泣き虫なサイヤ人   作:丸猫

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天国には行かない

 

ピッコロにとって、ラディッツとは鬼の一言に尽きた。

ラディッツは、ピッコロの予想通り良くも悪くも温和であった。けれど、いささか容赦というものにかけていた。

修行は、ただ、ひたすらにラディッツと組み手をするというものであった。

が、ラディッツは手加減というものが徹底的に下手であった。宇宙でも選りすぐりの戦士が集められたフリーザ軍では、ラディッツは弱者であった。そのため、手加減をするという機会がまったくといってなかったのだ。

ラディッツは実力のままにピッコロを弄り倒した。

大きな声では言えないが、数回ほどピッコロの手足がもぎ取れるという事件があったのだが。

 

「お前、手足が取れても生えて来るの!?よかった、手加減の心配しなくてもいいんだ!」

 

その時の心から嬉しそうなラディッツの顔を、ピッコロは一生忘れないだろう。ラディッツは悟飯を鍛える手加減のための練習をピッコロでしていたのがその非道さを一押ししていた。

チチをなだめすかした後、ラディッツとピッコロはブルマの元に向かった。何故かというと、ラディッツが重力操作の出来る環境を望んだせいだった。

曰く、サイヤ人はこの星の十倍の重力の中で生活していたのだという。

最初からそんな環境で生活していれば、それこそ地球なぞ温すぎる場所だろう。ラディッツに問われたピッコロは、そう言えばと思い出す。

悟空とつるんでいた水色の髪の女が優れた科学者であったことだ。

ラディッツはそれにピッコロを引きずってカメハウスへと戻ったのだ。そこには、予想通り科学者の女、ブルマがいた。

結論だけを言うならば、重力操作の機械は作ってもらえることになった。地球の危機だと、彼女も頷いた。

 

(・・・・あの女のはしゃぎようもすさまじかったが。)

 

科学者としてブルマはラディッツの持つスカウターに反応した。ラディッツも、警戒していた通信装置の部分は取り外していたため、彼女にスカウターを渡した。

瞬時にスカウターの仕組みを理解したブルマに、ラディッツは興奮気味に天才だと叫んでいたのはピッコロの印象にも残っている。

てっきり、強さだけに興味があるのかと思っていたが、そうでもないようだった。

 

「・・・・ピッコロ。続き、いいかな?」

「ちっ!分かっている!」

 

人気のない山奥にて、座り込んでいたピッコロは目の前の女を睨んだ。

それを見て、ラディッツは苦笑する。

自分が手加減が下手な事は重々承知な為、どうしても目の前の存在への扱いが荒くなってしまうことは申し訳なく思っているのだ。

 

(・・・・真面目な子だなあ。)

 

ラディッツのピッコロへの評価はその一言に尽きた。

ピッコロの目的が地球の征服であり、そのために悟空を殺そうとしていたことはブルマから聞いた。

それに、ラディッツは、ピッコロの気真面目さに驚いた。

ラディッツの、望んでいなかったとはいえ幾つもの星を征服してきた彼女から言わせれば、星を征服するのにそこまでの手順は必要ない。

征服とは、心を折ることであるとラディッツは考える。

フリーザ軍は、高い軍事力を持って住民の心をへし折る。もちろん、のちの怨恨などを理由に皆殺しが基本であったが。

ピッコロの願いというのは、侵略ではなく支配のようだった。

ならば、現在国というものを管理している部分を乗っ取り、システムを丸々使ってしまえばいい。それがだめなら、上だけを綺麗に壊して混乱に乗じて支配するというのも手だろう。

何よりも、わざわざ自分の脅威になる悟空と真正面から戦って殺そうとしているなんて気真面目以外の何物でもないだろう。

 

(カカロットが邪魔で勝てないなら、真正面から行く必要はない。人質でも取って、毒でも飲ませればそれで終わりだ。態々正面から行かなくてもいいのに。)

 

自分たちのように、強いものと戦うのが何よりの娯楽というのなら分かるのだが。態々、正攻法で戦って悟空を潰そうと修行を重ねるピッコロは、ラディッツの中で気真面目な印象がもたれていた。

ラディッツにとって、悪とはフリーザであった。それに比べれば、どうしてピッコロの悪徳とはぬるかった。

 

(・・・・悪い子じゃないんだよなあ。)

 

ラディッツは自分に向かってくるピッコロを殴り飛ばしながら、そんなことを考えた。

 

 

悟飯を回収し、修行を付ける時になってもその容赦のなさは相変わらずであった。というよりも、悟飯がラディッツに食いついて行けば行くほどに、彼女は嬉しそうに悟飯をぶちのめした。

それには、少しピッコロも同情してしまう。

ラディッツは、ピッコロと悟飯にまず気を出来るだけ自由にコントロールできるようにと指示をした。

 

「気を、ですか?」

「そうだね。戦闘力、悟飯たちから言わせれば気だっけ?あれのコントロールが出来る様になれば一番いい。はっきり言って、悟飯は資質があることは認めるけど、それを引き出す時間も足りないし、経験も積めない。なら、一瞬の爆発力にかけるのが一番だからね。ベジータは、どうしようもないけどナッパなら何とかなるかもしれないし。」

「・・・・そう言えば、やってくる奴らには弱点はないのか?」

「え?」

「やってくる奴らとは身内なんだろう?」

 

ラディッツは目を丸くし、きょとりとピッコロを見た。ピッコロはその様子を鼻で笑った。

 

「ふん、身内を売ることは出来ないとでもいうのか?」

「あ、いや。そんなんじゃないよ。うん、ただ。」

 

ラディッツはそこで言葉を切ったが、軽く首を振って口を開いた。淡く、哀とも喜ともいえない笑みを浮かべた。

 

「そうだな、まず、やって来るのは二人いる。一人は、ナッパ。あの人はまず耐久力がすごい。エネルギー波。そうだな、ピッコロが見せてくれた魔貫光殺砲だっけ?あれでもだめだろうなあ。私の戦闘力は1600ほど。ナッパは6000。単純な計算で四倍。急所を狙って少しずつ削っていくしかないかなあ。」

「お、まえの四倍だと!?」

「単純な計算でね。といっても、戦闘力っていうのは所詮は体内のパワーだとか体力だとか、そういった数値化できるものでしかないから、当人の戦闘技術とはまた別物だからなあ。」

「あの、ベジータって人はどれぐらい強いんですか?」

 

悟飯の言葉に、ラディッツは目をキラキラとさせた。そうして、高らかに宣った。

 

「ふっふっふ、よくぞ聞いたな、悟飯。いいか、まず、知っておくべきなのは、ベジータは私たちサイヤ人の王子、つまりは王様なんだ!」

「お、うさまですか?」

「そうだ!ベジータは、賢く、冷静で、残忍で、揺るがず、そうして何よりも強い!!」

 

まさしく、私たちの王に相応しい男なんだ。

 

ラディッツはそう言って、悟飯に目をキラキラとさせながらその、ベジータという男について語る。

 

「そりゃあ、ちょっと残忍だし、冷酷過ぎるし、薄情だけど誰よりもベジータは強いんだ!きっと、悟飯だって、きっと。」

 

気に入って。

 

その、最後の言葉はふっと空気に溶ける様に微かなものだった。

ラディッツは、茫然とした顔で悟飯を見つめた。そうして、気が付いたかのように、頭をがりがりと掻いて立ち上がった。そうして、申し訳なさそうな顔で微笑んだ。

 

「ベジータは強い。そうだな、だから、お前をそれぐらい鍛えなくちゃいけないんだなあ。難問だ。すまないな、変なことを言った。さあ、修行の続きだ!」

 

ラディッツは、そう言って、何もかもが平気というような顔をした。

悟飯には、それが嘘ではないと思った。けれど、なんだか、ひどく寂しそうだった。

 

 

 

 

 

 

修行が一段落した夜。

悟飯は、安全を考えた岩の上で丸まっていた。体は確かに疲れていたが、寝付くことが出来ずにぼんやりと考え事をしていた。

悟飯は、ラディッツとピッコロのことが嫌いではない。というよりも、好ましいと思っていた。

確かに、二人は、悟飯の望まない戦闘を強要した。

ラディッツは、悟飯を躊躇なく吹っ飛ばすし、ブルマという人が作った重力室に放り込んだりする。けれど、悟飯の攻撃が入った時など、まるで自分の事のように心から嬉しそうにしてくれる。

ピッコロは普段ラディッツよりも数倍厳しくあったが、悟飯の頑張りを確かに認めてくれた。元より、悟空に似たためか人を嫌うということが悟飯はあまりない。

戦闘技術だってサイヤ人の血を引く彼はみるみる吸収した。自分が少しずつ積み上げていく何かが、誇らしくなかったと言えば嘘になる。

組み手で一本取った時の達成感なんて言い表せないほどだ。

何よりも、少しだけ、憧れた父に近づける気がして嬉しくなる。

 

(・・・・・おばさんは、ベジータって人のこと、好きなのかな?)

 

ベジータという人のことを話すラディッツは、本当に嬉しそうだった。

ベジータという人を追い返すために悟飯はこうやって己を鍛えている。けれど、その顔を見た時に思ったのだ。

おばさんは、辛くないのかと。

悟飯は、そっと起き上がり、近くにいるはずのラディッツを探した。そうして、それを薄目を開けてピッコロが見送った。

 

 

「・・・・おや、悟飯。」

 

悟飯たちから少し離れた所に、ラディッツはいた。彼女は、岩を背に空を見上げていた。悟飯はそろりと彼女に近寄る。ラディッツは淡く笑いながら、自分の隣りをぽんぽんと叩いた。

座れという意味だと察して、悟飯はその隣に腰を下ろした。

 

「どうかしたのかい?」

「・・・・ううん。」

 

ラディッツはそう言って、優し気に微笑んだ。その顔は、父はもちろん、母にだって似ていない。けれど、その表情が悟飯は大好きだった。

 

「おばさんって、お祖母ちゃん似なんですか?」

 

何故か漏れ出たその言葉に、ラディッツは驚いたような顔をして、見るかいとスカウターを外した。

悟飯が自分に差し出されたスカウターを覗き込むと、小さなモニターに色味の少ない画像が映し出された。

 

「わあ・・・・」

 

そこには、父とよく似ているが少々目つきが悪く顔に傷のある男と、そうしてラディッツによく似た母と似た雰囲気の女性。そうして、父とよく似た少年が写っていた。

 

「ほら、こっちの男の人がお前のおじいちゃん。荒っぽいところもあったけど、母さんのことを大事にしてたよ。そうして、ものすごく強かったんだ!私の憧れだ。で、こっちはお前のおばあちゃん。料理上手な人だったなあ。優しくて、私のことを心配してくれてたよ。」

 

ラディッツはそう言って、指先で示しながら、悟飯に言った。悟飯は、自分の父とよく似た祖父だという男をじっと見た。

 

「おばさん、この人は?おとうさん、じゃないですよね?」

「・・・・ああ、こいつは、私の弟分です。」

「弟?」

「血が繋がってるわけじゃないんだけどね。ただ、家族みたいに一緒にいたんだよ。」

 

ラディッツはそう言って、その少年の顔を指先でなぞった。まるで、そこにいた誰かを思うように。

ラディッツの表情に、悟飯は何となく言った。

 

「今、どこにいるんですか?」

「分からない。」

「え?」

「・・・・君のお父さんがこの星にやって来てすぐに行方不明になってしまってね。きっと、死んでしまったと思うよ。よく、あることだったけれど。あいつは、しぶとさだけはあると思ってたんだけどねえ。」

 

ラディッツは、静かで、そうして寂しくなるような、雨の夜のような笑みを浮かべた。

 

サイヤ人なら、よくあることなんだ。明日も、またねなんて言葉ほど信用できない言葉も無くてね。あいつは、弱い方だったから。

 

そう言って、ラディッツは穏やかに微笑んだ。そこに、悲哀はなかった。ただ、何か、折り合いをつけてはあった。けれど、見ている者が寂しい、寂しいと、苦しくなるような顔でラディッツは微笑んだ。それに、悟飯は思わず言った。

 

「・・・・おばさんは、辛くないですか?」

「何がだい?」

「ベジータって人と戦うの、辛くないですか?」

 

ラディッツはそれに、一瞬だけ感情を消し、目を伏せた。そうして、無言で夜空を見上げた。

 

「分からない。」

 

一言だけの返事が、どこまでも本心の様だった。

 

「わからないんですか?でも、おばさん、ベジータって人と仲良かったんじゃないんですか?」

「うーん、悟飯。お前さんは少し勘違いをしてないか?私は確かにベジータと行動を共にしてたけど、あいつのことが好きだったわけじゃないからな?」

「でも、おばさんベジータって人のこと話すとき本当に楽しそうでした。」

 

そりゃあね、とラディッツは肩を震わせた。そうして、遠い昔のことを語る様な老いた表情をした。

 

「私にとって、ベジータはこの世そのものだったからな。」

 

悟飯は、その台詞の意味が分からずに首を傾げた。その表情にラディッツは申し訳なさそうにその頭を撫ぜた。

 

「ああ、ごめん。ちょっと分かりにくいか。そうだな、分かりやすくだね。私やお父さんの故郷の星が滅びたのは知ってるね?」

「はい。」

「その時、私は本当に、辛くて。どうやって生きていけばいいのかもわからなくて。ただ、ベジータだけが私に生きていく理由をくれた。」

 

例え、それがどれだけ身勝手で、ラディッツのことなんて考えていなくても、それでもその言葉は救いだった。

 

「そりゃあ、ベジータは冷酷だよ。でも、それでも、あいつは誰よりも賢しく、そうして強い。私にとって、ベジータはサイヤ人の象徴だった。どれほど、他の人からすれば酷い奴でも。それでも、私にとってベジータは希望だった。」

 

ほっとしたんだ。例え、私に何があっても、ベジータさえ生きていればサイヤ人の誇りは失われることはないって。だから、故郷が滅びた時思ってしまったんだ。カカロットのことを覗けば、私はいつかベジータのために死ぬんだろうって。

そうすれば、少しは、サイヤ人らしくない私でも、サイヤ人の誇りを守ることに繋がるんじゃないかって。

 

「まあ、べジータと戦うことに関しては本音を言えばね、勝てないだろうなって思うのと。あと、私はわくわくしてるんだよ。私にとって、ベジータは何を持っても優先し、そうして生き残ってほしいと思う憧れだった。そんな存在と、本気で戦うことに私は高揚している。怖くはあるけれどね。」

 

少し、破綻的に過ぎるかもしれないけれど。そう言って、彼女は笑った。悟飯には、ラディッツの言いたいことが全て理解できたわけではない。

それでも、ラディッツが辛がっていないことを察して悟飯は納得した。

それと同時に、もう一つ、心の中で思い浮かべていた疑問を口にした。

 

「おばさんは、本当に酷い人なんですか?」

「お前の言っている意味が、悪人であるかというなら是だよ。どうしてそんなこと聞くんだ?」

「だって、おばさんのこと、酷い人だって思えないから。」

 

悟飯の言葉に、ラディッツは虚を突かれたような顔をした。そうして、軽く首を振った。

 

「いいや。お前さんからすれば、私は十分に悪い人だ。」

「悪い人っていうけど、おばさんは何をしたの?それに、ぼく、おじいちゃんやおばあちゃんに、あと、弟だって人が悪い人って、思えないよ。」

「・・・・そうだなあ。それは、ちょっと言えない。」

「どうして?」

「お前に嫌われたくないから。だから、今は話せないけれど。そうだなあ。言い訳だけはさせてくれるか?」

 

悟飯がこくりと頷くと、ラディッツはありがとうと頷いた。

 

「私たちは、まあ、星からもともといた住民を追い出して、他に売るっていうことをやってたんだ。もちろん、もともといた住民たちからすればいい迷惑だろうさ。でもな、それに救われた奴らだっている。」

「救われる?」

「・・・・星を買う奴らの理由はそれぞれだ。金持ちが別荘だとかのために買うとか、実験なんかの為だとかな。そうして、自分が住んでた星が滅んだ奴。」

「星って滅ぶんですか?」

「ああ、惑星にも寿命はある。そりゃあ、ただの生き物からすればずっと長いが。文明が長く続けば、滅びに当たる世代は出て来る。他にも、隕石の衝突だとかもあるけど。けど、新たに住める星を見つけるのだって手間だし。全住民が生活できる規模の星に、住める環境がいる。特に、特殊な、例えば水の中で生活してるなんて条件だと新たな星を開拓するのも難しい。」

 

お礼をな、言われたことがある。

 

ラディッツは何とも言えない、表現の出来ない感情を湛えた瞳で、幾つもの星を見上げた。

 

「涙ながらにな。これで、誰も死ななくていいって礼を言われたことがる。誰かから奪った星だって承知の上でな。それでも、そいつらは生き残りたかった。死にたくはなかった。誰が悪いわけでもない。もしかしたら、フリーザ軍が星を売らずとも、救われる手段はあったかもしれない。けれど、私たちにもそいつらを救えたのだって本当だ。」

 

誰も死なせたくないから、誰も失いたくないから、奪った。

それは、悪いことなのか。

 

悟飯はどう思う?

 

ラディッツの言葉に、悟飯は途方に暮れる様な気持ちになる。

悟飯は、少なくとも、今の幼子には答えが見つからない。

誰かから盗るのは悪いことだ。

けれど、その人がものすごくそれが必要だったら?

例えば、悟飯がものすごくお腹が空いていて、目の前に食べ物があったら、それを悟飯は食べてしまうかもしれない。

悪いことかもしれない。それでも、悟飯だって、理由があれば悪いことをしてしまうかもしれない。

 

悩む悟飯を前に、ラディッツは薄く笑った。

目の前の甥っ子が悩んでいることは、答えを出すことが難しい面がある。

彼女がいたフリーザ軍は、確かに他からすれば悪ではある。

けれど、フリーザ軍にも他者への救済といえる部分があった。

フリーザ軍は、ある程度の強さや特技さえあれば、入隊を許可される。

入隊さえすれば、面倒な上下関係は在れど、衣食住は確実に配給される。

それは、スラムなどの貧しい環境にいたものでも同様に与えられる。その身一つで生活を保障されるフリーザ軍は持たぬ者にとってはありがたい救済措置だった。

何よりも、フリーザは己の力に絶対的な自信をもっていたこともあってか、才能のあるのものを好んでいた。

字を知らぬものがいれば、簡単な教育を受けられる。何かしらの才能があれば、それにあった教育を受けさせてもらえる。

ラディッツの記憶では、ギニュー特戦隊もその口だったはずだ。

ギニュー特戦隊は、確か孤児の中からフリーザが教育したものだったはず。幼いころからの教育の為か彼らの忠誠心はひどく高い。

手柄を立てれば、それ相応の見返りが返って来る。

 

(貧しさの中に善人がいないとは言わないけど。それでも、良心は豊かさの中にこそ持てるものだろうな。自分の命が危うい時、他の存在を優先できる慈悲深い奴なんてそうそういない。)

 

宇宙にも、もちろん正義と言える宇宙パトロール、警察のようなものもあった。けれど、それに入るには、それ相応の高等教育を受けていなくてはいけない。正しい側に行くには、豊かさが必要になるなんてひどい皮肉だろう。

それを持たぬものこそが、何よりも正しい救いの手を求めるものだろうに。

 

「まあ、深く考えんな。考えたって仕方がないからな。」

「でも、ぼく、おばさんたちがどんな人か、考えたくて。どうすればいいか、分からないんです。」

「ふむ、悟飯、お前さんは少し勘違いをしている。悪であるからと言って、情がないわけでは、誰のことも愛していないということはイコールではない。悪人だって、誰かのことを好きになったり、大事にすることはある。すべからく、誰にとっても悪というのはなかなか存在しないものだよ。」

 

悪や正しさというのは、所詮人の生活の中で必要になる倫理に敵っているかどうかだ。誰かのことを愛する悪人もいれば、一生誰のことも愛さない善人だっているだろう。愛情とは、知性を持った時点で誰にも纏わりつく楔だ。

ラディッツは、そう考える。

誰にとっての悪にも正義にも、なれることはないだろう。

ラディッツは、いつか地獄に行くだろう。天国には行けないだろう。

天国には、行ってはいけない。

それは、ベジータも、彼女の両親も同じだ。

けれど、サイヤ人が、人生の全てで悪人であったわけではないのだ。

彼らは、彼らなりに、優しさも慈悲も情も持っていたのだ。

 

「悟飯、お前には、少しだけ複雑すぎるから、もう少し大人になってから考えればいいさ。お前には時間がたくさんある。お前が、分かっておけばいいのは、一つだけだよ。」

 

私は、お前の幸福を祈っている。お前の、おじいちゃんもおばあちゃんもそう思っていた。お前のことを、愛しているんだよ。たとえ、どれほど私たちが悪党でもね。

 

その言葉は、どこまでも優しくて。

ただ、頭を撫でた手が、今まで酷いことをしてきたなんて信じられなかった。

だから、悟飯は納得することにした。

ラディッツは、酷い人であったらしい。けれど、けして、酷いことをしてきただけの人ではないのだと。

 

 

 





申し訳ない、またべジータたちまで辿り着けない。
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