物間こころの生存戦略 作:こころたん
イレイザーヘッド
物間寧人からブラドキング先生を通して連絡がきた。面倒だが、物間こころのこともあるから行くしかない。
「物間、来たぞ」
寮の部屋の扉を叩いて声をかける。
「は~い、今あけまーす」
部屋の中から女の声がしてくる。不思議に思っていると、扉が開いて中を見るとB組の拳闘と小大がいた。床には二人の物と思われるバッグがあり、布団が敷き詰められている。
「おい、お前ら。不純異性交遊は認められねえぞ」
「違いますよ!」
「ん。一緒に寝てるだけ」
「そうだね。一緒に寝ているね」
「アウトだろ」
「言い方! 事実だけど! これはアレです、こころちゃんに物間が変なことをしないように……」
「ふむ。まあ、いい。入るぞ」
「どうぞ」
中に入ると女子の荷物が結構しめている。大きなぬいぐるみもあって女の子の部屋といった感じだ。物間の荷物はほぼ全てが端に寄せられている。
肝心の妹はパソコンの前で一生懸命に自分が映る動画を見ながら真似をして身体を動かしている。そして、ふらついてこける。それを物間や小大が支えている。まるで小さな子供の世話をしている感じだ。
「どういうことだ? "個性"が暴走したのか? それなら俺を呼んだ理由もわかるが……」
「いえ、そうじゃありません。先生に"個性"を消してもらいたいのですが、それは今ではありません。とりえず、先生自身の目で今のこころを確認してもらいたかったのでお呼びしました」
「わかった。確かにこれは異常事態のようだ。詳しく聞こうか」
「ありがとうございます。二人共、こころを連れてお風呂にでもいってきてくれないか? 流石に僕じゃ無理だからね」
「OK,任せて」
「ん。いってくる」
「こころもいいね。汗かいてるから綺麗にしておいで」
頷く彼女をそのまま二人が連れていき、俺と物間だけが残ることになった。
「先生、とりあえず座ってください。紅茶でいいですか?」
「いらん。さっさと話せ」
「わかりました。端的に言いますが、あの子はこころではありません」
「だろうな」
俺が聞いた物間こころは無表情だが、あんな幼子みたいな感じじゃない。14歳だと聞いているし、なによりオール・フォー・ワンを奪う計画を立てるような存在だとは思えない。
「あの子の正体は知りませんが、名前は
「
緑谷と透形がインターンシップにいっているサー・ナイトアイの事務所が担当していた案件だな。昨日、協力要請を頼まれたが、まだ返事をしていなかった。
「入れ替わったのか」
「はい。ご存知の通り、こころの"個性"は感情を操ります。どのように操ったのかは知りませんが、認識をずらしたのかもしれませんね」
「感情以外にも操れる可能性がある、と」
「あくまでも可能性ですが、先生の方がよく知っていると思いますよ。こころは気付いていませんが、凄いファンの方々がいるみたいですから」
こいつ……俺達が物間こころを監視しているのを知っていやがるな。しかし、本人に告げていないということはどういうつもりだ?
「話を戻します。こころは彼女から助けを求められたので、ヒーローとして行動しています。おそらく、彼女から話を聞いて戦闘するよりも確実に彼女を保護することと、相手を一網打尽にすることを考えたのだと思います」
組織を相手にするのなら、こちらも頭数はいるか。ましてや逃がさないように潰すつもりなら必要だろう。
「それで、入れ替わったのはわかった。助けに行くのか?」
「行きませんよ」
「なに?」
「こころを助ける必要はありません。僕が頼まれたのは彼女の保護と先生達への伝達だけでしょう。もちろん、後方支援はしますよ」
「てっきり助けに行くと思ったんだがな……」
「いらないでしょう。あの子は生きることを何よりも優先している。だから、危なくなったら、なりふり構わず逃げてきますよ。その時に制圧してくるかはわかりませんが……」
生きることを優先か。そういえば人を殺すことはしていないな。精神的に壊したことはあるようだが、それも時間経過で回復していっているとアメリカから連絡が来ている。自分が生きることを優先するが、犯罪者でも命までは奪うつもりがない、か。これならまだ矯正はできそうだ。それに見知らぬ幼子の代わりに自己犠牲をするのなら、ヒーローとしての適正もあるにはあるのだろう。気まぐれかもしれないが、それはこれから調べればいい。それにヒーローとして活動してくれる方が効率がいい。
「で、合図は何かあるのか?」
「"個性"を消せば伝わると思います。それにこころのことですから、犯罪者には容赦しないはずです」
「そうなると……メッセンジャーを送ってくるか」
「はい。その可能性が高いです」
「つくづくスパイ向きな奴だな」
「あの子はパンドラの箱ですからね」
「パンドラの箱ね……」
開ければ災厄があり、その中に希望がある……かもしれない。この場合、災厄とは二代目オール・フォー・ワン。希望はトップヒーローか。
「ああ、そういえば先生に聞いてみたいことがありました」
「なんだ?」
「タルタロスって破られると思いますか?」
「タルタロスか……」
死刑すら生温い重犯罪者を収監する厳重監獄だが、破れるかどうかと言われれば難しいだろうが、可能だろう。
「不可能ではないだろうな。この世に絶対はないからな」
「そうですよね。手数さえあれば可能でしょうし」
「言ってみろ」
「まず、兵隊を用意し、爆弾などで日本各地に同時多発テロを起こします。それでヒーローや警察の手を集め、その間に襲撃すれば不可能ではないと思います。特に相手にはワープ系の"個性"持ちがいますからね」
「そうだな。確かに人数がいれば可能だろう。だが、今の所は大丈夫だと思うぞ」
「ありがとうございます。これで安心できます」
オール・フォー・ワンがでてくる可能性か。こいつらがどれだけ奪ったかによるが、最大の脅威が無くなっているとしたらかなり助かるのは事実だな。
「さて、話は聞いた。じゃあ、本人は保護していることだし、他のヒーローと協力して救助に向かう」
「妹をお願いします」
「任せろ。必ず助け出してやる」
部屋から出て携帯でサー・ナイトアイの事務所にかける。
『はい、こちらナイトアイの事務所のバブルガールです』
「イレイザーヘッドだ。ナイトアイはいるか? 重要な情報がある」
『お待ちください!』
少し待つと、すぐに代わってくれた。
『どうしました?』
「物間こころは偽物だった。中身は壊理という6歳の女の子だ」
『やはりですか。では、彼女は現在その子の身代わりとなっているんですね』
「だろうな。向こうから連絡が入ってくる可能性もあるが、あちらに暴れてもらうことも可能だろう」
『知らせる方法があるのですね?』
「ああ、ある。俺が"個性"を解除したら向こうに知られるだろうということだ。確定かはしらないがな」
それに加えて、物間こころがどんな"個性"を使ったかはわからないが、下手をしたら完全になりきっている可能性もある。そうなると、要救助者には変わりない。
『懸念事項はありますが、参加していただけますか?』
「ああ、もちろんだ。それと本人から聞いたかぎり、本拠地にいたらしいが、あれから移動させられている可能性もある」
『了解です。一応、表向きは壊理という少女の救出作戦とし、ヒーローには事前に知らせておきましょう』
「わかった。それじゃあ、明日にでもそちらに向かう」
『お願いします』
次の日、サー・ナイトアイの事務所の会議室。そこで連中について説明を受け、
「レザボアドッグスと名乗る強盗団の事故ですが、そちらで腑に落ちない件があり、ナイトアイの指示を受けて調査していました。そして、調べたところ、ここ一年以内の間に全国の組以外の人間や裏稼業の連中との接触が急増しています。おそらく、組織の拡大と資金集めのためでしょう。そして、彼等が
「連合が関わるってんで俺や塚内にも声がかかった。塚内は他の目撃情報が入ってな、そっちに行ってる」
グラントリノが説明している中、次にとんでもないことをファットガムが言いだした。うちの生徒が関わっているようだ。
「"個性"を壊す薬、これを連中が使っていた。幸い、"個性"は一日で回復したが、病院で診察を受けたら個性因子が傷ついていた」
「それだと、回復しない場合がありますね。俺の"個性"は一次的に因子を止めているだけですが、傷を負わせるとなると破壊までいける可能性があります」
「中身は?」
「霧島君が身を挺して一発だけ手に入れてくれた。それを解析したら、中から人の血ぃや細胞が入っとった」
「えええええ」
「別世界のお話のよう……」
人由来の"個性"による"個性"の破壊。かなり厄介だな。それが物間こころの手に移っている可能性がある。
「オーバーホールは対象の分解・修復が可能な力です。そして、一度壊し、治す"個性"。"個性"を破壊する弾。以上のことから
「ああ、了解だ。まず連中は子供から血と細胞を抉り取り、それを弾丸にしている。治療はオーバーホールの"個性"でだ。その子供についても確認されている」
「その子供にはそこの二人が遭遇した時に手足全体に包帯が巻かれていたようです」
「おぞましい……」
「随分と詳しいな」
生徒には刺激が強すぎたのか、青い顔をしてやがる。まだ早かったかも知れないな。
「想像しただけで腹ワタ煮えくり返る!! 今すぐガサ入れじゃ!!」
「こいつらが子供を保護してりゃあ、一発解決だったんじゃねーの?」
「すでに保護はされています」
「「「は?」」」
「え? え? 保護されてるんですか!」
「サー!?」
「実は彼等の前にあるヒーローと彼女は接触していたようで、そのヒーローが現在、彼女の身代わりとなっています。イレイザーヘッド、お願いします」
「ヒーローの名前は物間こころ。アメリカから帰ってきた奴で、ヒーロー免許は限定だ」
「限定なんてあったか?」
「特別に作られた奴だ。そいつはまだ14歳だからな。つまり、ヒーロー公安委員会のお墨付きって奴だ」
「あの、物間って、もしかして……」
「物間寧人の妹だ。現在、物間寧人が妹として雄英で保護している。当然、校長にも連絡して防衛体制を強化してもらっている」
「あの時の少女か! すぐにいなくなったと思ったら、そういうことか……」
あの時点で制圧してくれていれば楽に済んだ……とはいえないか。まだガサ入れの準備もできていなかったし、"個性"を壊す弾のことなんて知らなかったしな。ベストはそれでオール・フォー・ワンを破壊することかもしれないな。
「そのヒーローの"個性"はなんなんだ?」
「感情を操る"個性"だが、強化されている可能性もある。感情を操って無関心にさせるぐらいはわかるが、今回は最低でも俺達の認識を書き換えている」
「感情を操るってかなり危険な"個性"ね」
「でも、
まあ、性格に問題はある奴だが、ヒーローとしての実力はかなり高い。
「兄によれば連絡が送られてくるはずが、送られてこない。本当なら構成員の一人の罪悪感を操作して、こっちに垂れ込ませるぐらいは平気でやる奴だ。実際、アメリカではその手法も使われている。だが、以上のことを考えて強くなった"個性"が暴走している可能性か、それとも操られた可能性も否定できない」
「暴走の場合の解決策は?」
「俺が消せばいい。一旦停止させればそれで問題ないだろう」
「あ、相澤先生。もしかして、それって秦こころちゃん?」
「そうだな。確か、ヒーローネームがそれだ」
「だったら役に、その女の子になりきりすぎてるんかもしれないです」
「どういうことだ?」
「動画で見たんやけど、能楽や演劇とかもやってて、演技の雰囲気とかすごいらしいんです。トランス状態とかいうの……感情を操作しているからやろうけど……」
「もし、その女の子に演技をしてのめり込みまくってたら……」
「まあ、要救助者認定で大丈夫でしょう」
「せやな」
「賛成!」
「誰だろうと、助けを待ってくれているのなら、守ります」
「そうだね。やることはかわらない」
緑谷と透形は張り切っているな。無理もない。
「とりあえず、彼女は戦力に数えずに救助。最悪、イレイザーヘッドに"個性"を強制解除してもらい、思いだしてもらいます」
一般人の救助作戦よりヒーローの救助作戦の方がましだ。しかし、本当に大人しくしているのかね?
「ちょっといいか?」
「塚内か。どうした?」
「実は、彼がやってきてね……」
「ど、どうも……」
どうやら、ギリギリでピースが整ったようだ。
壊理(こころ) 少し時間は巻き戻る。
痛みで目が覚める。両手と両足が痛くてほぼ動かない。
「ヤッホー、壊理ちゃん。玩具で遊んでないね。何か欲しいものはないかな?」
「……あ……」
「ん?」
両手を伸ばして頬っぺたにふれる。
「アナタが欲しい」
「え?」
好感度と罪悪感、信頼感を最大値に。組織に対する信頼感を最低に。
「壊理、どうやらそいつを気に入ったようだな」
「っ!?」
やばい。すぐに感情を操作して、壞理ちゃんから読み取った感情値に戻す。でも、現状は同時発動している"個性"が二つなのでまだなんとかなる。三つで危険。四つ目からは異形になる。五つ目からは身体が崩壊する。三つ目からは瞬間再生を入れないと絶対に駄目。オール・フォー・ワンは同時にすくなくとも十個以上の"個性"を同時発動していた。本当に化け物だと思う。感情を操作する"個性"から巻き戻す"個性"に変更する。変身する千変万化の"個性"は外せない。
「……あ……」
ガタガタと震え、壊理ちゃんに成り切る。
「サンプルがたりねえ。来い」
「あの……」
「なんだ?」
「いえ、今の間に子供が好きそうなお菓子とか買ってきてもいいですか? ご褒美があった方が子供は喜ぶでしょう。終わったらアイスとか、ケーキを食べさせてらいいと思うんですが……だめですかね?」
「ああ、なるほど。構わない。だそうだ、頑張れるか?」
こくこくと頷く。
「良い子だ」
連れて行かれ、手足どころから身体のほとんどが捥がれて、オーバーホールされた。
「? なんか変な感じがしたが……まあいいか。元の壊理になるように治せばいい」
怖い怖い怖い痛い怖い怖い痛い痛い怖い怖怖い怖い怖い痛い怖い怖い痛い痛いい怖い痛い怖い怖い痛い痛い怖い怖い怖い怖い怖い怖い痛い怖い怖い痛い痛いい痛い怖い怖い痛い痛い怖い怖い怖い痛い怖い怖い痛い痛い。
タスけて、助けて助けて、苦しい辛いっ、いやっ、いやぁあああああああぁぁぁぁっ!
こころちゃんの思惑。変身して壞理ちゃんは逃がしつつ、証拠の確保とタイミングを見計らってオーバーホールを回収したらいいよね。勝とうと思えば勝てるし、"個性"を使えばなんとかなる!(慢心
結果:壞理ちゃんの演技のために感情もすべて先に助けた時と同じにする。
その状態で全身オーバーホール。やったね、こころちゃん! 若返ったよ! なお、記憶の錯乱など当然おきます。