えはある。前回の模試では二位だったけど、今回は一位取れたかもしれん)」

 

 心の中でガッツポーズを取る俺は、不意に終了の声をあげた試験官の方を見やる。

 高校で行われる模試のようなバイトで雇われた即興の試験官とは違い、近くの高校と合同で大学にて行われた真面目な模試だけあって、疲れなどおくびにも出さずに淡々と用紙を回収していた。

 

「(試験終了の予定は三時半。たしか二葉と三葉は友人らと遊びに行くから、帰るのが七時ぐらいって言ってたな。一応、夕食分の材料は残ってるけど、買い物して、久々に二人の好きなもので固めて驚かすか)」

 

 そこまで考えて、二人の喜ぶ姿を予想。思わず笑みがこぼれた。

 さて、頑張ろうと意気込み、部屋を出て大学の三号館の出口から外に出る瞬間だった。

 

「おい、お前。少し面貸せ」

「あ?」

 

 後ろから声をかけられた。

 妙に威圧的なその言葉に、俺も若干不機嫌になりながら振り向くと、そこにいたのはボサボサ頭に鋭い目つき、ギザギザとした歯をした男性。制服を見るに違う高校のようだ。

 猫背になりながら、両手をポケットに入れて此方を見る男に対して俺が何かを言おうとする前に、隣から彼の頭目掛けて手が振り下ろされた。

 パシン、と乾いた音が響く。

 

「いってぇ!」

「ばっか、カゲお前。初対面の相手に何つー言葉を吐きやがる。一応見に来て正解だったぜ」

 

 見たことある顔だった。

 それもそのはずで、ボサボサの頭を叩いた男性は俺と同じ制服を着ていた。つまり同じ高校の生徒で、実際何度か校内で見かけていたことを思い出した。

 

「たしか、荒船君、だったか?」

「お。俺の名前を知ってんのか」

「校内でそう呼ばれてたのを見かけただけだよ」

 

 俺は肩をすくめて答えるが、それでも自分の名前を知ってもらえていた荒船は満足気に笑みを浮かべると、先ほど叩いたカゲと呼ばれる人物の肩に手を回し、反対の手で指差した。

 

「いきなり呼びかけて悪かった。コイツの名前は影浦雅人。こんな凶暴なナリだが、れっきとしたボーダーだ。三日前のあんたの個人ランク戦の映像を見て、興味を持ったんだとよ」

「俺に男の気はないぞ?」

「ハッ、安心しろよ。俺にそういった趣味はねぇ」

 

 今まで沈黙していた影浦が俺の返答を鼻で笑うと、一歩前に出る。

 俺の方が身長が高いため影浦が見上げる形になっているが、それでも此方を睨みつけるが如く直視し、続けた。

 

「映像見たぜ。お前、強い(できる)な。この後任務もねぇんだろ? ちょっと付き合え」

「ちょっと、てのは時間にしてどんくらいだ?」

 

 俺の質問に影浦は「あ?」と声を上げると、隣の荒船に視線を移した。それに対して荒船は仕方なさげに息をつくと口を開いた。

 

「こっから本部まではおおよそ二時間。個人ランク戦を大体三十分として、そっから帰宅まで一時間なら、約三時間半だ」

「なら断る。別の日にしてくれ」

 

 キッパリと断り、踵を返して歩みを再開。

 しかし。

 

「おぃ、待てよ」

 

 すぐに影浦に肩を掴まれたため、仕方なく足を止めて振り返った。

 

「なんだ?」

「訳を話せ。こっちもそっちの都合やらを一応考えてから声ぇかけたんだよ。バイトもねぇんだろ? じゃぁ、無理な訳は何だ?」

 

 何やら少し不機嫌な影浦に、帰宅しようとしていた他の学生が此方を見て何事かとヒソヒソ話し始める。外見もさることながら、今の彼の言動を兼ねると、不良が一生徒に絡んでいるようにみえるのだろう。

 その周囲の反応に影浦は忌々しげに舌を打つ。

 それに遅れて気づいた俺は横目に辺りを見渡した後、場所を移すかと提案するが、彼の「別にいい」という言葉を聞いて、一つ息をついた。そして、続ける。

 

「まず、バイトがないってのは何処情報だ?」

 

 それは影浦の質問を答える前に気になった点だ。ボーダーに入隊してからの三年半、自慢ではないが他の正隊員と仲良くなったこともなければ、バイトと防衛任務で高校の友人はおれど学年の異なる親しい後輩などおらず、その友人ですらバイトや防衛任務について事細かく話したこともない。

 その疑問に影浦が何か言おうとするが。

 

「樹神にとてもお世話になった後輩からだ。その情報は」

「あくまで自称、だけどな」

 

 それよりも先に二種類の声色が影浦たちの後ろから聞こえた。

 次いで、影浦と荒船に並び立つようにソフトモヒカンという変わった髪型の長身の男と少しデコの広い短髪の男が姿を現した。

 

「鋼、穂刈」

「すまん、少し遅れた」

「影浦より出口から遠かったからな。俺たちの席が」

「別に怒っちゃいねぇよ」

 

 友人の到着に荒船が笑みを浮かべたのに対し、鋼と呼ばれた青年は素直に遅れたことを謝罪、穂刈と呼ばれた青年は言い訳まがいに言葉をこぼし、それを荒船が肩をすくめて答えた。

 二人の制服を見た限り荒船とは高校が違うはずだが、三人のやり取りを見るに恐らく同じボーダーの隊員なのだろう。

 

「友人が到着したのはいいが、とりあえず端に寄ろう。この人数でここに溜まると通行人の邪魔になる」

 

 そう言って返事を待たずに廊下の端に寄ると、他の四人も何も言わずに俺に続く。

 その後、改めて向かい合うと何やら四人揃ってヤカラ感が出ていて詰め寄られているように思えてしまう。

 心なしかここを通り過ぎる学生の俺を見る目に哀れみの色が強い気がする。

 

「さて、また紹介からだな。まずこの倒置法モヒカンは穂刈篤。このデコ武士は村上鋼。二人とも俺らと同じ正隊員だ」

「「おいこら」」

 

 雑な紹介方法に村上と穂刈が突っ込むような声を上げる。

 荒船は二人に目配せしながら少しばかり悪そうな笑みを浮かべると、二人とも仕方なさげに微笑。次いで此方を見た。

 なるほど、漫才のようなこのやり取りは初対面である俺の緊張を和らげるためか。

 そう結論付けた俺はその気遣いに感謝しながら口を開いた。

 

「弓手町支部所属の樹神一葉だ。よろしく」

 

 村上と穂刈も「よろしく」と答えると、影浦がようやくかと言わんばかりに一歩前に出た。

 

「挨拶もそんくらいにしてキリキリ答えろや。無理な訳は?」

 

 顎を引いて此方を睨みつけるように見てくる影浦に、俺は特に嘘を必要もないため素直に訳を話した。

 

「今日の夕食を作るためだ。軽く仕込んではいるが現状だと料理に一時間はかかる。それに、さっき妹らにサプライズで好物のフルコースを作ろうと画策したばかりでな。妹二人が帰ってくるのはおおよそ七時。とても本部に寄る時間はない」

 

 淡々と理由を述べる俺に影浦は小さく舌打つ。

 

「チッ。そりゃぁ外食か、親にでも頼むんじゃダメなのかよ?」

 

 この時、明言しておくと、影浦はイライラしていた。

 今この側から見て脅しているような状況とそれを見る人の多さ。それにより影浦は自身のサイドエフェクトのせいで数多の不快な視線をその身に受け、全身掻きむしりたくような感覚に襲われていた。

 それだけでも影浦からすれば不機嫌の要因でもあるのに、加えて今回そんな思いをしてまでの目的を失敗してしまえば目も当てられない。

 それ故に思わず出てきてしまった言葉だったが。

 

 

「三年半前に両親は死んだ。唯一の肉親であった祖母も、一年半前に亡くなった。今は俺が二人の保護者だ」

 

 

 あくまで淡々と、冷静に。

 まるで報告するかのような言葉だったが、かえってそれを聞いた四人は冷や水を浴びせられたかのようにバツの悪い表情を浮かべた。

 特に影浦は自身の配慮もへったくれもなく、イラつきに任せて吐いた自分の言葉を少しばかり悔いているように視線を下げ、地面を見つめた。

 

「……わりぃ」

「別に気にしてない。それよりも、もういいか?」

 

 視線を逸らしながらも謝罪を口にした影浦を見て、俺は軽く首を振って答える。

 その後、一通り学生が帰ったのか、少し静かになった廊下の方を見て帰っていいかという催促を行う。

 

「カゲ」

「あぁ、分ぁってる。分かってんよ、クソッ」

 

 荒船の呼びかけに影浦は乱暴に頭を掻きむしると、次いで顔を上げて言った。

 

「おい…………お前の妹らはお好み焼き、好きか?」

「ん?」

 

 若干柔らかくなった影浦の声とその内容に、思わず首を傾げる。

 質問の意味が分からないが、とりあえず二葉と三葉との記憶を遡って、お好み焼きの好みはどうだったのか探る。

 そして、その答えは存外簡単に見つかった。

 

「あぁ。そういや明日、行きたいお好み焼き屋があるって言ってたな。たしか……うん?」

 

 前々から行きたいと言っていたお好み焼き屋の名前。それを思い出した途端、俺はほぼ反射的に影浦の方を見た。

 影浦は少し曲げていた背をキッチリ伸ばすと、左手を後頭部に、先ほど此方を見据えていた視線を横にやって、遠慮気味に口を開いた。

 

「あぁ。たぶん、そりゃあ俺んちだ」

「まじか」

 

 妹らから聞いていたお好み焼き屋の名前は『かげうら』。今の今まで思い出しもしなかったが、彼の名字と同じであることに気づく。そう思っての疑問詞だったわけだが、的中したようだ。

 俺は驚きに少しばかり目を見開いていると、影浦は視線を合わさないまま続けた。

 

「今日じゃなくてもかまわねぇ。来週でも再来週でもいい。俺と十本(バト)ってくれりゃぁ、礼にうちでお前ら家族全員分の飯代を出す。……さっきは無理言って、悪かった」

 

 そう言い切ると、再度猫背に戻る。

 いや、猫背に見えるが恐らく頭を下げているのだろう。

 見るからに悪そうな印象で、先ほどもかなりイラついていた様子だったが、根は優しいのだな。

 

「そうだな。先も言ったが、気にしてはない。ただ、少しだけ提案がある」

 

 言いながら廊下に立てつけられた時計を横目に確認する。

 三時四十分ほどを示していた。

 それ見て俺は影浦に視線を戻し、言った。

 

「今日個人ランク戦をしよう。影浦くんが言った、十本勝負でだ。加えて、もう一つ。飯を奢る話だが、それはもし俺が君に勝ったら、の話だ」

 

 そんな俺の提案に影浦は逸らしていた視線を俺に戻し、訝しげに「あ?」と零す。

 ようやく目が合ったな、と。

 心の中でそう呟きながら、小さく挑発的な笑みを浮かべて続けた。

 

「君、強いんだろ。言っとくが、人に奢ってもらうのは家計的に大助かりなんでな。本気で勝ちに行くぞ」

 

 口ではこう言ったが、もちろん夕食一回分でそこまで家計に影響を及ぼすわけではない。しかし、これでいい。

 影浦の後ろにいる荒船はククッと笑みをこぼし、村上と穂刈も微笑を浮かべた。

 そして、当の影浦はというと。

 

「けっ、いいぜ。ボコボコにしてやるよ」

 

 覇気のなくなった様が一変、相手を威圧するが如く目を鋭くしギザギザの歯を見せつけるように笑った。

 それでも、先ほど垣間見えた優しさ雰囲気は失われていない。

 

「ほら、行くぜ。おめぇらもだ」

 

 そう言うと、影浦は此方に視線をやりながら踵を返し、次いで荒船らに声を掛けると大学の外に出ようと歩を進め始めた。

 三人の間を抜けて進む影浦に俺も続こうと歩き始める。

 その時、荒船から声をかけられた。

 

「樹神、カゲの奴を悪く思わないでくれ。見た目はああだが、根はいい奴なんだ」

 

 まるで嘆願するようなその言葉に、俺は一層笑みを濃くして「分かってる」と言うと、三人の横を通り抜けるように影浦の跡を追った。

 そうして、その背が離れていった時、村上が荒船のとなりに寄って呟く。

 

「良い奴だな」

「あぁ、人間が出来た奴だ。好ましいぜ」

「それより、早く行かねぇと置いてかれるぞ、カゲに」

 

 三人は一度目を合わせると、少し小走りで二人を追いかけた。

 

 




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これからも頑張っていきますので、どうぞよろしくお願いします!

あ、次回の更新日は2月11日0時0分です。
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