物間こころの生存戦略 作:こころたん
緑谷出久
僕が全力で殴ったことで吹き飛び、壁に激突して腕が折れて首が変な方向にいっている。彼女の身体中から赤色の液体が溢れ出し、そのまま動かなくなる。残ったのは片手に残る柔らかい物を殴った感触と何かが折れた音。そして、血塗れの両手。
「……ひどい……ヒーローなのに……なんで、殺した……」
声が聞こえて振り返ると、いつの間にか首が折れて身体から血を噴き出している幼い桃色の髪の毛をした女の子が近くにいた。彼女は骨がでて血塗れになっている両手で、振り返った僕の頬っぺたを抑え込んでくる。ぬめっとした生暖かいそれが僕の頬っぺたに塗りつけられていく。
「ひっ!?」
驚いて後ろに飛び退ると、今度は後ろから抱きしめられた。そして、耳元で囁いてくる。
「あなたは偽物」
「ヒーローじゃない」
「人殺し」
「まだ生きたかったのに……」
「なんで私は死んであなたは生きてるの……?」
いつの間にか無数の彼女によって身体を掴まれて引き倒されて、押さえ込まれる。
「「「「偽物偽物偽物」」」」
「「「「シネシネシネ」」」」
「「「「人殺し人殺し人殺し」」」」
馬乗りにしてきた目から血を流している女の子に首を絞められる。
「いっぺん、死んでみる……?」
「うわぁああああああああああああああああぁぁぁぁっ!?」
ガバッと起き上がる。はっはっはっと荒い呼吸を繰り返し、恐る恐る首元を触れてみる。なにもない。
「ゆ、夢か……」
落ち着いてくるとものすごい汗をかいていることがわかった。まず起きてから着替えを用意して風呂場へと移動する。この寮は防音もしっかりとしているから大丈夫だ。
裸になって冷たいシャワーを浴びながら、意識を覚醒させる。鏡に映った僕の顔はすごく青ざめていて、とてもじゃないが普通じゃない。ふと視線を下にやると――両手が真っ赤だった
「うわっ!?」
慌てて下がって壁にぶつかって鏡を見る。赤い液体がそこら中にあり、頬を手で拭ってみると両手も頬っぺたも赤い血が付着していた。鏡をふと見ると、そこには血塗れの女の子が映っていた。
「おい、緑谷、悲鳴が聞こえたけど大丈夫か?」
「え? 切島君……あ、あれ……」
「鏡がどうしたんだ?」
「ううん、なんでもない。ちょっとこけちゃって」
「しっかりしろよ」
差し出してくれた手を掴んで起き上がる。血塗れだったなんてことはなく、普通に僕の手だった。鏡にも彼女は映っていない。
放課後。ナイトアイヒーロー事務所に出向いたら、サーは退院して事務作業をしていた。流石にヒーローとしての活動は控えていて、リハビリをしている。なので、今は基本的に透形先輩達と見回りだ。でも、そこには彼女もいる。
「あれなに?」
「あれはねー、とーってもおいしいーお魚さんだよー」
「お魚さん?」
「甘いよー」
「甘いお魚さん、食べたい。いい?」
「はっはっはっ、見回り中の買い食いは駄目! といいたいけれど、えりちゃんはついてきてるだけだからね。いいよ、買ってこよう!」
「やった!」
「やったー!」
僕が殺した少女、こころちゃんは両手をあげて無表情で飛び上がって喜びを表現する。顔に表情が一切でないから、身体を使ってのボディーランゲージをしているようだ。僕はこんな元気で無垢な女の子を殺してしまった。確かに彼女はオール・フォー・ワンを宿している。でも、それは彼に操られていたわけじゃない。自分の意思でコントロールしていたんだ。
「あ、こころちゃんは駄目だよ」
「にゃんと!」
「だって、えりちゃんはついてきてるだけだけど、こころちゃんはヒーローとしてのお仕事だからねー」
「納得の理由。仕方ない。諦めるー」
しょぼーんと両手を下にやってだるそうにするこころちゃんは……視線をガラスケースに入ったテレビを見た。
「緊急の臨時ニュースです。
「中に人質がいる上に飛行能力を持つヒーローは数がすくなく……」
とんでもない内容が伝えられていた。事件はまだ終わっていないってことか。
「お、お姉ちゃん……」
「大丈夫だよーお姉ちゃんに任せてー! んしょ」
「行くのかい?」
「こころはヒーローだからね。だから、えりちゃんをお願いー」
「任せてくれ。緑谷君もいいよね?」
「もちろんです」
「じゃ、いってくるー」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
えりちゃんを肩車した先輩と一緒に見送る。彼女は炎の翼を広げ、空高くへと飛び上がっていく。