黒髪を後ろに結んだ青年は何処か達観したような眼差しを目の前にいる人に向けていた。
「人と言うのはいつも浅はかで醜い。人のものを奪っては奪われる。」
青年は自分の言葉に続けてそんなことを言っていた。全くと言って度し難いがそう言うものだ。
「アンタがそんなことを言う根拠は何?」
青年と同じく黒髪をしている感の鋭い少女、博麗 霊夢はゆったりとした赤色の衣服を激しく揺らしていた。
「俺には昔がある。そのツケだと思えば何の問題もない。」
少しだけ口角を上げている青年に霊夢はどうしようもない何かが込み上げるがそれでさえ何かは分からない。こう形のないものを追う虚しさにも似たその何かは青年にも伝わっているのだろうか。
「アンタは何があったのよ。過去に何をしていたのよ。私は、知りたいわよ。」
「そうか。まず俺のいた幻想郷が襲われた理由は何か、それは知っているか。」
「ええ。復讐というのが手っ取り早い回答だということもね。」
霊夢にも何か疑念というものがあったのだろう。少し曇った眼差しを青年に向けていた。
「そうだ。村の人々は確実に忘れているが俺が起こした事だ。」
青年も何も隠そうとはしていないと思う。だが、何か見え隠れしている札があるのにも関わらず突き止められなかった。
「で、結局のところ何があったのよ。」
「俺がこの村を壊滅まで追い込んだという事になっていたらしい。」
「何を話しているのか全くわからないわよ。」
「そうか。俺は間接的にこの村を衰退の一途へと導いた、村長である男を連れて行った事で。」
「アンタ、まさか目の前の火の粉を払っただけだと言いたいの。」
霊夢には到底信じられないような事である。
「いや、違う。俺は罪を償おうとしたが出来なかっただけだ。」
青年はその場から離れようとしていた。それを止めたのは霊夢の右手だった。青年の着ている袖を小さく掴んだその手を一度は振り払おうとした青年だったがそれは許されなかった。小さいながらも強い力で掴んでいた。
「どうして。どうして、私達を頼ろうとしないのよ。」
「それを素直に受け取らないほど心が荒んでいるからだ。」
「そんなの関係ないわよ。私にとって、アンタは頼り甲斐のある人なのよ。だから頼って。お願いだから。」
「そうか。考えておく。何を持って貴方がそのような言葉を伝えたのかは知らない。だが、答えることは今のところは出来ない。」
「どうしてよ。」
「やりたい事がある。回答はそれを終えてからでも良いだろう。」
「墓場まで持っていこうとしていないでしょうね。」
「さて、どうだろうか。」
青年は少し荒く腕を振って霊夢の右手を離すと少しだけ歩いていた。放浪というのにはそこまで距離はない。
「アンタはここまで何も話さなかった。何か特別な事でもあるのかしら。私に頼ろうとしないのは何故?」
「俺にとって他人は利用するものだ。生きるために奪って、奪って、奪って、搾り取れる一滴までそのようにしていた。それをしたくはない。そう思っただけだ。」
青年は来た道を戻ってきていた。
「誰か起きているか。ここから先は少し道が長い。野宿は嫌だろう。」
青年は小声で話していた。周りには誰もいないはずなのにどうしてそのようにしているのかは全くわからなかった。