Another Trigger 〜弓手町支部所属の攻撃手〜 作:匿名中
『トリオン漏出過多。影浦
その音声が響いたと思うと、腿から下の左足と肘から先の右腕が切り落とされて多量のトリオンが漏出していた影浦の身体が崩れ、一瞬で消える。
それに対して両腕、両脚に細かな斬傷があるものの、その浅さのせいか既にトリオンすら漏れていない樹神は影浦の
時刻は六時。
彼らがボーダー本部に到着したのは五時五十分ぐらいなので、個人ランク戦を始めておよそ十分経ったことになる。
黒江戦の時は五本目終了の時点で大体十五分だったのと比較すると、随分と早い決着を繰り返していると思うが、それは違う。
これまでの試合、両者ともスコーピオンしか使っていないのだ。つまり、お互いに必殺の間合いで攻防を繰り返しているため、僅かでも遅れた方が手痛いダメージを負うことになる。それ故に距離を置いたり他のトリガーを使って搦め手を利用していた黒江と比べて一本一本の決着が早い。
逆に影浦だからこそここまで時間がかかっていると言える。
影浦はマンティスを中距離近距離ともに利用することで軌道の読みにくい必殺の攻撃として確立しているが、対して樹神は遠距離攻撃としてマンティスを利用しているだけであって近距離となれば話は別。主に手足に生やせる形でスコーピオンを展開して攻撃する。それは本来のスコーピオンを用いた近距離攻撃よりもさらに近く、いわば間合いの少し伸びた格闘攻撃とも見て取れる。三年という年月を経ることで積み上げられたトリオン体ならではの身体操作法に加え、グラスホッパーを用いての高機動力が合わさると、その攻撃力は計り知れない。
もちろん、影浦は映像で樹神の攻撃力を知ってはいたが、側から見た視点と実際に味わうのでは大きく変わる。
一歩踏み出せば密着するほどの至近距離での打ち合いは相手の全身を把握するには及ばず、それ故に樹神の左手の大振りによって影浦の右手を大きく弾かれた次の瞬間、大振りの勢いのまま放たれた左回し蹴りとその踵から姿を見せるスコーピオンの存在に気付けず、蹴りから逃れようと後ろに下がったもののスコーピオンの間合いからは抜け出せず頭部を切り裂かれた。
『トリオン伝達系切断。影浦緊急脱出。6ー0、樹神リード』
これで六本目。影浦の負けが確定した瞬間だった。
しかし。
「カゲの奴、笑ってやがるな」
「あぁ、あそこまで楽しそうなカゲは久し振りだ」
ロビーの観客席にて二人の攻防を見ていた荒船と村上がモニターの先で七本目を始めた影浦の顔を見て、そう呟いた。
まるで踊るかのように至近距離で刃を交える樹神と影浦。
スコーピオン使いは基本相手に一度二度ほど攻撃を加えると距離を取ることが多いが、二人にそういった様子は全くない。
数十の剣撃音。
これまでよりもお互いの攻防が続いていると村上と荒船が思った時だった。
『っ!』
宙に左腕が舞った。
この試合を見ていた者たちの大半は二人の攻防の速さ故に何が起きたのかを遅れて理解するため、最初は三本目のように影浦の腕かと思うが、それは違う。
「初めて樹神にらしいダメージが入ったな」
そう言った村上が見ている先、モニターには顔を悔しそうに歪める樹神と、してやったりと笑みを浮かべている影浦があった。
♦︎ ♦︎ ♦︎
六本目の勝負の最中、二人は初めて距離を取ったと誰もが思った。
だが、それは少し違う。
影浦は一歩下がったに過ぎず、樹神が彼の間合いから外れるために大きく距離を取ったのだ。
それを見て、影浦は追撃するのでもなくギザギザの歯を隠そうとせず笑って言った。
「けっ、そういうことかよ」
「……そういうこと、とは?」
左腕の傷からトリオンが漏れないように右手で抑えつつ、樹神は影浦の僅かな挙動も見逃さないよう見つめながら、言葉を返す。
すると、影浦は僅かに顎を引いて答えた。
「どうやらテメェ、見えてる攻撃・動きには気持ち悪りぃぐらい反応が速ぇ上、対応もクソ丁寧だが、その反対は違うみてぇだな。そんで、確信したことがある。てめぇ、サイドエフェクト持ちだろ?」
サイドエフェクト。
優れたトリオン能力を持つ者が偶発的に、そして先天的に発現する超感覚の総称のことだ。
発現した者はその特異性と有意性から部隊の中核を担ったり、こと戦闘において頭角を表すことが多い。しかし、その能力はあくまで人間が本来有する能力の延長線上のものであるため、炎を出したり空を飛んだりといった超常的なものではない。
また、ボーダーにおいては入隊時のトリオン測定によりサイドエフェクトの有無を判断され、その能力からS~Cまでランク付けがされる。
上から超感覚、超技能、特殊体質、強化五感という位置付けだ。
たとえランクが下であろうと、サイドエフェクト持ちは良くも悪くも目立つため隊員の間では噂や話のタネになることが多いが──
「(少なくとも俺がボーダーになってからのおよそ一年間、樹神なんて名前聞いたことねぇ。ここまで強ぇならC級の時点で名が売れるはずだ。そうなってないってこたぁ、つまり
笑みを浮かべながら鋭い目つきで樹神を睨みつける影浦。
それに対して、樹神は左腕の傷口を強く押さえると、一つ息をついた。
「そうだな。あぁ、そうだよ。あそこまで撃ち合えば、そりゃあ分かるよな。────だから、
言い切ると同時に樹神は左腕から手を離し、影浦を見据える。
その視線に影浦は警戒するように態勢を下げると、樹神は続けた。
「あそこまで密着した攻防。自分で言うのもなんだが、俺は強力なサイドエフェクトを持ってるから凌げたわけだが、同じく攻撃を受ける君は違う。今までトリオン兵ばかり相手していて対人戦は久し振りではあったが、その攻撃の半分を防がれ、残り半分を躱されるほど単調でも軽くもないと自負している。では、攻撃箇所を察知するサイドエフェクト? いや、違うな。この六本の間の有効打。その四本は躱すことも防ぐことも出来ない、いわゆる詰みの状態だったが、残りの二本は違う。避ける、防ぐことが可能であったにも関わらず受けたその二本に共通するのは、
樹神は一つ間をおいて、小さく言い放った。
「相手の視線が向けられている箇所を察知する、もしくはそれに近い能力と見た」
樹神は視線の先の影浦にそう突きつけると、笑みを浮かべていた影浦の表情が僅かに曇る。
だが、それも一瞬で直ぐにそれを引っ込めると、わざとらしく変な奴を見る目を樹神に送った。
「お前、戦いながらそんなところまで頭ぁ回してたのかよ」
「当たり前だ。初見の相手ってだけならいざ知らず、ここまで見事に攻撃を読まれたらその予測ぐらいはする」
肩を落としながらそんな風に言う樹神に、影浦は心のうちで戦慄する。シューターやガンナーのような中距離の打ち合いでもなければ、孤月のようなある程度の間合いを置いての打ち合いでもない二人の戦闘。それは側から見ていても理解が遅れるような高速の攻防なのだ。その合間に自分の繰り出した攻撃に対しての相手の反応を逐一拾い、それらから相手の手の内を推測するのは正直自殺行為、反応が遅れる要因になりかねない。
故に、だ。
「(そこがアイツのサイドエフェクトに繋がんだろうな)」
影浦は樹神の挙動を見逃さないようにしながら、相手のサイドエフェクトの能力を考えようとするが、すぐにそれらを意識の外に追い出した。
「慣れねぇことはしねぇに限るな。とりあえず掻っ捌く」
そう小さく呟くと、樹神が口を開いた。
「それで、俺の予測は当たってたかどうかは言ってくれるのか?」
「ケッ、答える義理はねぇが、当たらずも遠からずってとこだ。俺のサイドエフェクトはそんな簡単なもんじゃねぇ」
それを聞いた樹神は「そうか」とこぼすと、次いで後ろに下がり始めた。
影浦との距離、およそ三十メートル。
もちろん、影浦もその後退を見て距離を詰めようとしたが、それよりも先に樹神の声が上がり、足を止めた。
「一つ、俺の予測に答えてくれた礼だ。俺のサイドエフェクトについてのヒント。俺のそれは反応じゃなく、反射に該当する。そして、もう一つ、『直列スコーピオン』の礼。中距離以外にも近距離でそういった使い方が出来るのを知れたのは貴重だった。だから──」
左足を引いて、右足を己の前に。
右肩を影浦に向けると、右腕を直角に曲げ、一定のペースで揺さぶり始めた。
左右は違うが、まるでボクシングのフリッカースタイルのような構えに、影浦は訝しげな表情を浮かべるが、樹神は構わず続けた。
「俺も一つ、これの使い方を見せる」
影浦のスイッチが切り替わる。
樹神のいった『直列スコーピオン』とはおそらく『マンティス』のことだ。そして、その使い方を見せるといっての構え。あれは確実に攻撃の準備だろう。
馬鹿正直に食らうつもりはない。だが、その防御としてシールドを使うつもりもない。それはこれまでお互いスコーピオンしか使用しなかったという現状に反する。というか、ここまでスコーピオンオンリーで続けた中で、影浦は自分から他のトリガーを使うことは絶対にしたくなかった。
だから、受ける。流す。もしくは避ける。
この距離、影浦も少し前に出ればマンティスの射程となる。
カウンター狙いで逆に獲るため、影浦は相手の僅かな動きも見逃さまいと集中する。
──樹神が動いた。
前後に振られていた右腕が先程より後ろに引かれ、前に出る瞬間。右足を僅かに浮かして前に出しつつ、身体も僅かに前のめりに。
そして、右足が再度地に着いたと思うと、ダァンッと音を立ててコンクリートの地面を叩き割り、それとほとんど同時に右腕が影浦に向けて振られた。
影浦はその矛先がどこにくるのか分かっていた。
樹神が動いた瞬間、彼の視線が向いたのはトリオン供給機関のある胸部。すぐにそこへ到来するであろう攻撃を受け流すべく、体を後ろに下がつつ、両手に持ったスコーピオンで受けようと、スコーピオンを発現させる。
──その瞬間には、すでに樹神の右手から伸びたスコーピオンに貫かれていた。
「かっ……っ!?」
胸へと軽い衝撃と無意識に口から漏れた言葉。
それを踏まえてようやく攻撃されたことに気づき、そして驚愕する。胸への衝撃が、樹神の右手が振られるのと同時だったからだ。
「最大射程六十メートル。刀身形状自在のスコーピオンらしからぬ、歪曲の一つもない最速最長の刺突『一閃』。ここが現実の市街地じゃなくて良かったよ」
誰にいうのでもなく、独り言のような声量で呟く樹神。だというのに、何故か影浦はその全てを明瞭に聞こえた。
「(クソがっ!)」
『トリオン供給機関破損。影浦
気のせいか、影浦はこの機械音声もいつもより遅れて聞こえたと思うと、次の瞬間にはブースのベットに放り出されていた。
この後、樹神は影浦のような近距離でもマンティスを使う戦法を取るようになり、影浦は『一閃』を使わせないよう立ち振る舞い、度々死角を縫うような形で大ダメージを与えられるようになったが、ついには倒すまでには至らず、樹神のストレート勝ちで終わった。
♦︎ ♦︎ ♦︎
影浦との十本勝負が終わり、ブースに戻ってきた俺は取り付けられているベットに座って、小さく息をついた。
元より荒船君や村上君から聞いてはいたけど、前回のマスターレベルの女の子よりも断然強かった。ましては近距離戦だったため、恐ろしくキツかったが、その分収穫は大きい。
「以前の地形利用以外に、攻撃を受けるつもりはなかったんだけどな」
そう言って、先程まで相手していた影浦の姿を思い出してみる。
直列スコーピオンを利用した多角的な超攻撃。これを用いると経験上防御が疎かになるため、そこを狙って攻撃しようとしたが、逆に受けるのに手一杯になってしまう状況だった。
直列スコーピオンは遠距離専用だと思ってただけあって、近距離でも用途があるとは思いもしなかった。死角を縫う以外にも、近距離であえて使うことで予測が難しくなるため、最後の方はギリギリも良いところだった。
俺も八本目からちょくちょく試せはしたけど、練度は影浦に遠く及ばない。
ぶっちゃけ使わない方が良い場面もいくつかあったほどだ。
「ただ攻撃の手札が増える分には困らない。その脅威も体験できたわけだし、練習しとくか」
その一言を最後にベットから立ち上がり、ブースから出る。
すると、目下のエントランスに以前女子中学生と戦った時よりも明らかに多い
思わず一歩足を引いたが、その近くに荒船と村上の姿があるのを確認。すぐに飛び降りて彼らの視線から外れようとする。
そうして地面に着地すると、荒船らの方から此方に寄ってきてくれた。
「お前、すげぇな。カゲ相手に
帽子のつばに触れながらそう言う荒船に、俺は小さく笑みを浮かべて息をついた。
「君らの言う通りだった。メチャクチャ強かったよ、彼」
「この前減点食らって5000ptになったが、元攻撃手四位だからな、アイツ」
「へぇ、道理で。……ん? 攻撃手四位から5000ptまで減点って一体何したんだ?」
「ボーダー幹部様の顎にアッパーをかましたんだとよ」
「………。…………へぇ」
まさかの原因で一瞬返す言葉をなくすが、なんとか納得の言葉を捻り出す。
その様子に荒船は笑っているが、村上は苦笑いを浮かべている。おそらくこれを聞かされた時、彼も同じような反応をしたのだろう。
「ところで、穂刈くんや途中で合流した北添くん、仁礼さんはどこに行ったんだ?」
「あぁ、それは……」
ふと荒船が視線を横に移す。
釣られてそちらを見ると、こちらへゆっくりやってくる影浦と北添、仁礼の姿があった。
「おいカゲ〜。そんなに凹むなよな〜。たまにはこんな日もあるって」
「うるせぇ。凹んでねぇっつってんだろ」
「イヤイヤ、嘘つくなって。ほら、私の胸を貸してやるから、思い切り泣いていいんだぞ〜。あ、ゾエの腹でも可」
「光ちゃん、それ、ゾエさんサンドバッグにされる気がする」
なにやら疲れた表情の影浦に絶え間なく話しかけるサイドテールの少女とその二人の後ろを見守るが如く追従する膨よかな男性。聞けば二人とも影浦を隊長とする隊の一員らしく、はたから見ていても仲の良さが分かる。
少女の名前は仁礼光、男性の方は北添尋という。
「おつかれ、カゲ。ボコボコだったな」
「うっせぇ。次は勝つ」
村上がからかうように言うと、影浦が負けん気の色が浮かんだ目を此方に向けて、呟いた。
それに対して小さく俺は挑発的な笑みを浮かべると、影浦も「ハッ!」と笑って応える。
「とりあえず、毎週土曜日の午後三時から七時。こんぐらいの時間帯に顔を出そうと思ってる。リベンジなら喜んで受けるぞ」
「そうかよ。そんときゃあその笑み、掻っ捌く」
「あぁ、楽しみにしとく」
そんな風に言葉を交わしていると、自販機に飲み物を買いに行っていた穂刈が帰ってきたため、俺たちは約束通り影浦の家でもあるお好み焼き屋に向かった。
♦︎ ♦︎ ♦︎
「よい……しょっと」
「わぁ! すごいすごい!」
「ふふん、そうだろそうだろ。お、そだ。私のお好み焼き、三葉ちゃんが焼いてみるか?」
「え、いいの?」
近くの駅前で妹二人と合流した俺たちは早速影浦のお好み焼き屋に行き、食事を始めた。
ちなみに席は俺の隣に二葉。対面にカゲ、村上、荒船の三人がおり、その隣のテーブルに北添、穂刈。対面に仁礼と三葉という順番だ。
本来なら三葉も俺の隣に来るはずだったが、来る途中に仁礼さんに懐き、今も隣でお好み焼きの焼き方を教えてくれている。
「仁礼さん、面倒見いいんだな」
「あん? あ〜…そうだな。アイツの
「なるほど」
影浦の説明に納得の声をこぼしつつ、次いで隣で黙々とお好み焼きを食べていた二葉に目を向けると。
「一作目が売れて二作目は名作、三作目は駄作ってのが映画の相場って言われてるが、ターミ○ーターは二作目が良作過ぎたために三作目の内容がヒデェもんだった」
「あ、分かります。敵がチート過ぎる能力な癖に最後の決着が酷くあっさりしすぎ。二作目にあった何度倒したと思っても復活するあの絶望感に比べるとどうしても見劣りしますよね」
「俺たちが求めた絶望感とはちとちげぇんだよな。俺としてはストーリーが淡々と進み過ぎる上、主人公とヒロインの関係性とかが薄すぎねぇかと思ったんだが」
「私もです! 加えてT −850が少し人間味が強かったのもあれでしたねぇ。というか、少し喋り過ぎじゃないかな〜って」
「全く同意だ。んで、その後の四作目、五作目もCGが進化したのが分かるぐらいでストーリーとしてはなぁ。もう少し設定を練って欲しかったな」
「スカイ○ットが拡散型のプログラムってのは面白かったんですけどね。これじゃあ、もし次作が作られても不安ですよ」
「「まぁ、見
なにやら対面にいた荒船と映画の話で盛り上がっていた。
合流した時は見たことない人だらけで緊張気味だったんだが、荒船らのお陰で今となってはそれも砕けてる。
「(ほかのメンバーも一緒ってなった時は心配したけど、杞憂でよかった)」
俺はあと半分ほどになったお好み焼きを口に運びながら、隣のテーブルで美味しいと感動としている三葉に「そうか」と笑みをこぼしている影浦を見る。
ほんと、初対面の時はどうなるかと思ったが、丸く収まって良かった。
そんな風に思っていると、ふと村上が口を開いた。
「そういえば樹神君。カゲから七本目を取った時のアレはなんなんだ? 見た目、ライトニングより速く感じたんだが、マンティスなのか?」
「マンティス?」
「スコーピオンを繋げて間合いを伸ばす奴だよ。テメェの言う、直列スコーピオンのことだ」
「あぁ、マンティスって呼ぶのか、あれ」
村上の疑問に影浦が加わり、先ほどの個人ランク戦の話を始める。
「なにも難しいことはしてないよ。原理はそのマンティスとあまり変わらない。ただ、その速度と射程をより伸ばそうと工面した結果があれだ。俺は『一閃』って呼んでるけど、本部には使える人いないのか?」
「いねぇな。そもそもマンティスも俺しかいねぇしな、使ってる奴」
「何人か練習してたんだけどな。結構センスが必要らしいから」
「そうなのか。まぁ、使い方に話を戻すけど、アレは自身の全体重を乗せて放つマンティスだ。格闘家や剣道の達人が放つ重い一撃みたいなもんで、腕だけじゃなく、正真正銘体全部を使って放つ。それが熟達するだけ速さも増す。自分で曲がる余裕もないくらいにね。ただその分、放つまで時間が必要でな。二秒あれば打てるには打てるけど、その分射程も速さも下がる。大体二十メートルくらいか? 速さも瞬く間ってレベルじゃなく、ギリギリ目で追えるぐらいだ。五秒くらいあれば、全力で打てる。あとは他の動きから繋がることもできるけど、まだまだ精密には程遠い。今んとこ、最大射程は六十メートル」
そこまで言うと、俺は村上と影浦が複雑な表情を浮かべているのに気付いて首を傾げる。
「どうした?」
すると、村上が困ったような笑みを小さく浮かべて、口を開いた。
「いや、そんなに自分の切札を話していいのか? バレたらその分対策を取られて、個人ランク戦勝ちづらくなるぞ?」
村上のこちらの身を案じるような言葉。
横目に捉えた影浦も特に何も言う様子はないことから、おそらく影浦も同様のことを言いたいのだろう。
だからだろうか、なにかを言うよりも先に笑いがこみ上げてきた。
笑い声を我慢するように顔を下に向けながら、それでもクックックッと笑う俺に村上は不思議な表情を、影浦は怪訝な顔をして此方を見やる。
「いや、悪い。ちょっと予想外だった。俺が知らないだけで個人ランク戦はそんなに殺伐してるのか?」
「……いや、知られるのが嫌な奴がいるってだけだ。そこまでピリピリしてるわけじゃねぇ」
「あぁ。ただ、秘密にしておきたいことを無理に言う必要はない。俺たちもそこらの配慮はしてるつもりだ」
なるほど、と内心で納得する。
前回戦った中学生攻撃手の高速で移動するトリガー。あれは初見で見抜けないため、知らなければ殆ど獲られる。一応個人ランク戦もポイントの競争だ。より多くのポイントが欲しければ秘密にもするだろう。
「(もしくは、秘密にしとくことで、初見で通用するかどうかを試すのも手なのか)」
俺はそこまで考えると、一つ息をついた。
「まぁ、あれだ。たしかにそういう奴がいるのも分かる。でも俺はランク戦を対人戦闘の特訓だと考えてる。対策されるならその上で倒す練習をする。初めて見る動きもトリガーも、戦闘の最中に対応する。そういった意味で手強くなるなら大歓迎だ。それにな」
一呼吸挟んだ後、影浦と村上の二人を見据えて続けた。
「俺たち、ライバルであれど、敵同士って訳じゃないだろ?」
少し遠慮気味なその言葉に村上と影浦は呆けた表情を浮かべ、次いで影浦は舌を打ちながらそっぽを向き、村上は小さく吹き出した。
「そこは友だちとかじゃないんだな」
「いや、まぁ………会ったのも今さっきだからな。正直距離が分からん。取り敢えず、俺が思ってることを言ってみたんだが」
そう村上に返していると、不意に「オイ」と影浦が割り込んできた。そして、俺に指をさして堂々と宣言。
「俺のこと、ライバルなんて呼ぶんじゃねぇ。さっきのバトルの戦績はお前のストレート勝ちで、明らかに俺の方が負けてんだ。一本も取れない奴からのライバル呼びなんざ屈辱でしかねぇ。だからよ」
影浦はそこまで言うと、俺を指していた右手を下げてテーブルに右肘を乗せて頰杖をついた。そして、視線を横にそらしつつも、さっきよりも随分と柔らかい雰囲気で───
「ダチでいいだろが」
そう小さく呟いた。
そんな影浦に村上が少し驚きを浮かべるが、すぐに俺に視線を戻すと、影浦に肯定するようにゆっくり頷く。
そのことに、俺はテーブルの上に置かれた自分の皿に視線を落とすと、数秒ほどの間を開けて「そうか」と言葉をこぼし、目を閉じて笑みを浮かべた。
「それは、嬉しいな」
影浦と同じぐらいの声量で呟く。
村上は嬉しそうに笑みを深め、影浦は「ケッ」とため息をこぼすようにして再び横に顔を背けた。
♦︎ ♦︎ ♦︎
「今日はありがとうございました、荒船さん。お話しできて、凄く楽しかったです」
「こちらこそ、ここまで話せる奴は初めてで楽しかったぜ。その上で俺のオススメの映画を何本か貸したいんだが、兄貴に渡せばいいか?」
「あ、えっと……」
店外に出て、あと少しで解散の流れになっている中、そんな会話していた二葉が言葉を詰まらせながら此方を見る。
それに対して、俺は小さく頷くと二葉は花が咲いたような笑みを浮かべて荒船に「はいっ!」と返した。
その後も楽しそうに会話する荒船と二葉を少し遠目に見ていると、ふと背後から村上に声を掛けられた。
「二葉ちゃん、荒船に随分と懐いたな」
「あぁ、正直意外だったよ。あそこまで人と楽しそうに話す二葉は始めてだ」
「妬いたか?」
「まさか」
からかうような口調で問いかけてきた村上に、俺は余裕の笑みを浮かべて肩をすくめると、次いで三葉の方を見た。
仁礼と穂刈、北添の姿もそこにあり、特に仁礼とは夕食の前よりも更に仲良くなったようで、北添と穂刈に見守られながら仁礼と三葉は言葉を交わして笑っていた。
「(ほんと、この出会いに感謝だな)」
妹二人の表情を見て、心の底からそんなことを思っていると、ちょうど影浦が会計を終わらせて店の外に出てきた。
「ご馳走様。美味しかったよ」
「ならまた来やがれ。次もウメーもん用意してやんよ」
「あぁ、言われなくてもまた来るよ。今度はカゲが働いてる時に、また家族で。あと、出来ることならまたこのメンバーで食べたいな。その方が、二葉と三葉も喜ぶ。もちろん、その時は自分らの分は出すよ」
そんな俺の言葉に影浦は「そうかよ」とギザギザの歯を隠すことなく笑うと、仁礼と話していた三葉が俺たちに近寄ってきた。
「あれ? 一兄、お好み焼きのお金、払ってないの?」
「うん、そうだよ。このお兄ちゃんが俺たちにお好み焼きをご馳走してくれたんだ。ちゃんと、お礼を言うようにな」
そう言うと、三葉は元気よく頷いて影浦に向き合い、口を開いた。
「ご飯、ありがとうっ! ボサギザのお兄ちゃんっ!」
「あぁっ!? ボサギザっ!?」
影浦が小さく叫んだと思うと、右から吹き出すような音が二つ聞こえた。
村上と共にそちらに目をやると、仁礼と北添が影浦に背を向けるようにして体を震わせていた。
「テメェらっ!」
俺たちに遅れて二人の様子に気付いた影浦が仁礼と北添をぶちのめすべく駆け寄るが、仁礼達も素直に捕まるわけなく逃げ始めた。
だが、ただどこかへ逃げるのではなく、穂刈や荒船、村上、俺などを上手く使って逃げ回る。
それを見て、村上や穂刈、荒船ばかりでなく二葉や三葉も笑い出し、俺も無意識に声出して笑っていた。
「兄貴」
「ん?」
いつのまにか荒船の元から俺の方にやってきていた二葉が、俺の袖を引っ張る。
反射的に二葉を見ると、彼女は賑わう影浦達に目をやりながら、安心するような笑みを浮かべて呟いた。
「私、安心したよ。兄貴にも、良い友達がいたんだね」
俺はその言葉を聞くと、荒船、穂刈、村上。そして影浦達に視線を移すと、二葉と同じように笑顔を浮かべて言った。
「ほんと、俺にはもったいない人達だよ」
前回に引き続いて……
お気に入りが四百人を突破!
評価数も四十を超えました!
日刊ランキングも(私が見た中では)十二位!
ルーキー部門の日刊ランキングでは二位になってました!
皆様のおかげです!これからも皆様が読んでいて楽しめるような物語を書いていきますので、応援よろしくお願いします!
次回の更新は2月12日0時0分です!