青年英雄記   作:mZu

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第101話

外は晴れていて何もない空からは太陽の光がこれでもかと降り注いでいる。青い正装をして赤い手の装備をつけている腰に四本の剣を携えた黒髪の青年はその光に片目を閉じながら何かを考えているようにその場で立ち止まっていた。何が起こったのかも全くわからないが何をしたいのかも理解される事はないのだろう。

 

 

「呆気ないのじゃ。最後のを出せ。」

ガムでもあればくちゃくちゃと行儀悪く噛んでいると思われる態度で国王は片膝を椅子の手すりに乗せながら脚を組んでいた。国としては最大の戦力で挑んでいるはずだがそれでも一人で片付けていくのでどうしても自信を失ってしまうとすれば理解はできる。しかし、こう腹を立てているだけならば理不尽としか言いようがない。何となくそう思えた。

 

「はい、かしこまりました。」

国王の右腕である女性が素早く対応に回っていた。一番最後の兵器として眠っている。その肉体は鋼にも勝るとも劣らないものでその剣の腕は達人とも言える。そして力は武闘家にも勝るとされている。そして攻撃的な動きから全てが繰り出される、正しく国の秘密とも言えるだろう。

 

「今に見ておれ。」

右口角だけを上げて不敵に笑みをこぼすだけの国王を悪人と捉えるか試したくなった、というだけの純粋な気持ちであるだけなのかは人の判断による。しかしながらそれだけで済む話なのかはまた話題の方向性が変わる。

 

 

青年はしばらくの時間を自分の中で過ごしていた。恐らくは己との対話の時間に当てていた。穏やかな表情で両目を閉じているだけの青年はそれこそ太陽光で光合成をする植物と何も変わらないと思われる。それ程の精神の深層部まで到達していた青年を今の現実に押し戻したのは言うまでもなく自分だった。

 

耳から聞こえてくる嫌な重たい音。目で見える鉱物かのような肉体。荒削りの剣のような何かを背負っている怪物。前にも見た事はあるがそれが何かであるのかは全く分からない。しかし国王が本気を出してきたのは言うまでもない。

 

「して、会話は出来るのだろうか。」

目の前に岩のような存在感のある者が現れていても何も感じていないような青年は上を見上げながらそのように言っていた。どのように説明すれば伝わるのか、それさえも不明。

 

 

目を細めてゆっくりと獣へと変えていく青年は左手で抜いた剣を口で咥えると右手も手で抜いてから逆手に持ち替える。咥えていた剣を左手の中に納めると切っ先を下に向けている細い目をした青年がその怪物と対峙していた。一切口を動かす気のなさそうなのだがそうでもないといけないような感じがする。そして重心を下へと落として地面に根を這わせる。しっかりとした足取りでその場に立っていた。そして体は空気のように軽くさせていた。まるで本能で動く獣となった青年はブレない意識の中で戦おうとしていた。

 

目の前にあった岩はその荒削りの剣のような何かを振りかざしていた。青年は素早い判断で振りかざそうとする前から避けていた。見えていたとしか思えないほど完璧で鮮やかな感じがしていた。それこそ本能がそれを悟ったと言う説明をすると一番しっくり来るかもしれない。

 

もう人間をやめたような青年にとって何かの言語を話すことも許されなかった。

 

剣を振るう狂戦士。青年と思われる人間はそれを受け止めていた。逃げられないのではない。それを越えてこそ、そんな風に感じたのだろう。やや低めに振られた剣の上を転がるように体を回転させて地面に降りてから剣を振るう。

 

その鋼と思われる肉体には通る事はなかった。まるで痛みを感じていないようで何の影響もなさそうに青年の方を向いていた。その場では何が起こったのかは全く分からないが二人は既に自我というのは無くなっていると思える。

 

青年が剣を振り上げる。それの回答を行うように怪物は右手に持つ片手にはかなり大きい荒削りの岩で作られた剣を下方向に掬い取るように振った。

 

その下、一気にしゃがみ込んで一瞬だけ地に伏せた青年は四肢の力を使って飛び上がる。短距離で行われる捨て身の一撃。腹部の辺りに当てたそれは怪物には多少なり効いたようだ。しかし、多少でしかない。

 

青年も何かを感じたのか酷く怯えた様子で間合いを開ける。左手を逆手にして前に掲げ、右手の切っ先が地面を指差していた。後戻りも出来ないがそれよりも何が始まるのかも到底理解出来ない。

 

刹那、怪物の方から攻撃を仕掛けた。逆襲とばかりに足を進めたがある一定のところで止まった。

 

青年が大きく前へと出ていた。左手を前にして応戦を始めた。上から振られたのと合わさる。その音は軽やかなもので当たっていたのかさえ怪しかった。何が起こったのか見ただけでは何も分からないだろう。

 

右足を軸に後ろへ振り上げた左足を起動力として半身になりながらも宙へと舞う。そして薄く刃だけを当てるように逆手持ちにしている左手が異様に近くなっていた怪物の胴体に当たる。薄く開いたところから鮮血が滲み出ていた。

 

そして優しく地面に着地すると音もなく一回転後ろへと下がった。もう既にそれでさえ遅かった。斜め左から怪物の腰を使った一撃が入り込む。相手に痛みという概念はなく押された事や引っ張られた事でしか行動を止める事はできない。

 

しかし、あまりにも酷なものでどうしようもなかった。何とか受け流そうとはしていたがそれも虚しく終わる。まるで打者が低めの球に必死に捉えて打てた時のようにふんわりとした軌道で地面に叩きつけられる。しかし、球のように転がることはなかった。四肢でしっかりと着地して足を伸ばして衝撃を吸収している。

 

そして青年は何事もなかったかのように立ち上がり、何かあったかのように血迷った行動に出た。止めても無駄だと誰かは言うのだろう。

 

左足で地面を踏み込んだ後に下から振り上げる。何もかもがもう終わってしまいそうだった。

 

怪物の脚に突き刺さった剣。後ろからそれを邪魔しそうと振るう荒削りの岩に青年は全体を持っていかれた。辛うじて致命傷は防いだ。

 

受け身も取れなければ衝撃を何とかしようともしなかった。ただ吹き飛ばされる距離を短くしようと両手、両足の指先や全体を使って耐えている事しかできなかった。

 

勝敗結果は引き分け。青年の剣が怪物の脚を貫き何とかそこまで持ち込んだ形となった。

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