皆はもう準備を済ませていた。青年がしておくべきことは先に霊夢がしていてくれた。少々付け焼き刃の気がするが先にやっておいてくれた事には感謝するしかない。
「ここから次の所までは距離が長い。それと隠密に頼む。魔王のいるところへと確実に近づいている事は忘れるな。」
青年はそれだけを伝えてから踵を返すと小走りに等しいほどの速度で歩き出した。皆はそれに追いつこうとしているが少々無理がある。
その足腰は劣った白狼天狗にも等しい。それ程に妖怪の山では鍛えられていた。今もそれは衰えていないだろう。
「何に焦っているのでしょう。」
誰かの声が聞こえてきたが青年が足を止めるようなことはなかった。まるで耳の中に入らないかのように周りの情報を遮断している。
「強欲なのよ。己が信念のためにここまでやろうとしているの。」
それを妨害するように一人が口を開いていた。
辺りは再び森の中へと戻る。何も特徴のない静かな雰囲気を持ち合わせた怪しい場所であるが、一番前を少しペースを落として歩いている青年には何も効果のない事だった。まるで気にしていない、というよりかは気づいていないと言うのがふさわしい。
青年からすれば少しだけ盲目になっている頃合いなのかもしれない。何も感じなくなる程に違うものを宿している青年にとってみれば何もかもがどうでも良いものとして映るらしい。
その結果として、後ろではすでに疲れかけている人やもう疲れている人が必死になって追いつこうとしている異様な光景となっていた。
暴走と言うべきなのかは別として青年の勢いは最早知能の失った猪にも匹敵するようなもので愚直にも前に進んでいた。貪欲に一つの物事を追いかけているその様がどうしても危ないものであることは後ろに誰もが気づいていた。しかし、それをものともしない青年は少し歩く速度を落としながら微妙に合わせている。
「いい加減止まれ。どうしたんだ。」
その手に青年は左肩を強く後ろへと戻された。
「勇儀か。離してくれ。」
青年がそう言うがその力は弱く何の威圧もなかった。もう何をしても仕方がないと思われる。
「そうはいかない。少しぐらいは何をするか話せ。そんなに私たちは信用出来ないのか。」
「信用はしている。が、話す気は起こらない。」
青年は冷たく言った。これこそ氷のようなもので背筋のゾクっとした感覚が走る。そして少しだけ怖かった。
「どうしてなのか理由は聞かせてちょうだい。」
「俺は昔から他人は利用するものだと思っていた。だからだ。」
「それは昔の話でしょ。今はどうなのよ。」
「そうだ。私達のことはただの道具してしか見ていないのか。それとも仲間として側に置きたいのかどっちなんだ。」
「俺は、」
青年はそこで言葉を詰まらせた。それからどうすれば良いか、考えているのだろうがそれも無駄だと思われる。
「この人はこれまで通り奪えるだけ奪う生活からは足を洗ったのよ。私達は見守ってあげることしか出来ないのよ。」
そこへと割り込んだのは霊夢。青年に聞いていた勇儀とレミリアはその口を閉じていた。誰も霊夢が口を出して青年の代わりをしたのかは知らない。
「まぁ、良いわ。」