Another Trigger 〜弓手町支部所属の攻撃手〜   作:匿名中

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とりあえず、一言言わせてください。

お待たせして、本当に申し訳ありませんでした!




第八話 樹神一葉⑧

 加古の入隊の誘いを丁重に断り、影浦に玉狛へ行く旨を伝えた俺は今、ボーダーが所有する六つの支部の一つ、玉狛支部の前に来ていた。

 俺が所属する弓手町支部と違って住民への窓口業務を行なっていないためか辺りに人の気配はなく、また建物が河川の上に建造されているせいか、ポツンと佇む姿に少し寂しげな雰囲気が醸し出されている。

 俺は荒船からもらった玉狛支部への地図とその建物の写真を見て、ここが目的地と判ると、玉狛支部の玄関に続く橋を渡り始めた。

 その際、荒船らから聞いた玉狛の情報を思い返しながら、玉狛支部を見てみた。

 

「鋼が所属する鈴鳴支部と同じく、部隊を持つ支部。しかもA級部隊。しかし、所属人数は少なく、加えて本部とはレギュレーションが違うトリガーを扱っている。本部の一部の上層部と仲が悪い、か。なんでアイツはここに入ったんだろうな」

 

 弓手町支部より少し小ぶりであるものの支部としては十分な規模を持つその建物に、俺はそんな疑問を抱く。

 そして、辿り着いた玉狛支部の玄関。俺はインターホンを一度押して扉が開くのを待つと、数秒後、ギィと音を立てて扉が開いた。

 

「客か?」

 

 その声は思っていたよりも下から聞こえた。

 ゆっくり視線を下げてみると、扉を開けて顔をのぞかせていたのは明らか年が十にも至っていないような子供であった。

 想定外な人物の登場に、一瞬声が詰まる俺。

 しかし、すぐに平静を取り戻すと、一つ咳払いをしてから口を開いた。

 

「弓手町支部所属の樹神一葉だ。要件は…」

「む、なるほど、おまえがうわさの……。いや、それいじょーは言わなくていい。らいほーのもくてきはわかっている」

 

 右手の平を掲げ、どこか気取りながら俺の言葉途中にそう言い挟むと、入れと言わんばかりに扉を大きく開ける子供。

 お言葉に甘えて玄関の扉をくぐると、広いスペースに出た。吹き抜けであるため天井が高く、非常に開放感がある空間に、俺は少し感嘆の声を漏らす。

 それに対して満足そうに頷いた子供は、次いで俺を部屋の中心に据えられたソファに案内すると、座って待つように指示。その後、奥の方に走っていった。

 特にどうすることも出来ないので素直に座って待っていると、奥の方から何やら騒がしい声が聞こえてきた。

 バタバタという走る音に加え、「ちょ、何なの!?」という女の声と「はやく」と急かす先ほどの子供の声。

 そして現れた子供と一人の少女。

 腰まで伸ばした茶色の長髪に、整った顔体、お嬢様学校と呼ばれる星輪女学院の制服を着こなしている。そして、無理やり連れてこられたのか右手を子供に握られており、引っ張られてやってきた彼女は俺の姿を見ると若干訝しげに表情を歪める。

 俺の方も同様に、別に望んでもいない人物を連れてこられたことにより困惑の表情を浮かべる。

 そんな俺たちの様子に気づく様子もない少年は俺の方を向いてドンと胸を張ると、嬉しそうな声色で言った。

 

「さぁ、ぞんぶんにたたかうのだ」

 

 状況の理解が追いつかず、首を傾げる俺とそんな俺を見て混乱する少女。

 数秒視線を合わせていた後、俺はポツリと呟いた。

 

「誰だ?」

「……こっちのセリフよっ!」

 

 俺の疑問に対して、叫ぶような彼女の声が響いた。

 

 

 

 ♦︎ ♦︎ ♦︎

 

 

 

 防衛任務があったために家に帰れず玉狛支部に泊まった後日、私こと小南桐絵は支部内に設えられた自室で試験勉強に取り組んでいた。

 他の防衛隊員のようにボーダーと提携している高校であるならば、試験の点数が低かろうが融通を利かせてくれるが、私が通学しているのはボーダーと提携していない女子校の星輪女学院であるため、赤点の一つでも取るものなら容赦なく補習だ。

 まぁ、そのおかげでボーダーに所属している者も少ないため、私が戦闘員ではなく一オペレーターとして偽っていられるため助かってはいる。

 私も花を恥じらう女子高校生。戦闘員、しかも攻撃手三位なんて固い肩書きを知られたくはない。

 

 話を戻そう。

 昼食を終え、再度勉強のため部屋に籠っていると、陽太郎がノックもなしに部屋に侵入してきて、私の手を取ってエントランスへ走り始めた。

 特に要件を言うのでもなく、ただ「はやくはやく」と急かすように繰り返す。勉強の疲れもあってか、陽太郎に引っ張られるがままに連れられると、客人と対面。直ぐにボーダー関係の人間だと分かった。

 本部のような一律した隊服ではなく、玉狛のように支部ならではのデザイン。よく見ると、襟元に弓手町支部のエンブレムが設えており、その姿から直感的に只者ではない雰囲気を感じ取った。

 しかし、当の本人は陽太郎に連れてこられた私を見て、首を傾げる。

 正直、ここまでの流れからこの客人が私を呼んだのではないかと予想していたため、その反応で少し混乱してしまった。

 そうして、数秒ほど経った時だろうか。

 ふと口を開いた客人の疑問に、私は無意識的に大きな声で返してしまったのだった。

 

 

 

 

「そうか、要件は分かった。こちらの不手際で混乱させてしまい、申し訳ない」

「いえ、こちらこそ支部の人間とはいえ、お子さんの許可で勝手に支部に上がってしまい申し訳ありませんでした」

 

 私の大声から騒ぎを聞きつけた我らが隊長、木崎レイジがあらかた客人である樹神一葉から要件を聞き取り、その後頭を下げると、樹神の方も謝罪を口にして頭を下げた。

 今回の騒ぎの原因たる陽太郎は私の隣で頭に浮かんだタンコブを涙目で撫でていた。

 ブったのは一体誰かって? 私よ。

 

「しかし、貴方が噂の樹神一葉だったのね。樹神先輩って呼べばいい?」

「先輩呼びでも呼び捨てでもいい。ところで、噂ってのは?」

 

 さっきのこともあって、少し高慢に言い放った言葉であったが、樹神は表情一つ変えず、視線をレイジさんから私に移して質問を返してきた。

 それに対して私は少し気圧されるが、直ぐに持ち直すと腕を組んで口を開いた。

 

「そうね。本部の方では突然現れた実力者。期待の新人と呼ばれていたA級の黒江ちゃん、粗暴ながらも実力は全攻撃手の中で指折りの影浦先輩を全勝で打ち破った台風の目、といったところよ。けど、私やレイジさんが聞いた話は別」

「?」

 

 少しもったいぶるようにそこまで話すと、続けてからかうような笑みを浮かべて言った。

 

「右も左も分からなかった自分を導き、守ってくれた頼りになる先輩。バイトをし始めたせいか、学力が落ちてきてしまった時に時間を割いて勉強を見てくれた先輩。差し入れと称して自分の家族宛にクッキーやケーキを作ってくれた先輩。オススメのバイト先の紹介や、進路やバイトの掛け持ちの相談を受けてくれた先輩。一葉さんがいたから今の俺がある。こんな風に、無表情ながら揚々と語ってたわよ」

「……顔から火が吹きそうなんだが。ほんとにそれ、アイツが言ってたのか?」

「事実だ。あそこまで語るのは、半年と少しの付き合いのある俺でも初めてだ」

 

 頰を僅かに赤らめ、少し恥ずかしそうにしながら眉をひそめる樹神に、レイジさんは珍しく微笑をもって答えた。

 すると、観念したのか樹神は表情を緩めると右手を上げ、人差し指で頰を掻いた。

 

「とりあえず、帰ってくるのは六時以降になる。それまでゆっくりしていってくれ」

 

 レイジさんはそう言うと、次いでソファから立ち上がり、恐らく夜と朝にあった防衛任務の報告書を書くために自室に戻ろうとするが、ふと立ち止まって振り返った。

 

「積もる話もあるだろう。夕食、食べて帰るか?」

 

 今日の夕食当番であるレイジさんは短くそうたずねると、樹神は小さく首を振る。

 

「いえ、家族が待ってますので、七時にはお暇させていただきます。お気遣い、ありがとうございます」

 

 軽く頭を下げてそう言った樹神に対して、レイジさんは「そうか」とだけ言い放って視線を前に戻すと、歩を進め始めた。

 一見ぶっきらぼうな対応に見えるが、長年の付き合いの私には分かる。あれは丁寧な態度を取る樹神を気に入った様子で、夕食の同伴を断られて残念がってるレイジさんだ。

 そんな風に思っていると、レイジさんの姿が廊下の奥に消えていき、今この部屋に残ったのは私と樹神、陽太郎の三人。

 少し気まずい雰囲気を感じると同時、別の人物がレイジさんと入れ替わる形で姿を現した。

 

「およ? お客さん?」

 

 書類の山をダンボールに入れて抱える眼鏡を掛けた長髪の少女。なにを隠そう、レイジさんを隊長とする部隊、玉狛第一のオペレーターを務める才女、宇佐美栞である。

 挨拶を述べる樹神に対して、彼女はダンボールを抱えたまま此方に向かってくる。その際、書類ではあり得ないガチャガチャと物が振られるような音がダンボールから聞こえてきた。

 それに対して、私は呆れた表情を浮かべる。

 

「また改造トリオン兵作ってたの? 来週テストなのに、勉強しなくて大丈夫なの?」

 

 同じ高校に通う身として、いつ勉強しているのか分からない宇佐美に心配の声をかける。

 すると、彼女はダンボールを下に置くと得意げな表情を浮かべて不敵に笑った。

 

「ご心配ご無用、ちゃんとやるときはやってるよ。ところで、そこの眼鏡の似合いそうな男性は、どちら様?」

「弓手町支部所属、樹神一葉だ」

 

 樹神がそう名乗った瞬間、宇佐美の眼鏡がキラリと光った気がした。

 

「ほうほう。貴方が噂の樹神さんでしたか。私は宇佐美栞、玉狛第一のオペレーターを務めています」

「へぇ、君がボーダー最強部隊のオペレーターなのか。さぞ優秀なんだろうな」

「いやいや〜、それほどでも〜」

 

 樹神の言葉に嬉しそうに謙遜する宇佐美。

 だが、それよりも私は樹神の言った一言に反応した。

 

「あら、ちゃんと太刀川の隊よりも私達の方が強いのを知ってるのね。分かってるじゃない」

 

 フフンと満足気に笑うと、彼は少し困惑の表情を浮かべて言った。

 

「その太刀川って人は知らないが、ここに来るに当たって、荒船や鋼に聞いてたからな。部隊としてボーダー最強はおそらく玉狛だと」

「……へぇ」

 

 部隊として、ね。

 私は少し物言いたげな気分になるが、一応初対面で先輩の相手だ。変に突っかかるべきではないだろうと判断して、腕を組む。

 そうしていると、宇佐美が口を開いた。

 

「そういえば、樹神さんはどうしてここに? 普通に会いに来ただけ?」

 

 誰に、とはわざわざ言わない。

 私達玉狛の人間ならば、樹神がここに来る目的は第一に彼に会いに来たのだろうと予測できる。

 現に樹神自身がそうだと肯定したところだし。

 だが、彼はふと思い出したかのように「あ」と声を溢した。

 

「そういえば、少し聞きたいことがある。ここに来る前、二宮さんに経験のため玉狛へ行くよう言われたんだが、何かここにあるのか?」

 

 二宮という名前に、私と宇佐美は一瞬言葉に詰まった。

 

「えっと、二宮さんがわざわざ玉狛に?」

「そうだ」

「ちょ、ちょっと待った!」

 

 少し困惑気味に宇佐美が樹神にもう一度確認する。

 しかし、それよりも私は自らの疑問をぶつけるべく言葉を荒げた。

 

「あ、あんた、二宮さんと面識があったの?」

「いや、会ったのは今日初めてだが、それがどうしたんだ?」

「………もしかして、二宮さんとランク戦したの?」

「したぞ?」

「け、結果は!?」

「一応、五勝四敗一分けで俺の勝ちだったが、正直次は勝てる気がしない。だから────」

 

 樹神が続けているが、私は彼が二宮さんに勝ったという事実に心底驚愕していた。

 二宮さんと戦ったことは片手で数えるほどだが、それでも彼の強さは身に染みている。本来ならサポートが主目的な射手(シューター)がエースとしての役割を果たすためか、攻撃手(アタッカー)との戦い方を心得ている上に弾幕が他の奴らと比ではない。

 自分でまとめるのも癪だが、恐らく二宮さんよりも歴の長い私がランク戦をした場合の戦績も、よくて引き分けだろう。

 

「(そんな二宮さんに、初見で勝った?)」

 

 心の中でもう一度その事実を確認すると、私は自尊心なのか好奇心なのか、はたまた闘争心からなのか分からないが、樹神との模擬戦を望んでいる自分に気付いた。

 ふと時計を見ると、現在は五時頃。

 六時まで一時間はある。

 視線を樹神に戻し、いざ試合の申し込みをしようと瞬間だった。

 

「たぶん、小南じゃないかな?」

「へ?」

 

 不意に呼ばれたことで間抜けた声がこぼれた。

 自身の名を呼んだ宇佐美と樹神は特に変わった様子はないまま此方を見ていた。

 どうやら、考え事をしていたために話を聞き逃していたようだ。

 

「玉狛は各隊員に本部とはレギュレーションが違うトリガーを一つ持っているんだけど、加えて小南は攻撃手(アタッカー)三位で、ボーダー設立当初からいる古参。たぶん、同じ攻撃手(アタッカー)として、レイジさん達よりかは得るものはあると思う」

「なるほど」

 

 宇佐美の言い分を黙って聞いていた樹神は、納得の言葉とともに立ち上がり、私に向き直ると言った。

 

「頼めるか?」

 

 話の流れを捉え損ね、少し困惑していた私は何を頼んできているのか分からず、すぐに答えることが出来ない。

 しかし、樹神が急かすのではなくしっかり答えを待ってくれたため、徐々に話を理解。彼の頼みが何か分かった途端、思わず口角がつり上がった。

 

「いいわよ、ボコボコにしてあげる!」

 

 年上相手とは思えないそんな言葉にも、樹神は微笑を浮かべて感謝を述べたのだった。

 

 




 短いですが、読んでいただきありがとうございました。

 今まで何をしていたのか、といった疑問があると思いますが、ここまで遅れてしまった言い訳をさせてください。
 新学期による学校の活動が思いの外忙しく、バイトや課題などで時間が取れませんでした。
 前話で予定していた日時から大幅に遅れてしまい、本当に申し訳ありませんでした。
 ようやく新たに始めたバイト、研究室、時間割などにも慣れ始め、小説を書く時間を見つけることが出来ましたので、今日この日から新たに再開しようと思います。
 しかし、春休みの期間ほど執筆に時間が裂けませんので、これから
は不定期更新とさせていただきますことをご了承ください。
 だいたい一ヶ月で一話を目標に、更新の目処が立ちましたら最新話の後書きに更新日を書く形としようと思います。

 改めて、この度は投稿が三ヶ月も遅れてしまい、誠に申し訳ありませんでした。
 これからも当作品をよろしくお願いします。


《6月19日追記》
次回の更新は7月1日0時0分になります。
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