かつて貴族や士族を教育する機関として創立された由緒正しい名門校である!
貴族制が廃止された今でなお、富豪名家に生まれ、将来圀を背負うであろう人材が多く就学している。
そんな貴族学校に集まってくる者はやはり凡人であるはずがない。
一癖も二癖もある生徒達が毎年入学してくる。
そして―――
「ラブコメとかやってんじゃねーぞバカヤロー」
それは、教育に携わる教師にも言えることである。
これは、秀知院学園生徒会の顧問を務めるぐーたらな
人を好きになり、告白し、結ばれる。
それはとても素晴らしい事だと誰もが言う。
だが、それは間違いである。
恋人たちにも明確な力関係が存在する。搾取する側とされる側。尽くす側、尽くされる側。
そして、勝者と敗者。
もし、貴殿が気高く生きようと云うのなら決して敗者になってはならない。
恋愛は戦。
好きになった方が負けなのである。
「ラブコメとかやってんじゃねーぞバカヤロー、ペッ」
「先生、生徒会室で唾吐かないでください……意地汚い」
秀知院学園生徒会副会長、四宮かぐやは呆れながらため息を吐いた。
なお、この生徒会室は赤いカーペットが床に敷かれており、これを汚そう物なら俺の貯金が吹き飛ぶことは必然。なので吐いた唾は長テーブルに置いた空き缶に見事シュートさせた。超エキサイティン。
「はぁ……どうしたんですか、先生。いきなり」
「友達以上恋人未満の人間を観てると……殺したくならない?」
「なりませんよ、どうしたんですか今日は一段と過激ですよ」
「想像してみろ副会長。今日は春うららかでおだやかな気候だ。暖かく、空は晴れ晴れとしている。そしてこの生徒会室は日当たりがよく、絶好の昼寝スポット。さらに、この生徒会室に備わっているソファは高級であり、ふかふかのふわふわのクッションだ。俺はここに寝転がってすやぁって寝てたわけだ」
「そうですね。今は放課後ですけどね。昼間からずっと寝ていたんですか」
「ただ、目が覚めたらどうだ。お前が生徒会長とイチャイチャラブラブしてたわけだ。俺が目を覚ました瞬間にお前らのラブコメを見せつけられ、俺はこの殺意をどうしたらいいと思う?」
「知りませんよそんなの……ってててててて、イチャイチャラブラブなんてしてません!! ていうか起きてたんですか!?」
顔を真っ赤にして反応する四宮かぐや。
半年前から見慣れた反応に、俺は呆れながらため息を吐く。
「まままま、まるで私が会長を好きみたいな……?」
「じゃあ嫌いなの?」
「…………」
「チッ。やってらんねー。とっとと告っちまえばいいのに。なーにが『会長だったらギリギリのギリで付き合ってあげてもいいけど』とかほざいてんの?バカなの?そんなこと言ってる間に半年過ぎちまってるじゃねーか。行き遅れになっても知らねーぞ俺は」
「うぅ……!というより、いつから起きてたんですか!?」
「お前と会長が部屋に入ってきた頃だな」
「最初からじゃないですか!!」
秀知院学園生徒会、副会長四宮かぐやは箱入りお嬢様である。
総資産200兆円を誇る巨大財閥『四宮グループ』の令嬢で、容姿端麗な美少女。
どーいう育ち方をしたんだか、口ではなんだかんだと頭良さそうな理論を組み立てての秀知院学園生徒会の会長である白銀を告らせようとしているみたいだが、こいつは恋愛の仕方がまるで分かっていないアホ。
学校の生徒達は、「かぐや様」だのなんだの言ってるが、俺から言わせればアホである。
「ったく、四宮グループのご令嬢が、デート一つぐらい誘えなくてどーすんだ。なんだあのババ抜き。まどろっこしすぎてびっくりしたわ。小学生だってもう少し上手にデートに誘うぞ」
「というか!私がどうして会長のことをすすすす好きみたいな前提で話しているんですか先生は!まるで私がどうしても会長と映画を観に行きたいみたいじゃないですか!」
こいつは本気でそう思っているから余計に性質が悪い。
毎日似たようなことをやっては「私は会長が好きじゃない」と否定するが、傍から見ればどう考えても相思相愛である。
絶好のサボりスポットでいつもいつもイチャイチャラブラブされては、俺の安息の場所は侵略されてしまう。とっととくっついてほしいと思っています、まる。
「もーいーからとっとと『一緒にホテルに行きましょ』とか白銀に言えばいいだろ」
「……?どうして今の話からホテルに行くことになるんですか……?」
ウッソダロオイ。
この子、性教育何歳で止まってるのよ。
おっそろしいわー。あまりにもさも当然のように「どうしてホテルへ行くの?」って真顔で訊いてくるもんだから一瞬俺が間違ってるように感じちまったじゃないか。
「ホテル……?」
「あー、もういい。その話はこれでおしまいだ。で、映画行くのか?」
「え、ええ!もちろん。せっかくチケットがあるんですもの、使わせていただきます。もしかしたら当日、ばったりと会長とでくわすかもしれませんが、あくまで一人で行きますよ!」
「どーせ会長にSP付けてストーキングするんだろ変態女……あ、ごめんなさいマジでやめて。ゲブッ」
四宮は俺の頭の髪の毛を掴んだかと思うと思いっきり引っ張り、長テーブルに叩き付けた。オデコイッタイ。
「先生……あなた、時々私が四宮グループの令嬢だということ、忘れてません?」
「お前も俺が先生だってこと、忘れてません?」
顔を真っ赤に、かつ眼は絶対零度、まるで俺を道端に転がるゴミを観るような目つきで四宮は言う。
「この秀知院学園は四宮グループの多額の寄付金で建っていることをご存知ですか、横月先生。言うなればあなたが食べていけるのは私のおかげではなくって?」
「はいはい、そーですね。ポンコツ四宮副会長は男一人誘えないチキ――ぎゃぁぁ!!ブチブチって言ったぁ!俺の髪の毛今何本毟ったぁぁぁぁ!!」
閑話休題。
「だが、一人で行くのはいいが、お前映画館とか行ったことあるの?」
「……ありません、けど」
「なら、席の取り方とか知ってる?」
「……席?」
「…………あー」
四宮かぐや。筋金入りの箱入りお嬢様。
彼女は映画館はもちろん、遊園地などに行ったことがないお嬢様である!
「なら、ちゃんと教えてやっから。会長の隣で映画観たいんだろ、お前」
「…………(コクリ」
「まずは映画館に行ったら受付でな、チケットを出したら、アルファベット順の席を……」
秀知院学園生徒会顧問、横月遊惰は、基本めんどくさがり屋でサボり魔。授業を突如自習にして授業を休むなど当たり前、ギャンブル好き、もじゃもじゃ頭、死んだ目、タバコ好き、クソダサTシャツ、酒が好きと誰がどう見てもダメ人間。
だが彼はなんだかんだ面倒見がよく、四宮かぐや含め、秀知院学園の生徒はなんやかんやで彼を憎めず、人気があった。
週末のデートの勝敗結果。
無事に会長と映画を観ることができた為、四宮かぐやの勝利。
石上会計「副会長が……先生をテーブルに叩き付けて……!?」
唯一の目撃者。