ぼっちが異世界から来るそうですよ?   作:おおもり

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先日はPCトラブルの折、まちがって途中で投稿されてしまったため、皆様にはご迷惑をおかけしました。この場にて再度お詫びいたします。
では、『黒ウサギに迫る白い変態の魔の手!~意外に強いぞステルスヒッキ―~』お楽しみいただければ幸いです。


図らずも、春日部耀は念願叶う。

「いきなり何をやってるんですか、この問題児様方はああああああああ!?」

 

 勝手に“世界の果て”に行った十六夜と八幡を連れて戻って来てみると、今度は問題児たちの女性陣たちが問題を起こしていた。

 

「なんでちょっと目を離した隙に他コミュニティに喧嘩売ってるんですか!? しかもゲームの日取りは明日!? いったいどういうつもりなんですか!!」

 

 黒ウサギの剣幕に三人は項垂れて答えた。

 

『ムシャクシャしてやった。 今は反省しています』

 

「黙らっしゃい!」

 

 なお、怒る黒ウサギに、十六夜が仲裁に入る。

 

「見境なく喧嘩売ったわけじゃないんだから許してやれよ」

 

「ですが、リスクが高すぎます! この“契約書類”を見てください!」

 

 言われて、十六夜と八幡は“契約書類”を見る。

 

「“主催者が勝利した場合、参加者は主催者の罪を黙認する”…。人質も返さないってわけか」

 

 明らかにひどい内容であるにも関わらず、飛鳥たちは笑って言う。

 

「あら、でも賞品はリスキーなチップに見合うわよ」

 

「“参加者が勝利した場合、主催者は参加者の言及するすべての罪を認め、人質を無事返した後、コミュニティを解散し、箱庭の法の下で正しい裁きを受ける”か…」

 

「こう記されている以上、ゲームの決着がつくまで人質に危害が加わることはない」

 

 その言葉にジンが続ける。

 

「ガルドの悪事は時間をかければ立証できますが、その間に人質に何をされるかわかりませんからね。それに箱庭の外に逃げられてしまえば、それまでです。外は無法地帯ですし、箱庭の法は都市内でのみ有効なものですから」

 

「でも、“契約書類”による強制執行ならば、どれだけ逃げようとも、強力な“契約”でガルドを追いつめられる…ってこと」

 

 そんな、得意そうに言う飛鳥やジンを八幡は見つめて、少し考えて言った。

 

「おい、十六夜。黒ウサギが俺たちのこと散々問題児って言ってたけど、このリーダーも十分問題児だぞ。しかも、人の作戦に便乗してドヤ顔で語ってんだが…」

 

「いや、八幡。この御チビはまだ十一歳なんだ。こうやってはしゃぎたい年頃なんだよ。わかってやれよ」

 

「…そうだな。俺が悪かった」

 

 そう言って、二人は少し憐れむように、自分たちのコミュニティのリーダー見た。

 そんな二人に、黒ウサギが突っ込んだ。

 

「ちょっと、お二人とも! ジン坊ちゃんはこれでもすごいんですからね!」

 

「そうだな。これでもな」

 

「ああ、これでもな」

 

「ぐはあっ!!!?」

 

「ジン坊ちゃあああああん!?」

 

 十六夜と八幡は、これでもかと『これでも』を強調して連発し、ジンが精神ダメージに倒れた。

 

 

 数十分後、ようやく話が再開された。

 

「まあ、腹立たしいのは黒ウサギも同じです。“フォレス・ガロ”ぐらいなら十六夜さん一人で楽勝でしょうし」

 

「いや、俺は参加しないぞ」

 

「へ?」

 

 まさかの参加拒否に、黒ウサギが焦る。

 

「な、なんでなんですか十六夜さん!?」

 

「当たり前だろ? これはコイツらが売って、ヤツらが買った喧嘩だ。なのに、俺が手を出すのは無粋だろ」

 

「あら、わかってるじゃない。私は貴方なんて参加させるつもりなかったわ。もちろん八幡君もね」

 

「いや、俺は参加するぞ」

 

 『え?』っと一同が八幡を見る。

 

「いや、だってそうだろ。おまえらがアイツらとギフトゲームをするなら、小町が出る羽目になるかも知れないんだぜ。ギフトもないのにそんなことさせられねえよ。だったら、代理で誰か出るしかないだろ。で、十六夜は出ないとなると、俺が出るしかないだろ」

 

「なるほど。確かに、小町さんを出すわけにはいかないですからね。このギフトゲームは黒ウサギが審判を務めるつもりだったので、そのようにしておきますね」

 

 八幡の言葉に、黒ウサギは納得したように言った。

 

「それで、今日はコミュニティに帰る?」

 

「あ、ジン坊ちゃんは先にお帰り下さい。ギフトゲームが明日なら“サウザンドアイズ”に皆さんのギフト鑑定をお願いしないと」

 

 ジンの提案に黒ウサギが言った。

 

「“サウザンドアイズ”? コミュニティの名前か?」

 

 初めて聞く名前に十六夜が黒ウサギに訊く。

 

「“サウザンドアイズ”は特殊な“瞳”のギフトを持つ者たちの群体コミュニティで、箱庭の東西南北、上層下層、すべてに精通する超巨大コミュニティです。この近くにその支店があるんですよ」

 

「ギフトの鑑定というのは?」

 

「もちろんギフトの秘めたる力や起源などを鑑定することです。自分の力の正しい形を把握していた方が引き出せる力はより大きくなります。皆さんも自分の力の出処は気になるでしょう?」

 

「それもそうだな」

 

「では、決まりです」

 

 そうして、六人はジンと別れ、“サウザンドアイズ”へと向かう。

 

 

 

          ♦

 

 

 

 “サウザンドアイズ”に向かう途中、飛鳥が並木を見上げて言った。

 

「これは、桜の木…ではないわよね? 花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けているはずがないもの」

 

「いや、まだ初夏になったばかりだぞ」

 

「…? 今は秋だったと思う」

 

「小町もそう思います」

 

 二人(正確には三人だが、小町が答えたせいで八幡は言えなかった)が同じ意見だが、なぜかばらばらの意見が出てしまう。

 その理由を、黒ウサギが解説する。

 

「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのです。もといた時間軸以外にも歴史や文化・生態系など、ところどころ違う箇所があるはずですですよ」

 

「へえ? パラレルワールドってやつか?」

 

「正しくは立体交差平行世界論というものなんですが、この説明はまたの機会ということで…」

 

 そう言ったところで、黒ウサギがハッとした顔をする。

 見ると、店員が店の暖簾を下ろそうとしていた。

 

「ちょっ、待っ―――」

 

「待ったなしです、お客様。うちは時間外営業はやっていません」

 

 黒ウサギの静止の声は、閉店準備をしている店員に、にべもなく断られてしまう。

 

「なんて商売っ気のない店なのかしら」

 

「ま、まったくです! 閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!」

言われて、店員はむっとする。

 

「…なるほど。“箱庭の貴族”であるウサギのお客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前をよろしいでしょうか?」

 

「俺達は“ノーネーム”ってコミュニティなんだが」

 

「では、どこの“ノーネーム”様でしょう。旗印を確認させていただいてもよろしいですか?」

 

 十六夜の言葉に店員が意地悪い質問をする。

 すると、八幡は心底鬱陶しそうにため息をついて言った。

 

「はあ、黒ウサギ。“サウザンドアイズ”ってこんなに程度の低い連中の集まりなのか?」

 

「…お客様。今、なんとおっしゃいましたか?」

 

 八幡の言葉に、黒ウサギが呆気にとられる中、店員が怒りを押し殺すように言った。

 

「だってそうだろ? 閉店五分前とはいえ、店に来た客にその態度はねえだろ。少なくとも、商業コミュニティを謳うなら、“ノーネーム”であることを理由に断るなんてもってのほかだし、大手ブランドの格を示すために断るにしても、ちゃんとした断り方も教えられないようじゃ、大したコミュニティじゃなさそうだな」

 

「…この、言わせておけば――――」

 

 八幡と店員の間に一触即発の空気が流れる。そこへ――――

 

「いぃぃぃぃぃやほおぉぉぉ! 久しぶりだ、黒ウサギィィィ!」

 

 ハイテンションなロリが黒ウサギに突っ込んできて、黒ウサギともども、川に落ちた。

 それを見た十六夜は店員の方を向き、

 

「……この店にはドッキリサービスがあるのか? なら俺も別バージョンで是非」

 

「ありません」

 

「なんなら有料でも」

 

「やりません」

 

 この間も黒ウサギとロリのやりとりは続く。

 

「白夜叉様!? なぜ貴女がこんな下層に!?」

 

「そろそろ黒ウサギが来る予感がしたからに決まっておるだろうに! やっぱりウサギは触り心地が違うのう!」

 

「ちょ、ちょっと離れてください!」

 

 黒ウサギに押し飛ばされた白夜叉が十六夜の方に飛んでいく。

 

「てい」

 

「ギャッ!?」

 

 その白夜叉を十六夜が蹴り、白夜叉が小町の方に飛んでいく。

 

「おお! これまたかわいらしいおな「させるか!」ゴッ!?」

 

 そのまま小町に飛びつこうとした白夜叉を、八幡が川に再び蹴り飛ばした。

 

「飛んできた美少女を蹴るとは何様だ!」

 

「十六夜様だぜ、以後よろしく和装ロリ」

 

「千葉のお兄様の比企谷八幡だ。こっちはあまりよろしくするな。そして、小町に近づくな変態」

 

 文句を言う白夜叉に、不遜な態度の十六夜と、妹を襲う変態を素で警戒する八幡が言った。

 事態が収拾したのを見て、飛鳥と耀が近づいてきた。

 

「貴方はこの店の人?」

 

「おお、そうだとも。この“サウザンドアイズ”の幹部様の白夜叉様だよ、ご令嬢。お前たちが黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私の元に来たということは―――ついに黒ウサギが私のペットに…」

 

「なりません!」

 

「まあいい、話があるなら店内で聞こう」

 

 白夜叉の言葉に、店員が焦ったように言う。

 

「よろしいのですか? 彼らは旗印も持たない“ノーネーム”のはず。既定では―――」

 

「身元は私が保証するし、ボスに睨まれても私が責任を取る。いいから入れてやれ。それから、お主」

 

「なんでしょう」

 

「たとえ相手が“ノーネーム”とはいえ、礼を失すればコミュニティの格が疑われるのは当然。そのことを努々忘れるな」

 

「…わかりました」

 

 先ほどの八幡とのやりとりを見ていたのか、白夜叉は店員の接客態度を窘めた。

 

「まあ、そういうことだ。先ほどのこの者の非は私の方から詫びる。だから、許してやってくれんかの」

 

「別に、こっちは大して気にしてねえよ」

 

 白夜叉の謝罪に八幡はそっぽを向いて答えた。

(まっ、こっちは黒ウサギの知り合いが来るまでの時間稼ぎだったしな)

 

 そう。八幡は店員が断る理由が『“ノーネーム”であること』だとわかっていた。

 だが、それを黒ウサギが知らないはずがない。ならば、入れてくれる知り合いがいる、という予想を立てて、店から締め出される時間を稼ぐために挑発を行っていたのだが、先ほどの黒ウサギの様子ではそうではなかったらしいが、結局は白夜叉が店に入れてくれたので、よしとする。

 だが、少し気になることがあった。

(あの店員思ったより沸点低かったな…。雪ノ下かよ)

 

 八幡にとって意外だったのは、店員が思ったより簡単に挑発に乗ったことだ。

 そのことで、同じ部活の知り合いが思い浮かんだ。

(そういや、俺の挑発って大抵乗っかられるんだよなあ…。俺ってそんな腹立つ奴なのか?)

 

 人知れず軽くヘコむ八幡であったが、それ以上の懸念事項が彼にはあった。

(あの白ロリ…小町には触らせん!)

 

 そして、八幡は他の者に続き、決意も新たに店に入る。 

 

 

 

          ♦

 

 

 

 六人が連れてこられたのは、店の奥の和室だった。

 

「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」

 

 その後、軽く自己紹介をし直し、箱庭について『階層の構造はバームクーヘン的なもの』という結論に落ち着き、神格の話が出たあたりで、十六夜、飛鳥、耀が白夜叉に喧嘩を売り始めた。

 しかも、それに白夜叉の方も乗り気でいた。

 

「ほう。依頼しておきながら私にギフトゲームを挑むか。いいだろう。だが、おんしらが望むのは“挑戦”か? もしくは“決闘”か?」

 

 そう言った途端、七人のいた場所が、和室から広大な雪原に変貌した。

 

「おいおい、マジかよ…」

 

 全員の驚きを代表するかのように十六夜が言った。

 そんな彼らに白夜叉は言う。

「今一度問おうかの。私は“白き夜の魔王”―――太陽と白夜の星霊、白夜叉。おんしらが望むのは試練への“挑戦”か?

それとも対等な“決闘”か?」

 

 言われた彼らの中で、十六夜は驚愕しつつも、今彼らがいる場所を冷静に分析した。

(白い雪原。凍る湖畔。あれは…太陽?)

 

「…そうか。『白夜』と『夜叉』。あの太陽やこの土地は、オマエを表現しているってことだな。白夜叉」

 

 十六夜の言葉に、白夜叉はニッと笑う。

 

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原…。永遠に沈まぬ太陽こそ、私が持つゲーム盤の一つだ」

 

 白夜叉の言葉に、飛鳥が驚く。

 

「これだけの土地がただのゲーム盤…!? そんなデタラメな…」

 

「…して、おんしらの返答は…? “挑戦”であるならば手慰み程度に遊んでやろう。だが、しかし“決闘”を望むなら―――魔王として、命と誇りの限り戦おうではないか」

 

 その言葉に、十六夜も飛鳥も耀も、背筋が寒くなるのを感じる。

 

「まいった」

 

 三人の中で最初に声を発したのは十六夜だった。

 

「やられたよ。降参だ白夜叉。今回は黙って試されてやるよ。魔王様」

 

 十六夜の言葉に、白夜叉は笑った。

 

「くく、かわいい意地の貼り方もあったものじゃの。他の童たちも同じか?」

 

 白夜叉の言葉に、二人ともまだ先ほどの気迫に気圧されたままなのか、少し弱い語調で答える。

 

「…ええ、私も試されてあげてもいいわ」

 

「同じく」

 

「よし、ではさっきから話に加わってなかったそっちの二人はどうだ?」

 

 白夜叉は最初から我関せずと静観していた八幡と小町に訊いた。

 

「生憎、元よりお前とことを構える気はねえよ。勝てないし」

 

「小町はお兄ちゃんについてきただけなので、遠慮しときます」

 

 問題児たちが落ち着いたところで、黒ウサギが入ってくる。

 

「お互い相手を選んでください! それに白夜叉様が魔王だったのは、もう何千年も前のことじゃないですか!」

 

 その言葉に、十六夜が驚愕する。

 

「なにっ!? じゃあ元・魔王様ってことか!?」

 

「はてさて、どうだったかな?」

 

 白夜叉が十六夜の言葉にとぼけて見せた直後、雪原の森のような場所から、『オォ――――ン!』という、獣の鳴き声のようなものが聞こえた。

 

「…なに、今の鳴き声。初めて聞いた」

 

 多くの動物と友好を結んでいる耀は、初めて聞く獣の咆哮に戸惑う。

 白夜叉はといえば、咆哮の主に心当たりがあるようで、少し考え込んだ。

 

「ふむ…あやつか。おんしらを試すには、うってつけかもしれんの。——―来い」

 

 白夜叉が呼ぶと、森から一体の獣が姿を現した。

 そして、その姿を見た耀の表情が驚愕に染まる。

 

「これは…、嘘…っ、ホンモノ!?」

 

「もちろんだとも。こやつこそ鳥の王にして、獣の王―――鷲獅子だ」

 

 鷲獅子が白夜叉の傍らへと降りると、白夜叉は手に持ったカードから“契約書類”をだす。

「さて、肝心の試練だがの…、こんなゲームはどうじゃ?」

 

 そう言って白夜叉が指を鳴らすと、“契約書類”が十六夜たちの前に現れる。

 

『ギフトゲーム名"鷲獅子の手綱"

 

 プレイヤー一覧 逆廻十六夜、久遠飛鳥、春日部耀、比企谷八幡

 

 クリア条件 グリフォンの背に乗り、湖畔を舞う。

 クリア方法 “力”“知恵”“勇気”いずれかでグリフォンに認められる。 

 

 敗北条件 降参、またはプレイヤーが上記の勝利条件を満たせなかった場合

 

 宣誓、上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。 

                                  “サウザンドアイズ”』

 

「どう挑むか四人でよく話し合って――――」

 

 白夜叉が言う前に、耀が前に出る。

 

「私がやる」

 

 そんな耀に、彼女が連れていた三毛猫が心配そうに鳴く。

 

「自信があるようだがこれは結構な難物だぞ? 失敗すれば大けがではすまんが」

 

「大丈夫、問題ない」

 

 耀のその言葉に八幡が反応する。

 

「まずいな…」

 

 八幡の言葉に、さらに女性陣が反応する。

 

「何がまずいの、八幡君?」

 

「今、明らかに大丈夫じゃないフラグが建ったぞ」

 

「えっ!? 八幡さんのギフトってそんなこともわかるんですか?」

 

「いや、そうじゃなくて、お約束的な…」

 

「ああ、アレか」

 

「アレだね」

 

『えっ、どういうこと?』

 

八幡の言葉に、十六夜と小町は納得するも、黒ウサギは世界の違いから、飛鳥は時代の違いからか、よくわからないようだった。

 そうやって、外野が騒いでいるうちに耀とグリフォンの話が進む。

 

「では、娘よ。貴様は何を賭す?」

 

「命を賭けます」

 

 その耀の言葉に、また外野が反応する。

 

「うわ、ついに命を賭けるとか言っちゃってるんだが…死亡フラグだぞ」

 

「ああ、アイツ終わったな」

 

「どうしようね」

 

「ちょっと、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないでしょう!?」

 

「そうですよ! 早くやめさせないと!」

 

 そう言って前に出ようとする黒ウサギを十六夜が制す。

 

「そいつは無粋だぜ。やめとけ」

 

それに…と、十六夜は付け加える。

 

「どうしてもって言うんなら、クリアさせる方向で適任がいるぜ」

 

 その言葉に黒ウサギは首を傾げる。

 

「誰のことですか?」

 

「コイツだよ」

 

 そう言って十六夜は八幡を指差す。

 

「たぶん、あの精霊の爺さんからもらったギフトがあればいけるはずだ」

 

「本当ですか!?」

 

 ああ。と、十六夜が答えるが、八幡自身は自分のギフトが何かよくわかっていないため、命を賭けるようなゲームはこりごりだと思っていた。

 そのため、言い訳してなんとか言い逃れようとする。

 

「いや、俺にはゲームを一日一時間以上すると死んでしまう病があるから、もう今日は―――」

 

 無理…と、言おうとしたところで、十六夜に首根っこを掴まれて…

 

「うおりゃあああああああああ!!」

 

「ぎゃあああああああああああ!?」

 

 今まさに飛び立とうというグリフォンの方に投げられる。

 

『ぬおっ!?』

 

「きゃっ!?」

 

 いきなり飛んできた八幡に、一人と一匹は驚き、グリフォンは少しバランスを崩すも、持ち直してその場で飛び続ける。

 

「…えっと、八幡大丈夫?」

 

「これが大丈夫に見えるか?」

 

 グリフォンにしがみつきながら、若干疲れたように八幡は言う。

 

「えっと、じゃあ、とりあえずこっちに」

 

 とりあえず、耀は安全のため八幡にも手綱を握らせた。しかし、そこで二人に思わぬ事態が起きた。

 

「……………近い…んだけど」

 

「…いや、俺に言われても…」

 

 そう。グリフォンが大きいといっても、手綱自体はそこまで長くはないため、二人で握ろうとすると、二人は体を密着させなければならなかった。

 さらに、二人とも基本的に友達がいなかったので、こういう時はどうすればいいのかわからない。

 耀は安全のため八幡に手綱を握らせたので離れろとは言えず、八幡は八幡で耀は美少女に分類されるほどのかわいらしい容姿のためドギマギしてしまい、離れようにも手綱がないと危ないので離れられないでいた。

 そして…

 

「おうおう、なんとも初々しいのう」

 

「ヤハハ。なんか面白そうなことになってるな」

 

「異世界に来ちゃって、お姉ちゃん候補どうしようかと思ったけど…これなら意外と早くどうにかなるかも! 小町的にポイント高いよ、お兄ちゃん!」

 

「いや、そんなこと言ってる場合じゃないでしょう」

 

「問題が解決どころか…むしろ、問題が悪化してるんですが…」

 

 他の問題児たちは大半が対岸の火事を見ているような心持で、有体にいって余裕綽々だった。

 そして、そんなふうに見られているとは二人は思ってもみない。

 

『もう、よいか』

 

「えっ、あっ、うん」

 

 慣れない状況に戸惑っている耀にグリフォンが問いかけ、戸惑っていたために冷静に考えられず、反射的に答えてしまった。

 

『では、いくぞ!』

 

「えっ、ちょ、待っ―――」

 

 グリフォンの言葉はわからないものの、雰囲気からゲームの再開を感じ取った八幡が止めようとするも、グリフォンは彼の静止の声を聞かずに飛び立つ。

 グリフォンが飛ぶのを再開した時、耀はグリフォンが空を踏みしめ、走っているのだと理解し、それに驚き、同時に感嘆する。

 すると、グリフォンが話しかけてきて、耀も自分がまだまだ余裕であることを言い挑発する。

 その一方で八幡は…

(あれ、どういうことだ?)

 

 耀と自分の状況の差に気づき、それに疑問を抱き始めていた。

(なんで俺は寒くないんだ? いや、それ以前に風をほとんど感じない?)

 

 そう。最初こそ寒かったものの、彼はグリフォンが耀に話しかけたあたりから、グリフォンが走っている間に生じる強烈な風と寒さをほとんど感じなくなっていた。

 そして、それをいち早く感じ取ったのは十六夜だった。

 

 

          ♦

 

 

 

「へえ、半分予想通りだったが…なるほどなあ」

 

「あの、十六夜さん。どうかしたんですか?」

 

「ああ。八幡のギフトは中々おもしろいやつだと思ってな」

 

「え…? じゃあ、十六夜さんは八幡さんのギフトが何かわかったんですか?」

 

 その言葉に他の女性陣も反応する。

 

「彼のギフトって一体何なの?」

 

「小町も知りたいです!」

 

 彼女たちの言葉に、十六夜はにっと笑うと八幡を指差して言う。

 

「まず、春日部と八幡の様子を見てどう思う?」

 

 その質問に、女性人たちはグリフォンに乗る二人を見る。

 

「なんていうか…密着してますね」

 

「八幡君の目つきがもう少しよくて、状況が違ったら恋人同士と言えないことはないわね」

 

「小町的にはアリですね!」

 

「いや、そういうことじゃねえよ。二人の状況の違いをよく見ろよ」

 

 そう言われて、女性陣は再度二人を見る。

 そして、そこで二人の明確な違いに気づく。

 

「八幡さんの様子が普段の状態と変わらな過ぎる?」

 

 そう。二人を比較すると、あまりに様子が違いすぎるのだ。

 耀の衣服や髪が空気中の水分で凍りつき、強烈な風に煽られているのに対し、八幡の方はまるで何かに守られているかのように、衣服も髪も平常通りで、風も髪の揺れ具合から大したことのないものだとわかる。

 

「でも、それってどういうことですか? 確かさっきまではお兄ちゃんも同じような感じだったと思いますけど…」

 

 二人が途中までは同じ状態だったため、当然の疑問として小町が質問する。

 

「それはたぶん、ギフトの発動条件か何かを満たしたんだろうな」

 

『発動条件?』

 

 そんなものがあるのかと、小町と飛鳥は白夜叉と黒ウサギを見る。

 

「確かに、条件付きのギフトもあるな。一般的にギフト所有者の格以上に強力なギフトかギフト所有者の気質によってそういうギフトになったかじゃの」

 

「なるほど。それで、八幡君のギフトの発動条件って何なの?」

 

「まあ、発動条件ってのは正確じゃないが…たぶんアイツのギフトは最初に俺たちがあった時に、黒ウサギの居場所に即座に気づいた俺たちが気づけなかったことと春日部とあのグリフォンが話し始めた時から八幡の様子が変わったことからして、十中八九『周りに自分を認識されないようにし、認識されていない間だけ他者のギフト及びギフトによる二次的影響の無力化をできる』ってところだろうな」

 

 それを聞いた白夜叉以外の女性陣が絶句する。

 

「…ちょっと、待ってください十六夜さん。てことは八幡さんのギフトはかなり強力なものではないですか?」

 

 認識されないようにした上で、その間だけ相手のギフトやそれによる二次的影響を無力化できる…ということは、実質的にギフトに対するアンチ能力であることと同義だということだ。

 それはギフトを持つ者からすれば、かなり脅威な的だろう。

 しかし、十六夜はその言葉に首を振る。

 

 

「確かに強力だが、弱点がないわけじゃない。まず、一つ目に『一定以上格が上の相手には通用しない』ってことだな。少なくとも白夜叉や滝の蛇には効いていないところからして、『神格クラスレベルにはほとんど効かない』と考えた方がいいな。二つ目に『一定以上の距離の一定数以上の人間に認識されているとギフトが解除される』ってところだな。だから、最初に比企谷の妹が俺達に八幡を紹介した時点から認識できるようになったんだろうな。あと、俺たちが最初の時点から認識できていることから、『ギフト発動前に意識されていると、効果がない』ってところか」

 

 十六夜の説明に、黒ウサギが恐る恐る言う。

 

「えっと、ってことはですよ。耀さんかあのグリフォンが再度八幡さんを認識したら…」

 

「まず、間違いなくギフトが解除されるな」

 

 その言葉に小町と飛鳥が顔を青くした。

 

「ちょっと、待って!? もし、いきなり解除されたら…」

 

「いきなり、超スピードの飛行による加重がかかるな」

 

 そんなことになれば、当然のことながら基本的身体能力が平均よりやや優れている程度の八幡では、すぐに落ちてしまうだろう。

 そうなれば、ただでは済まない。

 女性陣たちは心配そうにしているが、十六夜だけはある一つの可能性を考えていた。

(だが、アイツが持ってるアレか、あいつらが起きればいけるか?)

 そして、変化が起きた。

 

 

 

          ♦

 

 

 

「しまっ―――!?」

 

 ゴールを目前にして飛行のスピードに耐え切れず、耀の手が滑り手綱から手を放してしまった。

 そして、そうなれば当然後ろに座っていた八幡にぶつかることになる。

 

「うおっ!? 大じょっ―――!?」

 

「あっ、ごめ――――!?」

 

 ぶつかった時はそこまで強い衝撃ではなかったため、二人とも油断していたが、耀が八幡に意識を向けた途端に、十六夜の仮説を証明するかのように八幡を守っていた力がなくなり、二人をぶつかった時の比ではない強い衝撃が襲う。

 

「くっ…!?」

 

 そして、その衝撃に耐え切れず、八幡も手綱から手を放してしまった。

 そうなれば当然、二人はグリフォンから落ちることになってしまう。

 

「くっ……」

 

 グリフォンから落ちそうになる中、必死に手を伸ばすも前に耀がいてうまく掴もうとできず、耀の手もあと少しのところで空を切ってしまう。

 そして、二人ともそのままグリフォンの上から落ちてしまう。

(くそっ…! これはシャレになんないぞ!)

 

 グリフォンから落ちる中八幡は打開策がないか考えるも、飛行のギフトを持たない八幡はそれが無理だと判断し、耀を見る。

 耀は顔こそ見えないが、自分同様に落ちているところからして、彼女も飛行はできないだろうと推理し、さらに焦りの色を濃くする。

(どうする…!? どうすればいい……!?)

 

『まったく…私たちの御主人様は世話が焼けるわねえ』

 

「え…?」

 

 全く聞きなれない言葉に八幡が一瞬目を見張る。

 そして、

 

 

 

          ♦

 

 

 

「春日部さん!! 八幡君!!」

 

「お兄ちゃん!! 春日部さん!!」

 

 二人がグリフォンから落ちたため、飛鳥と小町が二人の方へ走ろうとする。

 そんな二人を十六夜が制す。

 

「待て! まだ終わってない!」

 

 言われて二人が落ちている耀と八幡を見ると、一瞬八幡の落ちる速度が落ちたかと思うと、耀がまるで風を体に絡めて大気を踏みしめるかのようにして八幡の近くへ飛んでいき、八幡の首根っこを掴んだ。

 そして、そのまま耀は八幡を連れて、十六夜たちのところへ降り立った。

 

「やっぱりな。お前のギフトって他の生き物の特性を手に入れる類だったんだな」

 

「…違う。これは友達になった証」

 

 十六夜の言葉に耀がむっとした顔で言うが、八幡はむしろ耀の『友達の証』という言葉に反応した。

(『友達の証』に特性を手に入れる…ねえ。それじゃあ、むしろ―――)

 

 手懐けてサンプリングしてるみたいだなと八幡は思ったが、耀はそれを『友達の証』として信じて疑わず、大切にしているようなので、言わない方がいいだろうと判断した。

 その後も、耀のギフトの元となっている“生命の目録(ゲノム・ツリー)”について白夜叉と黒ウサギが分析していたが、疲れている八幡は聞く気になれなかった。

 そんな八幡を小町と飛鳥が心配する。

 

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 

「もういやだ。働きたくない」

 

「ちょっと、小町さん。これ大丈夫なの?」

 

「いえ、大丈夫ですね。いつものお兄ちゃんです」

 

 疲れて普段の状態から輪にかけてやる気がなくなった八幡に、むしろ小町は『これなら大丈夫だ』と、飛鳥に太鼓判を押す。

 

「さて、クリアしたおんしらにはちょいと贅沢な代物だが…コミュニティ復興の前祝にはちょうどよかろう」

 

 そう言って、白夜叉が手を叩くと、十六夜、飛鳥、耀、八幡、小町の前にカードのようなものが現れた。

 

「あれ…小町にもですか?」

 

 自分は参加していないのにと、小町が首を捻る。

 

「おんしの兄ががんばったからの。そっちの娘がグリフォンからギフトをもらって、おんしの兄に何の見返りがないのではゲームとして不平等だからな。これはほんのおまけだ」

 

「ありがとうございます!」

 

「…で、それはいいが、これはなんだ?」

 

 ある意味全員が思っていたことを代表して十六夜が言った。

 

「それはギフトカードだ」

 

「お中元?」

 

「お歳暮?」

 

「お年玉?」

 

「誕生日?」

 

「ギフトカードなんてもらったことないから知らないな。ぼっちだから」

 

「みなさん違いますよ! というか、八幡さんは悲しい事実をさりげなく暴露しないでください!?」

 

 的外れなことを言う五人に黒ウサギがツッコむ。

 

「それはギフトを収納して好きな時に顕現できる超高価なアイテムなんですよ」

 

 ギフトカードは十六夜がコバルトブルー、飛鳥がワインレッド、耀がパールエメラルド、八幡がグレー、小町がイエローだった。

 カードを見ると、それぞれのギフト名があった。

 

『久遠飛鳥

 

 “威光(いこう)

 

            』

 

『春日部耀

 

 “生命の目録”

 “ノーフォーマー”

            』

 

『比企谷小町

 

 

            』

 

「やっぱり、小町はないですかあ…」

 

 半ばわかっていたこととはいえ、気落ちしたように小町が言う。

 それを見ていた八幡が思い出したように言う。

 

「ああ、そうだ。小町、これやる」

 

 そう言って八幡が渡したのは、ギフトゲームの商品の一つとして老人からもらったネックレスだった。

 

「…お兄ちゃん、何これ?」

 

「“世界の果て”でのギフトゲームの賞品の一つだな。まあ、女物だし俺が持っててもなんだからやるよ」

 

「いや、それなら他の人に…」

 

 小町が言いよどんだところで、十六夜が意地の悪い笑みを浮かべて言う。

 

「もらっとけよ。それ、そいつがあんたのためにとってきたんだからよ」

 

 小町は少し意外そうに自分の兄を見た。

 まさか、面倒くさがりの兄が自分の騙されたとはいえ、自分のプレゼントを手に入れるためにゲームをしていたとは思わなかったのだ。

 一方、八幡の方は十六夜にバラされて、決まりが悪そうな顔をした。

 

「ありがとう、お兄ちゃん! 小町大事にするね!」

 

「……おう」

 

 二人のやり取りを、他の問題児たちはとてもほほえましそうに見ていた。

 

『比企谷小町

 

 “防御符の首輪(ディフェンシブ・ネックレス)

                            』

 

「なるほど、防御符の一種だの」

 

「防御符…ってなんですか?」

 

「有体に言えばお守りのようなものだな。高位のものだと『結界』や『禍払』などもできたりするの」

 

 小町のネックレスを見た白夜叉が、小町に説明する。

 そんなことに興味がなさそうな十六夜が、八幡の方を向いた。

 

「それで、お前のギフトは何だったんだ?」

 

 言われて、八幡は自分のギフトカードを見る。

 

『比企谷八幡

 

 “不協和音(ディスコード)

 “エレメンタル・ダガー”

 “エレメンタル・アミュレット”

 “風精霊(シルフ)

 “火精霊(サラマンダ―)

 “水精霊(ウンディーネ)

 “土精霊(ノーム)

                   』

 

「ほう…。おんしのは複合型のギフトか」

 

「複合型って何?」

 

 白夜叉から聞く、新しい言葉に耀が訊いた。

 

「おんしらはガルドにゲームを挑むとき、奴が(ワ―タイガー)化しただろ? あやつは元々人・虎・悪魔から得た霊格の三種のギフトを持っていて、それを状況によって掛け合わせることで、人になったり、獣化したりできるというわけだ」

 

「つまり、複数のギフトを掛け合わせて使ったりする奴のギフトが『複合型』ってことか?」

 

 白夜叉の説明に十六夜が確認する。

 

「いかにも。その証拠にギフト名の横に『▶』の印があるだろう? これはこのギフトネームが複数のギフトを合わせた総称である証だ。そして、『複合型』の強みは掛け合わせることで、大したことのないギフトでも、その効果を何倍にも高められるという点だの」

 

 なるほど。と思いつつ八幡はギフトカードの『▶』のアイコンに触れる。

 

『比企谷八幡

 

 “不協和音▷

      

      “トリガーハッピー”

      “デプレッション”

      “ヒッキ―▷

          “ディテクティブヒッキ―”

          “ステルスヒッキ―”””

 “エレメンタル・ダガー”

 “エレメンタル・アミュレット”

 “風精霊(シルフ)

 “火精霊(サラマンダ―)

 “水精霊(ウンディーネ)

 “土精霊(ノーム)” 

                          』

 

「……なんというか、すごいですね」

 

「すごい数だね」

 

「混沌…」

 

「ていうか、お兄ちゃんってこんなにギフトがあったんだ……」

 

 ギフトカードに記されているギフトの数に、八幡自身がかなり驚いていた。

 飛鳥や耀のギフトは数が少ないながら、とんでもない能力だったが、逆に自分はこれだけの数のギフトを有しておきながら、それを全く自覚していないというのが自分でも信じられなかった。

 

「ん? おんし、何をそんなに驚いておる?」

 

「いや、こんだけギフトがあって今までどんなギフトか知らなかった自分に絶望してな……」

 

「ふむ……。ということは、おんしのギフトは恒常的に発動しているか、おんしが無意識で使っておるかだな」

 

「…今まで使ってないってことじゃないのか?」

 

「いや、自前のギフトが『複合型』として結びつくということは、それぞれが同じベクトルへ成長したということだ。ならば、少なからずおんしは決まった方向性でギフトを使っているというわけじゃ」

 

「っていってもなあ」

 

 正直、八幡としては“ステルスヒッキ―”ぐらいしか身に覚えがない。

 

「まあ、そのギフトカードなら鑑定せずとも、それを見れば大体の正体はわかる。だから、追々探っていくがよい」

 

「へえ? じゃあ、俺のはレアケースなわけだ」

 

 八幡に言う白夜叉に十六夜が言った。

 そして、言われた白夜叉はどういう意味かと、十六夜のギフトカードを見る。

 

『逆廻十六夜

 

 “正体不明(コード・アンノウン)

 “水樹”

                    』

 

 それを見た白夜叉は驚愕して震えるような声で言った。

「そんな馬鹿な。全知である“ラプラスの紙片”がエラーを起こすはずなど……」

 

 

 

          ♦

 

 

 

 現在、八幡は十六夜とコミュニティのリーダーであるジンともに、ノーネームの本拠の一室にいた。

 というのも、ノーネームに来て、魔王の残した爪痕を見て八幡以外の問題児たちが俄然やる気を出したのち、十六夜が手に入れた水樹で水源を確保したため女性陣が入浴しているところに、ガルドの支配下にあるコミュニティの刺客が十六夜に小石一つであしらわれ、そこにジンが駆けつけてきて、十六夜が支配されているコミュニティの面々に『ノーネームは打倒魔王を掲げるコミュニティだ!!」と宣言したので、今後どうするかの会議で、十六夜がジンを論破してコミュニティを発展させるための作戦を言った。ちなみに、八幡はガルドの刺客たちが来たのを察知し、十六夜が蹴散らすだろうと思って部屋で寝ていたら、十六夜に首根っこを掴まれて連れてこられたのだ。

 

「で、なんで俺を呼んだんだ」

 

「まあ、俺の作戦は明日のゲームに勝てなきゃどうにもなんねえからな。だから、」

 

 そこで言葉を切り、ジンと八幡を見つめて言った。

 

「明日負けたら、俺抜けるから」

 

「なぜそれを俺にも言う」

 

「お前は自分のギフトがどんなのか予想してないみたいだからな。俺なりの推測で確定してることだけ言わせてもらおうと思ってな」

 

 そして、十六夜はグリフォンのギフトゲームでの推測を八幡に話す。

 

「間違いなくそれ“ステルスヒッキ―”だな」

 

「どうでもいいんだが『ヒッキ―』ってお前のニックネームか?」

 

 『ヒッキ―』=『引きこもり』のイメージが世間一般にあるため、あまりセンスがいいとは言えない名称について十六夜が八幡に訊いた。

 

「ああ、クラスメイトがネーミングセンスなくてな」

 

 そう言って、八幡はクラスメイトの由比ヶ浜結衣を思い浮かべる。

(もしかしたら、アイツは心配するかもな。それか雪ノ下とゆるゆりしてるかか…)

 

「ともかく、数があるからにはある程度把握できるに越したことはないだろ?」

 

「お前ってアレか? 結構面倒見がいいとかそういう奴か?」

 

「何をいまさら。そうじゃなきゃ、こんなコミュニティに入ってわざわざ立て直しの作戦なんて立てたりしねえよ」

 

「そりゃそうか」

 

 二人はなぜかおかしくなって、同時に吹きだした。

 こうして、男性陣の夜は更けていく。

 

 

 

          ♦

 

 

 

 翌日、ガルドとのギフトゲームの日となった。

 

「今回のゲームが舞台区画じゃなくて居住区画?」

 

 昨日の喫茶店の猫耳の店員からの情報に全員が首をかしげていた。

 

「しかもガルド一人でなんて…少し気になるわね」

 

「気になるっていうか、モロに罠だな。大方、久遠のギフトを無力化するための策かなんかだろうな」

 

 飛鳥のギフトは昨日の尋問で知られているため、それを防ぐためだと考えればつじつまは合う。

 

「とにかく、その居住区画に行ってみましょう」

 

 

 

          ♦

 

 

 

「いったい、なにが―――…」

 

 居住区画という場所に来てみれば、そこは植物の生い茂るジャングルのようだった。

 

「ガルドはジャングルに住んでいたのか?」

 

「それはないだろ。どんな趣味だよ」

 

「そうですね。ここはもっと普通だったはずです」

 

「あら?」

 

 男性陣たちが話していると、飛鳥が植物の蔦に羊皮紙――“契約書類”があるのを見つける。

 

『ギフトゲーム名"ハンティング"

 

 プレイヤー一覧 久遠飛鳥、春日部耀、比企谷八幡、ジン=ラッセル

 

 クリア条件 ホストの本拠内に潜むガルド=ガスパーの討伐。

 クリア方法 ゲーム内に配置された指定武具でのみ討伐可能。指定武具以外によって傷つけることは“契約”により不可能。 

 

 敗北条件 降参、またはプレイヤーが上記の勝利条件を満たせなかった場合

 

 宣誓、上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。

                                            』

 

「これはまずいです」

 

「あら、このゲームはそんなに危険なの?」

 

 『やられた』という顔をするジンに飛鳥がした質問に八幡が答える。

 

「危険というよりも、ルールが厄介なんだよ」

 

「厄介?」

 

「ああ。ルールでは指定武具以外で傷つけることは“契約”―――つまりルール上不可ってことだ。だから、おまえのギフトで従わせることも、春日部や俺、ジンが直接攻撃しても意味がないってことだ」

 

「それはどんな攻撃でもなの?」

 

 八幡の説明に飛鳥がジンに質問する。

 

「ルールである以上は、たとえ神格だろうと手が出せません」

 

「大丈夫です。最低でも何らかのヒントはあるはずです! でなければルール違反で“フォレス=ガロ”は反則負け! この黒ウサギがいる限り反則は許しません!」

 

 黒ウサギが力強く断言する。

 

「そこまで言うなら大丈夫ね。それじゃあ、行きましょう」

 

 そう言って、四人は“フォレス=ガロ”の居住区へと入っていく。

 

 

 

         ♦

 

 

 

「近くからは誰の匂いもしない。もしかしたらどこかの建物に潜んでいるのかも」

 

「みたいだな。誰の視線も感じない」

 

 周りに誰もいないことを耀と八幡が確認すると、飛鳥と耀とジンが八幡を見る。

 

「な、なんだよ」

 

 三人から注目されて、居心地悪そうに八幡が言うと、飛鳥がもしかして、と訊く。

 

「黒ウサギの時も言ってたけど、八幡君って人の視線に敏感な人なの?」

 

「ぼっちは普段人から見られないから、人の視線に敏感なんだよ。なんだったら視線や目線、仕草から相手の思考がある程度読めるまである」

 

「なにその無駄にすごい技能…」

 

 八幡が誇らしげに言うと、耀は感嘆半分、呆れ半分といった風情で返す。

 

「それじゃあ、ちょっと見てくる」

 

 そう言って、耀は近くの木の上に上り、一際大きい建物を見る。

 

「見つけた。この先の館!」

 

「さすがね。でも、まずは指定武具を見つけないとまともに戦うこともできないわ」

 

「わかってても行くしかないだろ」

 

「そうですね。もしかしたら、その館にあるのかもしれません」

 

 四人は周りを警戒しながら館に向うも、罠も奇襲もなく、すんなり館に到着した。

 

「どうやら、一階に指定武具はなさそうね」

 

「さっき二階に見えたよ」

 

「なるほど、待ち構えているというわけね。ジン君、貴方はここで待っていて。私たちが行ってくるわ」

 

「そんな、僕も―――!?」

 

 反論しようとするジンに、八幡が言った。

 

「俺達に何かあったら撤退するための退路が必要だから、おまえはここでそれを守っててくれ」

 

「そういうこと」

 

「…わかりました」

 

 そして、三人は二階に進んで行く。

 と、ものの数分で飛鳥が階段を駆け降りてきた。

 

「飛鳥さん!? どうしたんですか!?」

 

「逃げるわよ!」

 

 そう言って、飛鳥はジンの手を取る。

 

「でも、耀さんが――――」

 

『いいから逃げなさい!』

 

 飛鳥のギフトの効果で、ジンは通常では考えられないような力を発揮し、飛鳥を抱えて館を飛び出した。

 しばらくしたところで、飛鳥はジンにかけたギフトの効果を解いた。

 

「それで、結局何があったんですか?」

 

 飛鳥が言うには、最初に入った部屋に大きな虎がいて、焦って逃げてきたということらしい。

 そして、ジンが言うにはそれがガルドで、何者かによって『人』を成す部分のギフトを『鬼種』変質させられたのだろうということだった。

 二人が話していると、突風が起こる。

 

「きゃあっ!?」

 

 突風が止むと、二人の前に、耀と八幡がいた。しかし、

 

「なっ!?」

 

「ちょっと、春日部さん!? 八幡君、どうしたのそれ!?」

 

 二人の質問に耀が青ざめた顔で泣きそうになりながら答える。

 

「どうしよう飛鳥、ジン。私のせいで……八幡が死んじゃう」

 

 耀の傍らにいる八幡は、背中から大量の血を流して気を失っていた。




さて、八幡はなぜ重傷を負うに至ったのか。
そして、次回はボンボン坊ちゃんが出ます。終わったらいいな、一巻の分まで。
というわけで次回、『だからこそ、久遠飛鳥は立ち向かう。』をお楽しみに。

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