ぼっちが異世界から来るそうですよ?   作:おおもり

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 小町が主人公の『ダンガンロンパ』と『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』のクロスオーバーを始めたので、よろしかったらそちらも見てください。
 にしても、…1巻終了が長い。
一応、次回で1巻終了…予定ですが、できたらいいな。
というわけで、『調子に乗ったボンボン坊ちゃんを倒せ~基本的に煽っていくスタイル、精神攻撃は基本~』お楽しみください。
 


だからこそ、久遠飛鳥は立ち向かう。

 フォレス=ガロ居住区画で、飛鳥は耀から八幡が大怪我を負うに至った経緯を訊いた。

 耀が頻りに『自分のせいだ』と泣きながら言うので、宥めるのが一苦労だったが、それでも訊けた内容から、次のようなことがあったらしい。

 

 

 

          ♦

 

 

 

 耀は目の前の虎にどうすべきか悩んでいた。

 恐らく八幡がここにいると思うが、十六夜から聞いた八幡のギフトの効果で彼は気づかれない限り敵の攻撃を無力化できるので、大丈夫だろう。

 だが、気づかれてしまえば、恐らく彼では敵の攻撃には対処できないだろう。

 しかし、虎の後ろには十字架を象った長剣があった。

(…たぶん、あれがゲームクリアのための指定武具だ) 

 

 ならば何があっても手に入れなければならない。

 そう思うも、間にいる虎をどう抜けるべきか。

(いや、ここは私が虎と戦って引きつけている間に八幡に剣を取ってもらおう)

 

 場合によっては自分が取ればいいだろう。

 そう考えて、耀は臨戦態勢に入る。

 虎もそれを感じ取ったのか、臨戦態勢に入る。

 

「……ガルルルッ!」

 

 虎は低く唸り、耀へと跳びかかる。

 

(よしっ! この程度なら大丈夫だ)

 

 しかし、多くの動物の能力を持つ耀は難なく敵の攻撃を躱す。

 その後も、敵の攻撃は決定打になるものはおろか、耀に掠りもしなかった。

(よしっ! 後はこの隙に八幡が剣を取ってくれれば…)

 

 そう思って剣の方を見ると、先ほどの剣がなくなっていた。

(えっ!? なんで剣が…)

 

 気づかない内に剣が消えていることに動揺して、動きが鈍ってしまった。

 敵がそれを見逃すはずもなく、敵の攻撃はもう目前に迫っていた。

(…しまった!? これじゃあ、止めるのも間に合わない!!)

 

 そう思ってつい目を瞑った時、どんっと、誰かに押された。

 

「がっ!!!??」

 

「えっ…!?」

 

 来るはずの衝撃は来ず、代わりに聞こえた悲鳴に目を開けると、さっきまで耀がいた場所には血溜りができていて、一人の少年がそこに倒れていた。

 

「八幡っ!?」

 

 そこに倒れていたのは、紛れもなく先ほどから姿を消していた比企谷八幡だった。 

 彼に駆け寄ろうとした時、ガンッと何かを踏んだ音がした。

 

「これって…!?」

 

 何かと思って目を向ければ、それは指定武具の長剣だった。

 それを見て、耀はようやく長剣が消えていたのは姿を隠した八幡が持っていったからだと理解した。そして、彼が敵の攻撃から庇ってくれたことも、同時に理解した。

(私がそれに気付かなかったせいで八幡は…)

 

 とりあえず、彼を回収しなければと思い、剣を拾って彼を見ると、先ほどの虎が彼のすぐ近くに来ていた。

 そこで耀は恐ろしい考えに思い至る。

 そして、虎は耀の予想を裏付けるように前足を振り上げた。

 

「待って!! やめて!!」

 

 駆け寄ろうとするもすでに遅く、虎の攻撃は八幡に容赦なく振り下ろされ、彼は耀の元へ吹っ飛ばされる。

 

「くっ……!」

 

 耀は彼をできるだけ丁寧に受け止めるも、彼の出血は尋常じゃない量で、受け止められた程度の衝撃でもかなり血が流れてしまうほどの重症だった。

(どうしよう…。私のギフトじゃこの傷を治すことはできない)

 

 耀のギフトは『友達となった動物の能力を使えるギフト』だ。傷の治癒には全く役に立たない。

 どうすればいいか途方に暮れている耀の前に影が差す。

 先ほどの虎がとどめを刺すために近づいてきたのだ。

(くっ……! こうなったら…!)

 

 できるだけ早く敵を倒して、ここから脱出し、ジンたちに彼を診てもらわなければ。そう思った時、耀の周りに風が吹いた。

 

『まったく…。本当の手のかかる御主人様ね』

 

 とてもきれいな、澄んだ声が聞こえた。

 そして、一際大きな風が吹いたかと思うと、風が耀と八幡を包み込む。

 

「わっ!?」

 

 気が付くと、目の前には飛鳥とジンがいて、目の前に森が広がっていた。

 

「ちょっと、春日部さん!? 八幡君、どうしたのそれ!?」

 

 飛鳥が八幡を見て驚いたように言う。

 耀は仲間たちの元にいることに安堵し、同時に自分の声が震え、泣きそうになっているのを自覚しつつ何とか声を絞り出す。

 

「どうしよう飛鳥、ジン。私のせいで……八幡が死んじゃう」

 

 

 

          ♦

 

 

 

「どうしよう…私の…せいで、私のせいで…八幡が。これ…じゃあ、小町に…合わせる顔がない…」

 

 泣きながら自分を責め続ける耀を宥めつつ、飛鳥はジンの方を向く。

 

「どうジン君、助かりそう?」

 

 訊かれたジンは焦ったように言う。

 

「だめです! 出血もすごいですが、傷がかなり深いです! このままでは八幡さんが死んでしまいます! このギフトゲームは悔しいですが降参しましょう!」

 

「それはだ『それは困るわね』————!?」

 

 いきなり聞こえた声に三人が声のした頭上を見ると、そこには金髪の少女が浮いていた。

 年のころは恐らく八幡や十六夜と同じくらいだろうと思われ、目つきがややきついが、飛鳥でも見惚れるほどの美しさだった。

 

「そんなことされたら、私たちの御主人様の頑張りが無駄になるわ」

 

 そういう彼女に飛鳥は警戒しながら訊く。

 

「まず、名前を訊いてもよろしいかしら?」

 

「…ウィン。お爺様やお兄様たちにはそう呼ばれていたわ」

 

「わかったわウィン。それで、あなたはガルドの仲間なのかしら?」

 

 言われたウィンは不快そうな顔をした。

 

「冗談でもあんな低俗な輩の仲間と扱わないでほしいのだけれど…」

 

「…じゃあ、あなたは誰の味方なの?」

 

 自分たちのコミュニティにこんな人はいなかったはずだと、さっきまで泣いていた耀が不思議そうに尋ねると、ウィンはため息をついた。

 

「一応助けてあげたのにその質問はないでしょう。 まあ、初対面ってことになるから一応明言すると、私たちは御主人様の味方よ」

 

「御主人様?」

 

「あなたを庇って死にかけてるそこの目の腐っている男よ」

 

 そう言われて全員の視線が八幡に集まるも、彼はいまだ意識を失ったままだ。

 そこで、耀が何かを思い出したかのように、ハッとした表情をする。

 

「もしかして、あなた精霊の?」

 

 そこで、ウィンは顔に笑みを浮かべて言う。

 

「ご名答。私は彼、比企谷八幡の隷属させた四大精霊の姉妹の次女、風精霊(シルフ)のウィンよ」

 

 その言葉に全員目を丸くして、飛鳥が代表するように訊く。

 

「ちょっと、いいかしら」

 

「何?」

 

「あなたってもっと小さくなかった?」

 

 そう、彼女たちは一人一人が手乗りサイズくらいの大きさだったはずなのだ」

 

「ああ。あれは省エネモードね。力を使いすぎないようにセーブするためのものよ」

 

「じゃあ、今が全開モードってこと?」

 

「そうなるわね」

 

「で、あなたが八幡君と春日部さんをここに連れてきたの?」

 

「ええ、そうよ」

 

 そこで、耀が震えるように言った。

 

「だったら…、どうして最初から八幡を助けなかったの!?」

 

 それを聞いたウィンは、少し俯いていった。

 

「したわ」

 

「えっ!?」

 

「助けようとしたわよ。でも、御主人様の隠形のギフトは気づかれていない間は他人のギフトだけじゃなくて、自分のギフトの効果も無効化するのよ(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 それを聞いて三人は愕然とした。

 自分のギフトすら無効化してしまうギフトなんて厄介以外の何物でもないからだ。

 

「正確には、『自分に対して効果を及ぼすギフトのみ無効化する』みたいね。他にも、『ギフトでない物理攻撃やギフトと関係ない物理現象は無効化できない』って弱点もあるみたい」

 

「でも、それだったら八幡のギフトの効果が切れてたから二回目の攻撃を受けるのは防げたんじゃ……」

 

「生憎、御主人様の意識がなくなった時に一時的にこっちも意識を持って行かれそうになったのよ。“エレメンタル・アミュレット”もそうだけど、こういうのってギフト所持者の意識がなかったりするとあまり効果を発揮できないのよ」

 

「…そうなんだ」

 

「…それで、これからどうするんですか?」

 

 空気が重いなか、ジンはウィンに訊く。

 

「降参がダメとなったら、今すぐにでも八幡さんの治療ができるギフトが必要ですが、あなたにはそれができるんですか?」

 

「できないわよ」

 

『えっ?』

 

 あまりにもあっさり言われたウィンの言葉に、三人は一瞬何を言われているのか理解できなかった。

 

「ちょっと待ってください!? じゃあ、誰が八幡さんを治療するんですか!?」

 

「この子よ」

 

『えっ?』

 

 ウィンが首根っこを掴んでいる、いつの間にか現れた少女に三人がきょとんとする。

 

「えっと…、誰?」

 

 全員が思っていたことを耀が訊く。

 

「私の妹よ。御爺様たちからはヒータと呼ばれているわ。私たち姉妹の三女で火精霊(サラマンダ―)よ」

 

 ヒータという少女は年のころは恐らく耀と同じくらいだろう。目つきは姉と違って柔らかく、やや癖のあるショートカットの赤髪がとても活発そうな印象を与えるが、イメージとは裏腹に引っ込み思案なのかビクビクしている。それがまた庇護欲をそそり、姉とは別のベクトルの美少女だった。

 ヒータは恐る恐るといった感じで姉に訊く。

 

「それで…お姉さま。私はご主人様を助ければいいの?」

 

 訊かれたウィンは優しい表情をヒータに向ける。

 

「そうよヒータ。今御主人様を助けられるのは貴方だけよ。だから、頑張って」

 

 言われたヒータは、気弱そうな顔に真剣な色が混じった。

 

「うん! がんばる!」

 

 そう言って、ヒータは俯せの八幡のそばに行くと、八幡の首にかかっている“エレメンタル・アミュレット”を手に取り、自分の額に近づけて念じるように目を瞑った。

 すると、“エレメンタル・アミュレット”にはまっているうちの黄色の石が輝き、いきなり八幡の背中の傷に火が付いた。

 

「八幡!?」

 

「八幡君!?」

 

 彼に駆け寄ろうとする耀と飛鳥をウィンが押し留める。

 

「大丈夫よ」

 

「大丈夫って…背中が燃えてるのよ!?」

 

「四大元素『火』の属性は『侵略』、『変化』の他に『再生』も象徴してるのよ。だから、あの火は御主人様の傷を『再生』で御主人様の自己治癒能力を向上させて治してるのよ」

 

 ウィンが二人に説明していると、ヒータが難しそうな顔をする。

 

「…これはダメかなぁ」

 

 ヒータの弱気な声に耀が反応する。

 

「ダメって…どういうこと!?」

 

「いや、治せないわけじゃないんだけど…傷がちょっと深すぎて完治は無理だと思う。たぶん少し跡が残っちゃう」

 

「そうなんだ…」

 

 『傷が残る』と言われて、耀は目に見えて沈んでしまう。

 

「大丈夫よ、春日部さん! 八幡君も小町さんもそんなに気にしないわよ」

 

「いや、そこは気にするでしょ。普通」

 

 飛鳥のフォローにならないフォローにウィンがツッコむ。

 

「まあ、いいわ。八幡君の怪我の心配をしなくていいなら、ここは貴方たちに任せるわ」

 

 そう言って飛鳥は指定武具の長剣を持って歩き出す。

 

「ちょっと飛鳥さん! どこに行くんですか!?」

 

「決まってるでしょ? ガルドを倒しに行くのよ」

 

「力…貸しましょうか?」

 

 ウィンが飛鳥に言うも、飛鳥は首を横に振る。

 

「いいえ。貴方たちは念のため八幡君をお願い」

 

 そう言って歩き出そうとした飛鳥の前に耀が立ちふさがる。

 

「私も行く。八幡が怪我をしたのは私のせいだから」

 

 そんな耀を見て、飛鳥は微笑んだ。

 

「わかったわ。じゃあ、一緒にガルドを倒しましょ」

 

「うん!!」

 

 

 

          ♦

 

 

 

 館内にいる虎――――ガルドは館の異変に気付いた。

 館に火がついて燃え始めていた。

 火はあっという間に館に広がっていく。

 ガルドは危険だと感じたのか、すぐに外へと飛び出す。

 しかし、外に出ると植物によって一本道ができていた。

 そこを走っていくと、彼の前に長剣を持つ一人の少女が立ちふさがった。

 それでも、ガルドは構うことなく少女に襲いかかった。

 しかし、少女―――飛鳥は毅然と叫ぶ。

 

『今よ!』

 

 そう叫んだ途端、周りの植物がガルドに襲い掛かり、彼を拘束する。

 

「今よ、春日部さん!」

 

 拘束されて動けないガルドの頭上に、近くの木から耀が飛び出す。

 

「はっ!」

 

 耀はガルドの頭に思い切りとび蹴りを食らわせる、それは“契約”上ダメージは与えられないが、その衝撃がガルドの脳を揺さぶった。

 ガルドは軽い脳震盪で動きが鈍くなる。

 そして、飛鳥はそこにすかさず指定武具の長剣をガルドの喉に深々と突き刺した。

 飛鳥は、ガルドをまっすぐ見据えて言う。

 

「知性があったら気が付けたはずなのにね。…けれど貴方、虎の姿の方が素敵だったわ」

 

 その言葉は、誰にも聞こえることはなかった。

 

 

 

          ♦

 

 

 

「………ん、ここは、ノーネームの…」

 

 八幡が目を覚ますと、そこはノーネームにある八幡の自室だった。

(痛みは…ないってことは何かのギフトで治したか?)

 

「あ、お兄ちゃん起きた?」

 

 見ると、ベッド横の椅子に小町が座っていた。

 

「…ゲームは?」

 

 八幡が訊くと、小町はVサインをする。

 

「耀さんと飛鳥さんの活躍で、なんとノーネームの勝利でーす!」

 

「そっか…」

 

 八幡がまた寝ようかと考えていると、小町が顔を覗き込んでくる。

 

「なんだ小町。俺せっかくだからもっと寝たいんだけど」

 

 小町は少し言いづらそうにした後、兄の顔を見て言う。

 

「背中、傷跡残っちゃうって…」

 

 そこで、八幡は自分が虎に二回も背中を切り裂かれたのを思い出す。

 

「ま、まぁ、これでしばらく働かずに済むし、女子を助けてできた傷とか帰ったら材木座にでも自慢するわ」

 

 そう言って八幡はそっぽを向いて、元の世界の中二病の知り合いを思い出す。

 それを聞いて、小町は安心したような顔をする。

 

「耀さんにも言ってあげなよ。小町にすごい謝ってきたんだから」

 

 それに八幡は少し怪訝な顔をする。

 

「謝るって…何で?」

 

「いや、だってそれ、耀さん庇って負った傷だからって言ってたけど…」

 

 それを聞いて八幡は『なるほど』といった顔をする。

 

「いや、でもこれ俺が勝手にやって負った傷だもんなあ…。別に気にしなくていいんだが…。むしろ、材木座とか戸塚に自慢できるかもな」

 

 そう言って八幡は自分の天使を思い浮かべる。ナース服姿で。

(あれ、これ戸塚にすごい心配してもらえる気がする。八幡的にすごくポイント高い…ってやばいやばい。戸塚は天使だが男だ)

 

 八幡の内心に気づかず、彼の言葉に小町は目を輝かせる。

 

「お兄ちゃん! それ小町的にすごくポイント高いよ! 耀さんにも言ってあげなよ!」

 

 言われて、八幡は嫌そうな顔をする。

 

「えー、いいよ別に。メンドくさいし。小町から言っといて」

 

「女の子はそういうのは本人から直接言って欲しいものなんだよ! まったく、このゴミいちゃんは!」

 

「ゴミいちゃんはやめろ」

 

 言って八幡はため息をつくと、何か思い出したように、小町の方を向く。

 

「小町、ちょっといいか?」

 

「およ? 何、お兄ちゃん」

 

「いや、ちょっと、頼みたいことがあるんだけど…」

 

 

 

          ♦

 

 

 

「八幡君、起きたかしら」

 

「YES! 傷はヒータさんが治しましたから、もう目覚めてもいい頃です」

 

「でも、傷跡は残ってるんだよね…?」

 

 耀が二人に心配そうに訊く。

 

「だ、大丈夫よ春日部さん! 小町さんも気にしないでって言ってたんだし…」

 

「そうですよ、耀さん! 八幡さんはそういう性格じゃないそうですし!」

 

 二人は耀を元気づけようとするも、今まで人間の友達がいなかった耀は『自分のせいで友人が怪我をしてしまう』という初めての経験に不安にならずにいられなかった。

 

「とりあえず、八幡君の部屋に行きましょう!」

 

「…うん」

 

 とりあえず、八幡の部屋に行く方向で決定し、三人は八幡の部屋の前まで来る。

 そして、耀が部屋のドアを開けようとしたところで…

 

『えっと、お兄ちゃん…ここがいいの?』

 

『ああ、そこだ…』

 

『えっと、気持ち…いい?』

 

『ああ、すごく気持ちいい』

 

 中の二人の会話に固まってしまった。

 

「えっと、飛鳥、これって入っていいのかな?」

 

「いや、すごくダメな気がするんだけれど…えっと、二人って確か…実の兄妹よね?」

 

「YES。そう聞いてますけど…」

 

 二人の会話からいかがわしいやり取りを想像した三人は顔を赤くする。

 

「いや、さすがに兄妹ではダメでしょう!」

 

「そ、そうだよね! と、止めなくちゃ!」

 

「ちょ、待ってください耀さん!?」

 

 黒ウサギの制止の声を無視して耀がドアを開けると…

 

「…お前ら、なに人の部屋の前で騒いでたんだ?」

 

 小町に濡れタオルで背中を拭いてもらっている上半身裸の八幡がいた。

 

(((なんて紛らわしい!?)))

 

 三人の心がかつてなく一つになった瞬間だった。

 

「というか、八幡さんは小町さんに何をさせているのですか!?」

 

「いや、汗かいて気持ち悪かったんだが、一応怪我人だったわけだし風呂はどうだって話になって」

 

「それで体拭いてたらお兄ちゃんが背中に手が届かないからって、小町が拭いてあげてました」

 

「というか、八幡君は異性の前なのだから少しは隠しなさい!」

 

 赤い顔をした飛鳥に、いまだ上半身裸の八幡は少し考えると…

 

「キャー、クドオサンノエッチー」

 

 胸を隠すようにして、すごく棒読みで飛鳥に言った。

 

「…えっと、八幡さん? どういう意味で―――」

 

『ぶふっ!?』

 

 ネタが通じなかった黒ウサギと飛鳥はどう反応したらよいか考えあぐねていたが、逆に意味の分かる耀と小町がツボだったのか吹き出した。

 

「ちょっ…八幡、そのネタは…くっ、反則…」

 

「そう、だよ…くっ、お兄…ちゃん」

 

「えっと、そろそろいいかしら?」

 

 いまだ笑いをこらえようとしている耀と小町だったが、その雰囲気を壊すかのようにウィンが声をかけた。

 だが、彼女の省エネモードではない姿を始めてみる八幡はきょとんとしている。

 

「…誰だ?」

 

「初めまして御主人様、四大精霊の四姉妹が次女、風精霊(シルフ)のウィンでございます」

 

「……ドッキリ?」

 

「違います」

 

「………中二病?」

 

「違います」

 

「…………じゃあ、押し売―――」

 

「違います! ていうか私どれだけ信用ないんですか!?」

 

「いや、うちの教育方針は『美人とうまい話はまず疑え』なんで……」

 

「どんな教育方針ですか!? いや、一応“契約(ギアス)”で隷属してるのでギフトカードに名前あったはずなんですけど…」

 

「…………………………………………あ」

 

「なんですか、その反応!? 忘れてたんですか!? まさか、忘れてたんですか!?」

 

「いや、忘れてねえよ。ちょっと記憶から抜け落ちてただけで…」

 

「それ完全に忘れてるじゃないですかぁ!?」

 

 元々対人関係の記憶力が悪い八幡の、あまりの扱いにウィンのキャラが崩れていた。

 そこにヒータが現れた。

 

「…!? またか…」

 

「お姉さま、落ち着いて! 作ってるキャラがブレまくりだよ!」

 

「キャラ、作ってたんだ…」

 

 最初はちょっとクールな感じに出てきたウィンがキャラを作ってたことが判明し、女性陣はヒータが現れたことに驚いている八幡と二人の精霊の様子を女性陣は微妙な気持ちで見守ることになった。

 

「……なんだこの状況」

 

 そこへ、外でガルドのコミュニティの傘下に入れられていたコミュニティに旗印を返し終わったのか、十六夜とジンが来て、部屋の微妙な空気に十六夜が訪ねた。

 その後、説明に小一時間かかることとなった。

 

 

 

          ♦

 

 

 

「独特? 俺のギフトが?」

 

 ある程度の自己紹介が終わったところで、ウィンは八幡に彼のギフトについて話を始めた。

 なんでも、彼女たちは一種の霊視能力があり、八幡に関すること限定でそれを行えるらしい。

 そして、それによって視た結果、彼のギフトの詳細がいくつか発覚することとなった。

 

「はい。御主人様のギフト…例えば複合ギフト“ヒッキ―”は基本的に『隠形(おんぎょう)』を基礎とするギフトですね。そもそも『ヒッキ―』とは『得体のしれないもの』を表す言葉ですので、本来の隠形のギフトにその名前が付いたことで効果が高まったのだと思われます。その中でも“ステルスヒッキ―”は隠形に特化…特に『目立たないこと』に重きが置かれているギフトです。対して、“ディテクティブヒッキ―”は一種の索敵能力ですね。基本的に周りを警戒するためのギフトかと…」

 

 そこで耀が疑問を持つ。

 

「なんで警戒ってわかるの?」

 

「へ? 索敵って警戒以外でするんですか?」

 

 小町の耀に対する疑問には十六夜が答えた。

 

「周囲への警戒以外の索敵の目的は対象の追跡や追撃、奇襲を仕掛けるために相手の位置を探ったりすることで使われるな」

 

「その通りです。ですが、御主人様の場合は一つはより目立たたないために、関わらずにすむようにしているのと、二つ目に他人を疑っているが故の自己防衛ですね」

 

「目立たたないために索敵?」

 

「はい。つまり、他人から距離を置くために、一定距離以上に近づかれたり注目されたりしたらいち早く気付くためって感じですね。そしてさらに、御主人様のギフトは大別して、能動的能力(アクティブスキル)受動的能力(パッシブスキル)があります」

 

「『アクティブ』と『パッシブ』ってどういうことなのですか?」

 

「えっと、簡単に言って自分から使う時と相手から攻撃を受けた場合などで能力の種類が若干変わるといった感じでしょうか。例えば、“ステルスヒッキ―”の『パッシブ』は皆さんや私がわかっている程度の能力ですが、『アクティブ』はその効果をさらに数段上げたものになるんですが、恐らく神格クラスでもその格にもよりますが、最低でも数秒ぐらいは通じるかと…。それとこれはもしかしたらなんですが…」

 

 言うのをためらっているウィンに八幡が言う。

 

「何だよ。別に俺のギフトなんてそう大したもんじゃねえだろ。」

 

「いえ、むしろこれからの使い方次第でこの効果を他人にも使えるかもしれないんです」

 

「つまり、俺のステルスを他の奴にも適用できるってことか?」

 

「はい。『アクティブ』の時だけですが…」

 

「それで、もう一つの方の『アクティブ』と『パッシブ』はどんなのなんだ?」

 

「“ディテクティブヒッキ―”の『パッシブ』は御主人様から半径数十メートルほどの射程で御主人様に視線…というか意識を向けている相手の探知で、『アクティブ』は射程圏内にいる者の探知と近くにいる者の心の裏側を読むことができます」

 

 そこで耀が首を傾げた。

 

「『心の裏側』って何?」

 

「そうですね…。例えば言葉には本音と建前がありますよね?」

 

 その言葉に十六夜は怪訝そうな顔をする。

 

「そりゃ、そうだろ。普通の奴にとって全部が全部いいたいことってわけじゃねえんだから」

 

「はい。ですが、御主人様のこのギフトは言葉の裏側に潜む心の本音…特に悪意や欺瞞などの負の感情を読むことができるんです」

 

「じゃあ、相手が喋らなければ使えないのか?」

 

「いえ、おそらくこれから使って慣れていけば、普通に心を読むことができるかと…」

 

 それを聞いた『ノーネーム』の面々は興味深そうに八幡を見た。

 

 八幡は他の面々から見られて居心地悪そうにしている。

 

「な…なんだよ」

 

「いえ、だって初めて見た時は『なんでこの存在感のない目つきの悪い男が小町さんのお兄さんなのかしら』って思ったけど、意外にすごいギフトで少し見直したわ」

 

「うん。存在感がないのが武器なのかと思ってた」

 

「ヤハハ。やっぱおもしろいな、オマエ」

 

「だから、おまえらの中の俺はなんなの?」

 

 問題児たちからのあまりの評価に八幡がぼやく。

 それに構わずウィンが話を続ける。

 

「あと、“トリガーハッピー”はここで使われたのが私たちが眠っている時のことでしたので、精々言霊の一種であることぐらいしか…」

 

 八幡は“トリガーハッピー”なんて物騒な名前のギフトを使ったことの身に覚えがないので、首を傾げるが、やはり思い当たらないので、もう一つのギフトについて訊く。

 

「もう一つの―――“デプレッション”の方はどうだ?」

 

 訊かれたウィンは『どう答えたものか』という顔をする。

 

「…実はこのギフトが一番難点でして、よくわからないんです」

 

 ウィンの言葉に再び十六夜が怪訝そうな顔をする。

 

「よくわからない?」

  

「はい。こちらも私たちが眠っている間に使われていたようですが、どうにもギフト自体が曖昧でよくわからないんです」

 

「ギフト自体が曖昧ってあるんですか?」

 

 小町が黒ウサギに訊くと、黒ウサギは難しい顔をする。

 

「それは恐らく、そのギフトそのものが主体になることがほとんどないものだと思われます。たぶんギフトを何らかの形で補助するものの類であるかと」

 

「なるほど、主体でないから存在としてあまり確立されていないというわけか…」

 

 八幡が未だ完全には解明されない自分のギフトにもやもやしていると、ウィンが何か思い出したような顔をした。

 

「そういえばですね、御主人様」

 

「何だよ?」

 

「“エレメンタル・アミュレット”が御主人様のギフトに合わせて変質(・・)したようです」

 

『…は?』

 

 ウィンの言葉に、黒ウサギとジンは言葉を失い間抜けな声が出る。

 

「具体的にはこのギフトもそれぞれの属性ごとに『パッシブ』と『アクティブ』の能力を持ちました。しかも、複数」

 

 ウィンのさらなる言葉に二人はさらに絶句する。

 どうにも、ギフトの変質はギフト所持者の成長によるので、それ自体は普通ではないが、新しく手に入れたギフトがたったの一日で変質する(・・・・・・・・・・・)というのは異常の速さらしい。

 そんなことに構わず、十六夜はウィンに尋ねた。

 

「で、今わかってる能力は?」

 

「今のところ私の司る『風』はパッシブは『攻撃や衝撃に対する防壁や緩衝』、アクティブが『気流の流れを操作することによる飛行や身体行動の補助』、ヒータの司る『火』のパッシブは『生体の治癒』、アクティブは『物体やエネルギーの状態や質の変化』ですね。あとは全属性共通の『属性能力』ですね。これはそれぞれの属性が象徴する能力の強化版なので、『パッシブ』にも『アクティブ』にも使えます。後はそれぞれの属性によって構成される物体を操る能力ですね」

 

「『土』と『水』は?」

 

 ウィンの話を聞いて、不思議そうに耀が訊く。

 

「姉さんはまだ起きてない末っ子の様子見で忙しくてまだ出れないから、今のところこれで戦わないとダメですね」

 

「…そうなんだ」

 

 兄弟姉妹のいない耀としては、今イチわかりかねるので微妙な反応だった。

 とりあえず、この話は終わりでいいだろうと八幡は考え、十六夜の方を向く。

 

「それで、結局お前は何しに来たんだ?」

 

「ヤハハ。こっちの要件が終わったからついでに見舞いに来てやったんだよ。まぁ、怪我自体は治ってるみたいだし、今日はゆっくり休んどけよ」

 

「ああ、そうする」

 

「じゃあ、俺はまだ御チビと話があるから行くわ」

 

 そして、十六夜とジンが出て行く。

 それに便乗するように飛鳥たちが顔を見合わせる。

 

「それじゃあ、私たちも行くわ」

 

「十六夜さんの言うとおり怪我が治っているとはいえ、念のため八幡さんは今日一日安静にしていてくださいね!」

 

「じゃあね、お兄ちゃん」

 

 そう言って、飛鳥と黒ウサギと小町が出ていく。

 

「……で、なんで春日部は残ってるんだ?」

 

 他の女子が出て行ったのに、耀だけが部屋に残っていた。

 訊かれた耀は、気まずそうにしたままに俯いている。

 

「えっと、その、私のせいで大怪我させて、ごめんなさい」

 

 恐る恐るといった感じで謝る耀に、謝られた八幡は少しため息をつくと言った。

 

「別に、怪我のことなら気にする必要ないぞ。俺が勝手にやったことだし、そもそも今回のは偶然だし、次同じことがあったら助けないかもしれない」

 

 その言葉に耀は顔を上げた。

 

「でも、八幡は私を助けてくれた。だから、私も何か「しなくていい」――え?」

 

 耀の言葉を遮って、八幡は少し申し訳なさそうに言う。

 

「悪いな、逆に変な気遣わせたみたいで。でも、さっきも言ったが、これは俺がかってにやってできた傷が残っただけだ。別にお前が負い目を感じる必要なんかない。……気にして優しくしてるなら―――」

 

 そこで八幡は言葉を切った。

 不思議に思った耀は再び彼の顔を見る。

 

「―――っ!?」

 

 そこから感じたのは、得体のしれない何か。

 少なくとも、自分では計り知れない感情。

 ただ一つ理解できたのは、その感情の矛先は、自分ではなく、言っている八幡自身に向いているということだけだった。

 そして、八幡は耀が彼の顔を見て、予想した通りの言葉を言う。

 

「そういうのはやめろ」

 

「……………」

 

 耀はもう何も言えなかった。

 きっと自分は彼を理解できていなかった。

 自分は彼を同じコミュニティの仲間として、初めてできた友達の一人として見ていた。

(でも、八幡にとって私は『友達』じゃ…ない?)

 

 それが、耀には悲しかった。

 

 

 

          ♦

 

 

 

「…どうしてこうなった」

 

 八幡たちは現在サウザンドアイズの白夜叉の部屋にいた。

 あの話のあと、耀は悲しそうな顔をしたが、何も言わずすぐに出て言った。

 その後、八幡はすぐ眠りについたが、外の轟音で目が覚め、その少し後にこの場所に飛鳥たちに首根っこ掴まれて来たというわけだ。

 彼らの説明によると、レティシアという昔のコミュニティの仲間が賞品になるゲームが、高額買取者が出たため中止になり、それを話し合っているところに当のレティシア本人が来て、さらにそこに“ペルセウス”というコミュニティが彼女を連れ戻しに来たらしい。

 そして、現在その“ペルセウス”のリーダーのところへ話し合い(殴り込み)に行くということで、主力の八幡も連れて行くことになったらしい。

(にしても、何だこのリア充(笑)みたいなやつ)

 

 ノーネームの面々の前にいる青年―――ルイオスは有体に言って、チャラ男で屑野郎だった。

 ノーネームを襲撃しておきながら、あくまで自分たちは商品の奪還に言っただけだと主張し、あまつさえ、レティシアを返す見返りに黒ウサギの隷属を要求したのだった。

 しかし、それに激高した飛鳥がギフトで押さえつけるも、ルイオスはそれを跳ね除ける。

 

「図に乗るな、名無し風情が! こんなのが通用するのは格下までだ!!」

 

 そう言ってルイオスが鎌を出現させ、飛鳥を斬ろうとする。

 

「いや、その“名無し風情”にあんたは何やってんだよ…」

 

 冷静に八幡が言うと、全員が驚いたように目を見張る。

 特に、ルイオスは今の状況が理解できないとばかりに目を見張る。

 なぜなら、ルイオスの目の前に八幡が立っていて、ルイオスの首筋に八幡のギフト―――“エレメンタル・ダガー”が当てられていた。

 

「なっ…!? お前、いつの間に…!?」

 

 ルイオスや他のメンバーも感じているだろう疑問に、八幡は『えー』という顔をする。

 

「いや、普通に近づいただけなんだけど…」

 

「なっ…!?」

 

 ルイオスは信じられないという顔をする。

 それは当然の反応だった。曲がりなりにも、ルイオスは五桁のコミュニティ“ペルセウス”のリーダーなのだ。それなのに気づけなかったというのだ。

 全員がいまだ固まっている中、十六夜が何かに気付いたような顔をする。

 

「そうか…。お前、“ステルスヒッキ―”を『アクティブ』で使いやがったな…」

 

 “ステルスヒッキ―”の『アクティブ』―――それはウィンによれば、八幡が自発的にそのギフトを使うことで、神格クラスですら数秒程度だけとはいえ、騙すことができる(・・・・・・・・)

 

「この、“名無し”風情がぁ…!?」

 

 ルイオスは自分が格下と思い込んでいた相手に不意を突かれた羞恥と怒りで八幡を睨むも、八幡は不敵に笑って返す。

 

「はっ…! その『“名無し”風情』とやらに首取られそうになってんのはどこのコミュニティのリーダーだよ」

 

「くそっ…。コイツ…!」

 

「いや、まさか…。さっきからずっと偉そうにしてるリア充(笑)が、この程度だとは思わなかったぜ」

 

 八幡の言葉に、ルイオスはさらに表情を歪める。

 しかし、なおも八幡の言葉は続く。

 

「まっ、直接対決じゃ勝てないから(・・・・・・・・・・・)こっちに色々ふっかけようとしてたみたいだけどな」

 

 その言葉に、ルイオスが反応する。

 

「…お前、今なんて言った? 僕が直接対決じゃ、おまえたち“名無し”に勝てないっていうのか?」

 

 怒りに震えるルイオスを、八幡はなお嘲笑うかのように言う。

 

「だって、そうだろ? 今、俺が声をかけなきゃ、お前は死んでたんだぜ? それがなくても、十六夜の力を部下から聞いてれば、むしろ、やらない方が賢明だ。よかったな、これで『“名無し”風情との勝負で敗北が怖くてゲームを受けなかった』なんて言われなくて済むな」

 

 笑顔で言う八幡の言葉に、ルイオスは一瞬怒りが沸点に上りそうになるも、なんとか押しとどめる。

 

「ふっ…。 だとしても、お前のギフトや十六夜というやつのギフトが、次も通用すると思うのか?」

 

 気丈に言うルイオスに、その言葉を待っていたと言わんばかりの笑みを向ける。

 

「次? 次はないだろ? だって、敗北が怖いお前に受ける気がないんだからな(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)! 」

 

 そこでルイオスは自分の失策に気づく。

 自分はこの“名無し”の言葉に耳を傾けるべきではなかった。

 たとえ事実はどうあれ、自分は今、勝負を受けざるを得ない。

 ここで断れば、『“ノーネーム”相手の勝負をビビったコミュニティ』となる。

 本来なら、『相手に敗北した際の賞品(チップ)がないから断った』という言い訳がたつ。

 しかし、ルイオス自身が要求してしまったのだ。『黒ウサギ』、『箱庭の貴族』というなの賞品を自らが先に要求してしまった。

 つまり、相手を『勝負するに足る相手』と先に認めてしまっていた。

 だから、断れば本当に『ビビッて逃げただけ』というレッテルが貼られてしまう。

 大口をたたいた分、それが強固な接着剤となってだ。

 そうなれば、そんなコミュニティなど、『ノーネームとの勝負をビビッて逃げる(・・・・・・・)コミュニティ』など、信頼されるはずがない。

 ルイオスは、すでに八幡との勝負に負けていたのだ。

 それを悟り、ルイオスは憎々しげに八幡を睨みながら言った。

 

「いいだろう。勝負を受けてやる。だが、ギフトゲームは“ペルセウス”で最も難しいゲームだ!!」

 

 八幡は、なおも不敵に相手を見下すように嘲笑った。

 

「はっ!! どうせ大したことないんだろ? まっ、精々頑張れよ」

 

 ルイオスは『ふんっ…』と鼻を鳴らすと帰って行った。

 

 

 

          ♦

 

 

 

「な、なにやってるんですかあああああ!? いきなり“ペルセウス”のリーダーに喧嘩を売るなんて!? 斬られたらどうするんですかあああああああ!?」

 

 ようやく場が収まった途端、黒ウサギが八幡に詰め寄る。

 その言葉に、八幡はちょっと考えて…

 

「テヘッ」

 

「こんのお馬鹿様はあああああああ!!!」

 

 そんな彼女を、十六夜が遮った。

 

「まぁ、そんなに興奮するなよ。こいつのおかげで、楽にゲームができるんだからよ」

 

「それはそうですが…」

 

 言いよどむ黒ウサギの横で、飛鳥も感心したように言う。

 

「確かに。私たちが何を言っても余裕綽々だったのに…。見事な挑発だったわね」

 

「あの、それについてなんですが…」

 

 と、どこからか現れたウィンが、手を上げながら言う。

 

「今のが御主人様の残り二つのギフト…“トリガーハッピー”と“デプレッション”の能力(ちから)みたいです」

 

 その言葉に、十六夜は目を細める。

 

「どういう意味だ?」

 

「えっと、つまりはですね…“トリガーハッピー”が、自分の言葉に相手がほぼ必ず乗ってくる、いわば『ほぼ確実に成功する挑発』のギフト、“デプレッション”が相手の思考を途中で止め、正しい判断をしにくくする『思考停止ないしは阻害』のギフトです。それで、先ほどはその二つを無意識で使って、相手にとって『ほぼ確実に乗らざるを得ないが、それに気づけない挑発』へと昇華されていました」

 

 それを聞いて、飛鳥が呆れる。

 

「なんていうか、普通だったら敵しか作らなそうなギフトね」

 

「ま、そのおかげで今回は助かったがな」

 

「…おい、おんし」

 

 とても明るい雰囲気になり始める中、白夜叉が険しい顔で八幡を見る。

 

「おんしのギフトは、使い方次第で容易に“魔王”になれるギフトだ。くれぐれも使い方を間違えるなよ?」

 

 それは白夜叉個人としてではなく、“階層支配者”としての彼女からの脅しのような響きだった。

 しかし、当の八幡は、

 

「しねえよ。そんなことしたら無駄に敵作るだけだろ」

 

「…そのことば、忘れるなよ」

 

「だ、大丈夫ですよ白夜叉様。八幡さんは働きたくないんですから! そんな忙殺されそうな“魔王”になんてなりませんよ!」

 

「いや、それはそれでどうなの?」

 

 

 

          ♦

 

 

 

 黒ウサギのフォローになってないフォローに飛鳥が疑問を投げかける中、彼女―――春日部耀は、ずっと八幡を見ていた。

 彼を注意深く見て、なんとなく察した。

 彼は、自分たちの誰に対しても『友達』という認識を持っていない。

 むしろ、『友達』という言葉を避け、壁を作っている。

 なのに、そんな彼が飛鳥を助けた。

 それによって黒ウサギも相手の要求に乗らなくてよくなった。

 レティシアを助ける算段も付いた。

 彼はギフトを駆使して、勝負の舞台を整えた―――かのように見える。

 しかし、それは結果論だ。

 なぜなら、彼はさっきウィンが言うまで、“トリガーハッピー”も“デプレッション”もどんなギフトか知らなかったのだから(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 つまり、彼がやっていたのはただの(・・・)挑発だ。

 もし、彼がルイオスに斬りかかられていたら、彼はそれを防げていたのか、それは耀にはうかがい知ることができない。

 それでも彼は助けたのだ。『友達』ではない彼女たちを。

 耀は思った。『友達』でないなら、彼にとって自分たちは何か。

 耀は彼のことをちゃんと知りたいと思った。そして、

(今度こそちゃんと、『友達』になれたらいいな…)




終わらねえ…
さて、現在活動報告他にて、『ヒロインは誰がいいか』募集を行っています。
今のところ1位春日部耀 2位久遠飛鳥 3位オリキャラ となっています。
募集は原作2巻終了時点までぐらいまでにさせていただきたいと思いますので、みなさん奮ってご希望お願いします。
 というわけで次回、『一段落して、ノーネームはさらに上を目指す』または、『調子に乗ったボンボン坊ちゃんを倒せエピソード2~やっちゃおうか、アルゴール~』お楽しみに。

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