泣き虫なサイヤ人   作:丸猫

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悟空とラディッツって何歳差なんですかね。


少女の日常

 

「・・・・今日は、上手くいかなかったなあ。」

 

ぼやくような声と共に、一人の少女が歩いていた。白いドーム状の家の間を通る道を練り歩くように、とてとてと歩いている。腰まであるくせっ毛を無理やりに一つでまとめていた。

未だ、幼過ぎる小さく、非力な体に対して、その身に纏うのは仰々しい鎧であった。見た目に反して、軽いそれを、まるで新品のワンピースのように着こなしている。

それも当たり前の話だ。

何といっても、それは、少女が少なくとも一人前であるという証なのだ。

少女の顔や腕には、細かな傷跡があり、何かしら荒っぽいことをした後であることが察せられた。

少女は、家の中の一つに飛び込むようにドアを開けた。

 

「母さん!」

「ラディッツ、お帰り。」

 

家の中では、少女によく似た女がいた。女は、ギネは嬉しそうに少女、ラディッツを出迎えた。

向かい合った二人は、体格や身長、そうして髪型を除けばまるで双子の様にそっくりだった。

ギネは、少女の顔や手についた傷を見て頷く。

 

「ああ、今日も派手にやったね。訓練は順調かい?」

「うん、まあ、負けちゃうこともあるけど。」

「そうか、じゃあ、ご飯にしようか。」

「うん!お腹減った!」

「なら、その前にその汚れた服を着替えておいで。」

 

それに少女は自分のあてがわれた部屋へと向かう。そうして、その後ろを眺めていたギネは作った食事を温めるために台所へと向かった。

 

食事では、少女は今日あったことについてを忙しなく話す。母であるギネは、彼女への配膳をしながらそれをにこにことしながら聞いている。

戦闘種族サイヤ人。彼らの一族は、一般的にというのか、基本的にさほど情をもたない種族だ。戦いにおいて、生きるか死ぬかの環境ではそういった情はどうしても邪魔になる。そのために、家族間での愛情も又、薄いことが基本だ。

けれど、この母のギネという女は突然変異なのかどうなのか、平均から見れば明らかに悪く言えば甘く、よく言えば優しすぎる性をしていた。

戦闘能力もさほど高くなく、今では惑星ベジータで食料の配給員をしている。

ラディッツもまたその母に似たのか、情の深い性質であった。そう言っても、戦闘で手を抜くと言ったことはなかった。

少女は、下級戦士とはいえ、いくどもの戦闘を乗り越えサイヤ人でも一目を置かれる父のことを慕っており、父の様に強くなることを目指して日々鍛錬に励んでいる。

それでもやはり、親しい存在を前にするとギネに似た甘さというのか情の深さを出してしまうのだが。

 

「そう言えば、父さんは?」

「ああ、バーダックなら少し前に遠征に出ちゃったよ。当分は帰らないんじゃないのかな?」

「そうなのかあ。組み手の相手してほしかったのに。」

「なんだい、母ちゃんじゃ不満か?」

「だって母さん弱いもん。でも、父さんがいても、私の訓練に付き合ってくれたかなあ。」

 

ぶう、と口をとがらせる様は、本当に母親に似ていた。ラディッツの言葉に、ギネは生意気な、とじゃれ付くように少女の額を小突いた。

それに、ラディッツはくすくすと笑った。

その顔を見ながら、ギネは微笑んだ。

ラディッツは、バーダックが構ってくれるか不安そうであるが、何かと彼の男はこの娘に甘い。

その理由として、少女が彼にとって特別である母によく似ていることが大半としてあげられるのだが。

 

「まあ、いいや。そう言えば、母さん、今日は仕事は?」

「ああ、もう少ししたら出るけど。ご飯はしておくから、一人で食べてね。」

「うん。分かってる。カカロットと留守番してる。」

「あれ、いってなかったっけ?」

 

もごもごと食事をしながらのラディッツに、ギネは不思議そうに言った。

 

「カカロットなら、王城にいるよ。」

「え!なんで!?」

 

乗り出す様にギネの方を見たラディッツの口元についた食べかすを拭ってやりながら、答えた。

 

「忘れたのかい。今日は、王城で生まれた子供たちの戦闘力を確かめる日だよ。あの子も時期が来たんだから。」

「あ、それでかあ。会いに行けるかな?」

「うーん。たぶん、大丈夫だと思うけど。でも、人数がすごいから見つけるの大変だよ?」

「大丈夫、私、カカロットのお姉ちゃんだもの!」

 

うきうきとそう言って笑う少女に、ギネは本当によく似た顔で同じように微笑みかけた。

 

 

ラディッツは、とある施設の廊下をてとてと歩く。

すれ違う大人たちは、ラディッツを横目に見ながらもすぐに関心を失ってしまう。一応は、病院のような意味合いの施設だ。

ラディッツの傷だらけの様相を見れば、何となしに傷の手当てにやってきたことがすぐに察せられた。

王城に付随されたような形の病院は、ひどく広い。

ラディッツはそんな広い廊下の中で、赤ん坊たちが寝かされている部屋を探した。

本来ならば、こう言った時間も鍛練に当てたいという感覚はないわけではなかったが。それ以上に、ラディッツは弟に会いたいと思っていた。

何せ、初めての姉弟だ。

それに加えて憧れの父親によく似た、同じような顔の存在が他にいても、弟だ。ラディッツとしては、早く大きくなって鍛えてやれる日が来ることを心待ちにしていた。

 

「あ、ここか。」

 

少女は、とある大きな部屋にひょっこりと顔をのぞかせた。

そこには、大量の赤子用のベッドがずらりと並べられている。その多さに、確かにこの中から弟のベッドを見つけるのは難しいかもしれないとうーんと、頭をひねる。

そこで、部屋のどこからか大音量の泣き声がしてきた。

その声に、ラディッツは弟の居場所をすぐに察した。そうして、狭いベッドの間を練る様に歩き出した。

 

「ああ、カカロット、お前は本当に元気だなあ。」

 

ラディッツはひょっこりとベッドに顔を覗かせて、泣き喚く弟に話しかけた。弟はというと、唐突にベッドの端から顔をのぞかせた存在に驚いているのか、きょとりとしながらラディッツを見ている。

 

「まったく、泣き声だけは一人前だなあ。ほら、眠ってしまえ。」

 

ラディッツはそう言って、とんとんと、腹を軽く叩いてみる。いつか侵略しに行った星で見た赤子のあやし方をした。

サイヤ人が、基本的に赤子を保育カプセルに入れて育てる。そのためか、ラディッツは赤子のあやし方というものを知らない。だから、他の星で見たそれを真似してみた。

すると、カカロットは、それの何が気に入ったのかすやすやと夢の中に入ってしまった。

それを見ながら、ラディッツは、脳裏に何かが焼ける匂いと、爆撃の音と、そうして赤子を抱いて逃げ回る異星人の姿を思い浮かべる。

それに、ラディッツは、なんだか、という気分になる。それは、言い表すことは難しくはあるが、なんだか、という感覚だった。

けれど、それもすぐに頭の隅に追いやってしまう。

それよりも、少女は目の前の弟に夢中であったし、何よりもその感情が自分たちの種族には必要のないものであると何となしに察していた。

何よりも、彼女は目の前の弟に夢中であった。

頬をつんつんと突いてみると、驚くほどに柔らかい。によによと、思わず笑みを浮かばせていると、どこからか、微かな泣き声がしてきた。

本当に、微かな、弟と比べれば弱々しい泣き声。ラディッツは、その声に導かれるように辺りを見回した。

すると、よくよく見ればカカロットの隣りのベッドで愚図る赤ん坊の姿を見つけた。

それに、ラディッツは何となくその赤子が己の弟の声で泣かされたことを察した。

 

「ああ、ごめんな。うちの弟は元気過ぎるから。」

 

ラディッツはそう言いながら、その赤ん坊に体を向けた。弟に比べれば、本当に微かな声でひぐひぐと泣いていた。ラディッツは、赤ん坊の腹をとんとんと叩いてやる。

赤ん坊は、突然の闖入者にラディッツの顔を凝視した。それに、ラディッツは出来るだけ優しそうな声で、囁くように言った。

 

「ほら、大丈夫だからな。もう、何にも聞こえないだろ?大丈夫だ、大丈夫。泣くな、泣くな。」

 

そう言って、何時かに見た、どこかの星の母親の真似をして、ラディッツはその赤ん坊をあやし続ける。

赤ん坊は、その真っ黒で、大きな目でじっと少女の顔を見る。そうして、自分を泣かせていた声が聞こえていないことに、体の力を抜いた。

 

「よしよし、いい子だ。泣くなよ。大丈夫だ。お前はサイヤ人なんだから。きっと強くなれる。きっと、強くなる。ほこりたかいサイヤ人なんだから。怖いことなんて、なんにもないぞ。大丈夫だからな。」

 

ラディッツは、大人からの受け売りとそのまま言いながら、赤ん坊の腹をとんとんと叩いてやる。

赤ん坊は、腹を叩く一定のリズムのせいか、それともあんなにも響いていた泣き声が消えたせいか、うとうとと微睡み始めた。

 

「よしよし、そのまま寝ちゃえ。たくさん寝て、早く大きくなって、早く強くなるんだぞ。」

 

そう言って、ラディッツは、鼻歌を歌い始める。母親が、片手間にうたっていた歌だ。

よしよし、眠れと思いながら少女は微笑んだ。

そうして、すうすうと寝息が聞こえてくるのを確認すると叩いていた腹から手を離す。そうして、身を乗り出す様にしていたベッドから飛び降りた。

そうして、今度は暢気そうに眠っている弟の方を振り向いた。

 

「・・・・・よしよし、カカロットも寝たな。お姉ちゃんは帰るからな。明日も来るよ。当分は、ここにいなくちゃいけないだろうから。」

 

ラディッツはそう言って、そろそろと静かに部屋を出ていく。そうして、部屋を出ると、訓練場に向けて足を向けた。

もう少しすれば、弟も戦えるようになる。そうしたら、自分が彼らを鍛えてやるのだ。何よりも、弱い間ぐらいは守ってやらなくてはいけないだろう。

だから、もっと強くなろうと、ラディッツは意気揚々と足を速めた。

 

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