物間こころの生存戦略 作:こころたん
【過去】
オール・フォー・ワン
"個性"を使おうとするとすぐに銃口が向けられる。けれども、思考することぐらいはできる。そんなわけで、僕は大事な事を考えていた。
やはりおかしい。いくら考えても僕の中から大事な物が消えている。僕がオール・フォー・ワンであるという最大の理由が消えている。何時消えた?
オールマイトとの戦いの時は確かにあった。それは間違いない。では、戦いが終わり、僕がここに運び込まれる間に消えたことになる。しかし、消えるなんておかしい。それはありえない。つまり、盗まれたということだろう。では、どのタイミングで盗まれた? ボクの"個性"から考えて、盗むには最低でも接触。比較的に軽くて体組織を摂取しないといけないはずだ。
「ふむ」
思いだしてみる。倒された後、僕に触れたのは警官だけだ。その警官の中に犯人がいる。誰だ、誰なんだい?
思いだし、交差すると怪しいのがいた。警官にしては若すぎる上に見覚えのある人物が僕に触れてきていた。彼は確か、物間寧人。"個性"はコピーだったはずだ。わざわざヒーローが解説してくれていた。なるほど、理解した。僕のオール・フォー・ワンをコピーし、その力で本物を盗んでいったのか。それだけではないな。あのタイミングからして虎視眈々と狙っていたのだろう。僕が疲弊し動けないタイミングを。
今思えばオールマイトの最後の一撃。あれはおかしかった。オールマイトは想いを束ねたといいながら、限界を軽く超えていった。逆に僕には諦めや諦観などの感情が急に襲ってきた。精神系に対する"個性"はあれど、あの時はオールマイトの相手に忙しくて使っていなかった。それでも問題はなかったのだが、オールマイトと攻撃しあっている時に対応はできない。
いやはや、これはまいった。僕としたことがしてやられたよ。まさか、僕があずかり知らぬところで死柄木弔とは違う後継者が現れるなんてね。これでオール・フォー・ワンとワン・フォー・オール、そして死柄木弔の三つ巴か。とっても楽しそうだ。
オールマイトが来たら教えてあげようか。死柄木弔以外の僕が居ることを教えてあげよう。
物間寧人
僕の妹は正直、狂っていると思う。わけもわからない存在に恐怖し、ただひたすらに"個性"を鍛え続ける。例えそれで自らの感情を犠牲にしてもだ。実際、生まれてから"個性"が発現する五歳まではよく笑い、感情が素直にでる子だった。でも、"個性"が出てからはかわりだした。表情が抜け落ち、まるで狂気に憑りつかれたかのように常に"個性"を使い続ける。そんなんだから、当然友達もいないし、本人もそれをよしとしている。それどころか、"個性"を使って自分に向けられる感情を無関心にしてまで鍛え続けていた。
それでも僕にとっては可愛い妹で、大切な子だ。だから見捨てたりはしないし、僕も他の人には色々と言われてきた。コピーの"個性"なんて他に人がいなければ役立たずだと。ヒーローなんか無理だと言われた。
だけど、夢かどうかはわからない。ただ、目的に向かってただひたすらに鍛え続けているこころがいる。だから、僕もヒーローをなにがあっても目指すと決めた。
でも、僕は軟弱だ。こころと喧嘩しても個性なしで瞬殺される。殴ろうとしたら、その次の瞬間には天井が見えていて、関節技を決められる。平均より小さく、増強系でもないこころにだ。それに成績も悪い。
だから、恥を忍んでこころにヒーローになりたいと言ったら、喜んで一緒に訓練をしようと言ってきた。うん、それが間違いだった。こころに組まれた訓練メニューは容赦がない。最初にやってみたら、逃げ出したくなって逃げた。でも、そのせいでこころは僕に"個性"を使ってきた。逃げられず、感情を支配され、訓練大好き、勉強大好き、という風に操作された僕は……こころと同じく徹底的に鍛え上げられた。おかげでテストは平均90以上をキープ、武術もならって個性の強化も繰り返した。
ただ、訓練が終わったら無表情ながら一生懸命に感情を伝えようとしてくるこころや、甘えてくるこころが可愛いのでそれだけが救いだ。
ただ、こころの計画を甘く見ていた。
それから、こころの言う通りに動いた。警察官の服を奪うなんて犯罪だが、後で説明してもらえばいい。あの戦いに関することなのだということで僕はこころを信じた。これが操作された感情なのかはわからないが、こころのことを信じずして何が兄か。
その後、言われた通りに敵の首魁に触れてオール・フォー・ワンという"個性"をコピーし、それを使って大元のオール・フォー・ワンをボクに移す。ここで"個性"を使ったら暴走する可能性もあるので、怪しまれないように他の警官と一緒に収容し、逃げる。これだけ現場が混乱していれば怪しまれることなんてほぼない。
こころにオール・フォー・ワンを与え、こころの感情を操作する"個性"を僕に移す。そして、それをもとに戻す。これで安全にこころはこの"個性"を使える。
それから最後に警官の服を水で洗って内側の指紋や汗などを洗い流して、警官に着せてから水をぶっかけて二人で彼の服を触りながら声をかけて脱がしていく。そして、タオルをあげて服をしぼりながら、こころは救助に向かってもらう。これで多少、僕達の指紋などがついていても誤魔化せる。それに彼は正面から変装したこころをみていないので、頭に落ちてきた水入りバケツで意識が朦朧としていたと教えれば解決だ。
帰ってからこころに聞けばオール・フォー・ワンという危険な存在について説明を受けた。これからタルタロスと呼ばれる監獄に収容されるだろうけど、脱出してくる可能性もあるし、オール・フォー・ワンを奪っておきたいと言っていた。そのタイミングがここだけなのだと。そして、計画通りになった。僕は手伝ったお礼として筋力増強をもらった。この"個性"を使っても見た目は変わらないので便利だ。
その後、僕は全寮制に入った。両親の仕事の関係でこころが一人になるが、何を思ったか、アメリカに渡った。そこでヒーローみたいなことをしているらしい。動画が送られてきて、見たら吹いた。
「ぶっ!?」
「物間、どうしたんだ? またA組に対する悪ふざけ……幼女? おまえ、こんな趣味が……」
「馬鹿か君は。これは妹だ。ほら、写真」
家族で撮った写真を見せてやる。こころが四歳の時に撮ったのと、雄英高校の入学式の時に撮ったのだ。
「へ~妹さんいたんだ」
「ああ、そうだよ。で、今はアメリカにいるんだが……こんな動画が送られてきてな」
「……マフィアのアジトに潜入? 冗談だよな?」
「……」
「嘘……」
実際に潜入し、こころを認識していないマフィアを倒し、潰していく動画だった。銃撃戦もあるが、それでも圧倒的な力だった。それはオールマイトと戦っていた恐怖の首魁よりは実力が低い。そう思っていたけれど歌って舞いながら倒しているので現実感がないのが原因かもしれない。
「しかし、可愛い子だね」
「そうだろう? まあ、問題もあるんだけどね~」
「問題?」
「ぼっちなんだ。友達もいないんだよね~」
「そうなの?」
「いっつも"個性"の訓練しかしていなかったんだよ。服もほとんど同じ物しか着ていないな。ああ、この服装はコスチュームみたいな感じか」
「あってみたいわね」
「帰ってきたら知らせるよ」
「お願いね」
動画はチェックしておこう。しかし、仮免許試験があるから、今はこっちに集中しよう。そう思ってたらしばらくしてこころが帰ってきた。