だいぶ、おそくなってすみません。
色々と大変なもので。
早めに、べジータとナッパはだしたいですが、あと、二話ぐらい続きそうです。
「・・・・おかあさん、おばさん。」
重い沈黙の中、幼い声にラディッツとチチは振り返った。そこには、心細そうな顔で佇む悟飯がいた。
チチはそれに慌てて悟飯に駆け寄った。
「どうしただか、悟飯ちゃん?」
「あの、おとうさんが。」
「悟空さがどうしたんだべ?」
「いなくなっちゃって。」
「い、いなくなったってどういうことだべ!?」
慌てた調子のチチの声を聞きながら、ラディッツは家の方を見ながら叫んだ。
「ピッコロ!どうしてですか!?」
ピッコロ、という名前にチチが反射的に身を固くしている中、渋々という体でピッコロが姿を現した。チチは身を固くして、悟飯の体を抱きしめた。
「・・・・孫悟空なら、神のやろうと一緒にいったぞ。必ず帰って来ると言い残してな。」
「はあ!?」
後ろでチチが驚きの声を上げる中、ラディッツは何となしに予想していたためか額を手で押さえため息を吐いた。
チチは、思わずという形で自分に背を向けているラディッツの肩に縋りついた。
「な、なら、悟空さは!?」
ラディッツはどう伝えようかとチチの方を見ていると、そこに無愛想な声が割り込んだ。
「死んだ。」
ラディッツは無言でピッコロの腹に肘を叩き込んだ。
ぐふと、呻き声を上げてピッコロが腹を抑えた。
「てめ!」
「・・・・気遣いというものをお前は察しろ。」
ラディッツは怒気を含んだピッコロ以上の圧を込めて睨んだ。ラディッツは、茫然とした様子のチチの肩を抱いた。
「チチさん。」
「ご、悟空さが、死んだ、なんて・・・・」
チチは、己の肩を抱いたラディッツに縋る様に視線を向けた。ラディッツは、それに、にっこりと微笑んだ。
その、微笑みは、さすがは姉弟というべきかどことなく悟空に似ているようにチチには思えた。そうして、彼女は柔らかな声でチチに囁いた。
「大丈夫。ドラゴンボールがあるでしょう?」
「ど、らごんぼーる。」
チチはおうむ返しのようにそう言った。ラディッツは、それに、頷いてチチの瞳をじっと見た。
「必ず帰るとあの子は言った。だから、きっと帰って来る。生き返る算段もある。」
「で、でも・・・・」
チチの中には、生き返ると分かっていても、膨れ上がって来る不安感に飲まれそうになる。
夫がいない今、自分はどうしたらいい?愛しい息子を自分だけで育てていけるだろうか?宇宙からやって来る存在のこともどうすればいい?
チチは、自分の足に縋りつく息子に目を向けた。
そこに、柔らかな声が囁いて来た。
「・・・・生き返るって分かってても不安ですよね。」
チチは、その声に誘われるようにラディッツの方を見た。彼女は、己と同じように深い悲しみを湛えた目でチチを見ていた。
「死んでしまっている間は、会うことも出来ない。連絡を取ることも出来ない。悟飯のことだってある。きっと、不安でたまらないと思います。」
でも、私は、側にいます。
ラディッツはそっとチチの手を握った。
「きっと、カカロットは帰って来る。それまでは私が傍にいます。私が、何を持ってもあなたたちを守る。大丈夫です」
その、手の温かさに、わけも無く安心してしまった。そうして、気づけば、チチの瞳から腹に溜まった不安感があふれ出してきた。
恐ろしかった。大事な人が、たとえ生き返るとしても、死んでしまうという事実は十分に重いのだ。
ドラゴンボールで生き返る?けれど、もしも、もしも、ドラゴンボールが使えなくなることがあったら?何か理由があって。無理になったら?
可能性がないわけではない。
一人で悟飯のこと育てていくのだって不安で。途方に暮れてしまう。
どうしよう、どうすればいい?
不安で、怖くてたまらない。
そんな時にかけられた、ラディッツの言葉はその不安感の中でまるで冬のかじかんだ手をお湯につけたかのような安堵感があった。
じんわりと沁み込んだその温もりに、チチはどうしようもなくほっとした。
ぐずぐずと啜った鼻と涙をぬぐうチチを、ラディッツは静かにその背を撫で続けた。
(・・・・よかった。)
ラディッツは、ほっと息を吐いた。
弟の名を呼びながら泣く女の肩の細さに目を細めて、ラディッツはため息を吐く。
ああ、これは弱者なのだ。
そんなことをしみじみと思う。
もちろん、チチとて彼女を知る者たちからすれば十分に精神的にも肉体的にも強い部類に入る。
けれど、ラディッツからすれば、精神面では何も言えないがそれは十分に脆かった。
(これも、私の落ち度だ。)
察せられなかったわけではないはずだ。
自分たちが、どんな生き物かを分かっていれば、弟がどんなことをするのか予想できなかったわけではないはずだ。
ラディッツは、今、拒絶されていないことに心からの安堵をする。
(・・・今だけは、私はここにいていい。)
ここにいてはいけないのだと、そんなことはラディッツが一番分かっている。けれど、それ以上にここにいたいという感情があふれ出しそうになる。
ここは、この地球という惑星はあんまりにも居心地がよくて。あんまりにも、風は穏やかで。
(・・・・嫌われよう。)
いつか、この惑星を出ていくとき、仕方がないと笑えるように。
何もかもが終わって、奇跡が起きて、何もかもが上手くいって丸く収まった時に、居心地の悪さを感じられるように。
自分が、己に王に殺される時、未練などを持たぬように。
(よかった。)
ラディッツは、無意識に笑みを浮かべていた。
愛しい、愛しい、女よ。
母と同じ声で、弟を愛してくれた女よ。
愛しい、愛しい、幼子よ。
弟によく似た、弱い幼子よ。
君たちが生きていくために、必要なことを全てをしよう。
嫌われる覚悟は決まった。
君たちの涙を、頬の柔らかさを、その温もりを知った。だから、自分はこれで満足すべきだ。
お別れの準備はすぐそこだ。
ぐうううううう。
チチは流れていた涙が引っ込む様な感覚がした。音の方を見れば、そこには顔を赤くしたラディッツがいた。
「す、すいません。朝から何も食べていないので。」
気恥ずかしさが勝ったのか、ラディッツは慌てた様子で目をウロウロとさせた。
その、何とも言えない緊張感のなさに、チチはなんだかおかしくなって、ふふふふと笑ってしまった。ラディッツの足もとには、悟飯が不思議そうな顔で見上げていた。
「おばさん、お腹へったんですか?」
「う、うん。恥ずかしいけど。」
ははは、と軽く笑ったラディッツに、チチは少しだけ背筋を正した。
悟空はいない。あの、男前だが戦うことが何よりも大好きな馬鹿亭主は、遠くに行ってしまった。
薄情な奴め。そう言いたくなるけれど。それでも、空しいことにチチはどうしても悟空のことが好きだった。息子のことが好きだった。惚れた負け、そう言えばいいのかもしれないが。
だから、今は、こう思うことにした。
自分が今、しなくてはいけないことをしようと。
「義姉様、飯にするべ!」
「え?」
チチがしなくてはいけないこと、それは、遠路はるばるやって来てくれたらしい義理の姉をもてなすことだと、彼女は思った。
それは、きっと、起こっているらしい恐ろしいことから目を逸らすことだった。そうして、チチには想像も出来ないほどの遠い旅路を来た姉への、そうしてかあさんと泣いた女への柔い労わりでもあった。
「ほれ、たんと食ってくれ!」
「わあ・・・・!」
机の上には、チチの自慢の手料理が乗っていた。
肉団子のゴロゴロと入った酢豚に、アツアツの回鍋肉、たっぷりと肉とニラの餡の入った餃子に、ほかほかと湯気が立つ中華まん。
それが、具体的にどんなものなのか、ラディッツには分からない。ただ、鼻腔を刺激するそれらが確実に旨い事だけは理解できた。
とっさに飛びつきそうになるが、それをラディッツはなんとか理性で止める。
サイヤ人は、元よりカロリー消費が激しい。別段燃費が悪いというわけではないのだが、いささか消費のほうが際立ってしまうのだ。
机の上には、数人でも食べきることが出来ないだろうが、ラディッツの食欲では容易く食べつくしてしまうだろう。
何よりも、皮肉な話だがラディッツの躾役のようなことを担ってしまった、べジータから叩き込まれた行儀と言えるそれが料理に飛びつくのを赦さない。
(・・・・我慢!我慢するんだ!)
ラディッツは、必死に遠征先でのことを思いだす。
遠征先で、サイヤ人が何よりも気にするのは何か。
戦術?相手の戦力?天候?気候?
どれでもない。サイヤ人が気にしなくてはいけないのは、遠征先にすぐに摂取できる食料があるかどうかだ。
もちろん、食料が配られないわけではない。サイヤ人と付き合いの長いフリーザ軍では、彼ら専用の超高カロリーの携帯食料を配布している。
けれど、それにも色々と限界があり、彼らも大食いにも伴って結局は現地調達が何よりも早いのだ。
そうして、もちろん、毒があるかどうかもしっかりと把握せねばならない。
ラディッツは、どんなに腹が減っていても毒かどうかを調べる間の忍耐を思い出して、手を握り込んだ。
けれど、ラディッツの口からだらだらと素直さの塊が漏れ出ていた。
「義姉様、たべねえのけ?」
「そうだよ、おばさん、食べないの?」
「い、いや、私は。」
居間には、ラディッツと悟飯、そうしてチチしかない。ピッコロは仲良しなどする気はないと、席をはずしていた。
ただ、ラディッツに言われて近くにいることだけは確かだ。
ラディッツはそれに、迷うように料理とチチたちを交互に見る。それに、チチは呆れたように笑い、言った。
「安心しろ。悟空さの食欲のことは、オラがよーく分かってるだ。義姉様もしこたま食うんだろ?ちゃんと、おかわりは用意してるべ!」
「え。ですが・・・・」
ラディッツは躊躇する様に言いよどむが、それでもその視線は料理に釘づけだった。
ぐうううううと、腹の奥から聞こえて来る餓えにとうとう我慢が出来なかった。
ラディッツはおもむろに箸を扱えないからと用意されたフォークを手に取った。そうして、料理に手を伸ばそうとしたが、何故かチチに止められた。
「いただきますっていうだ。」
「い、いただきます?」
「そうですよ、おばさん。」
ラディッツには、その言葉の意味は分からなかったが。それでも、彼らにとって何かしらの意味を成す言葉なのだろう。
それと同時に、それ以上に目の前の食事を食べたいという欲求でラディッツはおなざりにいただきますと叫び、食事をかっこんだ。
美味しかった。
それが、どういった風においしいかを表現する言葉をラディッツを持つことはなかったが。それでも、宇宙中をさまよい続けた彼女が感嘆するほどに、その料理たちは美味であった。
あの子も、これを食べていたんだ。
こんなおいしいものを食べて、あの子はここで育ったんだ。
それは、今、この料理たちを食べていること以上に幸福だと思えることだった。
ラディッツに伴って、悟飯もその血を裏切らない勢いで食事をかっ込んでいく。それを、チチが嬉しそうに目を細めて見ていた。
それは、どうしようもなく、幸福な世界だった。噛みしめた料理は、きっと、昔に食べた母の料理と同じほどに旨かった。
食事を終えた後は、もっぱらラディッツがチチの話を聞くことになった
チチとしてもラディッツの今までを聞きたかったが、苦笑交じりに誤魔化されたため、黙っておくことにした。
話は尽きなかった。
チチは、悟空とのなれそめや今までの生活の話を湧き上がってくるままにラディッツに話した。ラディッツは、始終、弟がすまないと申し訳なさそうな顔で聞いていたが。
それでも、その顔は心底楽しそうだった、嬉しそうだった、幸福そうだった。
だから、チチも嬉しくなってしまう。
自分たちの生きる日々を、心底愛おしいと思ってくれる人の存在を嬉しく思うのだ。
そうして、さすがに眠らなくてはいけない時間になり、チチは一人で布団に潜り込んだ。隣には、夫の姿はないがそれでも不思議と大丈夫だと思った。
また、きっと、ひょっこりと帰って来るのだと思えた。
(・・・・明日は、二人に何を作ってやろうかなあ。)
チチは悟空とよく似た表情で食事をする二人のことを考えてくすりと笑い、瞳を閉じた。
・
・
・
・
「・・・・おはよう。」
何故か、自分が硬いものの上に横たわっていることに気づいた悟飯は、疑問に思う。一瞬、てっきりベッドの上から転げ落ちたのだと幻想を抱いたのだが、くんと香る土の匂いに悟飯は気づいた。
起き上がって、慌てて周りを見るとそこは見覚えのない荒地だった。
そうして、自分の目の前には淡く笑う伯母とピッコロが立っていた。
「お、おばさん?あの、ここ、どこですか?」
少なくとも一人でないことに安堵して悟飯はほっと息を吐く。ラディッツは、それに淡く笑ってゆっくりと屈みこんだ。
「・・・・なあ、悟飯。これから、私よりも強い奴らが来るのは知ってるよな?」
「は、はい。」
周りの会話を聴いていた悟飯は現状をちゃんと理解していた。そいつらを倒すために、己の父親がどこか修行に行ったらしい。
ああ、寂しいから早く帰ってこないだろうか。
良くも悪くも向こう見ずで強い父親は悟飯の自慢であった。少々、泣き虫な気があるという自覚のある彼からすればいつも笑っている父親は憧れと言ってよかった。
母が泣いていた。悟飯は、それにどうすればいいのか分からなくて途方に暮れてしまったけれど、目の前の伯母は簡単に泣き止ませてしまったのだ。
きっと、父とは違う形で伯母はすごい人なのだろうと悟飯は思った。
そんな伯母とこんな荒れ地にいるの一緒にいるのだろうか?
悟飯の頭の上には、はてなのマークが浮かんでいた。
「実はね、私たちも彼らに対抗するために修行しようかと思うんだけど。君のことも鍛えようと思ってね。」
「え?!」
悟飯はおののく様に、一歩後ろに下がった。
「そ、そんなぼく戦った事なんてないよ!」
「だから戦い方を教えるんだよ。」
「で、でも、なんでぼくをきたえるの?おとうさんたちが戦うんじゃないの?」
「逃げる為だよ。」
ラディッツの言葉の意味が、悟飯にはよくわからなかった。ラディッツは、そっと両手で悟飯の頬を覆った。
「いいかい。悟飯、私や悟空は、これから君を守ってあげられないかもしれない。」
頭がその言葉の意味を理解しようとするが、混乱した頭がそれを拒絶する。
「ぼ、ぼくこわいよお。」
けれど、ラディッツはそれを気にすることも無く言葉を続ける。
「怖いから、逃げるんだ。」
いいかい、悟飯。もしも、私たちがいなくても君だけは生き延びるんだ。生き延びて、自由に生きるんだ。怖いものからなんて、逃げてしまえ。逃げて、何もかもを無視して好きに生きるんだ。
お前は、サイヤ人だ。そうして、チチさんの子だ。縛られることなんて、ないのだから。
分からないことばかりだった。分からなくて、意味不明で。
今、自分に何が起こっているのか全く分からなかったけれど、その言葉になんだか息のつまりそうな願いがあった。
悟飯は、どうすればいいのか途方に暮れる。
鍛えると言われても、戦ったこともなければ、そんなことをするのだって怖くて仕方がない自分に何が出来るのだろうか。
逃げろとは、何だろうか。
縛られるとは、何だろうか。
分からない、分からない、分からない。
それでも、その願いを叶えなければならないと思う。それは、何故かはわからないけれど、叶えなければならないという圧迫感があった。
そこで、焦れたらしい後ろにいたピッコロが簡潔にことを言った。
曰く、悟飯はこの砂漠の真ん中にあるオアシスで一人で生活することになっているのだという。
無理だという悟飯に、彼は無慈悲に告げる。
もしかすればお前の手を借りなくてはいけない。だからこそ、今は戦うために精神面を鍛えるためにここで生き延びろ。
単的に言われたそれに、もちろん悟飯は首を振った。
当たり前だ、自分がこんな所で生きていく術など持っていないのだから。
激しく拒絶する悟飯に、ラディッツは静かに手を掲げた。
「・・・・そうだね。試してみようか。」
そう言って、ラディッツはゆっくりと手を振り上げた。それと同時に、悟飯はぞわりと寒気が走った。
悟飯を見下ろすラディッツの瞳から、柔らかな穏やかさが絶え、寒気のする冷たさが辺りに広がる。尻尾の根っこがぞわぞわと震え出した。
駄目。
何かは分からない。ただ、わけのわからない警報のような感覚が広がった。
そうして、その拳が己に振り下ろされるのがゆっくりと見えた。
ぶつり、意識が断裂したような感覚と己の中から何かがあふれ出した。
「・・・・うん。やっぱりね。」
気づけば、悟飯はまるで隕石が落ちたかのようなクレーターの中心に立っていた。そうして、その声は己の頭上から聞こえた。
そこには、ピッコロを脇に抱えたラディッツが心の底から嬉しそうに微笑んでいた。
「それが、お前の力だよ。」
いつも通りの、柔らかな声が辺りに響いた。
「・・・・それがお前が一生をかけて付き合わなくちゃいけない力だ。」
「こ、怖いよ!」
ラディッツの言った言葉の意味を全て理解したわけではなかったけれど、それでも自分のなしたことに、なせることに悟飯はおののいた様に震えた。
ラディッツは、悲しそうに目を伏せて、首を振る。
「その力に私たちは縛られる。生きているだけで、誰かのこと傷つけてしまうことだってある。悟飯、いい機会だ。お前は、ここで少し自分の力を認識しなさい。そうして、覚悟を決めなさい。その力を付き合っていく覚悟を。それとも、使わなくても生きていける方法を考えなければいけない。誰かを傷つけるにしろ、誰も傷つけないにしろ。逃げられなんてしないんだから。」
お前は、サイヤ人なのだから。
やっぱり、その言葉の意味を正確に理解できなくて。
悟飯は、茫然と飛んでいく伯母を見送った。
ただ、恐ろしかった、途方に暮れた。どうすればいいかわなんて分からなかった。
けれど、悟飯は心の奥底で、少しだけ安堵したのだ。
己の持っている力を初めて認識して、少しだけ、ここならば誰も傷つけることはないのだと少しだけ安堵したのだ。
「いい加減、離しやがれ!!」
「ああ、ごめんよ。」
力を解放した悟飯から逃げるために、ラディッツに捕獲されていたピッコロはそう怒鳴って彼女の手を振り払う。
ラディッツは、苦笑交じりに手を離した。
二人は、チチに見つからないうちにと朝早く家を出て、悟飯を鍛えるために砂漠の中心にあるこの荒れ地に連れてきたのだ。
家には、簡単な事情を書いたメモを置いて来た。
(・・・・ピッコロが字が書けて良かった。)
ラディッツはそんなことを考えながら、悟飯に対して意識を向ける。
ラディッツは、悟飯のことに関してさほど心配はしていなかった。
何故ならば、悟飯はサイヤ人だからだ。その血は、相当のことがない限り、あの幼子を生かすだろう。それは、自分たちが弱者であることを赦さない。
そうして、家で混乱しているだろうチチへと意識を向けた。
「さて、私はこれからチチさんの所に悟飯のことを言いに行くから。お前は悟飯のこと見といてくれないかな?」
「・・・・置手紙だっておいて来た。過保護が過ぎるぞ。」
「まあ、いいじゃないか。これからやって来る存在のために悟飯を鍛える。それは、お互いの共通の方針だろう?チチさんも、心配してるだろうし。」
「何故、そんなことを気にするんだか。あの女が何を思おうと、どうだっていいだろう。そうしなければ、あの餓鬼おろか自分さえも死ぬというのに。」
「・・・・それでも、己の子を手放す親はそうそういないさ。まあ、人に依るかもしれないが。」
私は、これ以上に母親から子を引離したくないんだ。
ラディッツはそう言って、ゆるりと瞳を細めた。それに、ピッコロは苦々しい気分になる。
この女に会った時から、散々振り回されている。
もちろん、悟飯を鍛えるのには、賛成だ。
己では勝機が薄いのは自覚している。
だが、死ぬならばそこで仕方がないとも思っている。戦うとは、まず心が強くなければならないのだから。そうでないならば、戦う前に死んだほうがよほど幸福というものだ。
ピッコロは苛々とラディッツを睨む。
目の前の女は弱い。
それは、身体的な意味ではない。その心が、あまりに弱いのだ。だというのに、女はピッコロよりも数段強い。
それが、たまらなくイライラする。
ピッコロには何もない。ただ、遠い昔、彼の父親と言える存在に託されたそれだけだった。だから、それのために、己の力を鍛え続けた。
だというのに、強くなること以外に、たくさんのことを抱えても女は己よりも強い。
目の前の女が強いのは事実だ。だが、その女の弱さがたまらなく、ピッコロには腹立たしい。己より強者であるはずの存在が、そんなにも簡単に揺らいでしまうことがたまらなく嫌だった。
「・・・・大体、あの女も、あの餓鬼もあんな力を何故鍛えようとしないんだ?宝の持ち腐れだろう。」
不満げなピッコロに、ラディッツは苦笑した。
「そりゃあ、悟飯たちは人間だからだよ。」
その言葉の意味が分からずに、ピッコロは訝し気に顔をしかめた。それを見て、ラディッツは微笑んだ。
「どうやって生きていくかじゃなくて、どんなふうに生きていくかを選べるのは人の特権だ。あの子は、自分の力を使いたくないことを選ぼうとしていた。それだけさ。」
意味が分からないと思った。
ピッコロには、その言葉の意味がピンとこない。
ピッコロにとって、生きるとは託された願いを遂行することだった。悟飯の強さとて、せっかく受け継いだものを何故、高めないのか。
ピッコロの人生とは、彼の父の人生の補完のためのものだった。
賢しい彼には、分からないという感覚が心の底から不快だった。
そんな彼のことなど気にしていないのか、ラディッツは独り言のように呟いた。
「・・・・嫌われてしまうかな。」
悟飯にも、チチにも、カカロットにも嫌われてしまうなあ。そうなら、私は本当に一人ぼっちだ。
そんな言葉を聞いて、ピッコロは嘲笑うように息を吐いた。
「ふん。下らんな。」
俺は、生まれてから恐れられる存在だ。孤独であることを何故、畏れる。余計なものなどいらんだろうに。
その言葉に、ラディッツは心の底から嬉しそうに笑った。
「それは、嬉しいね。」
「はあ?」
「自分と同じものがいると分かると、なんだか安心するよ。」
一人ぼっちが二人いれば、寂しくないなあ。
そう言ってラディッツはくるりとピッコロに背を向けて、どこで修行するかなあ、などと呟いた。
ピッコロは、その後姿を驚きながら見た。
これから、一年間、目の前の存在に鍛えられる予定ではあるが。面倒なものに関わったことをひしひしと感じてため息を吐きたくなった。
次回は、もっと早めにあげられるように努力します。