Another Trigger 〜弓手町支部所属の攻撃手〜   作:匿名中

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第六話 樹神一葉⑥

 日付は影浦達との食事会からちょうど一週間経った七月の第二土曜日。

 俺は影浦達との約束通り、昼からボーダー本部に訪れて個人ランク戦十本勝負を行なっていた。

 一時間前に始めた十本勝負は既に三回目となっており、対戦相手も影浦から変わっている。

 

「スラスターオン」

 

 そんな言葉が聞こえたと思うと、孤月と『レイガスト』と呼ばれるトリガーを二刀流で扱う村上が俺に向かってシールド突撃(チャージ)

 一閃を放とうとしていた俺はそれを見て放つのは間に合わないと判断し、回避へ移行。そして、俺の横を通り過ぎるところをマンティスで合わせようとするが、俺の横を通り過ぎると思った瞬間、村上は弧月を地面に突き刺し、それを軸にして回転。俺の方に方向を変えると、レイガストを(ブレード)モードに変更し、俺の下半身を狙うべく身を掲げて横一閃。

 対して俺は村上が弧月を軸に回転している時点でグラスホッパーを起動。軽く横に飛んだ時に浮いた右足の着地点に配置すると、レイガストが振られる前にグラスホッパーに触れて跳躍。

 村上の頭上を飛び越えながら村上の頭を目掛けてマンティスを打つが、それと同時に村上が弧月を逆手に持って地面から引き抜くとその軌道のまま旋空を放つ。

 身をよじることで致命傷を避けるが、右手から飛び出したスコーピオンは音を立てて割れ、腰の辺りに斬傷が入る。

 俺はスコーピオンをしまうと再度グラスホッパーを使って、村上から大きく距離を取って、腰の傷に触れた。

 

「(マンティスを出した瞬間を狙われたな)」

 

 マンティスはその性質上、一度起動すれば他のトリガーを使うことは出来ない。つまり、俺がよく使うグラスホッパーによる回避やシールドが使えないタイミングを村上は見切ったということだ。

 先程までは通じていたであろう手だったのだが、それを綺麗に返されてしまったことで俺の警戒度が上がる。

 ただでさえ通常状態の(ブレード)モードと攻撃力を下げる代わりに耐久力を大幅に上げる(シールド)モードの二つのモードが存在するレイガストの防御力の高さから、少しやりにくくなっているというのに、単純なカウンターでは返さなくなっている。

 

「これが強化睡眠記憶ね」

 

 俺は視線の先十数メートルにいる村上を見て、小さく呟く。

 ランク戦を始めるにあたって、明かされた彼のサイドエフェクトは一度見た、体験したものを百パーセント記憶できるらしい。

 それでも先の七本を全て獲ることが出来たので正直拍子抜けだったが、恐らくその七本の間に第三者的に見た動きを一人称として見た時の動きに置き換えるのに時間が掛かっていたためだろう。

 

「丁寧に一閃の動きも潰してくれて、まぁ」

「まいったか?」

「いや、逆だ。燃えてきた」

 

 わざとらしく笑う村上に、俺は両手を垂らして戦闘態勢を取ると、頭の中でレイガストを避けて攻撃する方法を模索し始める。

 そして、こっそりと一閃の初動をとるが、それを見逃す村上ではなく、先ほどと同じくスラスターを用いて距離を詰められた。

 さっきと違うのは、俺が回避じゃなくて吹き飛ばされないよう踏ん張る態勢を取りながらスコーピオンで受けたところぐらいだ。

 

「バレたか」

「流石にな」

 

 舌を出しておどける俺と苦笑いを浮かべる村上はレイガストを挟んでそんな風に言葉を交わすと、そこからまた刃を打ち合い始めた。

 

 

 

 ♦︎ ♦︎ ♦︎

 

 

 

「なんか思ったより時間がかかってるな」

 

 村上と樹神の十本勝負をエントランスのソファに座りながら観戦していた荒船が、誰かに言うわけでもなくそう言葉をこぼす。

 だが、影浦戦と荒船戦を見ていた訓練生はその呟きを聞いて、どこがだろうと思う。たしかに、荒船や影浦との十本勝負と比べると長く感じるが、それはレイガストという盾があるから仕方ないことではないか、と。

 しかし、荒船の横でソファを大きく占領しながら見ていた影浦はその付き合いの長さから言いたいことを察して口を開いた。

 

「アイツらの対戦時間が俺と鋼の対戦時間よりなげぇのはアレだ。一葉の野郎、大きくマンティスを曲げるのに慣れてねぇんだ。遠距離攻撃としてマンティスを使ってた弊害だろーな。そのくせ、鋼の攻撃を捌ける腕と厄介なサイドエフェクトを持ってやがるから、どっちが獲ることもなく時間が伸びるっつー結果になってんだ」

 

 そんな影浦の説明を聞いた荒船は視線はモニターに固定したまま「なるほどな」と納得する。

 

「ただ、アレだな。一葉のサイドエフェクト、だいぶチートだな。たしか『超加速思考的反射』だっけか」

 

 荒船がため息混じりにそう言うと、影浦は個人ランク戦を始める前の会話を思い出す。

 樹神が説明した自らのサイドエフェクト『超加速思考的反射』について聞いた時は長い能力名だな、という感想を抱いたが、その内容を聞くと開いた口が塞がらない結果となった。

 『超加速思考的反射』は一応反射に分類されるらしいが、その反射現象が起きた時、樹神の世界は急激に遅くなる。まるで世界全てがスローモーションの映像として写るようになり、影浦達にとっての一瞬が樹神は十数秒に拡張される。その間に自分の視覚情報を整えることができ、そこからどうするか考えてから動くため、それが結果的に一瞬の出来事、つまり反射として機能するらしい。

 そして、それは見たことない動き以外にも、意識になかった現象や音にも該当するらしく、今は慣れたが小さい頃は気持ち悪い思いを何度もしたと言っていた。

 

「加えて、三年間の戦闘経験から得たトリオン体操作能力。並大抵の攻撃じゃかすりもしないっつってたな。まぁ、実際その通りだったわけだが……」

 

 荒船は先ほどの十本勝負を思い返す。

 もちろん荒船もマスターランクに至ってるだけあってスコーピオン使いとの戦闘は承知していた訳だったのだが、孤月の間合いよりも更に近い攻防故にやりにくさが凄まじく、気付いたら獲られていることが半分で、残り半分は距離を取ろうとする隙を突かれてマンティス、もしくは一閃でやられるといった展開だった。

 

「意識の外から攻撃するか、分かってても防げない所まで追い詰められれば負けるとか言ってたが、正直一葉が攻撃手相手に負け越す所が想像できねぇな。射手(シューター)、もしくは狙撃手(スナイパー)じゃねぇと獲れねぇんじゃねぇか」

「俺が獲る」

 

 荒船の弱気な発言に対して、影浦がいつもより明瞭な声でそう言うと、荒船は横目に影浦を見て笑みを浮かべる。

 

『トリオン供給機関破壊。村上緊急脱出(ベイルアウト)。8ー0、樹神リード』

 

 その時、聞き慣れた女性の声を模した機械音がエントランスにロビーに響いた。

 村上の胸には歪曲の一切がないスコーピオンが突き刺さっており、それを防ごうとしていた()()()()()()()()()()()()()()()()

 瞬間、村上の姿が光と化して、空に打ち上がった。

 

「まじか。レイガストで防げないのはさっき見たが、集中シールドを重ねても無理なのか」

 

 驚愕を通り越して呆れになったのか、荒船は苦笑いを浮かべていると、影浦が頭を掻きながらため息を一つ。

 

「マンティスっつのは腕の振りに乗せて推進力を加えんだが、結構余計な力、遠心力とかに引っ張られる。俺も最初は変に曲げ過ぎたり、思ったように伸ばせねぇこともあった。それを、アイツは全体重と腕の振りによる推進力全部を一点に乗せてる上、マンティスの先に結構なトリオンを込めてやがる。結果、受け流すのも軌道をそらすこともできねぇほど速く、重い。ぶっちゃけ神業だぜ、あれ」

「ん〜、言われてもパッとしねぇが、カゲがそこまで言うならそうなんだろうな。デメリットも溜めが少し長いのと放つ前が分かりやすいことぐらいしかねぇし、生駒さんの旋空に並ぶ神業なのか?」

 

 そんな風に思案しながら影浦に向けていた視線をモニターを戻すと、ちょうど樹神が九本目を獲った瞬間であった。

 今度は一閃ではなく、単純な攻防の末の決着だったようで、村上の右腕は切断されており、上半身を斜めに切り裂かれた形で緊急脱出(ベイルアウト)していった。

 だが、樹神も右足の太ももと左肩からトリオンが漏れており、、そして首には深さ一センチほどの傷が出来ていた。

 

「お、鋼の奴、結構良いとこまで行ったんだな」

「いや、鋼が最後の方欲張りやがった。首の傷は一葉が鋼を釣った結果の代物だ」

 

 少し目を離して隙に起こった決着であったため、荒船は最後の方を見てそう感想をこぼしたが、会話を交えつつもスクリーンから目を離していなかった影浦がそれを否定する。

 荒船はそんな影浦の言葉に素面でいるが、内心では驚いていた。それは戦いの内容を読んだことではなく、それとは別のことだ。

 

「(そういやカゲの奴、一度もスクリーンから目を離してねぇな。ここまで集中して観戦、いや、分析すんのは初めてだな)」

 

 そうしてる内に始まるラスト十本目。

 これまでの対戦から後手に回ると不利と判断したのか、樹神がガンガンに攻め始め、村上もまた、それに対してレイガストを駆使して防ぎつつ、度々孤月を振るっていた。

 影浦はその一挙一動を見逃さまいとより集中して分析。

 荒船はそんな影浦を横目に、いつのまにか集まっていた観客(ギャラリー)に目を配る。もちろん、訓練生の姿の方が多いが、それでも見知った顔が何人かいる。

 ただでさえ天才中学生黒江や攻撃手の中でも最上位に位置する影浦を全勝(ストレート)で下したことで噂になっていたのに、これで一層注目されることになるな。

 そんな風に荒船が考えていると、ふと最前列の方で異色を放つ二人の男女が目に入った。

 少し遠目だったため、少し人物の把握に時間がかかったが、少し注目して見てみるとその二人が誰なのか直ぐに理解できた。

 故に、荒船はこれから起こるであろう出来事が簡単に予測することができ、嫌そうに顔を歪めて「げっ!」と呟いた。

 

 影浦がそんな荒船の様子に気づくことはなく、鋭い目つきを更に鋭くさせ、スクリーンを見ていた。

 

 

 

 ♦︎ ♦︎ ♦︎

 

 

 

『伝達系切断。村上緊急脱出(ベイルアウト)。十本勝負終了。勝者、樹神一葉』

 

 村上の姿が消えると同時、本日三度目となる勝者を呼ぶ機械音が耳に届いた。

 次の瞬間には俺も光に包まれ、ブースの方に転移。大きく息を吐いてベッドに座り込んだ。

 

「あの盾、めちゃくちゃ疲れるな。正面から落とすには邪魔過ぎるし、機動力も高い。また新しい課題だな」

 

 俺は大きく伸びをしながらそう言うと、次いでベッドに横たわる。

 一応トリオン体に生身のような身体的疲労はないが、精神は違う。神経を擦り減らすような戦いを連続で行えば頭も疲れるし、それが身体の違和感として残る。

 故に俺はそのまま数秒目を閉じたまま寝転がっていたのだが、ふとブース内に声が響いた。

 

「あら、大丈夫?」

「ん?」

 

 聞いたこともない声、それでいて女性の声だった。

 急に話しかけられたことに加え、ここは俺一人しかいないはずのブースということもあり、俺は反射的に声の発生源へと目を向けた。

 ストレートのロングヘアーに口元にある黒子が特徴的な長身の女性であった。高校の同級生がボーダーの女子はレベル高いと話していたところを小耳に挟んだことはあるが、この人は全くの別。モデルなんじゃないかと思うほどの美形であった。

 まぁ、それで見惚れることはなく、自分でも良く分からないが逆に警戒心が芽生えた。

 

「……どなたでしょうか?」

 

 自分でも声が少し固いことが分かった。

 しかし、目の前の女性は特に気にした様子はなく、こちらを見据えて口を開いた。

 

「私は加古望。A級六位部隊の隊長よ。よろしくね」

「弓手町支部所属、樹神一葉です」

 

 一応名を教えてもらった後のマナーとして、加古望と名乗った女性に自らの名を返す。

 それに対して、加古は笑みを深くした。

 

「知ってるわ。双葉がお世話になったのだもの」

「……双葉?」

 

 一瞬妹の二葉のことかと思ったが、直ぐ様頭の中でその可能性を棄却。同名の別人として該当する者を記憶の中で探す。

 そうして三秒ほど。おそらくボーダーの関係者であり、名前からして女性という情報から、一人だけ候補が出てきた。

 

「もしかして、背中に弧月を差している女子中学生のことか?」

「そうよ。彼女の名前は黒江双葉。私の部隊(チーム)のメンバーなの」

 

 加古がどこか満足のいった表情で頷くと、次いで両目を細めて此方を見据えた。

 その視線から何か嫌な予感がした俺は、相手が何をしてきても対応できるように加古の動きに集中する。

 そんな俺の警戒に対して、加古はブースの入り口から俺の目の前まで歩み寄ると、右手を持ち上げて自身の目の前に差し出して言った。

 

「単刀直入に言うわ。私たちの部隊(チーム)に入らない?」

「……は?」

 

 自分が勧誘されていることに遅れて気付いた俺は、少し呆気にとられながらも、小さくそう呟いた。

 

「私たちのチームはね、隊員のイニシャルをKで揃えてるの。それでいて才能がある子を誘おうと思ってたんだけど、思いの外そういう子に出会わないのよね。でも先週貴方のことを黒江から聞いて、今日貴方の試合を見てビビって来たわ。どう? ウチに入らない?」

 

 俺の反応をそっちのけでグイグイ来る彼女に、俺は口を挟めなかった。

 そんな中、どうにか発言しようと口を開いた瞬間だった。

 

「抜け駆けとは、相変わらず狡猾な女だな」

 

 そう言葉を放ちながら、新たな人物が入室してきた。

 上下黒のスーツを着こなし、ポケットに両手を突っ込んで歩み寄ってくる男性。その表情は見るからに不機嫌で、加古を罵りながらも視線を此方に向けていた。

 それに対して加古はその男の方に振り返り、挑発的な笑みを浮かべた。

 

「あら、抜け駆けなんて人聞きの悪い。私は貴方と違って行動が早いだけよ。自分の行動の遅さを人のせいにするのは止めた方がいいわよ、二宮くん」

「声をかけるべきタイミングを弁えているだけだ。試合終わりの休息を邪魔するような自分本位な行動をとる誰かと違って、な」

 

 あぁ、この人ら仲が悪いんだな。

 明らかに棘のある言葉を交わし合う二人を見てそう思う。

 正直目の前でやらないでくれと思うが、どうやら二人の目的が俺のようなので、仕方ないようにも思える。

 それに、この二人も目的を忘れていがみ合い続けることもないだろうと考え、無言で二人の睨み合いが終わるのを待つ。

 すると、男性の方が仕方ないような仕草で加古から視線を外すと、俺を見て口を開いた。

 

「二宮匡貴だ」

「弓手町支部所属の樹神一葉です」

 

 簡潔な自己紹介に内心で苦笑いを浮かべながら、俺も自らの名を返す。

 二宮はそれに対して、リアクションも表情の変化もないまま三歩ほど前進して俺の目の前に立つと、悠然とした立ち姿で言い放った。

 

「十本付き合え。実力を見る」

 

 ──年上とはいえ、ここまで高圧的な物言いって凄いな。

 

 俺は無表情に見下す二宮に、そんな感想を抱いた。

 




お読みいただき、ありがとうございましたっ!
着々と原作キャラが登場している中、女性キャラとの絡みが少ないかと思っている方々、もう少しだけお待ちください!
そろそろ出ますので!

と、いうことで次回の更新は2月14日3時0分です(絶対)。
(すいません、私の不手際で以前の更新日より遅れています。楽しみに待っていた皆様、誠に申し訳ありません)
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