ぼっちが異世界から来るそうですよ?   作:おおもり

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 八幡はギフトゲームをクリアできるのか。
 その頃の女性陣たちは何をしていたのか。
そんな、題して『ドキッ☆男だけの“世界の果て”珍道中エピソード2~シスコンとブラコンは究極の愛~』
お楽しみいただければ幸いです。


何があっても、比企谷小町は兄を信じている。

 前回までのあらすじ

 

 八幡が十六夜に連れてかれる

      ↓

 十六夜が水神とバトルを始める。

      ↓

 八幡、老人に出会う

      ↓

 老人に頼まれて『盗まれたもの』を洞窟に取りに行くことになる。

      ↓

 実は、ギフトゲームでした。騙されちゃった。〈(・く)テヘッ☆

      ↓

 また、ギフトゲームを挑まれました。

      ↓

 負けたら小町が持ってかれることが発覚。

      ↓

 しょうがない。本気出すか←今ココ

 

 

 

          ♦

 

 

 

 八幡がギフトゲームを受ける五分前。

 

 

 

「どうでしょう、お嬢さん方。よろしければ私のコミュニティに黒ウサギ共々来ませんか?」

 問題児たちの女性陣は、ジンに案内される途中に立ち寄った喫茶店で、ガルドという男に、黒ウサギからすでに聞いていた、コミュニティの現状を話された上で、勧誘を受けていた。

 もうすでに知っていることを、延々と聞かされた女性陣たちは、辟易した顔で言った。

 

「結構よ。私たちはジン君のコミュニティで足りてるわ。というか、あなた話が少し長すぎるんじゃないかしら? なんで私たちがすでに知っていることを延々と自慢げに気に聞かされなければならないのかしら」

 

「同感。すごく退屈だった」

 

「ホントですよ。大人ならもっと簡潔に話をまとめてから来て下さい」

 

「なっ!?」

 

 誘いを断られた上に、ダメ出しまで受けて、ガルドはひどくプライドを傷つけられたようだった。

 だが、ジンにとってはそれ以上に重要なことがあった。

 

「ちょっと、待てくださいみなさん!? コミュニティの現状を知ってるってどういうことですか?」

 

「どうしてって言われれば…ねえ?」

 

 訊かれた飛鳥は困ったように耀と小町を見た。

 

「そのことなら、今絶賛“世界の果て”に行ってる十六夜さんと、それに連れてかれたうちの兄があっさり看破しました」

 

「それで黒ウサギが観念して、全部教えてくれた」

 

 それを聞いて、ジンはさらに驚いた。

 

「じゃあ、コミュニティの現状をわかってて入ってくれるんですか?」

 

「ええ、そのつもりよ」

 

「ちょっと待ってください」

 

 そのまま話を進めて行こうとする四人の話に、ガルドが口を挟む。

 

「お言葉ですが『黙りなさい』――—ッ!?」

 

 飛鳥の言葉に、ガルドは話そうとしている言葉を強制的に止められる。

 

「そういえば、あなたに訊き忘れていたことがあったのよ。あなた、さっきのつまらない話の中で言ってたわよね? 『この地域のコミュニティに“両者合意”で勝負を挑み勝利した』って。でも、そんなことはそうそうないと黒ウサギは言っていたわ。魔王の傘下のコミュニティの、魔王ではないあなたに、一体どうしてそんな大勝負が強制的に続けられたのかしら?」

 

 そこで、飛鳥は一息ついて言った。

 

『教えてくださる?』

 

 言われたガルドは、まるで自分の意志ではないかのように、とぎれとぎれではあるものの、真相を語りだした。

 相手のコミュニティの子供を人質にしていること。その子供たちをもう殺していること。洗いざらいすべて吐かされた。

 それらを聞いて、飛鳥は心底軽蔑したように言う。

 

「…外道ね。さすがは人外魔境の箱庭世界といったところかしら」

 

「彼のような悪党は箱庭でもそうそういません」

 

 飛鳥の言葉を、ジンが訂正するように言う。

 

「ジン君、この男を箱庭の法で裁くことはできるかしら?」

 

「難しいですね。裁く前にこの男が箱庭の外に出てしまえば、それまでです」

 

「そう、じゃあ…」

 

 ジンの言葉に飛鳥が何か言おうとすると、全員の目の前に、羊皮紙が現れた。

 

「これは!?」

 

「“契約書類”!? なんでここに!?」

 

 その“契約書類”にはこう書かれていた。

 

『ギフトゲーム名"運命の審判"

 

 プレイヤー一覧 比企谷八幡

 

 クリア条件 洞窟内の『盗まれた者』を取り戻す。

 

 ・プレイヤーは洞窟内で、小ゲームを挑まれた場合、断ることはできない。参加を拒否し続けた場合は失格とみなす。

 ・プレイヤーが敗北した場合、プレイヤーが現在持っている中で、最も大切なもの(プレイヤーの命を除く)が失われる。

 ・隠されたルールを破った場合も同様に失格とする。

 

 敗北条件 降参か失格、またはプレイヤーが上記の勝利条件を満たせなかった場合。(死亡も失格とみなす。)

 

 宣誓、上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。 

  

                                  “フェアリーテール”』

 

 それをその場の全員が読み終えた時、“契約書類”はひも状になり、小町の首に絡みつき、首輪になった。

 

「ちょ、なんですかこれ!?」

 

「恐らく、先ほどの“契約書類”に記されていた、ギフトゲームに敗北した際の賞品にされたのでしょう」

 

「どういうこと?」

 

 ジンの言葉に耀が訊いた。

 

「先ほどの『敗北した際のプレイヤーが失う最も大切なもの』が小町さんだということです」

 

「そんな、お兄ちゃん。小町が一番大切だなんて…小町的に超ポイント高いよ!」

 

「そんな悠長なこと言ってる場合じゃないでしょ、小町さん!?」

 

「ジン、何とかならない?」

 

 訊かれたジンは、神妙な顔で首を横に振る。

 

「無理ですね。“契約書類”が巻きついた時点で、プレイヤーがクリアするしか方法はありません」

 

「そんな…」

 

「まあまあ、お兄ちゃんなら、きっと大丈夫ですよ!」

 

「なんでそんなに楽観的なのよ、あなたは!」

 

 飛鳥に言われて、それまでへらへらとしていた小町の顔は少し不安そうな顔になった。

 

「怖い…ですよ。怖くないわけ、ないじゃないですか」

 

 でも…と、小町が続けた。

 

「お兄ちゃんなら、きっとどうにかしてくれるって信じてますから!」

 

 それは、咲き誇る花のようにきれいな笑顔だった。

 

「小町さんは八幡君を信じているのね」

 

「はい! 捻くれてて、わかりにくくて優しいお兄ちゃんが、小町は大好きですから」

 

 そんな小町を見て、耀が苦笑して言った。

 

「もしかして、小町ってブラコン?」

 

 そんな耀の問いに、小町は悪戯っぽく笑った。

 

「知らないんですか? 妹は兄が大好きなんですよ?」

 

 その言葉に、女性陣は吹きだして笑い合っていた。

 

 

 

          ♦

 

 

 

 一方その頃

 

 

「十六夜さん、見てください! こんなに大きな水樹の苗をもらいました!

これでもうコミュニティは水に困ることがありませんよ!」

 

 十六夜に追いついた黒ウサギは、十六夜が倒した水神がくれた水樹の苗に大はしゃぎしていた。

 しかし、十六夜は神妙な顔をしていた。

 

「なあ、黒ウサギ。おまえってここに来るまでに八幡の奴にあったか?」

 

「え、あの、一緒ではないのですか?」

 

「いや、俺とさっきの奴が戦ってる間にどっか行った」

 

 黒ウサギは、八幡がとばっちりを食らいたくなくて、避難をしたのだと容易に想像はついた。

 

「ですが、だったらどこに行ったのでしょう?」

 

「とりあえず、探そうぜ」

 

「それには及ばんよ」

 

いつの間にか、二人の後ろに立っていた肌の黒い小柄な老人が声をかけた。

 

「なんだ、爺さん。おまえ、八幡がどこにいるのか知ってるのか?」

 

「あの若者なら、今の我々のコミュニティとギフトゲームをしているよ。ついて来なさい」

 

 そう言って、老人は二人に“契約書類”を差し出して歩き出した。

 

『ギフトゲーム名"運命の審判"

 

 プレイヤー一覧 比企谷八幡

 

 クリア条件 洞窟内の『盗まれた者』を取り戻す。

 

 ・プレイヤーは洞窟内で、小ゲームを挑まれた場合、断ることはできない。参加を拒否し続けた場合は失格とみなす。

 ・プレイヤーが敗北した場合、プレイヤーが現在持っている中で、最も大切なもの(プレイヤーの命を除く)が失われる。

 ・隠されたルールを破った場合も同様に失格とする。

 

 敗北条件 降参か失格、またはプレイヤーが上記の勝利条件を満たせなかった場合。(死亡も失格とみなす。)

 

 宣誓、上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。 

  

                                  “フェアリーテール”』

 

「なんですか!? このゲームは!?」

 

 ついていきながら、黒ウサギはゲームの内容に驚愕する。

 

「まずいな。このゲーム、賭けられてるのは恐らくアイツの妹だ」

 

「おや、お主は気づいたのかね? あの若者は『今持っているもの』と勘違いしているようじゃったが、そろそろ気づいておるじゃろう」

 

 そう言ったところで、新しく“契約書類”が現れた。

 

 

『ギフトゲーム名“沈黙の問答”

 

 プレイヤー一覧 比企谷八幡

 

 クリア条件 プレイヤーの出した問いに、ホストマスターが答えを言えなかった場合。

 

 ・プレイヤーはいかなる問いを出してもいい。

 ・ホストマスター側は、関係のない言葉を言って、『答え』とすることはできない。

 ・プレイヤーは問いを出す際に、ホストマスターに確認を取ること。

 

 敗北条件 ホストマスターがプレイヤーの問いに答えを言えた場合。

 

 宣誓、上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。 

  

                                  “フェアリーテール”』

 

「なんですか、この勝負は!?」

 

「こりゃ、ひでえな」

 

「おや、このゲームのいじわるさに気づいたのかね?」

 

「当然だ。このゲームの勝敗条件の『答えが言えた場合』ってのはつまり、ホストマスターの言う答えが『わからない』でもいいってことだ」

 

 そう。このゲームはホストマスター側が、答えを『言えない』ことが勝利条件であり、問いに関係のある答えならば、何を言ってもいい。たとえ、『わからない』が答えだとしてもだ。

 

「そんなのゲームとして不成立です!」

 

 怒ったように言う黒ウサギに、老人は静かに言い返す。

 

「では、箱庭の貴族殿。あなたが審判となり、箱庭の中枢に問えばよい。これらのゲームが不当か否かを」

 

「わかりました」

 

 黒ウサギが答えて目を閉じると、彼女のウサ耳がピコピコと揺れた。

 

「ダメです。箱庭の中枢からは『正当である』と」

 

 黒ウサギは知らなかった。老人がすでに布石として、八幡から言質を取っていたことを。

 

「にしても、解せないな。アイツはかなり疑り深いやつだったはずだが」

 

「確かに、最初はかなり警戒しとったよ。じゃが、元来お人よしなんじゃろうな。こっちが困っていると言ったらあっさり力を貸すと言ったぞ」

 

 それを聞いて、十六夜は歯噛みした。

(チッ! アイツの甘さがいきなり仇になったか…)

 

 十六夜がここに来る途中で八幡に言った、『あんまりやると身を滅ぼすぜ』という言葉が、いきなり現実になろうとしていた。

 

「おや、どうやら、そうそううまくはいかないようじゃな」

 

 老人が言ったのにつられて、黒ウサギと十六夜が見ると、二枚目の“契約書類”に浮かんでいた文字が変わった。

 

『 CONGRATULATION! GAME CLEAR!』

 

「やりました! 八幡さんが小ゲームをクリアしたみたいです!」

 

「みたいじゃな。じゃが、そう簡単にこのゲームはクリアできんぞ」 

 

 老人が立ち止ると、目の前に岩で塞がれた洞窟があった。

 

「なんなのですか、これは!?」

 

「これは脱出までがゲームじゃが、どこまで気づいておるかのう」

 

「いや、アイツならもう解けてるだろ」

 

「おや、お主はあの少年をずいぶんと買っているようじゃな」

 

「まあな。黒ウサギの隠し事を察知していたのは俺とアイツだけだったからな。ある程度は認めてるんだよ」

 

「ほう、そこまで言うなら、君はわかっているのかね?」

 

 訊かれた十六夜は、その顔に笑みを浮かべた。

 

「ヤハハハハ。当然だろ。だって俺なんだぜ」

 

「えっ!? 十六夜さんはわかったんですか!?」

 

「そりゃ、当然。いいか? このゲームの鍵は二枚目のほうだ」

 

「二枚目って…あの、よくわからない物語のことですか?」

 

「じゃあ、あの物語はどういう物語だ?」

 

「どういう?」

 

「物語の種類だよ」

 

「それは…寓話とかですか?」

 

「惜しいな。このコミュニティの名前は何かわかるか?」

 

「『フェアリーテール』…ですよね?」

 

「そうだ。『フェアリーテール』は英語で書くと『fairy tale』つまり、『おとぎ話』だ」

 

「『おとぎ話』って…だからどうだというんですか?」

 

「おとぎ話ってのは全国的に人づての民話が主になっていて、一種の教訓めいたものなんだよ。例えば、子供が夜更かししないように、夜更かしした子供が妖精や精霊の類に攫われる話とかな」

 

「つまり、この話にもなんらかの教訓があるんですか?」

 

「ああ、その前にこの話は、ヨーロッパの民間伝承によくあるパターンの話の一つだな。これは妖精の類に悪事を働いた人間が仲間の妖精の復讐を受けるパターンだ」

 

「なるほど。つまり、物語に出てくる小柄な男たちは妖精なわけですね。それで、このゲームのクリア条件の『盗まれたもの』って何なのでしょう?」

 

「ああ、そりゃ簡単だ。この物語で盗まれたのは何だ?」

 

「えっと……若者の娘さんたちですよね?」

 

「そうだ。それを助け出すのがこのゲームのクリア条件だ」

 

「なるほど。それで、教訓というのは?」

 

「教訓ってのは、一つがこのゲームの『隠されたルール』だ。『妖精・精霊を殺してならない』だ。これは、物語上の若者が妖精を殺したことで復讐を受け、殺そううとした時に亡くなったことからも明らかだ。もう一つは『優しく、正しい心を持つこと』だ。これは最初に若者が精霊からもらったお守りの使用条件だ。恐らく、脱出の際に必要なギフトか何かがあるんだろうな」

 

「では、物語に出てくる4種類ナイフはなんですか?」

 

「それも脱出のための道具だな。それぞれが四大元素の力を持ったギフトなんだよ。赤は『風』、黄は『火』、白は『水』、黒は『土』の属性のな。物語の内容からして、ギフトはそれぞれ『風』が『気化』、『火』が『プラズマ』、『水』が『液化』、『土』が『固体化』って感じだな。これは、たぶん四大元素のそれぞれの属性と同じ状態にするギフトなんだろうな。ここから推理すれば、若者が精霊からもらったお守りも同様に四大元素の力の加護のギフトだろうな」

 

 十六夜の話を聞いて、老人が感心して、拍手した。

 

「いやはや見事じゃ、少年。それだけの推理ができるなら、あの少年同様に将来が楽しみじゃな」

 

「そりゃ、どうも。だが、他人に値札をつけられるのはあまり好きじゃねえんだ」

 

「そいつはすまんの。じゃが、ここでは名前の売れとらん者は、まず名前を売るところから始めなければならんぞ。お主、あの若者と同じでこの箱庭に来たばかりじゃろ?」

 

「ああ、他にもあと三人ほどいるぜ」

 

「そやつらもお主らと同等か?」

 

「さあな。でも、俺に並べるとしたら、今はたぶんアンタのゲームを受けてる奴が状況によってはひょっとしたら、ってぐらいだな」

 

「そういえば、お主は先刻、水神殿と戦っておったな。その様子じゃと勝ったようじゃし。それになかなか知恵も回る。なるほど、言うだけのことはあるじゃろう。しかし、それでも届かないものも、この世にはあることを忘れるな」

 

 老人の言葉に、十六夜は肩を竦めた。

 

「ご忠告どうもありがとよ、爺さん」

 

 そうして、二人が話していると、黒ウサギの耳が微かに揺れた。

 

「十六夜さん!!」

 

「ようやくか」

 

 そう言って、二人が洞窟の方を見ると、洞窟を塞いでいた岩が、真っ二つに切れた。

 

「よう。十六夜と黒ウサギか」

 

 そして、洞窟から少し泥だらけになった八幡が、片手にナイフを持ち、腕に何かを抱えて出てきた。

 その腰には、三本のナイフがあり、首元には首飾りがかけられていた。

 

「どうやら、脱出はできたようじゃが、『盗まれたもの』は取り戻せたかな?」

 

 その質問に、八幡は腕の中のものを見せた。

 そこには、安心したように眠る三人のかわいらしい小人のようなものと一匹赤く燃えるオオサンショウウオのような生物だった。

 

「八幡さん、その精霊さんたちは?」

 

 黒ウサギが訊くと、十六夜は呆れたような顔をした。

 

「なんだよ黒ウサギ。そんなことにも気づいてなかったのか?」

 

「どういうことですか?」

 

「物語の中で『変わり果てた娘たち』ってあったろ?」

 

「えっ、じゃあ、あの精霊さんたちは…」

 

「妖精に攫われたことで、精霊となってしまった娘たちってわけだ」

 

「そういことじゃ。というわけで若者よ、これからはその子たちのことをよろしく頼むぞ」

 

『はっ?』

 

 嬉しそうに言う老人の言葉に、八幡と黒ウサギが『言ってる意味がわからない』という顔をした。

 

「なんだ八幡。そこまでは気づいてなかったのかよ。このギフトゲームの物語の最後で『男は今も待っている』ってあったろ?」

 

「確か、娘さんたちを任せられる人を…って、もしかして」

 

「そう。このギフトゲームはいわば親の身勝手で精霊に成り果て、親を失った娘たちを任せられる者を探すためのゲームだった、ってわけだ。よかったな八幡。いきなり四大精霊が味方になったぜ」

 

「味方…というか、形式上は隷属じゃの。後の事は任せるから、その子たちをよろしく頼むぞ」

 

「ちょっと、待て。そんなこと言われても困るんだが…」

 

 慌てたように言う八幡に、老人は諭すように言う。

 

「大丈夫じゃよ若者よ。お主はきっと、色んなことを裏切られてきたのじゃろうが、この子たちは大丈夫じゃ。根はいい子たちだからの」

 

「でも、俺は言うほどいい人間じゃないぜ」

 

 そう言う八幡に、老人は言う。

 

「それはないじゃろう。そこの二人が知っておるとおり、お主が首にかけとるお守りは優しき者にしか使えん。なのに、お主はあの子たちを抱えてこれたからの」

 

「ちょっと待て。アイツらにも何か仕掛けてあったのか?」

 

「ああ、心悪しきものが触ると一瞬で死ぬようになっとった。じゃが、お守りにはそれを打ち消す力がある」

 

「なんてことしてやがるんだよ」

 

「こうまでせんと、あの子たちを守れんでの。それで、本当に引き取ってもらえんか?」

 

「いや、俺は――――」

 

「受け取れよ、八幡」

 

 なお、断ろうとする八幡に十六夜が声をかけた。

 

「おまえは仕掛けられたゲームに勝ったんだ。なら、与えられたものを受け取るのは勝者の責任だぜ」

 

「そうですね。勝った以上は受け取ってください。八幡さん」

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………わかったよ」

 

 十六夜と黒ウサギに言われて、散々迷って、八幡はようやく決断した。

 

「お主の決断に、我らコミュニティ一同、心より礼を言う」

 

 老人は八幡に深々と頭を下げた。

 

「それでは、心ばかりの礼がしたいので、少しそれを貸していただけぬか?」

 

 そう言って、八幡から四本のナイフを借りると、それらを押しつぶさんばかりの勢いで握る。すると、四本のナイフはぐにゃりと歪んだかと思うと、一本のナイフになっていた。

 

「この方が使いやすいじゃろ。そのお守りもお主にやろう。それと、約束のもな」

 

 そう言って、老人はナイフと一緒に八幡と約束していたネックレスを差し出す。

 

「いや、あー、えーと、わかった」

 

 八幡は断ろうとしたところで、さっきの二人の言葉を思い出し、結局受け取ることにする。

 

「あの子たちも含め、きっとお主の役に立つじゃろうから。あの子たちのことをよろしく頼む」

 

「大丈夫ですよ。もしもの時は、黒ウサギたちがお手伝いします」

 

「それは安心じゃ」

 

 黒ウサギの言葉に、老人は朗らかに笑う。

 

「それでは、そろそろ日も落ちそうですし、黒ウサギたちは帰りますね」

 

「ああ。若者よ、また気が向いたらその子たちを連れてきなさい。そちらの少年も、我々のギフトゲームを受けたければ来なさい」

 

「ああ、気が向いたらくるから、面白いゲーム用意しとけよ」

 

 十六夜は挑戦的に答え、八幡は何も答えずに街への道を歩いていく。

 

 

 

          ♦

 

 

 

「どうだい爺さん。孫娘のようにかわいがってたあの子たちが他の男に持ってかれる気分は?」

 

 老人の後ろから、黒髪の小柄な男が現れ、尋ねる。

 

「わしは納得した上であの若者に託したからの。むしろ、誇らしい気分じゃよ。たとえあの若者があの子たち全員を娶っても構わんくらいじゃ。お主こそどうなんじゃ、妹のようにかわいがっとった子たちが他の男のものになった気分は」

 

「どんなに嫌でも、負けちまったからなあ。認めるしかねえさ」

 

「そういえば、あの小ゲームであの若者はどんな『問い』を出したんじゃ? やはり、セオリー通りのものか?」

 

 そう老人が訊くと、男は苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

「アイツ、とんでもなく食えない野郎だよ。アイツ、俺にこう言ってきやがったんだ」

 

 そこで男は少し間を開けてから言った。

 

「『もしも妹が兄にとって大切だと思うなら、そう思うなりのおまえの答え方をしろ』だとよ」

 

「……は?」

 

 老人は男が何を言っているのか、わからなかった。

 このギフトゲームのセオリーは、適当な問いを出して、『答えは首を振って答えろ』など、行動を制限してしまえばいいのだ。

 答えが『言えない』状態で答えさせる。故に『沈黙の問答』なのだ。

 しかし、八幡はあえてホストマスターの答え方に選択の余地を与えていた。

 

「して、若者はなぜそんな『問い』を出したか訊いたのか?」

 

「ああ。そしたら、アイツなんて言ったと思う?」

 

「皆目見当もつかんの」

 

「『俺は千葉の兄として当たり前のことを言ったんだが、違うのか?』だとよ」

 

 その言葉に老人はおかしそうに笑いながら言った。

 

「なるほど。妹への愛を当然というか。あの若者、ただの馬鹿か、それともとてつもない大器かどっちじゃろうな。次会うときが楽しみじゃわい。お主の父は、あの子たちの父親を殺した後にあの若者に出会えとったら、あの若者をどう評したかのう?」

 

「さあね。俺の親父はただ、友人だったあんたの兄貴の仇を討ったはいいが、関係ない娘たちを攫ったせいで精霊化させちまった責任を取りたがってただけだからな。あの子たちが幸せになれば、それでいいだろ」

 

「それなら、きっと大丈夫じゃよ。あの若者はきっと我々が待ち望んでいた者じゃ」

 

「だといいな」

 

 そうして、二人はいつの間にかいなくなっていた。

 

 

 

          ♦

 

 

 

「ふう。やっと着いたな」

 

「いやあ、八幡のおかげで今日は楽しかったぜ」

 

「黒ウサギはお二方のせいで疲れたのですよ」

 

 やっと街についた三人は、ジンたちと合流すべく、街を歩くことにした。

 

「お、あれじゃねえか?」

 

「あ、そのようですね」

 

 すると、街に入って、少し歩いた喫茶店に四人はいた。

 

「お兄ちゃん!」

 

 小町は、八幡を見ると、真っ先に駆け寄っていき、

 

「おお、小まグハァッッッ!?」

 

 思いっきりドロップキックをかました。

 

「妹を賭けるとか、何考えてるの!? 小町的に超ポイント低いよ!」

 

「いや、あれは騙されたんだ」

 

「あら、言い訳は男らしくないのではなくて?」

 

「同感」

 

 小町がギフトゲームの賞品にされたことに、女性陣はかなりキレていた。

 

「まあまあ、小町さん。八幡さんは本当に騙されていたわけですし、小町さんのためにがんばっていたんですから、許してあげてください」

 

 そうやって黒ウサギが事情を説明し、宥めて、八幡が謝り倒して、ようやく許してもらえた。

 ただ、小町は自分が賭けられたこと以上に、八幡が自分の命すら失いかねないゲームをしていたことに憤慨していた。

 その後、八幡がギフトゲームで勝った賞品として引き取った精霊たちが眠っているのを見て、女性陣たちが和んだところで、十六夜が飛鳥に訊いた。

 

「おい、お嬢様。さっきから気になってたんだが、その手に持ってるのは何だ?」

 

 訊かれて、ジンは困ったような顔をし、女性陣は得意そうな顔をした。

 そして、飛鳥が代表するように持っていた紙を黒ウサギたち三人に見せて言った。

 

「ギフトゲームをすることになったわよ」

 

「…はい? 飛鳥さん、今なんと?」

 

 飛鳥の言ってる意味がわからず、黒ウサギが訊く。

 

「もう一度言うわ。ギフトゲームをすることになったわよ」

 

 その言葉に、八幡は『どうやら面倒事はまだ続くのか』と嘆息し、十六夜は『また楽しくなってきた』と嬉しそうに笑った。

 そして、黒ウサギは――――

 

「いきなり何をやってるんですか、この問題児様方はああああああああ!?」

 

 当然のことながら叫んでいた。




さて、精霊の四姉妹はハーレム要員になるか、それともただのサポーターで終わるか。基本的にその場の気分と思いつきと人気で決まると思います。
さておき、この子たちの名前決めてないけど、どうしよう。特に、燃えるオオサンショウウオ『サラマンダ―』。コミュニティ的に難しい。小町に頑張って決めてもらうか? 由比ヶ浜がいれば変な名前つけられるのに。
そういえば、前書きのサブタイみたいなのは完全に悪ふざけの産物なので、ストーリーとは少ししか関係ありません。

次回は白夜叉あたりかなあ。…フォレス・ガロ打倒が遠い。ペルセウスが見えねえ。ですが、やっとヒッキーのギフトがわかるぞおおお!!
というわけで、次回『図らずも春日部耀は念願叶う』…または『黒ウサギに迫る白い変態の魔の手!~意外に強いぞステルスヒッキ―~』をお楽しみに。(サブタイは変更される恐れがあります。あらかじめご了承ください。)

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