アタシはシエル・ファナフロスト。
最近、ここミッドチルダに引っ越してきた15歳。
引っ越しの片付けも終わり,父と母は早くも出勤を開始……しかし、アタシが通う学校は現在春休み中。入学式までまだまだ数日ほど、その間やりたいことも予定も何もない。アタシは、今日と言う1日を完全に持て余していた。
昨日は、というか一昨日と3日前も1日本を読んで過ごした。今日もそれで……と思ったけど、流石に精神的に限界。部屋に閉じこもったままで、体も鈍るとアレだし。
「あーあ、なんかやること無いものかしらねー……よっと」
1人、ダイエットボールの上で本を読みつつ呟く。落ちそうになったのをバランスを取って、ついでに近くに置いてあった雑誌を手に取る────
『ピンポーン』
「ん?」
────そんな時、玄関のチャイムが鳴った。
「はいはーい、今出まーす」
服装を確認……ジーンズにシャツ、人さまの前に出てもいい服装であることを確認して扉に向かう。
「すみませーん、お待たせしました」
「あっ、シエルちゃん。こんにちは」
「って、なのはさん?」
すると、お隣さんにしてかの有名な『エースオブエース』。高町なのはさんが、自宅に訪問して来ていた。
「え、えーっと……オハヨウゴザイマス?」
「ふふっ。うん、お早う」
突然の出来事に混乱気味の頭。
元より、戦闘を介さないコミュニケーションと言う物を最近してなかった事、そして目の前の人物が管理局員……最近まで天敵だった相手であること。以上の理由で回らない頭をフル活動し、とりあえず挨拶の言葉だけ口にする。
なのはさんは、アタシの反応を楽しそうに笑ってからこう言った。
「シエルちゃん、格闘技って興味ない?」
「え?
えーっと。どうしたんです、唐突に」
「あ、うん。
実はヴィヴィオ……私の娘がストライクアーツっていう格闘技を習ってるんだけど。今日は久々に休みが取れたから、応援しに行こうかなーって思って。ちょうど昨日、それを考えて……その時に陸尉に合って」
「父に?」
「うん。
それでヴィヴィオのこと話したら、シエルちゃんが陸尉から体術とか習ったって聞いて。それで一緒に行って、見たり一緒にやったりできないかなぁって思ったんだ。せっかくお隣同士なのに、私もヴィヴィオも仲良くできないのは勿体ないでしょ?」
「なるほど、今日はそのお誘いでウチに」
曰く『まずは同じ趣味の友達から始めましょう』、と。
ご近所づきあいをここまで大切にするとは、最近の若い人(アタシも若い人だけど)にしては社交的ねー、なのはさん。
「……」
(にしても、格闘技か……)
興味は無くはない。ただ、好きでもない。
ただ、小学校の低学年くらいに、お父さんに護身用だとかで教わって……喧嘩に使ってから教えてくれなくなって、それっきりだし。やるのも、喧嘩とかで手段として『使う』のは嫌いじゃないんだけど……格闘技そのものとなるとねぇ。
断ってしまおうか、と一瞬考えた……けど。
「本当は昨日のうちに連絡したかったんだけど、家帰ったのがちょっと遅くて────」
まるで兎のような目でこっちを見て来るなのはさん……声もどこか甘えたような、ふんわりとした感じで……。
「────どうかな、だめかな?」
ヴィヴィオちゃん、あの子をそのまま大きくしたみたいでなんか可愛いかった。
嫌な感じはしなかったし、そもそも今日の予定は無い。ついでに、1日中ゴロゴロする生活もそろそろ嫌になったたことだし。
「そうですね、それじゃご一緒させてください」
「本当!?
ありがとう、それじゃ早速……あ、荷物とかは大体車に積んであるからシエルちゃんは体1つでオッケーだからね! ささ、乗って乗って!」
「はい……それじゃ、少し待っててください。カギ取って来るので」
「うん、それじゃ先に車乗ってるねー!」
そんな俗的なそろばんを引いた結論をアタシが答えると、それだけで嬉しそうに家に止めてあった車に向かうなのはさん。
「変な人……」
アタシは、そんななのはさんに聞こえないように小さく呟いた。
特別渋滞したりすることなく、家から車で約数分。
「へぇ、ここが……」
アタシとなのはさんは近くの体育館に来ていた。
「おっ,ソイツがヴィヴィオが言ってた隣人か」
「あ,初めまして……」
到着早々、赤い髪の女性のご登場。
「おう,シエル・ファナフロスト。初めましてだ,ヴィヴィオから……あと、グラリックさん達から色々聞いてるぜ?」
「あ,そうなんですか」
(っていうか知り合いなんだ……まぁ、なのはさんの知り合いっぽいしあり得るか)
「ああ……色々と。格闘技ができるとか、色々ヤンチャしてるとか、な」
ニヨニヨと悪戯っぽい感じに笑いながら(お父さん達、何話したのよ),じっとこっちを見てくる赤い髪の女性。
んー、見られるのは……過去の関係であんま好きじゃないんだけど。
「なんですか、なんかついてます?」
「……っと悪い、聞いてた通りだったからついな。
それと自己紹介が遅れた、アタシはノーヴェ。ノーヴェ・ナカジマ。救助隊に所属してる。よろしくな,シエル……でいいか?」
「はい、ノーヴェさん」
(む、一人称被った……)
喋り方とかキャラとか色々気にして、混合しないように気をつけねば。
……。
……誰がどう混合するんだろう?
「……それで、そっちの子は?」
なんかSAN値が減る様な、気づいちゃいけない事に気づいた気がした。
ので、なるべく気にしないようにして隣に居るツインテールの女の子を見る(っていうか,この子も可愛い)。
「あ,私はコロナ・ティミル……ヴィヴィオのクラスメートです」
「ん、えっと……コロナちゃん、でいい? よろしく」
「はい,シエルさん!」
ペコリとお辞儀をするコロナちゃん。
その後に見せた笑顔も裏がない、穢れのない……こっちに来て初めて見た、世界や心の闇を知らない、普通の一般人の目。うん、いい子。
「……」
(……ん?)
……。
……始めて?
「……」
(つまり、なのはさんはともかくヴィヴィオちゃんも何かしらアレなのか)
「さーて、自己紹介はこんなもんかね。んじゃ練習始めるか……なのはさん、ってことで適当に見ててください。ヴィヴィオにコロナ、今日は特別ゲスト2人だ。腑抜けた動きすんじゃねぇぞー!」
「「はーい!」」
「……」
(……ま、いいか)
まぁ、人にはいろいろある物。
練習始まるみたいだし、気にしないでおこう。
「シエル、アイツ等の動き見て腰ぬかすなよ?」
「ははは、それじゃ期待させてもらいます……」
そう言って、ストレッチをしている2人を見る。
ヴィヴィオちゃんにコロナちゃん。まだまだ小柄で、見た目じゃストライクアーツみたいなガッチガチの格闘技なんてできなさそうな体系だけど……。
「んじゃ、スタートだ!」
「「……!!」」
「……。……へぇ」
うん、悪くないわね。
正直言って、今日はただのご近所づきあいの予定だった。けど、2人の動きは……特にヴィヴィオちゃんの動きは、アタシの想像を超えていた。
「たぁっ! ぁあっ!!」
コロナちゃんは普通に上手い。
ノーヴェさんが教え上手なのか練習するのが、努力が得意なタイプなのか……ちょっと不良ぶった中学生くらいなら返り討ちに出来そう。
相手がイワン────無駄にゴチャゴチャした、アホみたいに派手な攻撃が好きな実況(仮)。一応チームのナンバー3だった────くらいでも、いい感じにやり合うくらいはイケるんじゃない?
「……!」
そしてヴィヴィオちゃん……こっちは、正直小学生のレベルじゃない。
パワーは無い、体格も小柄。けど、動きが速く鋭い。そして、なにより目に力がある。今ヴィヴィオちゃんの目の前にあるのはサンドバック……けど、ヴィヴィオちゃんはそうじゃない架空の相手と戦ってる……。
「いやいや、これは……予想外過ぎ?」
今まで、何度も喧嘩した……遊びじゃない、マジな喧嘩もした。
他のチームというか不良集団が喧嘩売ってきて、人を殴って殴られて。何度も攻撃を避けたり吹っ飛ばされたりした。時には、相手が大人数で襲い掛かって来る時もあった。
おかげで動体視力やら反射神経、そして戦闘経験には自信がある。
「……! ……!!」
「……」
(なんであんな可愛い子が顔パンメインのえげつないコース殴ってるのよ……)
そんなアタシは、理解できる。
あの子が彼女と同じくらいの身長の相手を殴っていると仮定した場合、ヴィヴィオの拳は顔面・もしくは鳩尾など食らうとヤバイか痛い場所に集中している。サイズと年齢から威力がお察しな分、落とせる場所に当てる感じか。
ヴィヴィオちゃん、イイ感じねぇ……。
「……シエルちゃん、それなりに修羅場潜ってたりする?」
「へ?」
「いや、なんか目がね。
グラリックさんとか、私たちとか……そういう、『見る必要がある』人達の目だなって」
と、不思議そうに見て来るなのはさん。
アタシは、若干苦笑いで答える。
……まぁ、それなりに懐かしい思い出だ……。
「あ、そうでした?
……父親から聞いてるでしょう、一時期は喧嘩しっぱでしたからね……単純に強いのとか────」
確か、別の不良チームのリーダーだったかナンバーツーだったか……インフィニティ・バレットをフットワークだけで躱して、なおかつトンデモなスピードで接近してきたときはビビったわね。確かアレ、勝ったと言えるのかわからないギリギリな勝負だったはず。
いやぁ、あれはヒヤヒヤした。
そうそう、ヒヤヒヤしたといえば……。
「────まぁ、あと普通にヤバいのもいましたね。
一回、マフィアとガチ目の抗争しましたし。あの時は、知り合いのチームに頼み込んだりとか敵対チームに頭下げたりとかして人数揃えて……何とか講和まで持ってったんですが。まぁ、結構大変でした」
「シエルちゃん……」
アタシの発言に、管理局員であるなのはさんがジト目で見て来る。
んー、この表情。そういえば、あの時もお父さんにもこんな顔で『
「……あ」
(コロナちゃんのちょっとスピードが落ちて来たわね……)
「はぁ,はぁ……!!!」
まぁ、その負の積み重ねで今のアタシがあるわけだけど。
練習開始から十数分、コロナちゃんの動きが鈍って来た……かな、たぶん。
「うし、んじゃスパーリングするかぁ!
まずはヴィヴィオから……相手はアタシとだ。コロナ、悪いがシエルと見ててくれ」
その辺りで、ノーヴェさんが一回練習を止める。
コロナを休ませ、ジャージから短パンとタンクトップに。そしてその場でシャドーを始めた……すると。
「おっ、ヴィヴォちゃんとノーヴェのスパーか」
「ラッキー、アレちょーカッケエーんだよなー……速すぎて見えないけど」
「ふふん、修行不足ねー……私含めて」
ザワザワ……ザワザワ……。
人が集まって来た……っていうか、見えないのにカッコいい云々あるのだろうか?
「2人、なんか凄い目立ってますね」
「ノーヴェさんもヴィヴィオも、ここの体育館じゃ結構有名なんですよ」
「ヴィヴィオは目がいいからね。ノーヴェは言わずもがな、救助隊で頑張ってるみたいだし」
「へぇ……」
ヴィヴィオとノーヴェさんのスパーリング……サンドバックの時点で解ってたけど、ヴィヴィオはやっぱりカウンターだった。
ノーヴェさんが攻撃すると、ヴィヴィオちゃんは避けてすぐさま急所へ攻撃を入れる。ノーヴェさんはそれを防御し蹴りを入れる。ヴィヴィオちゃんはそれをガード……練習だし、手は抜かないにしても6~70%くらいの動きだろうに、それでこの動きというから末恐ろしい。
ヴィヴィオちゃんと殴り合ったら負けるんじゃないか……それくらい思った。
「……」
(ん、ちょっとヤバイかも……)
楽しそうに拳を重ねる2人。そんな2人を見ていると、心がうずいてくる。
ここが、格闘技用の体育館で……公共の施設で良かった。誰でもいいから戦って、というか襲ってしまいたくなってきた。周囲の目っていうものが無かったら、ここが人気のない路地裏とかだったら、この衝動を抑えられなかったと思う。
「……シエルちゃん?」
「大丈夫です、流石にエース様の前で変な事はしませんって」
そもそも、隣にお巡りさんいるし。
……結局その日、練習後になのはさんが作ったお弁当を食べて解散になった。
「それじゃ、また暇があったら来てねー!」
「はーい」
そして、アタシは。
「おい、アマぁ!
肩ぶつけといて『すいません』の1言無しか、あぁ!?」
「……なに、アンタ?
ぶつかって来たのはそっちでしょ? 謝るならソッチで……いや、やっぱりいいわ。アンタウザそうだし。『すいません』……それじゃ」
「あぁ!?
テメェ舐めてんのか!? ふざけんな、来い!!」
「……」
送っていくと言ってくれたなのはさんには悪いけど、別行動。
「何、こんな人気のないところまで連れてきて……アタシに、何かするつもり? 『ナニ』でもするつもり?」
「はっ、誰がテメェみてぇな胸のねぇ女相手にするかよ! おい、お前ら!!」
「「「……」」」
街の路地裏、10人くらいの男の人とイケナイ遊び中。
「ボッコボコにして、服でも剥いで記念撮影してやるよ!」
「あ、兄貴。俺貰っても……?」「財布スッカラカンにしえやるぜぇ!!」「ヒャッハー汚物ハ消毒ダー!」
「ふぅん……んじゃ、アタシはアンタ等ボコって氷漬けにしてあげる♪」
(胸云々言ってくれたお礼も込めてね……!!)
別に胸の大きさは気にしてないけど……いいいいいや、本当に気にしてないけど。自分でも貧相な体だとは思うけど、気にしてないし。昔言われた悪口で1番イラッ☆とした内容だけど……まぁ、仮にも女性相手だし。
さて────
「ぶっ殺す!! 行くぜ、テメェ等!!」
「「「おう!!」」」
「13対1、立派な正当防衛よね……」
────高ぶったこの感情、存分に暴れてもらいましょうか……!!
「凍りなさい……?」