ヴィヴィオちゃんと出かけて、次の日。
「身体動かそう」
ちょっとダラダラした後、素早くジャージに着替えて庭に出る。
「……来なさい、『デッド・ロック』」
アタシのデバイス、真珠のような、ミルク色の宝石を取り出し魔力を解放。
面倒だし────ついでに、平和な住宅街で使うような見た目じゃないし────バリアジャケットは展開しないで、武装である杖だけ展開。
慣れ親しんだ、金属性故の重み。軽ーく回したり振った後────
「……1! 2! 3! 4!」
────素振り開始。
一定のリズムで、一定の踏み込みで。
素早く、適当にならないように。丁寧に、振っては体制を整えてまた振る。杖の重みに振り回されないように、身体のブレを少しでもなくすように……。
昨日の喧嘩は、ハッキリ言って酷かった。
1番強いのでも、ヴィヴィオちゃん以下……いや、コロナちゃんにすら瞬殺されるレベル。魔法という明確な武力になり得る技術を誰が持っているかわからないこの時代で、よく知らん相手にあそこまで強く出れるのが寧ろ凄い。そんなレベルの、ただ数だけそろえて屯ってるだけの連中だった。
おかげで、身体を動かし足りない。
朝起きて、早朝からかなりマジな訓練を始めてしまうくらいに不完全燃焼だ。ご飯食べる前に、ランニングと……魔法で的当てでもやろうかしらね。
……にしてもあの連中、ホント酷かったわね。
高速砲は防げないにしても、ただのシュートでシールド割れるし。逆に向こうのシュートはまっすぐ飛ばせてないわ、そもそも発動失敗して謎の爆破現象発生させるわ。なぜか割れたシールドが自分に刺さって怪我してるのもいたし……寧ろどうやったらそんな結果になるのか教えてほしいくらい────
「こらっ、訓練中に別の事を考えない。
シエルちゃん。タイミングズレてる、変な癖ついちゃうよ?」
「……あ、なのはさん。おはようございます」
────なんてことを考えていたら、お隣の教官殿に怒られてしまった、反省。
「おはよう、シエルちゃん」
「おはようございます、シエルさん」
「ヴィヴィオちゃんも、おはよう」
タカマチ親子、昨日に続いて2日連続の遭遇。
腰に手を当てて『メッ』と注意するなのはさんと、その隣で『集中ですよ、集中!』とガッツポーズをするヴィヴィオちゃん。2人共、ジャージを着てその場で足踏み中。
「そっちもトレーニングですか?」
「うん。私は教える側だから、どうしても自分を鍛える時間が無くて」
「わたしは、折角なので親子一緒に楽しく!」
「鍛える、ですか。流石ですね、マメというか、真面目というか……」
「まぁ、何があるかわからないし。いつでも動ける体にはしておきたくて……本当は、私が動く時なんてないのが1番だけど。
それよりシエルちゃん、今日はどうしたの? 昨日までは朝練して無かったよね?」
「あ、はい。昨日……。……。
ヴィヴィオちゃんの練習見てたら、ちょっと体動かしたくなりまして」
一瞬、『昨日、喧嘩したら相手があまりにも弱くて』と言いかけたのをキャンセル。自首からの事情聴取を回避する……一応嘘はついてない、喧嘩したくなった理由にあの練習で気分アガったのもあるし。
「へぇ、シエルちゃんも?
やっぱり、ああいうの見てると楽しくなっちゃうよね~!!」
「おかげで今日、いつもより30分早く起きてるんですよ~」
「なのはさん……まぁ、気持ちはわかりますけど」
「にゃはは~。
それに、ヴィヴィオは動きが『早い』からね。娘の攻撃を防ぎきれなくなっちゃうんじゃないか、って思うとね。やっぱりこっちも母親として負けられないな、って」
『つい、燃えちゃうんだ~!』、と楽しそうななのはさん。
その後も、さすがはミッド人。戦闘中のスタイルやら好きな型とかの話を『奥さん、そこのスーパーでセールがあるらしいですわよ』的な感覚で話していると、不意になのはさんがこう言った。
「そうだ!
シエルちゃん、ヴィヴィオと模擬戦でもしない?」
「「えっ?」」
模擬戦。
アタシと、ヴィヴィオちゃんが、今? アタシは、まぁ構わないんだけど。
「……別に構いませんが。
いいんですか? 父から聞いてるんでしょう、色々と『ヤンチャ』してるとか」
「聞いてるよ?
ヤンチャしてたことも、始めた理由も……大丈夫、シエルちゃんは信頼できる。ヴィヴィオに変に危害は加えない」
「……そうですか」
(あの親父、余計なことを……)
アタシの問いかけに、普段のふんわりとした雰囲気とは打って変わって、きりっとした表情で答えるなのはさん。
答えた後、またいつも通りニッコリ笑ってこう言った。
「だから、楽しく一戦。やろう?」
「……わかりました。
と、いうわけでヴィヴィオちゃん、一戦お付き合いお願いできる?」
「はいっ!」
「決まりだね!
それじゃ、ルールを決めよっか。距離は10Mくらいかな? ダウンか、有効打が入ったら終了。砲撃は許可取ってないし無し、バインドとシールドは……」
「無しでいいですよ……そうですね、なんなら武器も身体強化も」
「おっ、強気。
でも、ヴィヴィオは結構強いよ~?」
「大丈夫です、昨日の練習でそれは解ってますから……ただ、こっちも伊達に氷皇なんて呼ばれていないので。この身1つあれば十分です」
そう言って、アタシはデバイスを停止状態に。
そして、構える……のは、喧嘩で強くなったアタシにそんなのものはない。適当に、集中して手を胸位に置く。
「まぁ後、なんだかんだ言って小学生相手ですし?」
「なるほど。
それで、ヴィヴィオは言われちゃったけど?」
(う~ん。見た感じは隙だらけなんだけど……でも、やっぱりどこか違う……)
「当然、勝って見せます!」
「よし、その意気!」
ついでに軽く煽ると、なのはさんもノリノリでヴィヴィオちゃんに繋げる。ヴィヴィオちゃんも、堂々の勝利宣言。
……ああ、これだ。
戦いの、あの心地良い空気になって来た。
もう、後は目の前の相手を倒すだけ……!
「それじゃ、2人共! 位置について!」
「「……!」」
そして、とうとうその時はやって来る。
今まで聞いたこともないような、鋭いなのはさんの掛け声。それとともに、ヴィヴィオちゃんの目つきが変わる。幼げな、何処かふんわりした目が若干鋭く、力強い眼へと。
「よーい……」
「……」
(おっ、いい眼するじゃない。これは、昨日の口直し……とか考えてる場合じゃないかな?)
それは、戦う人間の目。その目を見て、思う。
ああ、やっぱり戦うのはやめられない。
さぁ、ヴィヴィオ。
「……」
(お姉さんを、愉しませなさい?)
「はじめっ!」
「……行きますっ!!」
戦いが、始まった。
ジグザグにステップを刻みながら、少しづつ近づいて来るヴィヴィオ。1歩、1歩とどんどん距離を近づ──―
「……!」
(って、速っ……!?)
「はぁっ!」
「っ……!!」
──―右手のジャブを叩いて弾く。
続いて後ろに下がって左手の射程の外へ。前に出て来たヴィヴィオに対して、こっちも右手で1発入れる……が。
「これで!」
「へぇ……」
避けられるどころか、加えて腕を掴まれる。そのまま、ヴィヴィオは掴んだ腕を引っ張って前に出る。重量差もあって、アタシに特に異常はないけれど……腕を掴まれているせいで、逃げられない。ヴィヴィオは、そのまま右手を大きく後ろに下げ体制を整えて。
「……危ない、危ない」
「っ!」
蹴りを入れようとしたのを、撃たれる前に足で止める。ついでに、打たれる前に引っ込めた腕を掴む。ヴィヴィオは、とっさにアタシを掴んでいたもう片方の手を離す……が、こっちも逃がすつもりはない。アタシは逆に自由になった手でその腕を掴む、そして、ちょっと大人げないけど……。
「たぁっ!」
「ああっ!!」
残った足を軸に1回転、ヴィヴィオを投げる。軽い軽ーいヴィヴィオは軽く力を入れただけでそれなりの高さまで飛んでくれて。
「空中で何らかの有効打を撃った、って扱いでいいわよね?」
「はい……」
パンチやキック代わりに、お姫様抱っこ攻撃。
ふんわり手の中に納まってくれた。
「そこまで!
ウィナー、シエルちゃん!」
「はい、勝ちました♪」
「うう、流石に対格差が……」
ヴィヴィオを下ろして、Vサイン。
いやー、ヴィヴィオは強敵でしたねぇ。
いや、ホントにサイズが違ったから楽に勝てたけど。やっぱ、魔法無しだとキッツイわ。そもそもアタシの体術は魔法在りきで、鍛えたりとかしてるのじゃないし。
今は断定勝ちしたけど、魔法使えないと攻撃らしい攻撃の手段が……。
……。
「……」
(って、魔法が使えない?)
と、ここでアタシは気づく。
「ねぇ、ヴィヴィオちゃん」
(いやいや、そんなことないじゃない。
禁止なのは『武器の使用』『バインド・シールドの使用』『砲撃魔法』『身体強化魔法』ということは……)
と同時に、悪戯心に火が付いた。
「……ねぇヴィヴィオちゃん、もう一回やる?」
「いいんですか!?」
ヴィヴィオを下ろし、もう1戦誘ってみる。
すると、ヴィヴィオはこっちの思惑なんて気づくわけもなく満面の笑みを浮かべてくれた。
「それじゃ、もう1回!」
「……」
そして、勝負開始、
今度は、スピード勝負だろうか。まっすぐ突っ込んで来たヴィヴィオに対し……アタシは、後ろに数歩下がる。下がって、防御を固める。
両手を顔の目の前に出し、『さぁ、いくらでも受けてやるぞ。いくらでも打ってこい!』と体を使って猛烈アピール。
ヴィヴィオは止まらない。
寧ろ、アタシのアピールでさらに加速。前に、前にと進む。
進む、進む、進む。
進む、進む、進む。
進む、進────
「わきゃっ!?」
「ん」
──―そして、『キュッッ』と軽快な音を立てて目の前でバランスを崩す。
アタシは、そんなヴィヴィオの右腕を左手で掴む。ヴィヴィオは、咄嗟にその手を払おうとするけど……転びかけの幼女に出来る事なんて、ロクなものはない。アタシは、そのまま余った右手でヴィヴィオの胸ぐらをつかみ、足を引っかけ。
「はい、お終い♪」
「……いや、これはズルくないですか?」
いわゆる、払い投げ。
私の目の前で無力化されたヴィヴィオ。なお、彼女が転んだ場所には、温かい春の早朝には似つかわしくない氷が張っている。
ヴィヴィオちゃんに向けて、どや顔で言う。
「悪いわね、ただ魔力を垂れ流す行為は禁止されていなかったモンだから。
アタシ含め、少なからずいる『魔力変換資質』。その魔力は、ただ発動するだけで脅威足りえる……掴んだ腕をヤケドさせたり、そこから痺れさせたり、今回みたいに周囲の物を氷漬けにしたり。格闘1本で戦うなら、そこもちゃんと考慮しないとね♪」
「むぅ……」
うーん。ほっぺを膨らませるヴィヴィオちゃん、可愛い。
「ってことで、なのはさん。またアタシの勝ち、2本先取です」
「だねー、しっかりとルールの範疇……大人げないとは思ったけど。
まさか、あのインファイトオンリーの流れから平然と足元に罠仕掛けるとは思わなかったよ。なんだかんだ言って、シエルちゃんの目も真剣そのものだったし」
「そう思わせるのも技術です。
上下前後左右、遠近問わずのあらゆる場所からの奇襲に迎撃。その後、手数で攻めるのがアタシのバトルスタイルです。インファイターと『その身一つ』で戦い続ける道理はありません」
「えー? 私は、ヴィヴィオと打ち合うのも好きだけどなー」
「アタシも、嫌いじゃないですよ……ただ、熱くなっちゃうとつい手が出ちゃうってだけで。特に、相手が強い相手だと、自然に」
本当に、ヴィヴィオは強い。
ヴィヴィオが今負けたのは、単純に対格差。もし仮に、ヴィヴィオが同じ背丈になって殴りかかってきたら、魔法無しに捌き切れるか怪しい(武器アリなら……まぁ、なんとかはなるか)。
ついでに、ヴィヴィオは転んだ後も対応をすべくと色々行動をしようと……しかも、結構余裕をもって試行錯誤していた。今回のルールは砲撃やバインドが出来ないから、ヴィヴィオは引きはがす以外の選択しかできなかっただけで、ルール無用の状況なら砲撃やら高速砲を叩きつけられていたはずだ。
その時アタシは、『たかだか小学生』油断して1撃くらいは貰ってしまうかもしれない。
「……」
(小学生が、咄嗟の不意打ちに対し完璧な対応で、氷皇に牙をむく……ねぇ)
いやぁ、愉しい愉しい。引っ越したのも悪いことだらけじゃなかった。
頭の中でアドレナリンが、昨日のアホ共を塗り消すようにあふれ出て来る。
「さてヴィヴィオ、もっかいやるわよ。次は魔法も使わないから」
「……本当ですか?」
「ええ。
今日は、トコトン遊んであげる♪」
「わかりました。それじゃ、お願いします!」
この日、アタシとヴィヴィオは、いつの間にかいなくなっていたなのはさんに朝食に呼ばれるまで試合を続けた。
そして、アタシは思う。
アタシは、戦うのが大好きなのだと。
「ねぇ、シエルちゃん。ヴィヴィオのことなんだけど」
「ヴィヴィオの、ですか?」
「うん。仲良くしてくれると、嬉しいな」
「……はぁ、わかりました」
それから数日。
アタシは、高校に入学する。
とりあえずこれでプロローグ終了。
なるべく早い更新を目指したいです。
途中から『ヴィヴィオちゃん』から『ヴィヴィオ』に変わってるのは仕様。