「分かりました。」
初めて話した弓兵は声の質から女性だと感じた。しなやかな軌道はそのような体から生まれるのだろう。そんな事を考えていた青年は剣を鞘の中に納めてしばらく何もしなかった。何も目的が見えてこないのでそうなるのは仕方ない。
「貴殿にはまだまだ残っておる。そちらを先に片付けるのが良かろう。」
国王は得意気に話していた。話を聞くには飽きていたのは自分の用意した方であり情けないと思えたのだろうか。それならまた違う視点から考えてみるのが一番良いと思えた。
「失礼します。」
青年は踵を返して辺りを見回していた。周りには本当に何もなかった。演習場と言われていたが人の気配も何もない。王としての威厳は確かにあるようでこのように見せしめとして場を用意するのが素早かった。きっと頭の悪い奴が変な事をしたと思われているのだろう。別にそのような事はないがあまりにも目立ち過ぎたのかもしれない。青年は軽くそのように考えていた。
「国王様、一つお聞きしたいことがあります。」
首だけを後ろに向けて背中を見せていた一見失礼そうに思える青年だが国王は特に気にしているそぶりは見せなかった。それなりの実力を持っているとは思われているのだろう。青年は本当に失礼だと周りが思うような事をしていた。
「何じゃ?」
「此処からは期待出来ますか。」
「正直分からんのじゃ。貴殿の本当の実力というのが全く見通せないんじゃ。」
国王も珍しく困っていると思われる。日除け用の大きな葉を持っている女性が小刻みに震えていた。怒ると怖いのかそのような雰囲気は周りを見るとあると思われる。だが、青年は気にしない。
「そうですか。」
青年はにっこりと薄い笑みをこぼしておいてその場から立ち去った。もう目の前には二人立っていた。見た目からして武闘家と霊媒師といったところだろうか。面倒な組合せであるのには変わりない。霊夢や早苗を入れさせた霊媒師だが本来は味方の悪いものの除霊や相手に悪霊を取り憑かせる事を目的としている。死体を従えさせたりすることも可能となるがそれはまた別の職業として分類分けされている。体で勝負する武闘家にとってそれ自体の強化をするということは何を示しているのかは全くもって未知数となる。
青年は兎に角後ろにいる霊媒師を何とかしたいがその前に壁のように立っている人を倒す必要があった。何も持たない最低限の装備しかしないので身軽さは誰よりもある。それはある意味何とか通り抜けたとして背後から攻撃を受ける可能性がある事を示していた。
「ほう。誰かと思えば弱そうな見た目をしている。」
武闘家として青年の目の前に現れた大男はブーツと固そうなパンツだけ履いている。手にはグローブを着けている。青年からすれば見上げるほどの身長差であることには変わりない。しかし負けるのかと言われるとそれはまた違う話である。
「そうか。見た目で人を判断しないほうがいいとだけ言っておく。」
青年はそんな事を気にするそぶりはなさそうだった。それよりも何となくだが期待しているような純粋な目をしていた。何をしたいかと聞かれるとまた違う話になると思う。まさかの反応にどのようにして良いのか分からなくなったのか特に話すことはなかった。
「して、何か気になる事はないか。」
「何かあると申すか。」
「勝負はもう始まっている。来るなら早く来い。」
何か見覚えはあるというのか何となくだが分かっていたのだろう。青年には勝てると思っているのだろう。
「そんな冗談はよせ。剣士であろう。仕方ないから抜くまで待ってやろう。」
大男はそんな風に答えた。青年は気にする事なく先を急いでいた。そこから何が起こるのかは全く予想つかないがそれは大男からすれば未知数の次元となるだろう。
青年は地面を蹴りだすと左脚でステップを踏んで右腕を引き寄せながら真っ直ぐに拳を貫いた。大男には直接胴体には届かなかったが手で受けるのがやっと言ったところだろう。そして何かを悟ったのか大男も構え始めていた。青年の実力を見くびっていたとすぐに改めたのだろう。とは言え、青年も実力は見せていない。そこは二人の中での駆け引きともいえよう。
「剣士にしては中々見ぬ実力だ。何処でそんな事を学んだ。」
大男は興味があるのか聞いていた。色々とその興味は尽きないところなのだろう。
「そうか。これは独学だ。習得するのは面倒だった。」
青年は軽く答えていた。何も考えていないようで何をしていたのかは何も話さない。話す気もないのだろう。
「ふむ。これは興味深い。ならば、私も盗んでみるとしよう。」
「そうか。」
青年は一歩下がって相手の動きを見ていた。そして冷静に何処から来るのかを見ていた。目の前で指さしをしている一見愚直な行動にも何も反応は見せなかった。意識を全体に行き渡らせて目の前だけに集中しない事にした。
大男は右腕を体に引き寄せてから思い切り振り抜く。岩を砕くが如く、それぐらいの気力を持ち合わせていたが青年の前には全くの無力だった。真正面から受け止めた青年な右拳は大男の一振りを原動力として回し蹴りを見舞う。正に同じ、いや確実に優っている一撃を与えた青年はスタッ、と着地していた。
対して大男はまさかの一撃に全く予想していなかったのか脇腹を抑えて地面に片膝を付けていた。どうやら霊媒師によって随分と取り憑かれているらしい。耐久性が向上しているのは目に見えていた。
「やりおる。だが、それで勝てると思うのは間違っている。」
「そうか。して、どうして地面を手で触れた。」
「そうだったな。何を考えていたのかわからないものだ。」
青年はゆっくりと構えていた。一般的な構え方とは違い、左腕は垂らしているが直線を描いている。そして右腕は顔の前にして構えていた。大男は左手の人差し指で青年の顔面を指していた。堂々とした挑発だが青年は乗る事はないのはよく分かっているのでその指には力はなかった。青年は素早く走りだすと大男の間合いの中へと入り込んだ。
夢にも思わなかったのだろう。
そこから大きく振り上げられた左脚が大男の顔面を的確にめり込ませていた。正にありえないと言った表情を浮かべている事だろう。
青年は膝を使って着地する衝撃を最小限にしていた。まるで何が起こったのかは全く分かったものではなかった。霊媒師も両手を上げて降参を示していた。目の前の光景がまるで理解出来なかったのだろう。そうでもなければ恐れた表情を浮かべることもなくそんな馬鹿げた行動を国王の前で見せることもなかった。
大男は顔面を蹴られて意識が飛んでしまったのか地面で伸びていた。地獄絵図と説明するのが一番理解されやすい事だろう。