異変を解決した人として一躍有名となっていた青年だが誰にも見つからないような場所で体を休めることにしていた。
此処には何も情報が入らないがその逆もありどのような人が何をしていようとも伝わることのない場所である。
深い竹林に覆われた土地の微妙な起伏によって一切の目印にもならず挙げ句の果てに感覚まで麻痺してしまう。そしてもしかすると妖怪に襲われるかもしれないという恐怖からか一度入ったものは誰も来る人は居なかった。
その原因はそれだけでもないのだが。
「竹林さん、体調の方は如何でしょうか。」
「良好だ。やはり永琳に任せて良かった。」
「効き目があるようですね。ですが無理な運動はしないでください。本当は動いてほしくないのですが言っても無駄でしょう。」
そう言うこの施設の看護師のような役割のあるシワついた耳をしているピンク色の長い綺麗な髪をしている女性は青年の近くに飲み水を入れた容器を置いてから隣の部屋へと向かっていた。
青年の寝ている布団の横には既に使っている剣や小刀、針が置かれている。如何してもと言う本人の意向でそのような形をとっているがわがままを通せるほどの信頼を勝ち取っているからこそ出来るようなことでもある。
青年は上半身を起こして容器を左手で取ると震えている手で口元まで運んでいた。今はそこまで気になるようなものではなかったが此処に来た頃は持つだけで容器から水をこぼしていた。如何しても起こる薬の副作用というものだ。
此処に来てからは一ヶ月になる。その間に初夏のようであったはずの幻想郷は真夏の天候へと変わりギラギラとした太陽が容赦なく焼き切るのだろうが青年は屋内にいるので全く関係なかった。
「鈴仙からは聞かれたでしょうけど医師として聞くわ。体調は如何かしら。」
鈴仙というのは先ほど飲み水を置いて軽い問診をして何処かへ行ってしまった人の事だ。
「別に特別言うようなことはない。」
「そう。私の薬が効いているようね。まだ安静が必要だけど外出はそうね。もう良いわよ。」
「そうか。」
青年は布団の上で座っていたがやがて寝転がっていた。永琳も暇なのか隣に座り込む。
「ねぇ、聞きたい事があるんだけど。」
「実験体になれという話か。」
青年は聞いていた。
永琳は青年が今療養している永遠亭という場所で製薬をしている頭の良い人だった。大抵の薬は誰にも投与する事なく完璧に作り上げていて効果が強すぎるものから穏やかに効き始めるものまで多種多様は薬を作れる。もちろん材料があればの話だ。だが偶に天才と言え不安になることもある。その時には誰かに協力を得ているということだ。
「いいえ、試す薬は今作っていないわ。」
「そうか。それで聞きたいことは何だ。」
「まだ胸騒ぎが治まらないの。何か心当たりはないかしら。」
「時期が来れば分かる。まだ何も起きていないのなら何も言うこともないだろう。」
今見で弱かった妖怪達が奮起して自陣の力を示そうとした異変は起こったが永琳の胸騒ぎというのはその事では無かったらしい。
「そうね。心にゆとりを持って生活しないといけないわね。私は此処で去る事にするわ。ゆっくり休みなさい。」
優しい笑顔でそういう永琳に無表情で首を振り、全く関係ない一点をじっと眺めている青年。
何か考えているようにも見えたので永琳は何も言わずに立ち上がる。
「心当たりがあるがまだ話す時ではない。そのうち話すだろう。」
「そう。」
後ろで結んでいる白銀の髪で結ばれている長い三つ編みを揺らして青年の寝ている永遠亭のある一室から立ち去った。
心当たりはある。だが確証はない。青年は言うべきか悩んでいた。