あくる満月の夜のことだった。俺は仕事を終えて一人で街中を歩いていた。しっかりとした服装というわけではないので酒場に寄る事はなかった。
しかし今日は飲んでみたい気分だったので仕方なくだ。仕方なく酒瓶を一本無駄に買う事にした。別に気分という事ではなかったが虚しい気分であった。そして薄暗い路地裏と明るい街道の真ん中で俺は飲む事にした。うるさい場所というのは嫌いだが路地裏は身を投じている自分がよく分かっている。だからこそ入ろうとは思わない。
一人孤独に飲む事数分。項垂れていた俺に心配そうな声をかけてくれた女性がいる。その人はアホなのか、と言ってみたかったがそれは心の中にしまっておいた。ふざけているわけでもないので青年はそういう気になれなかった。
「大丈夫ですか?」
その女性は短い髪をその空気に晒しながら薄く開いているものの宝玉のような目をしていた。髪の色は暗くて見えにくいがピンク色と思われる。突っ返しても良かったのかもしれないが俺は言葉を投げ返してみた。
「そういう貴女はここには来たばかりなのか。」
「どうして。」
「こんな俺に話しかけるのは恨みがあるか知らないかだ。」
俺はあまり話さないようにした。王国にとっての汚点とされる浮浪者と話していれば自ずと噂が立つ。これからを案じてみる事にした。
「何も知らないです。一週間しか居なくて、えっと、今日初めて街を歩いたんです。」
女性はどうやらほとんど初めてであるらしい。王国で一週間過ごすという事はつまり、兵士として訓練を行ったという事である。何をしているのかは知らないが聞く事でもない。
「そうか。俺はまだ優しいが人は間違えるな。その命、消えてしまう。」
「そ、そんな。私、どうすれば?」
「慌てる事はない。まだやり方はある。」
「何かあるんですか?」
「俺よりも強くなる事だ。そうすれば誰にも負けん。」
俺は適当な事を言っておいた。相手がどの程度の実力があるかは知らない。だからこそ本当に気にも止めていなかった。
「私、回復術師です。どうしたらいいですか?」
「そうか。それは済まなかった。そうなると問題外だ。」
回復術師と言うのは回復を主とした後衛向きの職業である。攻撃手段というのが何もないのが基本で攻撃は本当に不向きである。無力と言っても仕方がない。
「ですよね。えっと、これからどうすれば良いですか?」
女性は俺に聞いてきた。あまりにも冷静な判断が出来ていないと思われる。俺はどうしたらこうも慌てるのか気になってしまった。
「さて。俺にはわからん。」
「あの、私とパーティを組んでくれませんか?」
頰を紅潮させたその女性はどういう気持ちでそれを言ったのか理解出来ないが俺は何故か受けてしまった。
女性と会った夜の次の日、話は転々拍子に決まり、ギルド養成所でのメンバー登録が行われた。こうなれば回復術師として宿舎には居られなくなり、出て行く事になる。どうやらその事も知っていたわけではないのでイーラはかなり焦っていた。昨日の女性の名前である。本当はもう少しあるのだが俺は忘れてしまった。それに自身も気にしているようでこのように呼んで欲しいと言われている。
「家探しから始まるわけだが、俺は野宿でも構わない。」
俺はあまり実感がなくそのように言ってしまった。本当に他意はない。
「そんな、初めてです。」
何処か挙動が不審な部分があるがイーラには何かあったのかと思えるほど怯えているようにも見えた。理由はよく知らない上に会ったは昨日なので俺も特に分かっていない。
「そうか。無理に付き添う必要はない。」
俺は一旦ここでイーラとは別れる事にした。ベットで寝るのはどうにも落ち着かないのはここまでの生活が原因なのかもしれない。それに向こうが嫌がるなら強制する道理もない。