青年英雄記   作:mZu

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第112話

あの日も確か今回と同じような旅路だったと思う。夕暮れにたどり着いた俺たちは現在と同じ様に空き家を借りることが出来た。人当たりは良く、心優しい村の人々は俺だけではなく連れ添っているイーラにまだ優しくしてくれた。例えば、郷土料理の作り方を教えてくれたり、何かしていたのを覚えている。対して俺は肥沃な土地を耕しては種を植えていたりと主に力仕事をしていた。

 

だが、俺にはひとつ、懸念というものがあった。村の長を務めているレイチェルという人だけは一切の油断というのも見せたことはなかった。きっとそれは今いる立場故にその様にしている思うが度が過ぎる。犬猿の仲というには少し意味合いが変わってくるのだろうがそんな関係であったことには間違いない。

 

肥沃な土地があり、村の人々は笑い合って楽しく過ごしている。何か大きな物があるわけでもないが近くには森があり、木の実を採取したり、はたまた狩をして自給自足をしている。其処に二粒の異端が混ざれば排除する事に尽力するのは仕方がない事だと思う。

 

 

それから時日が過ぎる。俺は森の方へと狩へ向かうことにした。どうやら干し肉の貯蓄がなくなったらしく、早めに取っていきたいということだ。村の男性を集めて行われたその狩についでとばかりに混ぜられていた俺をどうにも許せないという感じで見ていたレイチェルだったが村の危機と比べればそんな事はどうでもいいらしく、不機嫌ながらも文句は一つ言わずに向かう事になった。

 

俺も気付いていないわけではないがそれよりも気になることがある。が、その根拠となる様なものはなく何を話しかけようとも向こうは答える様な気はしなかった。俺が勝手にそう思っているだけだが恐らく間違い無いと思われる。

 

「でだ、ここら辺で班を分けよう。丁度半分で前は俺について来い。後はその反対に向かってくれ。その後の判断は任せる。」

レイチェルが静かな森の雰囲気を崩した。村の男性は特に反論を申し立てる様なことはなかった。英雄かそれともカリスマというのが一番ふさわしいのか。俺は今考えても仕方がない事を思案しているところで話がまとまっていたらしく、ぞろぞろと歩いていくのに少し遅れながら付いていくことにした。

 

 

それからと言うもの、特に収穫のない時間を過ごしていく中で方向を変えて戻る様にしてみた。俺に発言権はあったのだろうが何も言うことはなく出来るだけ肯定し続ける事にした。その他は疑問を投げかけては人を迷わせた。的確な助言などと自負するつもりはない。

 

いつ終わるのか、誰しもが少なからず疲れを見せたところで微かな音を聞きつけた俺は制止を振り切って走り出した。俺がどうしてここまで全力で走るのかは自分さえ理解出来ない。言葉にして伝えるとするならば考えるよりも先に動き出していた、と言う事だろう。

 

 

木が倒れ込んでいる。そのおかげで光が差し込んでいて見やすくはなっている。そして多少の土煙と見たことのある装飾を取り付けている男と相手をするには分の悪い状況でとても大きい魔物が現れていた。俺は暫く静観をすることにした。あまりにも理解出来ない状況なのでそうなってしまうのが当たり前と言える、そんな所だろう。本人に聞けたら良いが今のところ、そんな余裕は彼には残っていない。周りを見る限り、彼一人でその他の仲間を守っていた。全ての攻撃を止めて絶対に危害を加えさせようとはしなかった。

 

その精神と行動は賞賛するが自分の犠牲を見積もっていない行動にはどうにも賛同はできなかった。俺は歩きながら近づいていく事にした。怖がらせる事もあるだろうし、そもそも走りたくもない。

 

「畜生!村の人も救えないか。」

村の長であるレイチェルが叫んでいる。俺はその声に何か妙なものを感じたがその時には何も分からなかった。

 

レイチェルにとって目の前に居る魔物は絶望に心が汚染されるには十分なほどの威力を持っていた。疲弊していている短剣を持った男は無謀にも目の前の敵に向かっていった。その背中にはきっと村の長としての自覚が重くのしかかっている事だろう。何もかもが綺麗に亡くなるには俺は早いと思えた。

 

俺は全力で走り、レイチェルの前に立った。そして魔物の攻撃を受け止めていた。その時間の記憶はなくがむしゃらになっていただけなのが後から来る脳の補完で理解出来た。

 

「貴方が死ぬにはまだ早い。」

俺は手早く魔物の攻撃を弾いた。固いものと鋭いものが当たっている事には間違いないが何処か違う様にも感じる。何か違うと言うことだけは理解出来た。

 

「何をしにきた。」

 

「助けに来た。」

魔物は二人の会話も気にする事なく反撃とばかりにその前脚を振るう。右斜めから地面に落とす。俺はその勢いに任せて下から剣を振るう。右腕に持っていた剣が魔物の前足に刺さっている。当たった肩も致命傷ということでもなかった。

 

しかし、魔物にとっては致命傷となるらしく逃げていたがすぐに追いつけるだろう。

 

「して、イーラという俺が連れてきた人はどう思う。」

 

「藪から棒にどうした。」

レイチェルは俺の質問が分かっていない様でキョトンとし表情を見せていた。

 

「イーラの見た目に一目惚れしているのか。」

 

「そう見えるのか。」

 

「さて。俺は知らない。」

 

「お前は何を話したいのかよく分からん。一つ言いてぇ事は邪魔だから出ていけ。」

レイチェルはやっとの事で地面にすると不貞腐れた眼差しを俺を向けていた。背中越しであるが伝わってくるその圧は中々なものだった。

 

「そうか。だが、元々仲間であるイーラを連れていくが問題はないだろう。」

 

「あぁ。好きにしろ。」

 

「そうか。」

 

「いや、待て。」

レイチェルは俺を声で止めた。どうして欲しいのかは何も言わないので俺はその言葉を無視して前へと進む事にした。

 

「待てよ。俺も連れて行ってくれないか。」

 

「どうしてそう思った。」

 

「お前に付いて行きたいんだ。」

俺からすれば仲間が増えようとも減ろうとも関係なかった。結果として俺はすんなりと承諾して旅へ出かける事になる。

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