青年英雄記   作:mZu

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第116話

俺はここで身体を休めていた深夜の時間だ。決して古くはない教会ではあるが人の気配などない寝静まったこの建物の屋上。特に寝泊りのために借りたわけでもないが俺は今日はここに居た。教会の主には一言伝えているので快く承諾してくれた。別に物を盗るようには輩には見えなかったのか、それとも盗まれても神の賜物とでも言うような雰囲気で優しく笑いながら背を向けてくれた事を俺は覚えている。

 

此処ではどうやら魔術というものが発達していて駆け出しから達人まで腕の上達具合はまちまちであるが楽しく励んでいる様子だけ見て取れた。とても楽しそうにしているのは分かるが何処か寂しくも感じるこの街で俺は一人の駆け出しと言う腕であるが秀才である人を仲間にした。名前は今の所思い出せない。元々自分がどうでも良いと思っていたのか、それとも覚える気もなかったのか。本当に一文字を思い浮かばない。

 

今日の月はとても明るいが、当然ながら太陽には劣る。しかし、俺にとってはこのぐらいが一番活動しやすい。どうしても体が動きそうになるが此処ではそれをしようとは思わなかった。イーラも居るし、レイチェルも居る。変に動揺させる事を起こすのは俺の気に触る。

 

「此処にいたんです、ね。」

ぎこちない足音が聞こえていた。そっと現れたつもりだったのだが足音をかき消す事は出来ていなかった。それはそれで可愛らしい。近づいていくごとに大きくなる木の擦れるギー、という音が大きくなり続けていた。

 

「どうした。」

そもそもどうして此処に居ると分かったのかは聞かなかった、いや、聞けなかった。それよりも緊張した面持ちをしているイーラを見ていて自分の口から出ようとしていた言葉が様子を見始めていた。奥に潜む込みつつある言葉を俺は飲み込む事にした。

 

「いえ。一人というのは寂しいもので。」

特に了承は与えていないがイーラは俺に近付いていた。正直な話、俺も断るつもりもなかった。ゆっくりと近付いてくるイーラを俺は床に寝転んで月を見ながら待つ事にしていた。

 

辺りはもちろん薄暗く月明かりを頼りに歩いてくるしか出来そうになかった。少し心配そうに手を動かしているイーラの様子を眺めながら俺はまた別のことを考えていた。これからどのような相手に出くわす事になるのか。此処までは特に何と言って起こることはなかった。強いて言うなら食料に困ったという程度で済んでいる。少し自分の腕に霞が入ってしまったようだ。

 

「そうか。好きにすると良い。」

 

「分かり、ました。」

ところで気付いているのだろうか。元々掃除もされていない教会の屋根裏にはゴミと一概には言えないが廃棄物にも等しいものが転がっている。今、イーラの足元にある木材に気付いているのなら少しは迂回をしようと思う。俺はとっさに飛び込んだ。

 

「あぁ。」

俺は転んだイーラの右腕を掴んで自分の方へと引き寄せた。少し力を抜いた左手で下から肩を掴んでおく。転んだ勢いそのままに窓に当たりそうになっていたが俺はそれを未然に防いでいた。

 

「気を付けろ。貴方一人の身でもない。」

俺はそんな事を言っていた気がする。

 

「分かりました。気を付けます。」

俺は不機嫌そうに座るとイーラの膝の上に乗せる。今日、どうして此処へと来たのかの理由は特に聞こうとは思わなかった。

 

 

「一つ、お聞きしたいことがあるんです。」

イーラは暫く時間を開けてからポツリと雨の降り始める音のように言っていた。俺は顔だけを動かしてイーラの方を向いておく事にした。

 

「私の事、大切にしてもらえますか。」

俺は特に答えようとは思わない。

 

「パートナーとしてお側に居ても宜しいですか?」

まだ俺は答えなかった。

 

「私、最初に会った時からずっと気持ちは変わっていません。沢山のことを教えていただきながら、私が出来る事をしようと奮闘しました。迷惑かも、と考えた時もありましたが全て受け入れてくれました。だから、私、まだまだ沢山恩返ししたいんです。お側に置かせてください。」

 

「そうか。」

俺はその一言だけでイーラの言葉に答えた。その時は気づかなかったがもっと深い意味があると感じてしまった。これが感情で言うところのどう言うものであるのかは全く分かっていない。

 

兎に角今日は帰る事にしよう。

 

転寝をしていた青年は夢なのか現実なのか区別のつかない夢を見ているようだった。

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