青年英雄記   作:mZu

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第111話

日も居なくなり、外の空には大きな月が浮かんでいる。何処からか鳥の鳴き声が静かに辺りから聞こえていた。薄くそして全体的に仄暗く照らしている月光をその目に入れた青年は肩の痛みを感じながら起き上がる事にした。夢なのか現実なのか区別のつかないこの感覚には慣れないがそれも楽しむ事にすれば何の問題もない。

 

黒髪の一見女性のような髪型をしている青年は大きく腕を伸ばしてから急に脱力していた。今よりも少し先を生きているつもりなのだろうがそれが許されるのはきっと子供までなのだろう。

 

青年は気晴らしに村の中に歩いてみる事にした。だからと言って商店があるわけでもなければ灯りというものは住宅から溢れたもの程度で予想に反して暗くなっている。そしてまばらに建てられているのでより一層そのように感じる。その中でもしっかりとした足取りで歩いていた。

 

腰に携えている剣がかしゃかしゃと音を立てている。今頃、どうしているのだろうか。そんな疑問が浮かんできたが自分が怠った事であるので気にしないように思考の檻から放してあげる事にした。何処に向かうのかは全く分からない。

 

火花のように思考を炸裂させては線香花火のように儚く散らせていく青年の頭の中は何処へと羽ばたくのかは誰も何も予想はつかなかった。人に限らず自分でさえも制御出来ないでいる青年はその足をふらふらとさせたままで何をどうしたら良いかさえ忘れてしまったかの様だった。

 

「アンタ、冒険者だろ?ちょっと頼みたい事があるんだ。」

月光に覆われた大地の何処かから少し元気のない声が聞こえていた。青年は首だけをその方向へと向けながら抜きやすい右腰に携えている剣の柄を握っていた。戦闘体制だと言い張るのなら別に問題はないがそれ以外ならどう言い訳も出来ない。

 

「頼みたいことと言うのは最近この辺りで夜に暴れている魔獣が住んでいると言う噂なんだ。如何にか原因ぐらいは確かめてくれないだろうか。」

青年の沈黙は肯定として認知されてしまったらしく警戒心もなくその人は話していた。薄い茶色の色褪せた布地を着込んでいて簡素な革の靴を履いている初老と思われる白髪混じりの男性は青年の前に現れた。少しだけ息を弾ませているところを見る限りどうやら相当困っていると言うことだけは伺えた。

 

「そうか。何処に住んでいる。」

 

「この村の北側の森の中と思う。私が連れていくから討伐をしてくれないか。報酬は用意出来る限り用意する。」

初老の男性は落ち着いた口調で話していた。しかし、それなりにざわついているのか言葉からは震えと言うものを感じる。何が起こっているのかはさておき青年は何となく足を向かわせてみる事にした。何があるのか、探検家として心が疼くのと同意義だと思われる。

 

「そうか。無理はするな。」

青年はそう言うと左足から動かし始めていた。そして少し先行しかけたところで男性が前へと小走りで向かい、それからはゆっくりと歩いていた。

 

「所で、どうして冒険家になろうと思ったんだ?」

男性は着くまでの時間潰しとして話しかけてきた。青年は答えられない質問でもないので口を動かしていた。

 

「成り行きだ。少し昔に守り損ねたものがあるから今回こそは自分の手で達成しようとしているだけだ。」

 

「ご立派な志だね。何が原因だったのかは聞いても良いか?」

 

「あまりお勧めしない。少し今でも剣を抜こうとしている右手を抑えている。」

そこからどうなるのかは分からない。背後を取っている故にどの様にされるのかは全く分からない。青年は地の利を活かして物事を進めていた。

 

「おっかないね。辞めておくよ。」

男性は素早く青年の言葉に返答する。身がすくんでいる事を見て青年は口を開く。

 

「そうか。冗談だったが聞いていい事といけない事は誰しも持っている事を忘れてはならない。」

辺りからは少し足音が重複している。青年は出来るだけ気づいていないふりをしてそのままの歩調で歩いている事にした。何が起こるのかは何も分からない。それ故にいつでも抜ける準備はしている。

 

「そうだったな。これはいけない。それにしてもこの先に何があると言うのだ。」

 

「さて。王にはこちらの方向に来る様に言われている。それ以外は何も知らない。」

 

「冒険者と言っても使い走りの捨て駒なのかい。」

 

「そんな所だ。別に構わないがこう手荒な真似はやめておいた方がいい。」

青年の周りには主に男性が囲んでいた。別に気づいていないわけではないが農具である道具を両手に持っているところを見るとどうもこれから魔物を倒しにいくとは思えない。全ての刃の向きが青年に向いていた。だが、青年が気にする事はなく何が起こったのか理解していないかの様だった。

 

「前にアンタみたいなクズが現れてからこの村は荒れ果てた。誰も来なくなった。挙げ句の果てには誰にも認知されなくなった。」

 

「それで俺に復讐か。それをして何になる。」

 

「憂さ晴らしぐらいにしかならないだろうさ。それでも良い。俺らは負けない。誰も失わない。」

初老の男性は右手を月に掲げていた。そしてそれに答える様に雄叫びをあげる男が続く。青年は面倒な事になったと思っていた。だからと言って、無理に逃げるのもそれはそれで面倒な事になる。大人しく受けておく事にした。

 

「そうか。今寝ている七人の小屋を燃やした方が良かったと後悔する。それでも良いのか。」

青年は素早く剣を抜いて刀身に月光を反射させていた。鈍く、そして薄暗く光っているだけの剣。それに対するのが夜陰に乗じて襲おうとする村の男達。

 

「やってやる。俺たちがどれだけの恨みを持っているのか思い知らせる。」

初老の男性が何かを投げる。だが、目の前の攻撃に青年は何の準備もなく弾いた。

 

分かっていた、と言うには暗いが青年の目がその暗さに慣れていないと思っていなかった男性は唖然としていた。形状的には細く尖らせた石の様なものを投擲したと思われる。その狙いからして腕は確かであるらしい。青年はそう感じて少しだけ身構えていた。威嚇は効かず、それ相当の実力を持っている様子である。

 

「口だけの人間ではないか。では、魔物というのは貴方達で間違いないだろうか。」

青年は手の中で剣を右回転させていた。手の力は十分に抜いていて今には抜け落ちそうだがそうはならない様になっていた。どうしてなのかはさておき青年は何処から来ても何とかしようとしている。

 

「その例えは全く理解出来んな。行くぞ、お前ら!」

その声と共に周りが動き始めた。最早連携など関係なかったがその様に見せているのかそれとも偶々息があったのか、青年のいた所には鍬が突き刺さっていた。そしてどこにも当たっていないところを見ると距離感は完全に掴んでいると思われる。

 

その頃、青年と言えば人の間を抜けて走り出していた。そして屋根の上に昇っていた。意外にも傾斜のある屋根だったが青年が飛行していれば何の問題もない程度だった。

 

青年の下ではどこに行ったのか知っている組と知らない組で右往左往していた。暗闇の為に起こってしまった誤算は青年にとってそこそこ有利な状況へと傾いた様だ。そう考えた青年は素早く飛び出して近くに居た人の後ろに着地した。

 

それに反応した男性が鍬を振り上げて一気に地面に突き刺す。きっと何かの感触を得たのだろう。嬉しそうな声を上げていたが青年からすればどうしてその様になるのかは全く理解出来なかった。

 

「楽しそうだな。」

青年は急に声を出した。その声には流石に村の人々は恐れおののく。倒したと思っていた人物の声が聞こえてくる。

 

「何なんだ。確かにこの鍬に感触はあった。」

 

「そうか。同族殺しは楽しかったか。」

青年の目の前には鍬によってぐしゃぐしゃにされた若い男性の亡骸があり、血の池を作っていた。顔面は口の辺りを大きく開いていた。そしてべったりと倒れてしまったのでそれから動けるのかと言われると確実に不可能である。

 

「私は、何を倒したというのか。」

 

「さて。夜が明けてからその目で見てみると良い。」

青年には戦う意志というものはなかった。もう既に剣を納めている。

 

そこで男性の叫び声が聞こえてくる。限りなく近いが遠くから聞こえているかの様に段々とその声は小さくなっていた。何が起こったのか、誰もが理解出来ていない。

 

「命が惜しいなら逃げると良い。俺からは斬らん。が、向かうならどうなるかは示した。」

青年の声がどこからか聞こえてくる。それはまるで吹いている風に紛れていて何処にいるのかは全くと言って分からない。何をどうしたらそうなるのか、頭の処理が追いついていなかった。それさえも青年の手のひらで転がっているだけなのだろうか。

 

誰かが向かっていく。それは儚く散っていく。

 

 

太陽が起きてから少しばかりか経っていた。その時間はきっと一刻も過ぎていない頃だろう。ある地面には赤色の大きな池とその場に横たわる死体の数々。その場に座っていた青年は何の気なしにその場に存在していた。

 

「何があったのよ。」

ある女性が声をかけていた。青年は瞼を開けてその方向を見ると安心した様な表情を浮かべている。

 

「さて。」

 

「アンタのせいでしょ。」

 

「人は醜いということだ。そうでなければその様な惨状は生まれない。」

青年は平然と答えている。わかっていた未来かの様に。

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