泣き虫なサイヤ人   作:丸猫

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諸事情でネットに繋がりにくい環境にいくため、更新が遅くなりますのでご容赦ください。


それは憧れに似て

 

 

「・・・・・何か、用でしょうか?」

「ふん。貴様に怖気づいたという事実を残していては、ピッコロ大魔王の名が廃るのでな。」「申し訳ありませんが、私にはその、ピッコロ大魔王が何なのか、まったく見当がつきませんので。私が、あなたに言えるのは、あなたでは、私に勝てないという事実だけです。」

 

二人は、互いに向かい合っていた。

ラディッツの目の前に降り立った、ナメック星人と思われるピッコロはそれに、歯噛みする。

ラディッツの言うことは事実だった。

ピッコロは、口惜しくなりながら、目の前の存在に勝てないと理解できていた。

けれど、戦いもせずに己の心が負けたと認めることだけは嫌だった。

 

「・・・・何よりも、そんな気分でもないので。今は、手加減が出来ませんから。」

 

死にたくないなら、立ち去りなさい。

 

ラディッツは短くそう言い捨てると、ピッコロから背を向けた。全くと言っていいほど、興味がないという様子に、ピッコロは大声で引き留めた。

 

「待ちやがれ!!それで済むと思ってるのか?」

「済むもすまないもない。お前に、私の行動を制限できる力も、権限もない。君は、私よりも、弱い。」

 

ラディッツの言葉も無視して、ピッコロは徐に来ていたマントとターバンを脱ぎ捨てた。

それに、ラディッツのスカウターが計測していた戦闘力が上がる。

マントとターバンが錘であったことを察した。

だから、何だという話でもない。目の前の存在は、ラディッツよりも弱いのだから。

 

弱いものは、悲しい。

 

それは、サイヤ人が抱える業のような、根に張り付いた価値観だった。

 

弱いものの末路は哀れだ、弱いものは全てを無くす、弱いものは奪われてばかりだ、弱いことは赦されない、弱くては生きていけない、弱くては、死ぬことだって寂しいばかりだ。

弱いものは、どんなふうに生きていくかだって決められない。

どうやって、死ぬかさえも決められない。

 

(・・・・羨ましいなあ。)

 

そう思った。

目の前の存在は、ラディッツよりも弱いのに、それでも彼はどこまでも自由に己の先を決めている。自分とは違う。

 

羨ましい、羨ましい、羨ましい。

 

そこにあるのは、一抹の尊敬だった。どうしようもない自分を顧みて、抱かずにはいられない羨望だった。

だから、ラディッツは、すっと体を動かした。

地面を蹴った瞬間には、ピッコロの後ろを取っていた、

 

「な!?」

 

彼が驚くころには、ラディッツはピッコロの背に殴打を入れた。ピッコロは殴られて前方に飛ぶ。そうして、地面に手をつき前転しながら、ラディッツに向き直った。

 

(なんて奴だ。しょ、正面にいたと思ったらいつの間にか後ろを取ってやがった!)

 

「お前は、頭が悪いわけじゃないでしょう。私と自分の間にある実力の差について分からないわけでもないだろうに。あと、一年後に、ここには私よりも強い二人が侵略のためにやってくる。」

「な、なんだと?」

「あと一年だけです。ならば、それまで、悔いのないように生きるのも又、手です。」

 

胡乱な瞳は、疲れ切った人間がベッドに潜り込むのを待ちわびるものに似ていた。

ピッコロはその言葉に驚愕しながらも、言う通りに出来ないことは分かり切ったことだった。

 

「・・・・私は、チチという女性を探さねばならないんですし。」

「チチ?お前、孫悟空のことを知っているのか?」

「・・・・お前、なぜ、カカロットのことを知っている?」

「その、カカロットが何かは知らんが。孫悟空は、俺が殺すべき存在だ。」

 

ピッコロがそんなことを口にしたのは、何となしの、時間稼ぎに等しかった。けれど、ラディッツにはその事実は反応せざるおえないものだった。

 

「ぴっ、ころ。そうか、君は、カカロットの言っていたピッコロ。」

 

ラディッツはそう言うと、首を振る。

 

「それならば、私はよけいにおまえを殺せないな。」

「どういう意味だ、それは!?」

「なにって、お前はあの子と遊んでくれたんだろう?」

 

ラディッツの言葉を聞いたピッコロは信じられないものを見る様に目を見開いた。ラディッツはそれに気づいてもいないように、目を柔らかく細めた。

 

「あの子も楽しそうだった。お前と戦うのは、とても楽しかったと言っていたよ。お前のことも助けてやりたいけれど、それだって難しい。」

 

ラディッツの言葉などピッコロは聞いていなかった。ただ、自分たちの死闘を、目の前の存在は遊びと呼んだ、

そうだ、自分等、目の前の存在にとってはその程度だ。

じゃれ付くのとを受け流す様に、戯れを宥める様に、先ほどの言葉は意味をなしていない。

 

(くそったれが、あの戦いが、こいつにとってはただの児戯だっていうのか?)

 

それに、余計に目の前の存在に己一人では勝てないとまざまざと感じる。ピッコロは、目の前の存在を睨み付けた。

勝たなくてはいけないのだ。

確かに、目の前の存在はピッコロと敵対しようとはしていない。ここで、逃げることも、確かにできるだろう。

けれど、逃げたところでどうなる?

一年後に、目の前の存在よりも強いものがやって来るのだ。

 

逃げてはいけない。

 

目の前の存在にさえ勝てなくては、これからやって来る敵にさえ勝てないだろう。

 

(・・・邪魔はさせん!我が野望、世界征服の邪魔だけはさせん!)

 

まだ、世界に己という存在を刻み込んでさえいないのだから!

 

けれど、目の前の存在に己一人では勝てないこともまた事実だった。ピッコロがどうするかと、足の位置をずらしていると、どこからかがたがたと何かが揺れる音が響いた。それに、思わず、二人は音の方に視線をやった。

音は、何故か二人の近くにあるクレーターからしていた。

 

「・・・・なんだ?」

 

ピッコロがそちらに気を捉えている間に、ラディッツはスカウターをいじる。

 

「戦闘力が、上がって。まさか!」

 

ラディッツが慌ててクレーターに駆け寄ろうとしたとき、何かの破壊音がした。その後に、何かが飛び出してきた。

 

「孫悟空!!」

「・・・・よう、ピッコロ。おめえ、なんでこんなとこにいんだ?」

「貴様こそ、どうしてここに?」

「うーん、まあ。色々あってよ。おめえも、姉ちゃんに用があんのか?」

「ね?こ、こいつはお前の姉だっていうのか?」

「おお!さっき会ったばっかだけどな。」

「・・・・・どうしてだ。」

 

隣り合った悟空とピッコロの前には、ラディッツが顔を歪めながら首を振っていた。

 

「カカロット、どうしてだ!どうして、お前は、私に守らせてくれない!」

「・・・・オラ、守ってほしいなんて言ってねえ。」

「やっとだ!やっと、会えたのに。どうして、お前は、お前まで、私を置いて行こうとするんだ!!」

「置いて行く気なんてねえよ。姉ちゃんには、チチともあってほしいしな。」

「だったら、どうしてだ!?どうして、私の言うことを聞いてくれない!?」

「さっきも言ったはずだ。オラにとっては、ここも故郷だ。じいちゃんが、オラを育ててくれた星だ。見捨てらんねえ。」

 

悟空はそう言うと、ゆっくりと構えを取った。そうして、隣りをチラリと見た。

 

「おめえがどうしてこんなとこにいんのは分かんねえけどよ。今は一緒に戦わねえか?」

「ふん、貴様と共闘なんぞ寒気がするが。いいだろう。乗ってやる。」

「あと、姉ちゃんは殺すんじゃねえぞ。」

「はあ?何を甘いこと言っている。」

「一年後に、姉ちゃんよりもつええのが二人来るんだ。頭数は多い方がいいだろう?」

「・・・・ちっ、その提案、乗ってやろうじゃないか。」

「よし、後、一つ言っとくが、弱点は・・・・・・」

 

二人がそんな内緒話をしている間、ラディッツは手で顔を覆い、ぐるぐると頭を回していた。

 

どうして?

 

それだけが頭の中で、回る。

ただ、自分は、弟を生かしたいのだ。弟からは、何も奪いたくないのだ。弟には、自分を置いて行ってほしくないのだ。

父も、母も、仲間も、宝物のように思っていた赤ん坊も、ラディッツを置いて行った。

どうして、分かってくれないんだ。どうして、逃げてくれないんだ。

死んでしまえば、終わりなんだ。カカロットは自由に生きていいはずなのに。なんの、業も背負っていないのに。

 

(分かってるんだ。カカロットだって、奪われたくないんだって。)

 

それでも、死なせたくない。戦ってほしくなどない。このまま、幸せなままであってほしい。

 

(許さない。)

 

ラディッツはゆっくりと構えを取った。

 

(分かったよ。カカロット。)

 

お前は、分かってくれないんだ。死んでしまうことの寂しさも、勝てない相手へ挑む無力感も、逃げることさえ叶わなかった滅びの虚しさも。

分からないから、ラディッツの言葉を聞いてくれない。

ならば、その意思を叩き折ろう。

 

「お前が、そう、望むなら。私は、それを否定する。」

 

ラディッツは掠れた声でそう言った。その瞬間に、悟空とピッコロがラディッツへと飛びかかる。

けれど、次の瞬間にはラディッツは二人の背後に立ち、その無防備な背中に拳を叩き込んだ。二人は左右に吹っ飛んだ。ラディッツは攻撃の手を緩めることなく、悟空が体勢を整える前にもう一撃横っ腹に叩き込んだ。そうして、それと同時に、ピッコロに向けてエネルギー波を撃った。

悟空と同じように体勢を立て直す途中だったピッコロは、這いつくばるような姿勢でそれを避ける。避けられたエネルギー波は、背後にあった山に当たった。

爆発音が響く中、ラディッツはゆっくりと悟空に近寄る。

 

「・・・・ほら、分かったでしょう。」

 

ゆっくりと、ゆっくりと、ラディッツは悟空に歩み寄る。

 

「私にさえ、こんなにも手こずるお前たちが、いったいベジータに何が出来る?ナッパにさえ、どうすれば勝てると思っているんですか?」

 

悟空は腹を抱えて、何とか立ち上がろうとしていた。けれど、無慈悲にも、その背をラディッツが踏みつけた。

 

「・・・・ベジータは、我らサイヤ人の王族、王子。ああ、でも、ベジータ王も死んだ。なら、王といってもいいのかもしれないなあ。」

 

王なのだ、王。戦闘民族サイヤ人が王、ベジータにお前では敵わない。

 

降参しろと、言外に言っているのだと悟空は察した。けれど、悟空には、ラディッツの言う通りにすることだけは出来なかった。

 

故郷を失うとは、どんな気分だろうか。

自分がカカロットと呼ばれていた故郷はすでに亡くなったらしい。それに、実感はわかない。悟空には、その星はあまりにも遠く、そうして他人過ぎた。

けれど、記憶の中で、自分を見ていた、微笑んで、名を呼んでくれたあの二人のことを思うと、もう、あの二人がいないと思うと、なんだかたまらなく心の奥底がくうくうとなる気がした。

踏みつぶされたじいちゃんを見つけて、一人で穴を掘り、埋めたあの日に味わったのと似たような気分だった。

目の前の存在は、きっと、自分にとってのじいちゃんや悟飯やチチが一気にいなくなったのと同じような気分なのだろう。

 

(・・・・なあ、姉ちゃん、つれえな、そりゃあよ。)

 

きっと、姉の胸にはもっと数倍くうくうとなっているのだろう。それを思うと、悟空はどうしても地球を見捨てて自分たちだけを助けようとするラディッツを恨むことが出来なかった。

胸の奥が、くうくうとなり続けるのは辛い。辛いから、自分たちを助けようとしてくれているのだろう。

けれど、悟空はラディッツと逃げてやれない。

チチから、悟飯から、故郷を奪ってしまうことは駄目だ。

自分は、喪いたくない。

じいちゃんと過ごした世界、ブルマに連れ出された世界、クリリンと出会った世界、亀仙人に教わった世界、ピッコロと戦った世界、チチと過ごした世界、悟飯が生まれた世界。

きっと、きっと、もしも、じいちゃんのことしか知らない悟空であれば、ラディッツの言うことに素直に従ったかもしれない。

けれど、すでに、悟空にとって地球は見知らぬ場所でなく、自分が生きている世界だと分かってしまっている。

さよならは出来ない。

だから、だから、抵抗しなくてはいけない。嫌だと、叫ばなくてはいけない。

誰にだって、奪われてはなるものか。

そうして、もう、これ以上に、姉が何も奪わなくていいように。

 

悟空は、ラディッツの足を抱える様に掴んだ。そうして、叫ぶ。

 

「ピッコロ!!」

 

その言葉と共に、背後で閃光が見えた。

けれど、ラディッツはそれに振り返ると両手で、ピッコロのエネルギー波を受け止めてしまう。

 

「な!?」

「・・・・だめだ、そろそろ、鬱陶しくなってきた。」

 

そう言うと、ラディッツは静かに己の手を掲げ、ピッコロに向けてエネルギー波を発した。ピッコロはそれをよけようとする。が、ラディッツはピッコロの動きに合わせて指を振る。それに合わせて、エネルギー波はピッコロを追っていく。

 

(・・・・・埒があかん!)

 

ピッコロは覚悟を決めて、少しだけ動きを止めた。

捉えた、ラディッツはそう思い、ピッコロにエネルギー波を当てる。

爆発音と共に、悟空の声が響いた。

 

「ピッコロ!!」

「・・・・く、そったれが。」

「なるほど、腕を犠牲に追尾を終わらせたんですね。判断としては、悪くないですが。」

 

ピッコロは肘からなくなった肩を抱いて、荒い息を吐いた。ラディッツがピッコロに意識を集中していると察した悟空は、彼女の尻尾に飛びついた。

 

「っ!?」

「へへへへ、尻尾、掴んだぞ。」

「でかし・・・・」

「はあ。」

 

悟空が握っていた尻尾に振り回されるように吹っ飛ばされた。悟空の手から離れた尻尾は、彼の頬を勢いよくひっぱたいた。

地面に転がる悟空に、ラディッツはため息を吐いた。

 

「・・・・カカロット、お前、その様子だと尻尾を鍛えていなかったな?今は、尻尾がないからいいが。弱点だと分かっている部分を放っておくのは感心できないな。」

 

ラディッツはそう言って、尻尾をぶんと振った。悟空は、地面に這いつくばりながら、ラディッツを見上げた。

 

「しっぽを、鍛えてたのか・・・・・」

「当たり前だ。まあ、私の場合は、鍛えられてしまう環境に少しいたのもあるが。」

(・・・・・く、孫悟空があの女の手の中。俺は、どうすれば。)

 

ピッコロはラディッツを睨んだ。

 

「ああ、だめだ。やっぱり、サイヤ人の血は、逃げることを赦さないなあ。しかたがない。」

 

ラディッツはそう言うと、地面に横たわった悟空に被さる様に屈みこんだ。そうして、悟空の右腕を掴むと、おもむろに力を入れた。

 

バキ!!

「っ、ああああああああああ!?」

 

悟空は何か、硬いものが壊れる様な音と主に右腕に広がる激痛に叫んだ。ラディッツは、すでに体力を消耗し、弱った悟空の体を抑え込む。

 

「カカロット、あまり暴れるな。治りが早くなるように、上手く折ってるんだ。」

 

その声音が、あまりにも穏やかで日常の中にある様なものであるからこそ、ぞわりと背筋に寒気が走る。

悟空は、ラディッツを見上げた。ラディッツはぼたぼたと、やはり涙を流しながら、がらんどうの目で悟空を見下ろしている。

 

「・・・・・お前は、父さんにそっくりだ。逃げてはくれないから。戦わずにはいられないから。でも、戦うための手も、走るための足も、折れていたら、もう、しないだろう。」

 

なあ、そうしたら、逃げて。一緒に、逃げてくれるだろう。

 

ラディッツはそう言って、今度は、悟空の右足に手を掛けた。

 

バキ!!

「ああああああああああああああ!?」

 

また、折れる音と、激痛が広がる。

痛みの中で、朦朧とする中、悟空はぼたぼたと振り落ちる温かい水滴に、呆れるような感覚がした。

どうして、姉ちゃんが泣いているのか。

可哀そうだと思ってしまう様な、悲しいような、不思議な気分だった。

 

 

 

 

 

「あああああああああああ!?」

 

悟飯は唐突に聞こえて来た父親の絶叫に、クレーターから上を見上げた。

 

「お、お父さん!?」

 

叔母であるラディッツに入れられた後、悟空は何かを決意したような顔でそれを壊した。そうして、悟飯の頭を撫でて言った。

 

「・・・・悟飯、こっから動くなよ。」

 

オラ、ちっと姉ちゃんと姉弟喧嘩してくっからよ。

 

その言葉の意味を教えてくれる暇も無く、悟空は飛び出してしまった。悟飯は仕方なく、ドアの壊れた宇宙船の中で体を丸めていた。

外から聞こえて来る怒号に、悟飯は体をぎゅっと丸めた。

 

(・・・・おばさん。)

 

幼い悟飯ではあるが、それでもラディッツが悪意を持って、自分たちを傷つけたいわけではないことぐらいは察していた。

けれど、そんな叔母と父がどうして戦っているのか分からなかった。

 

(・・・・あんなふうに、泣く人、初めて見た。)

 

悟飯の周りには、自分を除けばあんなにもあっさりと、簡単に、そうして静かに泣く人はいなかった。

だからこそ、悟飯の脳裏にはまざまざと、静かに、微笑んで、涙を流す女の顔が刻み込まれるようにあった。

妙な不安感をあおる泣き顔に、悟飯はほとほと困り果ててしまう。

恐ろしい、怖い。このまま、この中で戦いが終わるのを待っていたい。

けれど、それと同時に、あんなふうに泣く叔母と父親が戦っている事実に、落ち着かなくなる。

大丈夫なのだろうか。

何をどうすれば、大丈夫といえるかもわからないのに、そんな言葉がうまれる。

 

バキ!

「え?」

 

悟飯の耳に、父親の絶叫がこだました。

 

「え?え?おとう、さん?」

 

聞き間違いかと、そう思った。けれど、また、悟空の絶叫が響き渡った。

 

「あああああああああああああ!?」

 

聞いたことも無いような、そんな父の苦痛の絶叫に悟飯の体はクレーターの上へと動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

スカウターが、けたたましい音を立てた。

ラディッツは、悟空にかけていた手を止めて、その方向を見る。

 

「戦闘力が・・・・・」

 

がたん、と硬いものが揺れる様な音と共に、クレーターから悟飯が飛び出て来た。

 

「ご、悟飯・・・・・」

「せ、戦闘力が、どんどん・・・・」

 

悟飯は、ぐずぐずと鼻水と涙を流しながら、悟空を足蹴にしているラディッツを見た。

 

「やめてえええええええええ!!」

 

幼く、高い声が絶叫のように響き渡る。そうして、悟飯は地面を蹴った。

ラディッツは、悟飯が自分に向かってくると分かっていた。けれど、ラディッツは避けなかった。

それよりも、スカウターに映し出される戦闘力に目が向かっていた。

目にも止まらない速さで上がっていく戦闘力にラディッツは微笑みさえ浮かべていた。

 

(すごい、すごい!!)

 

悟飯の強さに、歓喜した。嬉しくて、嬉しくて、逃げることさえ忘れていた。

だって、その強さに、ラディッツは、父の影を見たからだ。

気づけば、自分の腹部に気を失いそうなほどの痛みや衝撃が走る。

受け身も取れぬほどのそれに、ラディッツは無様にごろごろと転がった。そうして、その隙を突くように、ピッコロのエネルギー波が追撃してくる。

体に、また走る追撃の中で、ラディッツは薄く微笑んでしまっていた。

 

悟飯は、きっと強くなるだろう。カカロットも、もしかしたら、もっと強くなるかもしれない。

父さんのように。あんな風に、強く、なるのかもしれない。

無様に地面に転がったラディッツは、そこまで考えて、違うと、頭を振った。

今は、彼らを逃がさなくてはいけないのだ。

ふらりと、立ち上がったラディッツの目の前には、起き上がろうとする悟空とそれにすがる悟飯、そうしてその横に立つピッコロの姿だった。

さすがに、痛む体を抱えて、ゆっくりと三人に歩み寄る。

 

「・・・・ほら、それでも、お前達じゃあ、私には勝てない。諦めるんだ。カカロット。」

「・・・・なあ、姉ちゃん。」

 

立つことは出来なかったのだろう、這いつくばる様な姿勢の悟空は姉を見て、言った。

 

「一つだけ、聞かせてくれ。」

 

オラの父ちゃんは、オラと同じ目に遭っても、逃げるなんて選択するのか?

 

その言葉に、ラディッツの動きが止まった。

大きく見開かれた瞳、固まった表情、石のように動こうとしない体。その全てが、彼女の動揺を表していた。

 

「・・・・少しだけ、思い出した。オラのこと、見てた。オラにそっくりな奴と、姉ちゃんにそっくりな人がいた。オラ、サイヤ人っつうのはあんまし好きにはなれねえけどよ。でも、サイヤ人がこんなことで逃げる様な奴らなのか?」

「・・・・どうして。」

 

ラディッツの瞳から、大粒の滴がぼたりぼたりと流れた。震えるような声で、ラディッツは、弟を見た。

 

どうして、どうして、こんなにも、お前は父さんに似ているんだろう?

 

分かってる。生き延びろと、父と母は願っていた。生きてほしいと、自分だって願っていた。

けれど、けれど、カカロットの選択は、どこまでも、サイヤ人として正しく見えて、そうして、あまりにも、ラディッツの憧れた父とダブって見えた。

ひたすらに、誇らしい。ただ、ただ、嬉しい。

戦ってなお、勝てぬと知らしめてなお、それでも戦う選択肢をする弟が誇らしくてたまらない。

父さん、母さん、見てよ。なあ、カカロットはこんなにも、誇り高く育ったんだ。戦い続ける在り方を、誰にも跪くのではなく、ただ、ただ、自由に強者との戦いを願う弟が愛おしい。

生き延びることは出来ずとも、座して負けを甘受することなく、拳を握るその姿は、ラディッツにとってなんて輝かしく映るのだろうか。

 

ラディッツは、父に憧れた。遠征に出てばかりで、あまり話したことも無く、大人に成り果てた今では、過去はあまりにも遠い。

セピア色に染まった記憶の中で、ただ、大きかった背中の事だけを覚えている。

嫌だと、思ってしまった。

ラディッツは、思ったのだ。

カカロット、どうか、父さんと似た、誇り高いままに死んでくれ。

生き延びてほしい、幸せになってほしい、なにも失わないでほしい。

そんな願いは、カカロットの戦い続ける意思に、魅入られて消えてしまう。

どうか、このまま、強くなること、戦い続けること、記憶さえ曖昧なままでも本能に刻まれた決闘への渇望を抱いて死んでくれ。

きっと、父さんだって、そうしたから。

父さんのように、死んでくれ。

 

(・・・・そうして。そうして、その横で。)

 

ああ、どうか、弱いままの私でも、その横で戦って死ねたなら。

サイヤ人として、ようやく生きたと言える気がする。

 

(・・・・・分かった。分かったよ。)

 

ラディッツは、一つだけ誓いを胸に、悟空に微笑んだ。

 

「・・・・戦うんだね?」

「おう。戦いてんだ。」

「分かったよ。勝ち目は少ないが、私も協力する。」

「本当か!?」

「ああ。約束する。」

 

嬉しそうに微笑んだ悟空に、ラディッツは流れ続ける涙を乱雑に拭った。

 

分かったよ、カカロット。きっと、私と君とでは、きっとベジータには勝てないけれど。それでも、一緒に死んで上げる。

お前は、きっと天国に行くのだろう。そうして、私は、みんなのいる地獄に行く。

それでいい。

違った道でも、行き先は違うとしても、途中までは一緒に行こう。

 

そんな覚悟が決まるだけで、ひどく楽になった。

ラディッツの胸には、そっと目を逸らした安堵が一つ。

ああ、よかった。これで、もう、一人ぼっちに怯えなくていい。

 

 

 





戦闘描写って難しいです。
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